19. 心音
散々泣きまくったわけだけれど、滝本は理由を訊いてきたりしなかった。
もしかしたら俺が自分から打ち明けるのを待ってくれているのかもしれない。
けれど俺は、滝本に原因を伝えることはしなかった。
いや、出来なかったんだ。
俺自身、どうして泣いてしまったのか分からなかったから。
「ふはっ…あ…ん…っ」
「譲…」
背後からちょっとだけ突かれて、俺自身から蜜が零れた。
滝本はそれを指に絡め取り、馴染ませるようにしながら、先端をクリクリと親指で刺激する。
内股が震えて、下半身が痛いくらいに張っていく。
挿入された直後は痛みで萎えていたはずなのに、今は気持ちよくって、ドクンドクンと脈打っているのがよく分かる。
きゅっと握り締めている滝本には、もっとハッキリとその変化が伝わっているはずだ。
「譲のココも、ナカも、吸い付いてくる…。もっとしてって、ねだってるみたいだぜ?」
「…んっ、は…ぁ…」
そんなことない、だなんて言えるほど甘い状況じゃなかった。
呼吸するだけで精一杯。
少しでも話すために力を腹部に込めたら、それこそ達してしまいそうだった。
滝本は優しく俺自身を擦りながら、ゆっくりと腰を動かしだした。
「ひ…ぁぅ」
「可愛いな、ほんと。好きだぜ、譲…」
愛してるだとか、好きだとか。
想いを告げられるたびに、疑念が頭を埋め尽くす。
滝本が俺のことを想ってくれているのは本当だろう。
ではどうして、俺以外の人間を抱くのだろうか。
それが滝本だ、と言われればお終いのことだけれど。
どうしても、納得がいかない。
それは、俺が好きな人以外とは抱き合うべきではない…そんな考え方を持っているからなのか。
そうなのだとすると、どうして。
「ぁっ、せいじ…っぁ、ああ…ふぁあっ」
―――どうして今、俺は彼と抱き合っているんだろう。
分からないことが多すぎて頭が痛くなる。
自分のことも、滝本の考え方も、まるで理解出来ない。
セックスの最中に彼から繰り返し囁かれる愛の言葉を、素直に受け入れられない。
そんなに好きだというのなら、どうして…あの女性を抱いたの?
「譲、苦しいのか…?」
「へ…いき、だから…続けて…っ」
「そうか…?」
とりとめもなく考え事をしていた俺を滝本は少しだけ心配そうに見ていたものの、俺が自分から腰を動かしだすと、彼も動く気になってくれたようだった。
再び激しい注挿を開始され、シーツを咥える。
こんなことをしたところで、声を抑えられるはずがないのだけれど。
「せいじぃ…ぁっ」
思考が少しずつ快楽に侵されていって、何も考えられなくなっていく。
それなのに胸だけは痛くって…。
「譲…っ、譲…!」
「あぁっ、あっ、あっ…もぉ…イクぅ…っ!」
イク瞬間に、俺はギュッと滝本自身を強く締め付けた。
それによって滝本から熱が放たれる。
腸壁に叩きつけるような激しく勢いのある放出に身体が痙攣し、再び俺は絶頂に達して白濁を放つ。
「はぁ…ぁあっ、ん…!」
滝本は一回放つだけでは済まず、俺の中で何度も爆ぜていた。
逆流した精液が、結合部から溢れて太ももを伝っていく。
自分の放った精や滝本の放った精が身体を流れ落ちることにすら快感を覚えて、俺は小さく喘いだ。
中にある滝本自身は未だに脈打っていて、俺に緩やかな快楽を与えてくる。
「大丈夫か、譲?」
「ん…なに、さっきから…気遣ってばっかり」
「だってお前…まぁ、いいや」
滝本は口を噤むと、そっと俺の髪を撫でてくれた。
その気持ちよさに俺は瞼を閉じた。
忘れろ、あの女性のことは。
滝本が誰と抱き合おうと、俺のことを大切にしてくれてることに変わりはないのだから。
そう考えると、少しだけ気分がマシになった。
本当に、少しだけ。