8. 不協和音のような僕ら
発見してしまったのは、もう何度か深町の家で夕飯を作ったことがあるときだった。
俺はプルプルと身体を震わせながら、とある雑誌を握り締めていた。
どうして、どうしてこんなものが深町の家に…!?
「あ、委員長。今日も来てくれたんだ」
リビングに顔を出した深町は、俺の様子が可笑しいことに気がついたらしい。
心配そうに駆け寄って来た。
「大丈夫か、委員長。吐きそうなのか?」
「…ふか、ふかっ、ふ…」
「委員長?」
「深町ぃいいいッ!!」
俺は深町の胸倉を掴みあげると、彼の目の前に見つけてしまった雑誌…もといエロ本を突きつけた。
どう考えても18歳未満が購入するべきではない雑誌を目の前に出された深町は、意表を突かれたように身体を仰け反らせた。
驚きたいのはむしろこっちだ。
「どうしてこんなものがこの家にあるんだ!?」
「俺が買ったから、かな」
「よくもそんなことが言えたもんだな!!」
これを深町に売った店員もさることながら、堂々と購入宣言をするコイツも許せない。
こういうのは未成年のうちに見るべきものではないはずだっ。
「…エロ本持ってるのは、男として当然だろ?」
「どこがだ!? こんなもん見てるんじゃないっ。即刻捨てろ!」
「はぁ? ざけんな、これ結構高いんだからな」
「あのなぁっ。学生のときからこんなもの見ててどうするんだよ!!」
「どうって…抜くんだろ?」
「そんな具体的なことを聞いてるんじゃなくって!」
手を上下に動かしながらの説明に、頭が痛くなる。
こいつ、デリカシーがないのか。
深町の人間性を疑っていると、彼はあろうことか目の前で読み始めたではないかっ。
「ちょーっと待て! ここで見るなっ」
「じゃあ部屋に行く」
「それも駄目っ。不健全だぞ!」
「むしろ健全だって。思春期だぞ? 男だぞ? こういうのに興味ない方が可笑しいだろ」
「たとえ興味があっても見ないの!」
取り上げると、深町は不満げに舌打ちをした。
「…っとに、頭固いんだから。委員長はもう少し柔軟な思考を持った方がいいぞー。何なら、一緒に見るか?」
「…へ?」
「お前だって男なんだ。興味、あるんだろ?」
ニヤリと厭らしい笑みを口元に浮かべると、深町は俺の腕を引っ張った。
「ちょ…どこ行くんだよ!?」
「俺の部屋。委員長も見てみれば、これの好さが分かるって」
「分かりたくない!」
「そう言うなってば。何事も経験が大事なんだから」
「それは…っ」
ろくに言い返す言葉が見つからず、俺は腕を引かれるがままに、深町の部屋へと入った。
ベッドに腰を下ろすと、深町はエロ本を開いて見せた。
瞬間的に目に入った肌色に、思わず目を逸らす。
「おいおい。それじゃ意味ないだろ。ちゃんと見ろって」
「だって…」
これって、俺たちの年齢で買っていいものじゃないだろ?
こうやって二人で見ていると、物凄く、イケナイコトをしている気分になる。
罪悪感と微かな興奮にハラハラしながら目を瞑っていると、深町が頬を引っ張ってきた。
「いてぇ!」
「いつまでそうしてんだよ。いいから、ほらっ」
渡されたエロ本に、そっと視線をおろす。
そうして目に入る初めての光景に、俺はあんぐりと口をあけてしまった。
「うわっ、うわわっ。何これ、すごっ!」
「だろー。無修正だぞ。でも俺はモザイクかかってる方がいやらしくて好きなんだけどな」
「そうなの?」
「ああ。やっぱ、ソソるだろ? 見えそうで見えないっていうのはさ。想像が掻き立てられるというか…」
「なるほど…」
エロ本の奥深さにしみじみと頷く。
っていうか、みんな凄く気持ちよさそうだよな…。
今まで考えたこともなかったけど、やっぱりエッチって気持ちいいのだろうか。
って、ヤバイヤバイ!
変なこと考えてたら身体が変なことになってきてるぞ!?
下半身を隠すように脚を閉じると、深町はそれで勘付いたらしい。
ニヤッと笑みを浮かべたのが見えた。
「いっ、いやっ! これは別に! そんなっ、見てて興奮したとかじゃなくって!! 決してシてみたいとか思ったわけでも…」
「ほぉー。そんなこと思ってたのか。結構いやらしいんだな、委員長」
「うわあああっ!」
物凄い墓穴を掘ったことに気づく。
頭を抱えてベッドでのた打ち回っていると、深町が腰を上げた。
「ふかま…へ?」
深町は俺の腰に腕をまわすと、自分の方へと引き寄せたではないかっ。
「え、え!? なんだよ?」
「せっかくだし、シてみるか」
「な、なな…何を!?」
「お前が考えていたようなコト」
「はぁああ!?」
深町のことを凝視する。
馬鹿じゃないのか、コイツは。
「男同士で出来るわけないだろ!」
「いや、これが出来るんだな」
「どうやって!? だって挿れるところが…」
「ないのなら、あるトコ使っちゃえばいいだろ?」
「………っ」
言葉を失う。
男が持っている、穴…?
