6. 心音


「変なことしたら、蹴り飛ばすからなっ」
「乱暴なこと言うなよな。第一、変なことって何だよ?」
「っ…身体、触ったりとか」
「その程度で変なこととか、お前はどこのお嬢さんですか〜? 女々しいにも程があるだろ」

お前の場合、触るのレベルが尋常じゃないだろ…!
そう思って睨み付けるのだが、滝本はそんな俺を無視してベッドの中に入ってしまった。

「ほら、お前も早く入れよ」
「うぅ…」

ぽんぽんとベッドを叩く滝本の隣へと、恐る恐る歩み寄る。
まぁ、俺は病み上がりだし。
そんな変なこと、さすがにしてこないよな…?



―――だなんて思って、気を抜いたのが悪かった。



「やぁっ…」
「ん〜? どうした、声なんか出して」

滝本は寝転んでいる俺の背後から、太ももを撫でてきやがったのだ。

「おまっ…変なことしたら、蹴るって…!」
「かる〜く触っただけだろ? それとも何だ? お前はこれだけで感じちゃうのか?」
「ッ………!!」

肩越しに睨みつけると、滝本は面白そうに目を細めた。
挑発的な眼差しに腹が立った俺は、フイッと顔を逸らした。
この程度で感じるわけがないじゃないかっ。
俺が黙り込んだのを良いことに、滝本はパジャマの中へと手を滑りこませてきた。
ゆっくりと肌を撫で上げられ、俺は声が漏れないよう唇を噛み締めた。

「…お前はさぁ、つくづく馬鹿だよな」
「なっ…ん、だよ! 馬鹿はお前だろ…ッ」
「そうか? 感じてないのバレてないと思って必死で声を我慢してる奴の方が、よっぽど俺は馬鹿だと思うけどなぁ」
「だっ、誰が…ひぁんっ」

耳朶を吸われ、胸の突起を摘まれて俺は思わず声を上げてしまった。
口元を慌てて両手で塞ぐと、ククッと笑い声が耳元でした。

「おーおー、頑張るねぇ。でもここをこんなにしてたら、意味ないってことに気づけよな?」
「あっ…」

太ももを撫で回していた滝本の掌が、パジャマ越しに俺のものを掴んだ。
言われるまでもなく、そこは熱くなっていたわけで。
強弱をつけて何度も揉まれて、俺は鼻にかかった声を出してしまっていた。

「息荒くなってるみたいだけど、どうかした? それともやっぱり、感じちゃったとか?」
「っ…こ、の…!」

滝本の手の甲に思い切り爪を立ててやる。
一瞬彼の手の動きが止まったものの、すぐにそれは再開された。
それも今までよりも、強く激しいものになって。

「ぁあっ、あ…っ、ひぅ…っ!」
「無駄な抵抗は止めたほうが利口だと思うぞ。ほら、気持ちいいんだろ?」
「あぁんっ、気持ちい…くない!!」
「………あ、そ」

さすがに呆れたのか、滝本は苦笑した。
そのとき耳にかかった吐息にさえ、身体が反応してしまう。
きっと滝本に弄られている俺の下半身は、俺が出したものでぐしょぐしょになっているのだろう。
下着が濡れて、張り付いて感じる。

「はっ…も、いいだろ? 止めろよ…」
「逆に、俺が訊きたいな。止めていいのか? こんな中途半端なところで」
「ぅう…っ」

俺は枕を両腕でぎゅっと抱きしめ、そこに顔を埋めた。
止めてほしいけど、止めてほしくない。
二つの感情がせめぎあって、俺はどうしたらいいのか分からずに困り果てていた。
もっとして、だなんて…口が裂けても言いたくない。
でも前に言ったことあるんだよな。
「イカせて?」って…。
思い出したら急に恥ずかしくなってしまった。
そうなんだよな。
滝本にはもう、淫らなところを見られているんだ…。

「お、また大きくなったな」
「言うなよ、そういうことぉ…っ」

枕に顔を埋めているせいなのか、くぐもった声になってしまった。
どうしよう、今考えると俺って物凄く恥ずかしいことを言ってしまったんじゃないだろうか。
そしてそんな恥ずかしい状況が、現在進行形で行われているのだ。
また、そういうこと言うはめになるのかな。
言わなきゃならないほどに、焦らされるのかなぁ…。
もしそうなったら、きっと俺は恥ずかしいことをいっぱい言ってしまう。
それだけは避けたい!

「た…きもと」
「あん? どうした」
「あ…んまり、焦らさない…で?」

枕を抱きしめたままそっと振り返って言うと、滝本は不意をつかれたように目を丸くした。

「―――…っぁ、やべぇ。ど真ん中きたわ」
「え、ちょ…あぁッ!?」

滝本は俺のズボンを下着ごとズリ下ろすと、膝裏に手を入れてぐいっと大きく脚を開かせてきた。
合間から見えるそそり立った俺自身は、これ以上ないほどに蜜を滴らせていた。
思わず視線を逸らすと、ピチャリと独特な湿音がした。
それとほぼ同時に、腰砕けになりそうなほどの快感が。

「あぁんっ、はぁっ…やっ」

快楽に呑まれて閉じそうになる瞼を必死で開いて、股間を見る。
そこに伏せられている滝本の顔…。
信じられないことに、彼は俺のものを舐めていたんだ。

「んぅっ…やだぁ…!」

いやいやと左右に首を振っても、滝本は舌の動きを止めてくれない。
そればかりか、彼の唾液と先端から零れるぬめりが混ざりあって、舌の滑りはよくなっていく一方だ。
蜜口に歯を立てられると、もう耐えることは出来なかった。

