12. 心音


「ほら、滝本。もう起きないと。仕事行かなくっていいのか? 朝食だって出来てるし…」
「………何でだよぉおおおッ!!?」
「うわああっ、何だよぉおおおッ!!?」

ベッドから起き上がった滝本にいきなり叫ばれて、俺は驚いて床に尻餅をついた。

「いったいなぁ…。いきなりどうしたっていうんだよ?」
「だって、可笑しいだろ!」
「何が?」

首を傾げて見上げると、滝本は俺のことを睨み付けてきた。
俺、何か怒らせるようなことをしたのか?
いつものように朝食を作って、いつものように起こしに来ただけじゃないか。

「だってお前、昨日の流れからいってさぁ! 朝起きたら腕の中に譲がいて、俺は眠っているお前にキスをするわけよ!! そんで起きたお前は気恥ずかしそうに微笑んで、今度はお前から俺にキスをしてくれるんだよ!!」
「…寝相が悪すぎて、壁で頭打ったのか?」
「どこも打ってねぇよ! むしろ打ったのは譲の方なんじゃないのか!?」

よくわからないけれど、とにかく滝本は俺が隣で眠っていなかったことがご立腹らしい。
そんなに寝ている俺にキスをしたかったのだろうか…。

「人が眠ってるときにキスするとか、悪趣味だよなぁ」
「あのなぁ! ってか問題はそこじゃねぇんだよ!!」
「はぁ…?」
「何で、どうして、お前は俺のことを『滝本』って呼んでるんだよ!!」

滝本の顔を凝視する。

「え…と、苗字、そうじゃなかったっけか? 間違ってる?」
「いや、あってるけどさ。そうじゃなくってだなぁ…っ」

滝本はもどかしそうに前髪を掻きあげた。

「昨日は名前で呼んでくれたじゃねぇか」
「…ああ。だから?」
「は? いや…だからって?」
「だから、何で今日も名前で呼ぶ必要があるんだよ」
「っ………。ふーん、そうかそうか。お前にとって名前で呼び合うってのは、そんなに意味を持たないことなわけね。昨日のセックスも、いつもしていたエッチの延長みたいなもんだったのか」

滝本は不満そうに言うと、煙草を取り出した。
俺は慌ててそれを奪い取る。

「おい! 何だよっ」
「今から朝食だって言ってるだろ! 煙草吸う前に、飯を食え!」
「………くそぉ」

滝本の手を引いてリビングへと連れて行く。
彼は渋々といった感じで、ポケットに煙草をしまった。
一体、何がそんなに不満だっていうんだよ。
俺がチラリと滝本を見ると、彼は悔しそうに唇を噛んでいた。

「…滝本」
「あんだよ、この野郎」
「………さっきの、ことだけれど」
「あ?」
「…滝本にとって昨日の、は…普段のとは違う意味を持つものだったのか…?」

滝本は俺の言葉に黙りこむと、椅子に座った。
俺もいつも通り、彼と向き合うように席に着く。
机を間に挟みながら見つめあうと、滝本はため息をついた。

「…当たり前だろ。ずっと好きだったやつと、ひとつになれたと思ったんだから。身体だけじゃなくって、心の方も。結局、俺の勘違いだったみたいだけどさ」

………。
ちょっと、待ってよ。
今、滝本は何て…?

「な〜んの反応もないわけ? 俺がお前に告白してるってのにさぁ」
「えっ…はぁ!? おまっ、俺のこと好きだったのか!?」
「………あんだけ昨日、会話したのに、何で気づかないのかなぁ」
「だって昨日、好きだなんて言ってない!!」
「そりゃ直接的な表現はしてねーかもしれないけど。でもそれに準ずるようなことはたくさん言ったと思うぞ?」

全く気づかなかったというか、滝本は抱く人抱く人みんなに可愛いだとか言っているんだとばかり…。
じゃあ、滝本がいつも俺にキスをしてくるのは。
俺に触れてくるのは。
全部、俺のことが好きだったから…?

「っ―――…!」

一気に顔が熱くなったのが分かった。
滝本へと目を向けると、彼は俺のことをじっと見つめていた。
目が合ってしまい、俺は咄嗟に視線を落とした。

「…あ〜あ、虚しいもんだなぁ。たくさんのファンの子に好きだと言われるのに、ただ一人の愛している子には全く想われてないんだもんなぁ」
「まっ、全く想ってないわけじゃない!」

ドンッと机を拳で叩く。
…俺、何を否定してるんだろう。

「いっ、いっとくけど! 今のはそういう…何ていうか、変な意味はなくって…!!」
「分かってるよ。なぁ、それでもさ。昨日は挿れさしてくれたわけだし、キスだって、もう嫌がったりしねぇだろ? ってことは、少しは脈アリなんだって思ってもいいのか?」
「あ…う、ん。まぁ…?」
「そっか。それが分かっただけでも、ヨシとすっかな」

滝本はくすっと微笑んだ。
それはやっぱり、凄く格好良さを伴った笑みなわけで。
どうしてこんな奴が、俺なんかを好きになったんだろう。

「…いつから?」
「え?」
「いつから好きだったの?」
「…ほぼ一目惚れに近かった、かな。一緒に過ごしたら、もっと好きになった」
「そんな、前からなんだ…」

好きだなんて言われると、どうしても、意識してしまうじゃないか。

「…いずれ、俺のことを好きにさせてみせるからな。覚悟しとけよ、譲?」
「………が、頑張ってみれば?」
「ああ」

頷く滝本からは、自信が感じられて。
俺はただただ、頬を熱くさせることしか出来なかった。




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