18. 不協和音のような僕ら


学校に行きたくない。
そう思うのは必然的なことなわけで、俺が学生寮に引きこもってから早くも三日が過ぎていた。
布団を被って丸まっていると、インターホンが連打された。

「委員長! いい加減、学校に行かないとっ。出て来い!!」
「絶対行きたくないっ!」

登校拒否をして以来、毎朝必ず聞こえてくるようになった岡崎の声を遮断するべく、両耳を手で塞ぐ。
学校になんて行けるはずがなかった。
だって行ったら、出会うことになる。
どんな顔をして深町に会えっていうんだ。
こうして彼のことを考えるだけでも、涙が出そうになるというのに。

「……はぁ。っとに困った奴等だな。委員長といい、深町といい……!」
「深町に何かあったのか!?」

勢いよく玄関のドアを開けると、ゴンッと鈍い音が鳴った。
どうやら岡崎の額にヒットさせてしまったらしい。

「ご、ごめ……なさぃぃ……」
「―――まぁ、出てきたから許す。てか深町の名前を出した途端に、これか。今までの俺の努力は一体…?」
「そんなことより、深町がどうしたんだよ!?」
「……あのなぁ。とりあえず、手を離せ」
「あ、ゴメン」

いつの間にやら引っ掴んでいたらしい、岡崎の襟首から手を離す。
岡崎は盛大にため息をつくと、俺に微笑みかけた。

「久しぶり。顔を見合わせるのは文化祭の日以来だな」
「……俺、あのとき」
「もういい。俺も、大人げなかった。分かっちゃいたんだがなぁ……。お前が深町を好きなことくらい」

淡々と、けれど確信を得ているように述べられた言葉に、目を見広げる。
もしかしなくても、岡崎には俺の気持ちが完璧に見抜かれている……?

「……お、俺は」
「好きじゃない、とは言わせないからな。あのときみたいに嘘ついてみろ。それこそ酷い目に遭わせてやるからな」

やけに目つきが鋭く、険しい岡崎に、恐怖心を抱く。
こうして様子を見に来てくれてはいるものの、彼はやはり、俺が嘘ついたことをまだ怒っているのだろう。
罪悪感に苛まされていると、岡崎にくしゃくしゃと頭を撫でられてしまった。

「そんな仔犬みたいな目で見るな。飼いたくなるだろ。いいか、委員長? 俺がもう気にしてないって言ってるんだから、お前も気にするな」
「………ありがと」
「ん、俺も……その、ありがとう。俺のしたこと許してくれて。つーことで! これで全部チャラだ。いいなっ」
「了解でありますっ、岡崎隊長!」
「ははっ、何の隊長だよ」

岡崎は一頻り笑った後、ふっと真面目な顔つきをした。

「それで、深町のことだけど。ヤツもここしばらく学校に来てないんだよな。多分、お前と同じ理由でだろうけど」
「……深町も、なんだ」

やっぱり、俺と会いたくないんだ。
当たり前か。
ひどいこと言っちゃったもんな。
……全部、心にもないことばかり。

「委員長には俺がいるから、こうして出てこれるわけだけど。でも深町はそうじゃない。いや、モテるからちょくちょくクラスの女子とかが会いに行ってはいるんだけど…でも一向に出てこないんだよな。やっぱほら。そいつらには心を許してないから。……俺の言いたいこと、分かる?」
「深町が出てくるのが不可能に近いことが分かった」
「いや、全然分かってないし……! それを可能にするのが委員長なんだろうがっ」
「俺…?」

だってそれは無理な話だろう。
俺が傷つけて、俺に会いたくなくて、学校に来てないんだから。
それなのに、どうやって俺が可能にするんだ。

「……あのな、委員長。人間ってのは不思議なもんでなぁ。こういうときは、一番会いたくないはずの人物に、一番会いたいものなんだ」
「わけが分からない」
「委員長だってさっき、深町の名前を聞いた途端に出てきたじゃないか」
「それは心配だったから…!」
「深町も、そうだろ」
「え?」
「深町だって、お前のこと…気にかけてるはずだぞ? きっと待ってる。お前が自分から、自分のもとに来てくれるのを」

そういうものなんだろうか。
もしもその通りで、深町が俺に会いたがってくれているのだとすれば、それは……。
っていうか、岡崎はどこか渋い顔をしているが、大丈夫なんだろうか。

「なんで俺、こんなこと言ってんだ……?」
「岡崎……?」
「いや、気にしないでくれ。軽く自己嫌悪に陥ってるだけだから。いや、深くかも」
「それは大丈夫でない気が」
「平気、平気。それよりさ、行ってやれよ。で、気持ちを素直にぶつけてやれ。あいつがどう思うか、とかじゃなくってさ。委員長が一番伝えたいことを、思い切り言ってやれ」

岡崎は俺の後押しをするように、背中を軽く叩いた。
俺の一番伝えたいこと、か……。
そんなこと、考えるまでもなく決まっている。

「分かった。……俺、行ってくるな」
「これからはちゃんと、学校来るようにしろよー。一人で登校して来たら殴るかもしれないから、そのときは宜しく!」
「全然宜しく出来ないぞ、それは!!」

岡崎に苦い笑みを返しながら、深町の家へと向かう。
きちんとあのときのことを謝って、彼に伝えよう。


――――何よりも強くて大きい、『好き』という感情を。




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