もしかしなくってもそれって…あ、アソコですか!?
「むっ、無理だ!」
「無理じゃない」
「断固拒否する!」
「委員長なんかに拒否権はありません」
「拒絶する!」
「気にしない」
「頼むから気にしてよ! あぁっ、もう!! とにかく駄目ったら駄目! そんな風紀を乱すようなことは出来ません!」
「風紀を乱すクラス委員長…いいじゃないか。何だか背徳的で」
「背徳的すぎて駄目だっ! ってコラ、なんか当たってる!! 当たってるから!!」
脚に当たる深町のもの。
なに勃たたせてるんだコイツ!
俺も人のこと言えないけどさっ。
「何事も経験が大事なんだってば。そう言ったばっかりだろ?」
「とりあえず俺はそんなショッキングな経験したくない!」
「初めてのことは大抵人間はショッキングなんだよ」
「それは…」
「だから、ヤってみるぞ!」
「ひいいっ」
深町は俺のことをベッドに押し倒してきた。
それからおもむろに俺自身を掴むと、揉んできやがった。
「ふわ!? こらぁーっ!!」
「お、可愛い声出すじゃないか」
悠長に感想なんて述べてくれやがっている深町の顔に脚蹴りを食らわす。
すると腹が立ったのか、より強く揉んできた…どころか、ズボンを脱がしにかかったではないか。
「待て! 早まるなっ」
「早まってなんてない。ヤるために脱ぐ。それは普通だ。…それとも、そういうプレイがお好みで?」
「んなわけあるかっ」
「なら、続行させてもらう」
深町は俺が抵抗する間もない程に素早くズボンを脱がせると、下着を引きずり下ろした。
ひんやりとしている外気に触れた下半身は、けれど熱く勃ったままだ。
困ったことに。
「みっ、みみみみ…見るなぁ!」
「見せてんだろ、委員長が」
「お前が見てんだよ! 誰が好き好んでこんなとこ他人に晒すかッ」
「露出狂とかじゃないか?」
「少なくとも俺は違うぞっ」
「じゃあ何で、反応してんの? さっきよりあからさまに大きくなってるんだけど」
「…っ」
見られて興奮しました、だなんて。
口が裂けても言えるわけがありません。
「ふ〜ん、だんまりか。まぁいいさ、それでも」
深町はそう言うと、再び手を動かしだした。
蠢く指はさすがは同性なだけあって分かっていらっしゃるのか、感じるところをピンポイントで突いてくる。
「結構、上手いだろ?」
「知るかっ。てか、やめろよ! いやもうマジで!! これ切実っ」
「却下だ」
「たまには俺の意見を受け入れてあげてよ!」
深町は俺がギャーギャー喚くのを気にもせず、指を動かす。
次第に張り詰めていく俺自身。
これは…この感覚は、ヤバイ。
「深町、もっ…駄目!! 漏れるッ!!」
「………はぁ?」
泣きそうになりながら叫ぶと、深町は怪訝そうに首を傾げた。
「普通さ、こういうときは『イクッ!』って言わないかぁ?」
「い、イク…?」
聞きなれぬ言葉に、今度は俺が首を傾げた。
互いに首を傾げあった状態のまま、数秒間見つめあう。
「………もしかして。意味、分からなかったりするのか?」
「…もしかしなくても、ですが何か」
「………そうか。そうだよな。委員長、そのテの会話とか一切しなさそうだもんな。自分で調べることもないだろうしな。知らなくても、当然か」
神妙な顔つきで深町は言うと、俺自身を握りこんだ。
「ひっ。ちょ、な…!?」
「いいか、委員長? イクってのは絶頂を…まぁ、分かりやすい話、射精することだ」
「しゃっ…せい。じゃあ、この感覚は尿意を催しているからじゃないのか!!」
「ん、そういうことになるな。出るところが同じだからそう感じるのも無理はないとは思うが…もしかしなくっても、一度も出したことないのか」
「うっ…」
言葉に詰まった俺を見て、深町は苦笑した。
「それじゃあ、これからするコトは、全くこのテの経験がないお前にとってはキツイかもな」
お?
もしかして、やめてくれる…?
