21. 心音


テレビを見ながら煙草を吸っている滝本を、俺は少しだけ離れたところから見つめていた。
眉間には恐ろしい程しわが寄っており、苛立たしそうに、組んだ足を揺すっている。
もう、マンションについてから結構な時間が過ぎているのに…。

「た、滝本…まだ怒ってるの?」
「怒ってない」
「嘘だっ。だってお笑い番組を見ながらするような顔じゃないじゃないか、ソレ!」

指を突きつけると、滝本は更に顔つきを険しくさせた。
うぅっ、やっぱり話しかけるべきじゃなかったかも…。
もう少し彼の機嫌が直ってからにすれば良かった。

「っ…そ、んな…怒ることない、だろ」
「だから、怒ってないって言ってるだろ?」
「じゃあなんでそんな…」

滝本の声と目つきはひどく冷たかった。
どうしてそんな鋭い視線を向けられないといけないんだよ。
こんなにも露骨に怒る必要、ないじゃないか。

「何もされてない…のに」
「…あのなぁ、譲?」

滝本は灰皿で煙草の火を消すと、俺の目の前へと移動してきた。
それから俺の両肩に手を置くと、不機嫌そうな顔を少しだけ翳らせた。

「何かされただとか、されてないだとか、そういう問題じゃねーんだ」
「…じゃあ、何? 何がそんなに気に食わないの…?」

不安げに滝本を見上げると、彼はチッと小さく舌打ちをしてみせた。

「お前が俺以外の人間の前で、そうやって無防備な姿を晒すことだよ」
「え…?」
「ちょっと来いっ」
「えっ、えぇ!?」

滝本は俺の腕を引っ張って寝室へと向かった。
わけがわからなくて戸惑う俺をベッドへと突き飛ばすと、滝本は上に乗り上げてきた。

「ちょっ…滝本!?」
「ムカツクんだよな、譲って。俺がどんだけお前のこと好きなのか、分かってねぇだろ?」

滝本は俺の服に手をかけると、勢いよく引っ張った。
その拍子に前ボタンが弾け飛ぶ。

「おまっ…!? これ、結構お気に入りの…!」
「うるせぇ…」

低く唸るような呟きに、俺は黙り込んだ。
滝本は怒りを押し殺しているようだった。
ちょっとでも言い返せば、逆鱗に触れてしまうような。
そんな危険な感じがしたんだ。

「…震えてる、な。恐いか?」
「ん…っ」

滝本の指が首筋をなぞる。
俺が小さく頷くと、彼はフッと微笑んだ。

「悪いな、譲。俺は自分で思ってたよりも、独占欲が強いみてぇだ。お前が他の男相手に無防備な姿晒すのは、我慢ならない」
「無防備って…そんなこと」
「あるぜ? だからこそ、襲われかかるんだろうが。さっきの男にも、この前のパーティでも。…譲の場合は自覚がないから困るんだよなぁ。だから怒るにも、素直に怒れない」

滝本は言いながら、俺の胸に手を這わせた。
ギュッと突起を捻られ、微かな痛みが走る。
滝本はすぐに充血して硬くなったソコに爪を立てた。

「っ…たき、もと…!」
「痛いか? 痛いよなぁ…。でも止めてなんて、やらねぇから」

滝本は赤く色づいている乳首を歯で挟み込むと、そのまま引っ張った。
痛みに目の前が霞む。
そっと滝本の髪に手を触れさせると、彼は舌先でくすぐるようにソコを舐めだした。
ずっと与えられていた痛みとは違う緩やかな刺激に、下半身に疼きを覚える。
もう片方を指で優しく摘ままれると、たまらず声が漏れた。

「…気持ち良くなれるんなら、誰でも良いんじゃねぇだろうな」
「違うっ。そんなこと…!」

言い返すと、滝本は少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

「そうか。じゃあそれこそ、もう他の奴に可愛い姿見せんなよ」
「…ぁ」

滝本は俺をうつ伏せにすると、尻を高く上げさせた。
そのまま下着ごとズボンを脱がされて、頬に血が駆け上る。

「はっ…ずかし…」
「約束しろよ。俺以外には、もう絶対に触れさせないって」

俺は滝本の言葉に頷くことが出来なかった。
だってそれって、滝本のモノになるってことじゃないか。
そんなこと、こんな状況で言えるわけがない。
言いたくない。
だってそれじゃあ…。


―――それじゃあ、無理やり言わされたみたいじゃないか。


滝本は俺の反応をしばらく待っていたようだけれど、不意に、ため息を漏らした。
それから濡れてもいない指を一気に二本、突き入れてきた。
力任せに突っ込まれれば当然痛いわけで、喉の奥のほうから、引きつれたような声が出た。

「いたぁ…いよぉ」
「ったりめぇだろ、痛くなるようにやってんだから」
「あぁああッ」

滝本は指をグルリと回転させた。
それはいつもみたいに快楽を与えてはくれず、涙が零れた。
でも泣いている事に気づかれたくなくて、俺は濡れた頬をシーツに擦りつけた。
それから、滝本を振り返る。

「…んだよ。頷かないお前が悪いんだろ」
「そっ…んな、こと…」

身勝手すぎる物言いに彼を睨み付けると、指が引き抜かれた。
そのことにホッとしたのも束の間だった。
熱い、指以上の質量が、後孔に押し当てられたのだ。

「だ…め。本当、それは…!」

だってまだ、解せてない。
それなのにそんなものを挿れられたら…ッ。

「やっ、やだああああッ!!」
「っ…!」

ズンッ、と鈍い衝撃と共に、今までにない鋭い痛みが背筋を突き抜けた。
息をつまらせ、俺はシーツを強く握り締めた。
全く慣らせていないところに挿入されるのは、本当に痛くて。
抑えきれない嗚咽と涙が漏れていく。

「くっ…少し力抜け!」

滝本だって狭くって辛いだろうに、無理やり腰を動かしだした。
ズキンズキンとした痛みが、よりひどくなる。

「ひぁあああっ!! やぁっ、いたぁ…!!」
「うるせえなぁ…っ」
「ぁあああっ!!」

滝本は奥を強く穿つように突いた。
脳天が痺れるほどの、痛みが身体を襲う。
涙がボロボロと零れるのに、滝本は腰の動きを止めてくれない。

「ふぁっ! …いた、いよ…何で、こんな…っ!?」
「俺以外とベタベタしないって約束しろ…!」
「んぅっ…やだぁ…」

滝本だって、俺以外と仲良さそうに話すくせに。
俺以外とだって…こうやって、抱き合ったりするんだろ?
頭の中に、あの真っ赤な口紅を塗っていた女性の姿がチラつく。
自分はいろんな人と抱き合うのに、俺にだけ他人と触れるなと言ってくるなんて、間違ってる。

「うぇっ、も…ううぁ…っ。やだよぉ、やだ…っ!!」


すすり泣きながら俺は絶頂を向かえ、失神してしまった。




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