8. 心音
「なぁ、家事全般をやってくれるってことは、メイドってことだよなぁ?」
「…メイドというか、家政婦というか。まぁ、どっちも似たようなものだから好きなように呼べばいいけどさ」
「じゃあ、お前は俺専属のメイドってことで良いんだよな? つまり俺はお前のご主人様なんだよなぁ?」
「ごしゅっ…う〜ん。そう思いたければ、思っとけば良いんじゃないか?」
…って、確かに言ったけど。
「だからって何でこんな服着なきゃならないんだよぉおッ!!」
俺は黒と白を基調としたフリルの付いたのエプロンドレス…もといメイド服を床に叩きつけた。
「おいコラ! 投げ捨てんなッ。お前の大事な仕事着だぞ!」
「ふざっ…何でメイド服なんて俺が着なきゃならないんだよ!」
「安心しろ。採寸はお前が寝てる間に図っといたからピッタリのはずだ」
「…不穏なことを聞いたけどこの際それは無視するとして…。絶対嫌だからな! こんなわけの分からん服着るの!」
「わけ分からんことねーだろ。男の夢の化身じゃねぇか。清楚なメイドさんが甲斐甲斐しくご主人様の世話…憧れるだろ?」
呆れて言葉さえでない。
もっとまともな奴だと思ってたのに…。
「ほら、いいから着ろっての。な?」
押し付けられたメイド服とカチューシャを両手にため息をつく。
まぁ、こんな服装が俺に似合うわけないんだし。
ちょっと着れば、こいつも満足するだろう。
俺は寝室へと行くと、悪戦苦闘しながらメイド服を着た。
気持ち悪いって思ってもらえれば、すぐに脱ぐことが可能だと思っていたのに…。
ため息をつきながら包丁で大根を切る。
滝本は哀しいことに俺のメイド服姿を気に入ってしまったらしい。
そんなわけで脱ぐことは許されず、俺はメイド服を着たまま料理を作らされていた。
「っとに、いい趣味してるよ」
「何か言ったかぁ〜?」
「いいえ、何も!」
滝本は先程から椅子に座って、じーっと俺のことを見つめている。
男がこんなのを着た姿を見ることの何が楽しいのか全く理解出来ない。
纏わりつくような視線に少しだけ恥ずかしさを感じていると、背後にピッタリとくっつかれた。
「ちょ…滝本?」
「いいから、気にせず続けろよ」
「ひゃっ…!?」
滝本は俺の耳朶を甘噛みしながら、太ももを撫で上げてきた。
そんなことをされて平然と料理を作っていられるはずがなく、俺は振り返ってキッと滝本を睨みつけた。
「何考えてるんだよ!?」
「ん〜、だってそんな格好でいられたら…やっぱ襲いたくなるだろ?」
「ばっ…馬鹿じゃないのか、お前! 何より今は料理作ってるんだし…」
「だ〜から、気にせずやれっての。俺も極力邪魔しないよう気をつけるからさぁ」
「んっ…!」
滝本の指が胸当ての上から乳首を摘んできた。
何が…何が邪魔しないよう気をつけるだぁーッ!!
「お前なぁ…!? どうしてそういう…あっ、やぁんっ」
「何だよ、乳首…もう硬くなってるじゃねぇか」
「滝本が…触る…から…。てか、もっ…!」
包丁を持っているっていうのに、遠慮なしに滝本は胸を弄ってくる。
手が震えて、野菜に刃先の狙いが定まらない。
不意に、滝本の手がスカートを捲り上げた。
「ちょっ…!? ぁ、ああっ!」
ぎゅっと股間を握り締められ、力が抜ける。
包丁を放して流し台の縁に手を着くと、滝本の手がより大胆に動き出した。
強く揉まれて、俺は声にならない声を上げた。
「どうした? 料理、続けろよ」
「出来るわけ…っ」
「…感じちゃったか?」
「ッ―――…!」
分かりきっていることを訊いてくる滝本は、本当に性質が悪い。
いつの間にか浮かんでいた涙を零すまいと必死に堪えながら睨み付けると、滝本は嬉しそうに微笑んだ。
「いいな、その顔。我慢しちゃってさ…ソソるぜ」
「ひぁっ…!?」
滝本はしゃがみこむと、俺の下着を引きずり下ろした。
それから程なくして、ピチャリ…と湿音がした。
それに、尻を滑る生暖かい感触。
何をされているのかなど理解したくなくて、でも、嫌でも理解させられる。
滝本は舌で俺の尻を舐めているのだ。
もちろん、俺自身を刺激することは忘れずに。
「ふっ…ん、ぁ…っ。たき、もと…どこ舐めて…」
「ん? あぁ、もっと違うとこ舐めて欲しいって? 悪い悪い」
滝本は愉しげな声で言うと、俺の尻を手で開き、その間にある蕾に舌を這わした。
ぞくっと身体に震えが走る。
そんなところを舐められる日が来るなんて、考えたこともなかった。
縁を舌先で刺激される感覚に何とか耐えていると、ちゅぷり、とエッチな音が聞こえた。
滝本の舌が、中に挿し入れられたのだ。
「いやっ、や…滝本ぉ! やだやだ、んっ…」
嫌だと言って止めてくれる相手じゃないことはとっくに分かっていた。
それでも少しの期待を持って背後を振り返ると、滝本は舌を動かしたまま俺のことを見上げてきた。
それから、優しく微笑んだ。
「ああ、分かってるぜ。本当は、すっげー気持ち良いんだろ?」
んなわけあるかーッ!!
