10. 心音
夏の日差しに焼かれたアスファルトからは熱気が上がって感じられた。
ミーンミンミンミンと、夏の風物詩なのだろうけれども耳障りにしか感じられない蝉の声に、げんなりとしながら道路を歩く。
今日は風がないくせに日差しが強いものだから、俺は眩暈にも似た気持ち悪さを覚えながら、家から持参した買い物袋をギュッと握り締めた。
環境のためにこの町もレジ袋が有料化されてしまい、不便なことこの上ない。
これから生ごみとかどうやって捨てよう…。
そんなことを考えながら、俺はほぼ自宅と化している滝本の家に入った。
「ただいまー」
と言っても返事はなく、少しだけ寂しい気持ちになりつつ床に買い物袋を置いた。
ほんっとに買い物って疲れるよな。
こんなことなら自動車の免許を取っておけば良かったのかもしれない。
でも教習所に行くのは面倒だし…。
うん、面倒だとか考えてしまう時点で、運転する資格はないよな。
買ってきたものを冷蔵庫にしまい終えた俺は、買い物袋を抱いてリビングへと向かった。
ちなみにこの中には、俺が買ってきたばかりのアイス類がたくさん入っている。
「たきもとーっ。アイス買ってきたんだけど、一緒に…」
リビングのドアを開けて目に入ってきた光景に、俺はため息をついた。
滝本が床に腹を出した状態で寝ていたのだ。
「こらーっ、こんなところで、しかもお腹出したまま寝ない! それに扇風機が直に当たってるじゃないかっ。っていうかどこのオッサンだお前は…!」
「ん〜…。オッサンとか言うなよな。傷つくだろ…。ここは子供って言えよ」
「子供だなんて言える年齢じゃないだろ!」
「オッサンだなんて言われる年齢でもねーんですけど。まだお兄さんだぞ、俺は」
「はいはい、分かりましたよ。それじゃあお兄さん? 昼真っからこんなところでヘソ出して寝ないの」
滝本はダルそうに起き上がって、欠伸をした。
目は半開きだし、髪の毛はボサボサだし、本当にしょうもない奴だ。
「…なーんかアレだよなぁ。お前、俺の母さんみてぇ」
「馬鹿なこと言ってないで、顔でも洗ってきたらどうなんだ?」
「ん…そうするわ」
滝本はまだ眠気が取れていないのか、フラフラとした足取りで洗面所へと向かっていった。
もうちょっとしっかりした生活を送っていると思っていたのだけれど、どうにもそれは俺の勘違いだったらしい。
彼は不規則な生活ばかりを送っていた。
朝は起きてくるのが遅いし、夜は帰ってくるのが目茶目茶遅いし…。
深夜に帰宅だなんてことはしょっちゅうで、夕飯を食べないことも多かった。
日中から明け方にかけて家にいないということは、仕事をしているということなのだろうけど…。
こんな生活を送っていては、体を壊しそうで心配だ。
休みの日なんて、今日みたいにぐーぐー寝てるし。
「あーっ、サッパリした!」
顔を洗った滝本は、かなり爽やかな笑顔を浮かべて戻ってきた。
髪の毛も整えたらしく、先程受けたぐうたらオヤジだなんて印象は皆無だった。
なんかもう、好青年って感じ。
常にこうでいてほしいものだ。
「つか腹減ったや。何か食いもんある?」
「さっきお昼ごはん食べたばかりじゃないか」
「消化した」
「はやっ!? どんな胃腸してるんだよ。まぁ、一応あるんだけどね。食べるものは」
俺は滝本に買い物袋を差し出した。
首を傾げながら中身を見た滝本は、顔をパッと輝かせた。
「アイス買ってきてくれたのか!?」
「うん。好きって言ってたもんね」
「食べていいのか?」
「いいけど…。少しは残しとけよ? それでデザート作るから」
「ああっ」
滝本は嬉しそうにバニラアイスのカップを取り出した。
蓋を開けたところで、表情が曇る。
