2. 心音
一人で全部家事をするのって、本当に大変だよなぁ…。
静江の力は偉大だった。
そんなことを実感しながら朝食を作っていると、インターホンが鳴った。
「はい、ちょっと待ってくださいー」
ガスコンロの火を消して玄関へと向かう。
ドアを開けて目に入った男の顔に、俺は顔を引きつらせた。
「よう」
片手を挙げて挨拶をしてくる滝本に返事をする代わりに俺は勢いよくドアを閉めた。
が、滝本も外から取っ手を掴んで引っ張っているようで、完全には閉まらなかった。
「は、な、せぇ〜ッ」
「冷たいこと言ってんじゃねーよ。近所づきあいは大切にって、初めにマンションの管理人に言われただろ?」
「だからって何で休日の朝っぱらからお前の顔なんざ見なきゃならんのだ!」
「おすそわけ持ってきてやったんだよ」
「え?」
気を緩ませてしまったのが悪かったのか、ドアを開けられてしまった。
そのまま、玄関内に侵入される。
押し出そうと思ったものの、滝本の手には紙袋があった。
本気で近所だからという理由で、おすそわけを持ってきたのだろうか?
だとしたら、無下に帰すわけにもいかないだろう。
「…ありがとう。でも、俺はお前に何もおすそわけとかするものないぞ?」
「それは別に構わねぇよ。俺が勝手にしたことだし。…でも、そうだなぁ? お礼してくれるつもりがあるんなら、少しの間、目を瞑ってくれねぇか?」
「目を…?」
「そう、目だ」
瞑って一体何になるんだ…?
不審に思いつつも、瞼を閉じる。
すると、トンッと軽く肩を押され、背中に壁らしきものが当たった。
壁に押し付けられている…?
「…滝本? 何がした…んっ」
瞼を開けようとした直後の出来事だった。
唇に、何かが押し当てられたのだ。
すぐに離れていく感触に、まさかとは思いつつも、おそるおそる目を開ける。
そこには笑みを湛える滝本の顔があって。
「…思ってた通り、柔らかい唇だな」
認めたくない事実を、口にされた。
柔らかい唇と言われるということは、やっぱり、先程触れたのは…。
こいつの、唇?
「っ―――!! な、何考えてるんだッ!?」
口をパクパクと金魚のように動かす俺を、滝本は楽しげに見た。
「…予想通りに、面白い反応してくれるぜ。どーも、ごちそうさま」
滝本は満足げに言うと、舌なめずりをして見せた。
薄く形の良い唇を艶がかった赤い舌が舐めていく様子はやけに官能的で、自然と目が惹きつけられる。
俺、この唇とキスをしたんだ…。
「何だよ、じっと見つめて。…もっとキス、して欲しいってか?」
「なっ…!?」
「お望みなら、その通りにしてやるよ。さっきよりも、深くって、気持ちいいキスを…な?」
「ふざっ…ぁっ、ん…!」
滝本は俺に再び口付けをすると、今度はすぐに離すだなんてことはせずに、舌を滑り込ませてきた。
口腔の敏感な部分を舌先でくすぐるようになぞられると、えもいえぬ痺れが背骨に走った。
「ふっ、ん…んぅ…!?」
身じろいで逃げようとするものの、その程度のことで滝本が俺を解放してくれるはずがなかった。
どうしたらこの状況から抜け出せるのだろう。
必死に考えるものの、口内を蹂躙する滝本の舌のせいで良い案が全く思いつかない。
そればかりか、頭も身体も熱に浮かされたような感覚に襲われており、思考がどんどん鈍くなっていく。
「…んっ、はぁっ…!」
やっとのことで口付けから解放されると、俺と滝本の唇を繋ぐようにして、ねっとりとした糸が引いているのが見えた。
どちらのものとも分からない唾液に濡れた彼の唇はやけに扇情的で、もどかしいほどの疼きを下半身に覚える。
「…もの欲しそうな顔しやがって。誘ってんのか?」
「ちが…ぁっ!」
滝本はいつの間にか俺のベルトを外していたらしい。
一気にズボンを膝辺りまで引き摺り下ろされてしまった。
現れた下着の前は膨らんでおり、その中心には既に染みが出来上がっている。
あまりの恥ずかしさに瞼を閉じると、包み込むように滝本の手がそこへと触れた。
「ひっ、ぁ…!」
「キスだけでこんなに大きくなってんのか。…ああ、そっか。お前は離婚しちゃったから、性欲処理を一人でいつもシてたんだよな? そりゃ、こうなっちゃうのも無理ないか」
滝本は「欲求不満だったんだよなぁ?」と笑いながら、俺自身を揉みしだく。
じんわりと下着に滲んでいたはずの蜜は、しだいにその量を増していった。
それに合わせるようにして、俺の唇からも声が少しずつ漏れていく。
「んっ、ぁんっ…んぅ…!」
滝本によって散々揉まれ、達してしまいそうになったときだった。