「んぁっ、あっ…あぁあ!」

どぴゅっと俺自身から精液が吐き出される。
その解放感に酔いしれる間もなく、滝本は再び俺自身を刺激し始めた。

「やぁっ、もぉ、ムリ…っ」
「嘘つけ。ここ、まだまだイキたりないみたいだぜ?」
「あっ、や…くわえちゃ…っ!」

一度達したことによって感度が上がってしまったらしい。
少し触れられるだけでも、すぐにイってしまいそうになる。
それなのに滝本は遠慮なしに吸い上げてくるもんだから、俺は気が気じゃなかった。

「やあぁぁぁぁっ! …また、で…出ちゃう…っ」
「出せよ。今度は全部、俺が飲んでやるから」
「あっ、ぁあん! っや…ぁっ、ああ…!!」

強すぎる吸い上げに、俺は再び射精してしまった。
それも一度では収まらず、何度も何度も、断続的に精を吐き出す。
滝本は俺が出したそばから、それを飲み下していく。
咽喉が上下するたびに与えられる微かな締め付けが、達した余韻をより心地良いものに変えていた。

「ぁ…はぁ、は…」

脱力して両腕と両足をベッドにだらしなく放り出す。
滝本はズルっと俺自身を口から出すと、口元を手の甲で拭った。
俺はそれをただ見つめるだけで精一杯だった。
言ってやりたいこととか、たくさんあるはずなのに。

「大丈夫か?」
「滝本…の、ばかぁ」
「なーにが馬鹿だ。気持ち良かったくせに。お前今、何回イったよ?」
「うっ、うるさいなぁ…。そんなの覚えてるわけ…ない、だろ…」
「数えられないくらい、何度もイった?」
「違う…もん」

プイッと顔を逸らすと、滝本が抱きしめてきた。

「ちょ、な…何だよ」
「お前って可愛いなぁ。俺、すごくそう思う。言われない?」

無視していると、滝本が苦笑するのが分かった。
シカトされてるんだから、もっと怒るなりすればいいのに。

「結局、俺のこと蹴らなかったな」
「蹴らなかったんじゃない。蹴れなかったんだもん…。滝本なんて、キライ」
「そりゃどーもね」

滝本は関心なさげに言うと、俺を抱きしめる腕に力をこめた。
俺に嫌いって言われても、何も思わないのだろうか。
それはそれで、腹が立つな…。
ムッとなって睨み付けると、滝本にキスをされてしまった。
予想だにしない彼の行動に言葉をつまらせた俺は、そのまま目を閉じて、眠ることにした。
滝本の腕を枕がわりにして。

「ちょっと腕、痛いんですけどー?」
「我慢しろ、そのくらい。俺に変なことたくさんした罰なんだから」

不貞腐れたように言うと、滝本が笑うのが分かった。
大っ嫌いだ、こんな奴。
そう思うくせに、こうして抱きしめられていることは嫌じゃなくて…。
矛盾している自分の気持ちに気がついて複雑な気分になっていると、滝本の指が俺の髪を梳いた。

「なんだよ」
「…俺の家で働く気、ないか?」
「え…?」

唐突過ぎる質問に俺は閉じていた瞼をそっと開いて、滝本の顔を見つめた。
どうやら本気で言っているらしく、表情は真剣だ。

「…滝本の家で働くって、どういうことだよ?」
「住み込みで掃除とか料理とか…家事全般だな。それをしてもらう。給料は奮発するぞ?」
「奮発って、どれくらい?」
「お前の頑張りによりけり…だけど。まぁ少なくとも収入ゼロの今よりかは大分マシだと思うぞ」

それは確かに言えている。
きっと俺のことだから、このまま過ごしていてもなかなか企業の仕事には就けないだろうし。
それだったら、採用試験もなくってクビになる心配も必要ない、彼の家で働くということは悪くないのかもしれない。
それにタダで家に泊めてもらうのは、やっぱり気が引けるしな。
「住み込みの仕事」っていう理由がある方が俺としても気が楽だ。
家事はどちらかといえば得意な方だし、それで給料が貰えるのなら、俺にとってかなり好条件なんじゃないだろうか。

「…うん。悪くないな、それ」
「よっしゃっ、じゃあ決まりな!」
「…言っとくけど、いくら雇用主だからって調子に乗って触れてきたりするなよっ」
「分かってるよ。調子になんて乗らずに、今日みたいに、普通に触れさせてもらうからよ」
「それも駄目だっつの!」

滝本の顔面に枕を叩きつけると、俺は彼から距離をとった。
仕事条件はいいものの、雇い主に問題があるな…。

「はぁ…っ!」
「そんな盛大にため息つくなよな〜。あ、そうそう。明日は8時過ぎには起こしてくれよな」
「…起こすのも俺の仕事なのかよ!?」
「当然。朝食も宜しく〜」

ヘラヘラと笑うと、滝本はそのまま眠ってしまった。
言いたいことだけ言って、ヤりたいことだけヤって、寝やがって。
額に”肉”という文字でも油性マジックで書いてやろうかと思ったけれど、止めておいた。
眠っている滝本の顔は本当に穏やかで。
悪意は全くないのであろう彼に腹を立てている自分が、馬鹿らしく思えたんだ。




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