11. 心音


ぬぷりと、俺の中から棒が引き抜かれた。
溶けきってしまったらしく、そこにアイスは付いていなかった。

「…はぁ、は…ん、滝本…?」
「あー…。わりぃ、俺…止めれそうにねぇや」
「え…?」

滝本が自分のベルトに手をかけたのが見えた。
止められそうにないって…。
え?
目を白黒とさせる俺の前で、滝本はジーンズの前を肌蹴た。

「えぇっ、ちょっ…まっ…」
「今日は最後までさせてもらうからな」
「えぇぇッ!?」

滝本は俺が達して動くに動けないのをいいことに、緩んでぐじゅぐじゅになっている蕾に自身を宛がってきた。
触れたその熱さにビクッと体が震える。
軽く滝本が腰を押し上げると、先端がクプリと潜り込んできた。

「あぁ…っ」

アイスで解したのが効いているのか、痛みはそれほどない。
けれどやっぱり、挿れられるのには抵抗があって。
滝本の腕に手を触れさせると、彼は優しく微笑みかけてくれた。
でもその表情は、どこか辛そうだ。
そりゃ、そうだよな…。
俺ばっかり気持ちよくなって、その間、滝本はずーっと我慢していたんだろうから。

「んっ…!」
「キツイか…?」
「っぁ、へ…平気、だけど…!」
「だけど?」
「滝本の方が、辛そうだなって…」

俺の言葉に、滝本は驚いたように目を広げて硬直してしまった。

「た、滝本…?」
「…情けねぇな〜、俺。そんなに余裕なさそうに見えんのかぁ? いや、事実ねぇけどさぁ…」

ため息交じりにぼやく滝本が何だか可愛く思えて、つい笑ってしまった。
すると当然のように睨みつけられ、俺の表情は苦いものへと変わる。

「笑うなよな。抱かれる側に焦ってるように見られるのは、正直辛いぜ…?」
「いいじゃん」
「よくねぇよ! 男としてプライドってもんがなぁ…」
「この際、プライドなんて捨てちゃえば? それにさ、ずるいよ」
「あ?」

滝本の眉が怪訝そうに寄せられる。
俺は複雑そうな顔をしている彼の頬に手を添えた。

「俺はいつだって、お前に触れられるとどうしようもないくらい感じちゃって、苦しいくらいなのに。それなのに、いつだって滝本は泰然としてて。俺ばっかり、お前のこと…求めちゃって」

思えば滝本が俺の前で達したのは、フェラをしたときだけじゃないか。
あの日の前も、あの日の後も、たくさんエッチなことはしたはずなのに。
それなのに、滝本は絶対に自分が気持ちよくなろうとはしなかった…。

「…そんなの、嫌だ。俺のこと、もっと求めてよ。一緒に気持ちよくなろうとしてよ。もっと…」
「…お前さぁ、俺のこと嫌いなんじゃなかったのか?」
「え?」

唐突な質問に首を傾げると、滝本は顔つきを更に険しいものへと変えた。

「だからさ、お前って俺が触れるたびに、俺のこと嫌い嫌い言ってくるじゃねぇか。言わなかったとしても、睨みつけてくるし…」
「あ、れは…」

確かに始めの頃は、本気で嫌いだった。
出会い方が、そう思わざるを得なかったと思う。
でも一緒にいるうちに、心底嫌いだなんて思わなくなって。
それどころか、滝本の傍にいて、彼のために料理を作ったりすることが楽しくて仕方がなくなっていた。
それでも嫌いと口にしていたのは、睨みつけていたのは…。

「っ…ほ、かに…言うことが、思いつかなくって…」

滝本は呆けたように俺のことを見ていた。
だって、仕方ないと思わないか?
エッチなことされまくって、さんざん泣かされて、喘がされて。
その後で普通に話せるわけがないじゃないか…!!

「…何だよそれぇ! 俺、結構マジで悩んで…あぁっ、もういい。お前の言葉を真に受けすぎていた俺が悪いんだよな」
「は…?」
「そうだよな〜。気持ちよくっても、よくないって意地張りまくりやがる奴だもんなぁ。…こんなことなら、我慢しなきゃよかったぜ」

滝本の声には、普段の小馬鹿にしたような響きがあって。
思わず言い返そうとすると、唇を塞がれてしまった。

「ふっ、う…っん!」

ドンドンと胸板を叩くと、ねっとりとした糸を引きながら滝本の唇が離れる。
俺は口元を手の甲で拭いながら、彼を思い切り睨みつけた。

「なんでそうやって、いきなりお前は…!」
「今からキスしますっつってキスする奴がいるかよ」
「じゃあ、これからは滝本がそういう奴になってよ」
「それじゃあ、今からもう一度キスする。オーケー?」
「ばっ…そんな恥ずかしいこと訊くなよな!!」
「どうしろって言うんだよ!?」

可笑しなことを言っているのは、百も承知だ。
滝本といると、いつも俺はそうだと思う。
考えることだとか、気持ちだとか、行動だとか、それらが矛盾してばかりなんだ。
それはきっと、滝本相手に素直になれないからなんだろうけど…。

じゃあ、どうして。
…滝本相手に、俺は素直になることが出来ないんだろう。

「なぁ、お前の言ったことをまとめた上で質問させてもらうけどな。俺はもう、我慢しなくってもいいのか?」
「え…?」
「馬鹿みたいにお前のこと、求めまくってもいいのか? お前はそれでも、俺のことを本気で嫌いになったりしないのか? このまま…挿れても、いいのか?」

矢継ぎ早に質問してくる滝本の瞳はやけに真剣で。
俺はいつの間にか微笑んでいた。

「滝本もさ、俺に負けないくらい馬鹿だよな。ここまでしといて、そんなこと訊いてくるなんて。むしろ、今まで挿れてこなかったのが…俺には不思議なくらいだし」
「じゃあ…」
「もう止められないんだろ? お前、さっきそう言ってたじゃないか」
「そりゃ、俺は…。でもお前がどうしても嫌だって言うなら」
「嫌じゃないよ」

即答してやると、滝本の表情が少しだけ和らいだ。

「今更止められないのは、お前だけじゃなくて…。まぁ、つまりはお互い様ってこと? 第一、先端潜り込んでるじゃないか。こんな中途半端なところで止めてみろ。それこそ大嫌いになるからな」

拗ねたように言うと、滝本がぷっと吹き出した。
それから、本当に嬉しそうに微笑んだ。

「だったら、止めるわけにはいかねぇよな」
「そうそう。…ちゃんと、俺のこと満足させて? 滝本も、だよ?」
「ああ。つっても俺はお前と出来れば、それだけでもう満足だけどな」

滝本はそう言いながら、俺の頬にキスをした。

「それじゃあ…お姫様? 用意は宜しいですか?」
「誰がお姫様だ、誰が!」
「…譲」
「っ………!」

じっと瞳を見つめられながら名前を呼ばれて、ドクンッと大きく心臓が脈打った。
俺…初めて、名前を呼ばれた?
聞こえてくる鼓動はどんどん早く大きなものになっていく。
こうして肌を重ねあっていると、滝本にもドキドキが伝わってしまいそうで。
その緊張感と恥ずかしさがより、脈拍を早める。

「ば…か。こういうときに名前呼ぶのって、卑怯じゃないか」
「例えば、どこが?」
「っ…そんなの訊いてくるなよ。せ、いじの…馬鹿ぁ」
「…ああ、なるほどね。確かにこれは腰にクルな」
「べべっ、別に俺は名前呼ばれて感じたわけじゃ…!?」

慌てて俺が否定すると、滝本は楽しそうに笑った。
それから俺の手をきゅっと握ってきた。
いわゆる…恋人繋ぎっていうものだろう。
俺は気恥ずかしさにどうかしそうになりながらも、滝本の手を握り返した。
伝わってくるぬくもりは、火照っている俺に負けないくらいに、熱い。
滝本もドキドキしてくれているんだろうか…。

「いくからな? …譲」
「きて? 誠二…」

熱の塊が、肉壁を押し上げ、割り入ってくる。
どれほど解してあっても、やっぱりくびれの部分を呑み込むのは痛くって。
それでも絶対に、俺は「痛い」と「嫌だ」と「止めて」は言わなかった。
今日は俺が、許可を出したんだから。
ううん、許可だなんて…生意気すぎる。
俺が、彼を求めたんだから。
だからこそ、拒絶するようなことは絶対に言っては駄目だ。
言いたくない。
だってそれを言われたくなくて、滝本はずっと、俺の中に挿入することを躊躇っていたのだろうから。

「あっ…うぅ…ッ!」

痛みに全身をぶるりと震わせた俺は、深く長く、息を吐き出した。
奥まで、滝本が挿っている。
全部、呑み込めたんだ…。

「譲、痛かったろ?」
「ん…全然。心配してくれなくって、いいよ。だから…動いて」
「いいのか?」
「動いて欲しいの…」

滝本に触れている奥が、疼いて感じる。
身体中の熱が、くすぶっているようだった。

「…っとに、俺殺しだよなぁ。譲ってさ」
「どういう意味、だよ…?」
「そのまんま。可愛すぎて、愛しすぎて…。俺、動き出したら譲のこと考えられなくなっちまいそう。自分が止められなくなって、滅茶苦茶にしちゃいそうで、なんか…」
「誠二相手なら、俺はいいよ。滅茶苦茶にして? 好きにしてくれて、かまわないから」

いつもはどんなに嫌だと言っても触れてくるくせに、交わるとなると、滝本は心底俺のことを気遣ってくれるらしい。
ううん、本当は。
俺の身体のこと、いつも気遣ってくれていたんだろうな。
大事にされていたんだ、すごく。

「譲…」
「ん、誠二…動いて?」
「…譲っ」

滝本は俺の両足を高く持ち上げると、深く突き入れてきた。

「ふぁっ…ぁっ、あ…ッ」

そのままガクガクと揺さぶられて、痛みに萎えかけていた俺自身が、一気に大きくなる。
そればかりか、ぶわっと白い蜜を先端から浮かび上がらせた。

「あ…んま、締め付けんなよ。イキそうになるだろ…っ」
「っ…む、り…んぁあっ…!」

意識しているわけではないけれど、どうしても滝本自身をキュウキュウと締め付けてしまう。
するとより体内の熱を感じてしまい、全身の震えが止まらなくなる。

「っ…あぁっ! ひゃっ…ぁああ…んっ…!!」

滝本がある箇所を突くたびに、気が遠くなるような快感が訪れる。
襞を何度も擦りあげられ、俺はほとんど啜り泣きに近い声を上げていた。
それでも、滝本は容赦なく突き上げ続ける。

「あっ、ぁ…ああ…っ、せいじっ、せいじぃ…!!」

名前を呼んだ直後のことだった。
中で滝本のものが体積を増して、俺の下半身がずくん、と熱く疼いた。
これ以上ないくらい押し広げられているのに、更に大きくなるなんて…!

「やぁっ…おっき、く…しちゃ…だめぇっ」
「無理言うな…!」
「あんっ、んぁ…ッ、ぁああっ!! あ、せいじ…っ、せいじ、せいじぃ…!」

あまりの激しい抽挿に意識が飛びそうで怖くなり、俺は何度も何度も滝本の名前を呼んだ。
どくんどくん、と下半身が痛いくらいに脈打って、熱くなっている。
もう、駄目。
何も考えられない…!

「あぁああっ! 気持ちいぃ…よぉ……っ、せいじぃ…!」
「譲、もう…イクぞ…!」
「ふぁあっ…」

滝本は腰を引くと、一気に押し上げた。

「やぁっああんっ!!」
「ッ…!」

最奥を穿たれた衝撃に背を反らすと、俺は勢いよく射精してしまった。
全身が熱く震え、擦れあっている俺と滝本の腹の間に吐き出した精液が糸を引く。
今まで感じてきた絶頂なんて比べものにならないほどの、壮絶な快感だった。
途切れそうな意識のまま、滝本の名前を呼ぶ。
耳元で名前を呼び返されて、抱きしめられて、俺は安心感に瞼を閉じた。
結合部から生暖かい液体が、尻を伝い落ちていく。

滝本も俺の中で、俺に感じて、達してくれたんだ。

そう考えると恥ずかしくって、でも、嬉しくって。
俺は身体の奥が熱で満たされているのを感じながら、意識を落とした。




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