そう叫びたかったのに、滝本に腕を引っ張られてしまい、俺は小さな悲鳴を上げて床に倒れむはめになった。
「いってぇ…。本気でお前、何がした…」
「ほれ、口開けろ」
「え…? ぁ、んっ」
素直に開けると、滝本の人差し指が口内に侵入してきた。
いきなりすぎて目を白黒とさせていると、指が動きだした。
「よく、舐めとけ。濡れてるほうが痛くねぇからな」
ただ指で口内を掻き回されているだけなのに、身体が熱くなることが不思議だった。
散々弄くった後、滝本は俺の口から指を引き抜いた。
彼の指と口に、糸が引く。
ただ唾液が糸を引いているだけなのに、どうしてこういうときには、これがこんなにもいやらしく感じるんだろう…。
ぼーっとしていると、滝本の指先が、後孔に宛がわれた。
俺が声を上げる間もなく、彼の指が、勢いよく中に押し入られた。
「っ…ぁ!」
「痛いか…?」
乱暴に指を突っ込んだくせに、よく言うな…。
そんな気持ちを込めて滝本を睨み返す。
けれどそのとき見た彼の表情は本当に心配そうで。
俺はつい「痛くない」と言ってしまったのだった。
「そっか。まぁ、十分濡らしたからな。それじゃ、ちょっとばかし派手に指動かすからな?」
「ちょっとなのか派手になのかどっちかにし…ひゃぁあっ!?」
「派手にいかせてもらったわ」
滝本は俺の中を掻き回しながら、本当に楽しそうに笑う。
こいつはこんなにも余裕綽々としているのに、どうして俺だけこんな…。
改めて自分の格好を見て、一気に顔が熱くなった。
可愛らしいメイド服に、大きく開かされた脚。
下着を着けていないそこは直に見られているわけで。
それだけじゃなく、さっきからとんでもないところを指で弄られているわけで…。
「や、やだぁ…! ひぅっ…」
「なか、ひくつき始めたな…」
あまりの恥ずかしさに、どうかなってしまいそうだった。
赤くなっているだろう顔を見られたくなかったけど、今はそんなことを気に出来る状態ではなかった。
滝本の空いている手が、俺自身を擦り始めたのだ。
「んぁっ、はっ…やっ…ぁあっ!」
中からの刺激と外からの刺激が混ざり合い、思考と身体が白熱していく。
素早く出し入れされる指は、その都度、ぐちゅっと音を鳴らす。
擦られている俺自身は限界とばかりに大きくなり、天井を向いて蜜を零し続けていた。
「ひっ、ぁっ、あ…やぁあッ! もぅ…あ、で…出ちゃう…っ」
叫んだ直後の出来事だったと思う。
滝本の指が一番感じる部分を引っかいたのだ。
「あぁああッ!!」
仰け反った俺は、勢いよく自身から精を吐き出した。
放たれた精は滝本の手によって受け止められ、そしてあろうことか、彼はそれを俺の目の前で舐め始めた。
「やだーっ! そんなの舐めるな…ッ」
「自分専用のメイドさんの味くらい、知っとこうと思って」
「なっ…!?」
「お前も舐めるか?」
「だ、誰が自分の出したものなんて舐めるかッ!」
荒い呼吸が落ち着かないまま叫ぶと、滝本はクスッと微笑んだ。
「ば〜か。誰がこれを舐めろっつった。俺が言ってんのは、コレだよ」
「え…?」
滝本は立ち上がると、ズボンの前を寛げた。
そこから取り出される、猛った滝本自身。
初めて見る彼の怒張したそれに、俺は思わず息を呑んだ。
予想はしていたけれど…滝本のものは大きかったのだ。
「…ほら、しゃぶれよ。仕えてる主人の味くらい、お前も知っとけ」
「あ、んっ…!」
唇に先端が押し付けられた。
それは熱くって、火傷するかと思う程だった。
それに、硬い…。
「口、開けっての。それとも、無理やり突っ込まれてぇのか?」
「わ、かったよ…」
俺はそっと滝本自身を掴むと、唇を開いた。
舌でちょっとだけ舐めてみると、独特な青臭い味がした。
「んぅ〜っ、不味い…」
「そりゃ、上手いもんじゃねーだろ」
滝本は苦笑すると、俺の頭を押した。
「舌で舐めてるだけじゃなくって、咥えろよ。巧く出来たらご褒美やるぜ?」
「ご褒美って…?」
「給料あーっぷ」
「マジか!?」
手持ちの金がほぼゼロに近いこの状況。
少しでも給料は多くしておきたい…!
