4. 不協和音のような僕ら


「金がない!」
「…ご愁傷様」

必死な顔で幼馴染に訴えたところ、さらりと流されてしまった。
死活問題だっていうのに、そんなに簡単に受け止めないで頂きたい。

「頼む、岡崎! 昼飯代を、昼飯代をぉおっ」
「友人に金をせびるのはどうかと思うぞ」
「それは分かってる…けど!!」

まさか道を歩いていて偶々ぶつかった人に、財布をスられるだなんて思わないじゃないかああっ!!

「…っとに、馬鹿だよなぁ。何ていうか、恐ろしいほどに不運だ委員長」
「自覚しております。そんな不運で可哀想な私めに、ぜひ!」
「ん〜。じゃ、俺の分も購買に行って買ってきてくれ」
「そんなんで良ければいくらでもするっ。行ってくるな!」
「財布、盗まれるなよー?」
「平気平気!」

渡された岡崎の財布をしっかりと手に握って、購買へと向かう。
来るのがいつもより遅いせいか、既にそこには人だかりが出来ていた。
この賑わいっぷりはいつ来てもビビるな。

「え〜と…。来たはいいけど、岡崎は一体何が食べたいんだ?」

何も訊かずに来たことは失敗だったか。
ま、適当に選べばいいか。
それほど購買で売ってるものに当たり外れはないだろうし。

「これくださ…」

やっとこさ前列に来れた俺は、残り一つしかないサンドイッチを指差した…のだが、横から手が伸びて奪われてしまった。

「これください」
「ちょ…っ」

思わず文句を言おうとして右隣を見ると、立っていたのは深町だった。
もちろん手にはサンドイッチ。

「俺が先に…!」
「何のことだ? おばさん、これいくら?」
「100円だよ」
「100円ね…はい」

金を渡して商品を受け取る深町を思い切り睨み付ける。

「…そんなに食べたいのかよ」
「食べたいさ! カツサンドは大好物なんだ!!」
「…なら、一緒に食べるか?」
「へ?」
「半分個。それで良ければ、分けてやるよ」
「本当か!? やったっ。どこで食べる?」

嬉しさに飛び上がりそうになりながら訊くと、深町は微笑した。
呆れているようにも取れる笑みだけれど、それは温かいものだった。

「中庭でどうだ?」
「オッケー。んじゃ、先に行っててくれ」
「…ああ」

深町が去っていく様子から目を商品へと戻す。
話している間に売れてしまったらしく、残っているのはフライドポテトとヨーグルト程度だ。
人気度の高いこの二つが売れ残ってるだなんて、珍しいな。
俺は二つを買うと、中庭へと駆けていった。






払ってる費用が高いだけあって、この高校は設備が整っている。
何より、綺麗だった。
校舎は新築同然の美しさを保っているし、中庭なんてその最たるものだ。
全体的に目に優しい緑色。
切り揃えられた草花には、可愛らしく動物を形どっているものさえある。
欠点は、どこもかしこも人工的すぎるところか。
あと、高校の中庭向きじゃないこと。
これじゃどちらかというと富豪の庭園だ。

「委員長ー」

花壇の側に配置されているベンチに座っている深町を発見。
隣に腰を下ろして、目的のもの…もといカツサンドを見る。
深町の膝の上に乗せられているそれは、まだ手がつけられていない。

「早くっ、早く食べよう!」
「…なんか、犬みたいだな。いい意味で。尻尾とか付いてそう」
「失礼な!」
「いい意味でって言ってるだろ」

深町はムッとしたように言うと、カツサンドを包んでいるビニールを取り始めた。

「…深町ってさ。友達いないよな」
「………急に何だ」
「いや、何となく」
「何となくで人を傷つけるようなことを言うな」
「傷ついたのか!」
「いや、あまりにもサラリと言われすぎて傷つく暇もなかったけど。でもそうやって言われると、やっぱり少しだけ傷ついているような気がしなくもない」
「曖昧だなぁ」
「何だ。涙ぐんだ方が良かったのか?」
「そういうわけじゃないんだけど…」

じっと深町の顔を見つめる。
と言ってもやっぱり、口元しか見えないわけで。

「…その髪型がなぁ。みんなに避けられる要因というか。もちろんそれだけじゃないけども」
「別に俺は避けられても構わない。どうせ、学校なんて来ても寝てるだけだし」
「どうなんだ、それは…」
「それに必要としない。友達だなんて、そんなくだらないもの」
「うわ、すごい発言」
「他人と話すことって、基本的に面倒だから嫌なんだよな」

そういえば、岡崎が言っていたっけか。
深町は自分とはすごく面倒臭そうに話すって。
でも俺とはそうじゃないとも言っていたな。
それってどういう…。

「そんなわけだから、話しかけるな」
「こんにゃろう…!」

俺と話すのも、やっぱり面倒なんじゃないか!
俺がそっぽを向くと、深町はカツサンドを差し出してきた。
それはいい。
それはいいんだけど…。

「何でこんなに小さいんだー!?」

渡されたカツサンドは、本来の大きさの1/4サイズだ。
そして深町が持っているカツサンドは、俺よりも4倍大きい。

「当然だろ。俺が買ったものなんだから」
「半分個言うたやないかぁーっ!!」
「食べ物をきっちり半分にするのは相当な技術が必要だぞ」
「そりゃそうだけども! でもそれにしたってこれはないだろっ!?」

少しだけ大きさに違いが出るのは仕方がないと思う。
もしそうなったのなら、俺だって小さいほうを貰うさ。
けれどこうもあからさまに違うと、さすがに素直に受け入れられない。

「俺、カツサンド好きなんだっ。大が付くくらい!」
「そうか。俺は人並程度に好きだ」
「それこそ俺に大きいほうをくれよ!」
「断る」
「どうして!?」
「お前のそういう泣きそうな困った顔が見たいから」
「この性格破綻者がぁっ! S! サド! 変態!!」
「…Sもサドも同じ意味だろうが。罵るにしても、もう少しボキャブラリーをだなぁ」
「うっさいハゲ!」
「誰がハゲだ! どう考えても一般的な男子よりも髪はあるだろ!」
「前髪だけな!!」

俺は持っているカツサンドを思い切り深町の口に押し付けてやった。

「いいよ、もう! ほらっ、好きなだけ食えよッ。俺もういらないからっ」
「…あのな」
「何でそんな呆れた風に見てくるんだよ! 悪いのはお前だろっ」
「……ちょっとからかってやろうと思ってやっただけだよ。全く、これだから委員長は頭が固くって困る」

深町は深く息を吐くと、俺にサンドイッチを渡してきた。

「何だよ?」
「食べろよ。俺の分はいらないから」
「え? い、いいのか…?」
「ああ。その代わり、お前が買ってきたポテトをくれ」
「はーいっ」

微笑みながらポテトをあげると、深町が急に笑いだした。

「な、何だよ…?」
「いや。現金なやつだと思ってさ」
「お前はムカツクやつだな」
「わかってるよ、そんなこと」

嫌味なやつだ。
でもたまには、こうやって一緒にご飯を食べるのはありかもしれない。
そんなことを思いながら、俺はしばらくの間、深町との談笑を楽しんだ。
と言っても、終始馬鹿にされてばかりだったけれど。


++++++



「―――…で。俺の分を買い忘れたと」
「ごめんなさい」



その後、待ち惚けを食らわせてしまった岡崎相手にどけ座をするはめになったのは、言うまでもない。




    TOP  BACK  NEXT


PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル