16. 心音
あれから散々イカされまくった俺は意識を失っていたらしく、目が覚めた頃には日が沈みきっていた。
信じられないくらいに腰が痛くて、ダルくって、当然歩いて帰れるわけがなくて、俺は滝本におんぶをされていた。
「ひどいよ、こんなになるまでするなんて…」
「お前がもっと気持ちよくしてって頼んできたんだろうが」
「覚えてないもん!」
「覚えてないもん、じゃない!」
俺は滝本にしがみつきながらも、眉間にしわを寄せた。
酔っていたんだし、仕方ないじゃないか。
滝本だってそのことを分かっているんだから、もう少し抑えてくれたっていいのに。
「っていうか、タクシー頼もうよ」
「ヤダ。金が勿体無い」
「腐るほどあるくせに!」
「馬鹿言え。だいたい、タクシーなんかに乗っちまったら、こうやって譲と話せる時間が短くなるだろうが」
「っ…また、そういうこと…言う…」
俺がそういう台詞に弱いことを分かっていて、わざと言っているんじゃないだろうな、コイツ。
俺は滝本の頬を指先で突っついてやった。
「噛み千切るぞ」
「怖いこと言うなよ!」
冗談だとは分かりつつも、俺はサッと滝本の頬から指を外した。
それから、彼の身体をきゅっと抱きしめる。
酒が入っていたにせよ、滝本を求めちゃったのは事実なんだ。
恥ずかしいなぁ…。
「…そういえば、あの男の人は何だったんだろう?」
「あ?」
「ほら、俺にお酒を勧めてくれた人だよ。何か、凄く嫌な目で滝本のこと見てたからさ…」
「あ〜。ありゃ、お前を酔い潰して医務室に連れこんでエッチなことしようとしてたのが、俺にバレて失敗したからだろ」
「へぇ、だからあんなに険しい表情をして…えぇ!?」
俺は驚きのあまり仰け反り、滝本の背から落ちそうになってしまった。
「ばっか、動くなよ! コンクリに尻ぶつけたいのか!!」
「そっ、そんなわけないだろ!!」
冷や汗をかきつつ、落ちないようしっかりと滝本にしがみつく。
っていうか、俺とエッチなことをしようとしただって…!?
「そんな馬鹿なことって…」
「ありえるぜ。お前、滅茶苦茶可愛いし」
「そっ…うかなぁ?」
そりゃ、昔から男に女と間違われて言い寄られることは多かったけれど。
それでも、俺が男だと知ると、みんな謝って離れていったのに。
今日はスーツを着ているし、女に間違われることはないはずなのに…。
「あとは、お前のヤバイ写真をネタに俺を強請ろうとしていたとか…な」
「え…?」
「こう人気があるとね、なかなか敵も多くなってくるわけですよ、奥さん」
「誰が奥さんだー!!」
「安心しろ、俺が夫だ」
「何一つ安心出来る要素がないぞっ!!」
俺はワァワァと喚きながら、滝本の髪の毛を引っ張った。
滝本は痛そうに、けれど嬉しそうに笑ったままで。
その穏やかな表情に、毒気を抜かれてしまう。
「もうっ、滝本って絶対変だよ。俺なんかに、惚れるし…」
「俺なんかって、言うなよな。俺にとってお前ほど魅力的な奴はいねぇんだから」
「…そのわりには、今日は放置してくれてどうもー」
「あぁ? 放置っつったって、ほんの少しじゃねぇか」
「ほんの少しでも放置は放置だろ! 俺、一人でどうしたらいいのか分からなくってだなぁ…っ。滝本は他の奴と話してるし」
「妬いてくれたわけ?」
その言葉に、心臓がドキリと跳ね上がった。
「そんなわけないだろ!!」
「…だよなぁ。あーあ。早く俺のこと、好きになってくれねぇかなぁ」
「馬鹿なこと言ってないで、速く歩け! 風呂に入りたいんだよ!!」
「へいへい」
歩くスピードを速めてくれた滝本の肩に顎を乗せたまま、俺は瞼を閉じた。
可笑しいなぁ。
胸が、ドキドキいってるや…。