7. 幼き日の約束の証


俺は綺麗にラッピングされた古墨を胸に抱くようにして持ち、矢野先輩のいる教室へ向かっていた。
誕生日プレゼント、喜んでもらえたらいいな。
矢野先輩の笑顔を想像すると、それだけで笑みが零れてくる。
早く会って、おめでとうございますって言いたくってしょうがないんだ。

「失礼します。矢野せんぱーいっ」

上級生の教室のせいもあってか、緊張に胸が張り裂けそうだ。
矢野先輩は俺の呼びかけに気づいてくれたらしく、すぐにこちらへ駆けて来てくれた。

「おはよう、睦月さん。一体どうしたの?」
「矢野先輩に、どうしても伝えたいことがあって。あと、渡したい物も」
「何かな?」

興味深そうに瞳を光らせた矢野先輩に、プレゼントを差し出す。
彼は驚いたように目を丸くさせた。
それも当然だろう。
矢野先輩は、俺が彼の誕生日を知っているなど夢にも思っていないだろうから。

「え、えっと。これは何かな?」
「誕生日おめでとうございますっ。今日なんですよね?」

矢野先輩の笑みが、困惑の表情へと変わる。
同時に耳に届いてきた、教室内の囁き。
―――ねぇ、見てよあの子。矢野の誕生日、間違って覚えてるわ。
―――ダッサ。馬鹿じゃないの、あの子。
―――矢野ってば、可哀想〜!
俺はどういうことなのか分からなくて、茫然と、矢野先輩の顔を見つめた。
彼は相変わらず、困ったように眉を寄せている。

「む、睦月さん。気持ちは凄く嬉しいんだけど、今日は僕の誕生日じゃないんだよね」
「……え?」

そんなはずは、ない。
だって辰巳に、俺はちゃんと質問したんだ。
矢野先輩の双子である彼に訊いておきながら、間違えるだなんてありえない。
ということは、俺は……。


――――辰巳に、騙された?


「あ……。ご、ごめんなさい。勘違い、してた…みたいです……」

込み上げてくる、強烈な恥ずかしさと悔しさ。
俺、何をしているんだろう。
どうして辰巳の言うことを、信じてしまったんだろう。

「ほ、本当に…ごめんなさい!」
「あっ、む…睦月さん!?」

俺は引きとめようとしてくれる矢野先輩の手を振り切って、この場から逃げるべく走り出した。
最悪だ。
喜んでもらおうとしたのに、矢野先輩を困らせた……!!
矢野先輩の困惑気味の顔を思い出して胸を痛めていると、曲がり角で人にぶつかってしまった。

「おっと!? 危ねぇな。睦月てめぇ、前見ずに走ってんじゃねーよ!」

聞こえてきた、その声に。
……辰巳の、その姿に。

「……っけんな」
「あ?」
「ふざけんなよ!?」

俺はポケットから辰巳用に購入したプレゼント――ガムの詰め合わせ――を取り出すと、彼に向かって叩きつけてやった。

「いって!? おい、睦月! いきなり何すんだよ!?」
「嘘つき!」
「――あ? ……ああ。何だ、バレちゃったのか?」
「っ……何でそういうこと、するんだよ。矢野先輩に会いに行っちゃったじゃないか!! 恥、かかせやがって。辰巳なんて大嫌いだ!!」

俺は激情に身を任せるがままに叫ぶと、再び走り出した。
辰巳の顔なんて、もう二度と見たくもない……!!




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