下着が引き下ろされ、大きくなった自身が外気に晒されたのだ。
露になった尖ったそれは、ダラダラと雫を滴らせている。
「…めちゃくちゃ濡れてるじゃねぇか、お前のココ」
「…っぁあ!」
滝本の指が、直接中心を掴みあげた。
指で根元から先端にかけてを丁寧に擦り上げられて、言いようがない喜悦が走る。
思わず目の前にある滝本の洋服にしがみつくと、くびれの部分を指の腹でクリクリと刺激された。
「あっ…や、だぁ…!」
「嫌だとか、嘘言うんじゃねぇよ。お前のココ、俺の手の中で嬉しそうにビクビク跳ねてるぜ?」
そんなことない、と言おうとしても、出るのは喘ぎ声だけだった。
どうして…どうしてこんなことになっているんだろう。
今はまだ朝で、しかもここは玄関で。
何より、俺に触れているこいつは男じゃないか…っ。
こんな奴に、良い様に扱われてたまるものか。
「ひ…ぁあんっ! あ、もっ…」
けれども、身体を襲ってくる快感の波には逆らえない。
俺は滝本にしがみついたまま、ぶるっと大きく身を震わせた。
尿道を熱の塊が駆け上がっていく感覚。
次の瞬間に与えられるであろう解放感に無意識のうちに期待してしまったのだが、その時は訪れなかった。
滝本の指が、俺の根元を押さえ込み、達せさせまいとしていたのだ。
「ぁ…た、きもと…」
「イキてぇか? だったら言えよ。俺に触れられるのが気持ち良くって、堪らないって。お願いだから、イカせて下さいって」
「なっ…だ、誰がそんなこと…!」
「だったら、このまま焦らし続けるまでだけどな」
「んぁっ!」
根元をキツク押さえ込んだまま、滝本は鈴口を強く擦ってきた。
こぷっと蜜は溢れるものの、本当に出したいものまでは決して零れない。
「ほら、言えよ。簡単なことだろ?」
「ぁっ、あ…んっ…ゆ、う…言う、からぁ…!」
滝本は俺自身を擦る手の動きを止めると、じっと顔を見つめてきた。
俺は彼の顔から目を逸らすと、唇を一度舌で湿らした。
それから、口を開く。
「あ…お、れ…そこ擦られるの、すごく…気持ち良いんだ」
「俺に擦られるの、堪らない?」
「うん…滝本の、手で…擦られるの、いい…よ。だから、お願い…イカせてぇ…?」
「…すげぇやらしいな、お前。満点だ。約束通り、イカせてやるよ」
「あっ、あ…あぁあッ!!」
滝本の指が、根元から外される。
それと同時に強く扱かれ、俺は甲高い声を上げて、彼の掌に向かって放ってしまった。
ぼたぼたと精液が床に落ちる。
生暖かい液体が太ももを伝っていくのを感じながら、俺は背を壁につけたままずるずると下がっていき、床に座り込んだ。
「立っていられなくなるほど、良かったのか…?」
「…う、ん」
達した余韻に浸ったまま半ば放心気味に頷くと、滝本が嬉しそうに微笑んだ…ような気がした。
「自分でするより、やっぱ他人にシてもらう方がいいだろ? 気が向いたら、俺のとこ来いよ。いつでも相手してやる」
滝本はそれだけ言うと俺の頬にキスをして、俺の体を抱え上げた。
疲れて重たくなってきている瞼を何とか閉じずに滝本の顔を見る。
「ベッドまで運んでやる。眠いんだろ? …言っとくけど、もう変なことは何もしねぇよ。本当だぞ?」
「…滝本が、信じられない…」
「ほー、そういうこと言うか。だったら別に、それでもいいけどな。このまま第2ラウンドを開催するまでだ」
「ごっ、ごめんなさい…っ」
慌てて謝るのだが、滝本は俺と目を合わせようとしない。
怒らせちゃったのだろうか…?
そう不安に思ったのだけれど、滝本は俺のことを優しくベッドへ寝かせてくれた。
彼の表情はやけに穏やかで、見つめていると、気分が落ち着いていくようだった。
「なぁ、俺が処理してもいいか?」
滝本は俺が頷くのを確かめると、ティッシュで太ももを拭きだした。
そのときの手つきもすごく優しくって、触れる指先やティッシュの感覚が心地よい。
「…滝本、ごめん」
「俺がしちまったことなわけだし、お前が謝る必要ねーだろ。それより疲れてんだろ? 寝ててもいいぞ」
ただ、無理やり襲ってきただけなら心底嫌いになれるのに。
こんな風に処理までしっかり、それも優しくされてしまって。
「おやすみ」
「…ん」
柔らかく微笑まれて、キスなんてされたら。
たとえ憎かったはずの相手でも、大嫌いになんてなれないよ…。
「嘘、つき。さっき変なことしないって言ったのに、キスしたな」
「お前があんまりにも可愛いからだろ」
屈託なく笑う滝本の顔はやっぱり整っていて。
綺麗だなって、そう思った。