「どうかしたの?」
「溶けかけてるじゃねぇか」
「あ…」
そうか。
暑い中歩いて来たんだし、当然か。
きっと他のアイスも全部そんな感じになっているのだろう。
「ご、ごめん。俺…」
「う〜ん? お前が謝るべきところじゃねぇと俺は思うんだけどなぁ。まぁ、別に溶けかけててもいいし。むしろこんくらい柔らかい方が、食いやすくっていいって。な?」
滝本は付属の木製スプーンでアイスを掬い上げ、俺に向かって微笑んだ。
ありがたいな、と思った。
彼の言葉もそうだけれど、こうして気遣ってくれる人が、すぐ傍にいつもいるということが。
「ん、うまい。お前も食うか?」
「え…? くれるのか?」
「ああ。ほら、あ〜ん」
「やめろよ、ガキじゃあるまいし」
差し出されたスプーンに苦笑しながらも口を開ける。
すると、ポトリと。
「…っ!?」
「あ、やっべ」
アイスクリームが俺の洋服に落ちてしまった。
うわわわっ、これ新品だったのに。
顔を引きつらせた俺とは違って、滝本は冷静にアイスが乗っかっている俺の胸元を見ていた。
「見てないで、拭くもの持ってこようとか思わないのかよ!?」
「あー、大丈夫大丈夫。そんなの必要ないって」
「え…あっ、ちょ…っ」
滝本は俺の肩を掴むと、胸元に顔を寄せてきた。
それから、ペロリと舌でアイスを舐め取った。
「んなっ…!?」
「勿体ねぇし、いいだろ」
「んっ、ん…!」
アイスなんてとっくに洋服に染み込んでしまってないのに、滝本はそこを舐め続ける。
その舌使いはどう考えても、ただ舐めているだけじゃなくって、俺の身体を興奮させるものだった。
こいつ、すっかりエロモード入ってるじゃないか…っ!
「もっ、いいからぁ…ッ」
ここで止めなければ、昼間っからやらしいことをされてしまうと覚った俺は、手で滝本の額を押して、顔を胸元から離させた。
真っ赤になっているだろう俺の顔を見つめて、滝本は目を細めた。
「でもさ、服に染み込んじゃったよなぁ…」
「え、うん。だからこそ、もう舐めなくっても…」
「そんじゃ、やっぱここは脱ぐべきだろ」
「………え。や、やぁああっ!?」
滝本は俺を押し倒すと、洋服を咽喉近くまで捲くり上げやがった。
恥ずかしさにほんのりと赤くなっている肌が露になり、胸に視線を落とした滝本は、嬉しそうに微笑んだ。
「ここ、ツンって尖ってて…やらしい」
「あぁっ…!」
言葉通り硬くなっている胸の突起を指先で弾かれて、俺は軽く仰け反った。
そんな俺の反応を愉しむように、滝本はしつこくそこを刺激する。
「やだぁ…やっ…滝本、そこ嫌ぁ…!」
「お前はすぐにそうやって嘘をつく」
「嘘じゃないもん…んぁっ」
このままじゃいけないと思っているのに、滝本に触れられると、俺の身体はすぐに抵抗出来なくなってしまう。
力が抜けた手足でもがいたところで、滝本相手には意味がない。
それどころか彼のやる気を助長させている気がしてならなかった。
「ふぇ…っ、ん…せっかくアイス買ってきたのに…」
「ああ、嬉しかったよ。ありがとな。だからさ、今日はコレを使おうか」
「え…ひぁっ…!」
滝本は先程のバニラアイスを俺の胸の上に落としてきた。
興奮して熱くなっている身体に、その冷たさはあまりにも刺激が強すぎた。
ぴくぴくと震えたのが気に入ったらしく、滝本は再びアイスを落としてきた。
それもわざと狙ったとしか思えない、乳首の上に。
「あっ…ぅ…!」
もともと溶けかかっていたアイスクリームは胸の上でみるみるうちに柔らかく形崩れしていき、肌を流れていく。
溶けたアイスが肌を伝っていく感覚にすら性感を覚えて、俺は恨めしげに滝本を見た。
