3. 不協和音のような僕ら


思っていたほど深町は悪いヤツじゃないのかな、とか思いながら学校に登校し、授業が始まって、頭を抱えることになる。
最近はそんなことの繰り返しだった。

「起きろーっ」

小声で呟きながら、念力を送るが如く眠っている深町を睨みつける。
そんなことで起きるわけがなく、彼は昏々と眠り続けている。
あぁ、教師の目線が怖い。
ほらっ、起きろ!
起きないと怒られるぞー!!

「深町。お前、いい加減にしないかッ」

………あーあ、怒られた。
教卓を苛立たしそうに教師は拳で叩くと、深町へと近づいていった。

「おい! 聞いているのか!? 授業を受ける気がないのなら、出て行け!!」
「………はぁ」

深町は気だるそうに起き上がると、教室の入り口へと歩いていく。
おいおい、本当に出て行くつもりか?
教師は舌打ちをして、授業を再開する。
誰にも止められることがなかった深町は、そのまま教室から姿を消してしまった。

「………っ」

駄目だ。
気になる。

「先生! 腹がそこはかとなく痛い気がするので、多分保健室に行ってきます!!」
「分かった。…ん?」

俺の言ったことに怪訝そうに眉を寄せた教師から、逃げるように教室を飛び出す。
いくら腹が立ったからって、寝てたくらいで追い出すことないだろ。
他の学校じゃ授業中に眠る奴なんて、腐るほどいるだろうに…。






サボリ場所の定番かと思われる屋上に行くと、そこにはやっぱり深町がいた。
案外単純な思考回廊をしているようだ。
深町はフェンスに寄りかかって、空を見上げていた。
そんな彼の隣に行くと、「馬鹿?」と呟かれてしまった。
うん、そんなことは言われるまでもなく分かっている。

「何でわざわざ追いかけて来たんだ?」
「さぁー。どうしてだろう。あのとき深町が弁当を届けに来てくれたからじゃないか?」
「何だ、それ」
「何だろうな。自分でもよく分からない。でも多分、あのときのことがなかったら、俺はここに来てない。それだけは確か」
「…そう。まぁ、どうでもいいけど」

深町はフェンスに身体を預けたままズルズルと座りこむと、俯いてしまった。
ただでさえほとんど見えていなかった顔が、俯いたことによって余計に見えなくなる。

「…あのさぁ。前から思ってたけど、髪切れば?」
「面倒だ」
「はぃ?」
「面倒なんだよ、切るのが」
「…もしや深町さん? そんな理由で伸ばしっぱなしなんですか?」
「それ以外にどんな理由があるって言うんだ?」

…それは確かにそうだけれど。
でももうちょっとこう、人に顔を見せられないような特別な理由とかがあったりする方が神秘的じゃないか。

「つか、目が痛くならないか?」
「ここまで長いと、毛先は目に入らないからな。特に痛みはない」
「ふーん。見えてんの、それで?」
「見えてる」
「でもどう考えたって見にくいよな?」
「世の中には直視しない方が良いものがたくさんあるんだ。例えば…そう、お前の顔とか」

唖然とするしかない。
それって直視出来ないほどに、俺の顔が醜いってことか!?

「こっ…これでも結構、綺麗な顔してるって褒められるんだからな!!」
「そんなの分かるよ。顔見れば」
「は?」
「誰も汚いから直視出来ない、とは言ってないだろ?」
「うん? まぁ、確かにな。あれ? じゃあどういう意味だ?」

言葉の真意を捉えようと頭を悩ませていると、解答を得る前に、深町がもたれ掛かってきた。

「ふ、深町?」
「…眠い」
「こらっ。人にもたれ掛かりながら眠るんじゃありませんっ!」
「いつもながら、本当に口煩い奴だな。そうやって怒ってばかりだと、しまいには鬼神って呼ぶぞ」
「呼ぶなよ!」
「良かったな。クラス委員長の代わりとなる新しい肩書きが出来たぞ」
「そんな勇ましい肩書きいらねぇよ!!」

すっかり睡眠体勢に入っている深町の足を叩く。
けれど彼は本当に眠たいようで、何も反応をしてくれなかった。

「…遅くまでバイトなんてしてるから悪いんだ」
「………そうだな」
「家族が心配とかしないのか?」
「………静かにしろってば。頭に響く」
「二日酔いの人間みたいなこと言ってんなよ」

俺は肩を深町に貸したまま、瞼を閉じた。
冬の到来を感じさせる、肌寒い風が吹く。
けれど深町と触れ合っている部分から熱が広がって、あまり、寒いとは思わなかった。




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