俺は熱を持った滝本自身を掴み直すと、口に咥えた。
それはやっぱり大きくて、全てはとてもじゃないけれど入りきらない。
「ひゃいらにゃい…」
「だぁーっ! 咥えたまましゃべろうとすんなッ」
「ぷはっ。…入りきらないんだけど? どうしたらいいわけ?」
「…お前、フェラしたことねーわけ?」
「あっ、あるわけないだろ!」
具体的な行為名に頬が熱くなる。
滝本は顔を紅潮させた俺を食い入るように見つめてきた。
「何だよ…?」
「そっか、ねーのか。そりゃ良かった。お前ってやけに男である俺に触れられることに抵抗ねーみたいだから、てっきり慣れてるんだと思ってた」
「はぁ!?」
こいつは俺が全くこういうことに抵抗覚えてないと思ってたのか!?
信じられない。
ありまくってるのに決まってるのに…。
「俺がこういうことしてんのは、お前が俺に金をくれるからだ! ただそれだけっ。抵抗はもちろんあるし、男に触れられたことだって、お前以外にはないっ!!」
「あっそう。金くれるから…ね。だったらそれ相応のこと、してもらおうじゃねぇか」
滝本の目つきが急に鋭くなったような気がした。
それに、どことなく口調がキツイ。
一体何だって言うんだよ…。
「じゃ、もう一度…咥えるからな」
俺は再び滝本自身を口に含んだ。
根元の方は指で刺激してやることにする。
「…ん、そうだ。そのまま、吸ったりしてみろ」
「ふっ、んぅ…」
吸い上げると、滝本は気持ち良さそうに目を細めた。
今思うと、彼のこういう顔を見るのは初めてな気がする。
これまでに滝本とはたくさんエッチなことをしてきたけれど、彼が俺の前でイッたことって、一度もないんじゃないか?
そのことを不思議に思いつつ、もう一度強めに吸ってやると、滝本は唇から吐息を漏らした。
「…ひぃ?」
「あ? …ああ、いいよ。だからもっと」
「んっ…」
舌を懸命に動かすと、滝本は優しく俺の頭を撫でてくれた。
先程見せていたものとは全く違う、温かい眼差しに胸が熱くなる。
何だろう、この気持ち。
本来なら嫌悪感を覚えて、吐いたって可笑しくないようなことをさせられているはずなのに…嫌じゃない。
それどころか、滝本をもっと気持ち良くさせてあげたいって思ってさえいる。
変なの…。
「ふっ…んぅ!?」
不意に下半身に違和感を覚えて、俺は思わず口から滝本を出してしまった。
視線を下ろすと、滝本の素足が俺自身を柔らかく踏んでいた。
「やんっ、ちょ…滝本ぉ…!」
「どーせなら、一緒に気持ち良くなろうぜ」
「ぁっ…ん」
やわやわと踏まれて、再び俺自身が勃ち上がり始める。
足で踏まれることがこんなに気持ち良いだなんて、思わなかった…。
「ふぁっ…あ…」
「ほら、口がお留守になってるぜ」
「ふ…」
快感に震える舌を滝本自身に伸ばす。
そのまま何とか咥え込むと、きゅっと足の指で先端を押された。
強く擦られて、太ももがビクビクと痙攣する。
「んぅっ、ふ…ひぁっ!」
「おいおい、もうイキそうなのか? 俺も一緒にイカせてくれよな」
滝本はそう言うと、ぐっと咽喉に性器を突き入れてきた。
そのまま腰を前後にピストンされ、口内が熱いもので擦られる。
ドクンッと、大きく滝本自身が脈打ったのが分かった。
それと同時に俺自身を踏む滝本の足の力が強くなった。
「くっ…出す、ぞ…!」
「んぅっ、ん…ふぁあっ!」
熱い飛沫が口内に溢れるのを感じながら、俺も自身を解放した。
「はぁっ…ぅん…」
滝本を口から出すと、一緒に白濁が唇から零れた。
口元を手で拭いながら見上げると、滝本は驚いたように目を丸くしていた。
「お前…飲んだのか?」
「あ…飲んじゃったけど。…駄目だった?」
「いや、全然。よく飲めたな」
「ん、平気だったよ。滝本のだって思ったら…そんなに抵抗なかった」
「そっか。よしよし、月末の給料日、楽しみにしてろよ」
滝本は俺の頭を撫でながら嬉しそうに笑った。
よしよし、だなんて言われながら頭を撫でられて、嬉しい気持ちになるだなんて思わなかったな…。
心地よさに、俺は瞼を閉じた。