「そんな顔するなよ。ちゃーんと、弄ってやるから…さ?」
「誰もそんなこと望んでな……ひゃあぁんっ!?」
滝本はアイスごと俺の乳首を、思い切り吸い上げてきた。
唐突な刺激に、目の前がチカチカとした。
彼の舌が動くたびに、乳首が擦られて妙に甘ったるい声が出る。
「ふぁっ…やぁ、んん…!」
アイスの冷たさと滝本の舌の熱さに、何が何だか分からなくなっていく。
滝本はへそ辺りにまで流れているアイスを舌で器用に舐め取ると、脚を大きく開かせてきた。
慌てて閉じようとしたものの、滝本が間に入ってきたために、出来なくなってしまった。
視線を下げれば、そこには見るからに大きくなっている股間が見えるわけで。
ジーパンに抑えられて窮屈そうにしているそこを見られることは、本当に泣きたくなるくらい恥ずかしかった。
「…なぁ、ココ」
滝本は意地の悪い笑みを浮かべながら、指先でツンツンと押してきた。
「…俺に触ってほしい?」
「ふっ…ぅ…うう」
否定や肯定をする代わりに、俺の口から出たのは情けない泣き声だった。
ポロッと涙が零れると、もう止まらなかった。
恥ずかしくって、でも気持ち良くなりたくって。
羞恥と欲望に挟まれて、もう耐えられなかったんだ。
「…気持ち良くなりてぇんだろ?」
「んっ、ふっ…ぇ」
小さく頷くと、滝本は俺の頬にキスをした。
それから滝本は「これからすっごく気持ち良いコトしてやるからな」と囁いて、俺の腰を浮かせた。
スルリと簡単に、ジーパンと下着を脱がされる。
現れた俺自身は腹につきそうなほど反り返っていて。
それを滝本に見られているのだと考えると、先端からぬるぬるとした先走りが零れ落ちる。
「や…見ないでぇ」
「どうしてだよ。こんなに可愛いのに」
滝本の言う、可愛いの基準が全く理解出来ない。
俺がぐすんっと鼻を鳴らすと、滝本は苦笑しながら買い物袋を漁りだした。
また、何かアイスを付けられるのだろうか…。
不安げに滝本を見つめていると、彼はアイスバーを取り出した。
「へぇ、棒付のアイスあるんだ…」
「ま、さか…」
アイスバーを片手に微笑む滝本を見て、俺は顔を引きつらせた。
さすがにそんなもの、挿れないよね?
ただ、それで胸を刺激してくるくらいだよね?
そう思うものの、滝本はそれを俺の蕾に押し当ててきた。
「やっ…やだやだやだぁあッ!!」
「暴れるなって。きっと気持ち良いからさ」
滝本は俺の脚を押さえつけると、グッと冷たい塊を押し入れてきた。
指を挿れるのだって抵抗があって、痛みだってあるのに。
それなのに、それ以上のものを挿入しようとする滝本の気が知れない。
そのくせ、俺のそこはすんなりとアイスバーを咥えてしまった。
「ぁっ…あ…あぁあ…っ」
信じられなかった。
簡単に呑み込んでしまったことも、こんなもので、気持ち良いと感じてしまうことも。
滝本は棒を掴むと、上下に動かしだした。
「ひぁああっ、やっ…んぁあ…!?」
激しく柱挿を繰り返されて、俺は身体を痙攣させた。
冷たい棒が、熱い肉壁を擦り上げていく。
それは指でされるときとは全く違う快感を与えてきていた。
「すごいな。ここ、うまそうにしゃぶってるぜ?」
「ふぅっ…ぁああ!」
溶けたのか、滝本がアイスバーを動かすたびにぐじゅっと音がする。
きっと滝本はわざと音を立てるようにしているのだろう。
耳を塞ぎたくなるものの、そんな余裕が俺にはなかった。
「あぅ…っ、も…ああああッ!!」
滝本はアイスバーをより深く突き込んできた。
俺は甲高い声とともに、背を弓のように反らした。
それとほぼ同時に、尿道を熱の塊が駆け上がっていく。
目の前で光が弾けたかと思うと、俺はビュクビュクと白濁を放っていた。