6. 幼き日の約束の証
二人の誕生日プレゼントを買うために、俺はデパートにやって来ていた。
手にしている硯を睨みつけるように見ながら、首を傾げる。
矢野先輩には書道で使う道具をプレゼントしたいところだけど、どれがいいのかサッパリ分からない。
筆にしても書道用紙にしても、矢野先輩は自分が使いやすい物を既に使っているだろうからなぁ……。
ため息をついていると、ポン、と肩に手を置かれた。
「よっ、睦月。硯なんて見て、何してんだ?」
「さ、佐伯!?」
思ってもみない助っ人に、声が上ずってしまった。
佐伯は矢野先輩と同じ書道部に所属している。
きっと彼の必要としている物を知っているはずだ。
「俺、矢野先輩に誕生日プレゼントをあげようと思ってるんだ」
「矢野先輩に? ……ふーん。そうなんだ? なら、これでも買ってやれよ」
佐伯は陳列棚から墨を手に取ると、俺に渡してきた。
「これは?」
「古墨っていってな。これを使って書くと、墨色に立体感が出るんだ。だから筆の運びによる芯や滲みの……墨色の変化だな。そういうのが凄く綺麗に出るって言われてる。わりと貴重品だから、俺は使ったことないんだけどな」
「へぇ……。これあげたら、喜んでもらえるかな?」
「どんな物だろうと、矢野先輩なら喜んでくれるだろ」
それもそうだな、と笑って、俺は買い物籠に墨を入れた。
矢野先輩へのプレゼントは決まったけど――辰巳のはどうしようか。
欲しいものとか聞いておけば良かったなぁ。
「そういえば、佐伯はどうしてここに?」
「俺? 俺は宜紙を買いに来たんだよ」
佐伯はにこっと微笑んで俺に書道用紙を見せると、レジに向かってか歩いて行ってしまう。
宜紙って何だよどういう種類の用紙だよ、と書道に関する知識が全くない俺は疑問に思いつつも、菓子類の売り場へ向かった。
古墨の支払いだけで俺には精一杯だ。
文句を言われること確実だろうけど、辰巳にはガムだけで我慢してもらおう。