15. 不協和音のような僕ら
好きだと意識してしまうと、どうにも上手く話せなくなってしまうようでして。
「委員長」
「ひいぃいっ!!?」
「な、何だよ…?」
深町の一挙一動に過剰反応してしまうのでした。
どうしよう、困った。
まともに顔を見ることさえ出来ない。
深町は怪訝そうに俺のことを見ているし、何か良い切り返し方はないものだろうか。
「……きょっ、今日の夕飯は塩鮭にするつもりだから!」
「それは大いに結構。塩鮭、好きだし。でも声が裏返ってるぞ」
「うぐっ!」
相変わらず手痛いところを突いてくる深町に、俺は机に突っ伏した。
……駄目だ。
何も話すことが思いつかない。
今までと同じように接すればいいと分かっていても、どうしても、それが出来ない。
「なぁ、委員長。今週文化祭があるだろ?」
「あっ…ああ、そういえば」
「そういえばって…。あのさ、よければ一緒に」
「まわれないぞ」
俺が答えるよりも前に…というか、深町が言い終わるのですら前に、岡崎が答えてしまった。
いつの間にか傍に来ていたらしい。
腕を組んだ姿勢の岡崎は、敵意剥き出しという感じで深町のことを睨みつけていた。
彼は一体、深町に対して何をそんなに怒っているのだろう。
思い当たることといえば、岡崎の前で、俺が深町関係のことで泣いたことだ。
昔からそうだけれど、岡崎は俺を傷つけるような存在を絶対に許さないから。
だからこのことで岡崎が怒ったと考えるのはすごく自然だ。
けれどこれに関しては、全部俺の勘違いだったと説明してあるから、彼が深町を快く思わない理由にはならないはずだった。
「岡崎、あの…」
「いきなりやってきて、何なんだ。自分が委員長と見てまわるとでも?」
直接疑問の答えを岡崎から聞き出そうとすると、深町が苛立たしそうに声を上げた。
この二人、最近仲がどんどん悪くなっていっているような気がする。
「忘れたのか? この学校の文化祭は、ペアを無理やり作らされてまわることになるんだぞ」
「あ…そう、いえば。深町、岡崎の言う通りだ」
この高校の文化祭は、少しだけ特殊だ。
本来なら、友人など親しい間柄と文化祭は楽しむものだ。
ところが、この高校ではくじ引きで無理やりペアを作らされ、その人物と見てまわらなければならないという、わけのわからない校則がある。
何でも、恋人同士での不健全な行為の防止だとか。
アホかと言いたくなる。
いくら文化祭でテンションが上がっているとはいえ、誰も学校でそんなことしないっつーの。
…と小馬鹿にしたい話なのだが、実際に過去にあったらしい。
そんなわけで、教師はこぞって文化祭ではカップルに目を光らせているのだ。
こんな校則が出来てしまうのも、無理はないのかもしれない。
「まぁ、そんなわけだから。よっぽど運が良くなければ、深町が委員長とペアになれることはないな」
「………わざわざ教えてくれて、ありがとーございました」
棒読みでお礼を言うと、深町は俺たちに背を向けて歩き出した。
離れていく彼の後姿を見ながら、寂しさを覚える。
せめて休み時間が終わるまで、一緒に話していたかった。
「……油断も隙もないな、深町は。委員長も、また前にみたいにあいつに流されたりするなよ」
「うっ!」
流されたり、というのはきっと抱き合ったことなのだろう。
岡崎はそのことを気にしているのか。
確かに若気の至りでした、で済ますべきものじゃない。
「今後は、そういうことないよう気をつけるんで」
「当たり前だ。深町には注意するように。…何かあってからじゃ、遅いんだから」
「はい」
俺が素直に頷くと、岡崎は口元を綻ばせた。
「しっかし、文化祭のペア、誰になることやら…」
「正直嫌だよな、この校則。全然話したことがないような人と一緒に文化祭なんて楽しめないっつーの」
「ああ。でも男女だとかクラスだとか、全く関係のないクジだからなぁ…。そうなる確立の方が高いぞ」
岡崎の言葉に顔を顰める。
見ず知らずの人と仲良くなれるいい機会、だなんて前向きな考え方は出来ない。
やっぱり俺は……好きな人と楽しい時間を共有したいって思うから。
「去年は岡崎とまわれたから、すごく気が楽だったんだけど」
「だな。今年も委員長とまわれたらいいのに」
「そうだな」
頷きつつも、俺が一緒にまわりたいと願ってしまうのは岡崎ではないわけで。
少し、申し訳ない気分になる。
けれどどうしても、俺は深町と過ごしたいんだ。
「…委員長さ、もしかして」
「ん? 何?」
「……やっぱ、いいや。何でもない」
岡崎は苦笑いをすると、自分の席へと戻っていった。
一体何が言いたかったんだろう…?