――だなんて少しでも期待した数分前の自分を殴りにいきたい。
「ぎゃぁーっ、やめっ、ちょ、おま…深町!」
深町は俺の脚を思い切り開かせると、そこに顔を埋めたのだ。
まさかそんなところを舐められる日が来るだなんて思わなかった俺は、それはもうパニックに陥っていた。
っていうか、これで平常心を保っていられる方が可笑しい。
「まっ、ほんと…うわわっ、舌が!? だぁーっ、絡めるな…て、オイィ! 吸うなコラ!! やっ、汚ね…っあ」
「うるさいッ!! さっきから黙って弄ってりゃあ、ギャーギャーワーワーと!」
「黙って弄るから悪いんだろっ」
「…言葉で攻めてほしかったのか?」
「ちげぇよ!? どうしたらそういう意味になるんだっ」
「言葉のままに受け取っただけなんだが」
「だいぶお前なりの解釈が入ってると思うのは気のせいでしょうか!? つか、もういいからっ。もう十分です!」
「まだイッてすらないくせに、よくそんなことが言えるな」
深町はムッとしたように言うと、何とまぁ、未知の領域に指を触れて下さったじゃありませんか。
「チョワァーッ!?」
「どんな悲鳴だ! もう少し色気のあるだなぁ…っ」
「仕方ないだろっ。『ちょっと待て、うわーっ!?』が混ざったんだよっ」
「それで『チョワァーッ!?』なのか! なんとも不愉快な略し方をしてくれたなっ」
「そう思うのならこんな奇怪な悲鳴を上げさせるようなことをしないでくれっ」
そんな俺の願いを見事にスルーしてくれた深町は、指を中に入れてきた。
違和感や痛みや排泄感だとか、いろいろあるはずだけれど。
それ以上に、指を入れられたという衝撃の方が大きすぎた。
茫然自失となってしまった俺の中に、どんどん指を埋め込んでいく深町。
三本目の指が挿入され始めてやっと、俺のどこかへぶっ飛んでいた意識が戻ってきた。
「いっ、やだぁー!! 抜けぇえっ!!」
「今頃抵抗!? もう三本目なのにっ」
「うぁあっ、嫌…嫌過ぎる!! 何が悲しくてそんなとこに指を突っ込まれなきゃならんのだあああっ」
「……っとに、うるさいなお前は! もう少し静かに出来ないのかっ。あんま騒がしいと口塞ぐぞっ」
「どうやってだよ!?」
「こうやって、だよ」
深町は顔を近づけると、唇を押し当ててきた。
無論、俺の唇にだ。
「―――…!?」
硬直する俺。
深町とキス…して…っていうか。
さっきこいつ、俺のものを咥えてなかったっけ……?
「きっ、気持ち悪ぃいいいっ!!」
「んな!? おまっ…失敬なやつだなっ。まだ触れ合わせてしかいないのに、そこまで拒絶しなくたって…」
「だっ、おま…っ。てか触れ合わせるだけって…!?」
「…そうか。Dキスも知らないのか。お子ちゃまだなぁ」
「お前がマセてるんだよ!」
「違う、これが普通なの」
ため息をついて、深町が再び顔を近づけてくる。
「もしかしなくってもキスをするおつもりでしょうかー!?」
「するおつもりですー」
「ひぃ!? このっ、やめ…」
瞬間的に脳裏を過ぎった罵声を浴びさせる間もなく、唇を塞がれてしまう。
吸い上げるようなキス…だなんて比喩をしている場合ではない!
本当に吸ってきてるではないか!!
「はっ、ふざけ…んっ」
文句を言おうと口を開いたのがまずかった。
チャンスとばかりに、深町の舌が滑り込んできたのだ。
あまりの出来事にまたまた異世界に意識をトリップしてしまいそうになっている俺の舌を、深町は絡め取った。
わけが分からなくて、でも、身体は確かにこの行為に火照っていく。
逃げ場を求めて舌を動かすのだが、それはキスをより濃厚なものにするための手助けとなってしまっていた。
「ふっ…は……っ」
唇の合わせ目から唾液が零れる。
息苦しい。
そして何より…。
「前髪がチクチク痛いわぁっ!!」
深町の頬にパンチを食らわす。
それが思いのほか痛かったらしく、深町は口元を歪めた。
でも、自業自得だ。
それに俺は先程から、ずっと痒みにも似た痛みを味合わされていたのだ。
あの、深町の長すぎる前髪によって。
「……信じられない。委員長のくせに、暴力を振るうなんて」
「この際、委員長だなんて肩書きは忘れてしまえ! キスするのは勝手だが、その前に髪をどうにかしろ、髪を!!」
「………キスはいいのか?」
「そっ……」
予想外の部分に食いつかれて、閉口する。
いいわけがない。
でも……気持ちよかった。
何も言えないで困っていると、深町は前髪を弄りながら唇を尖らせたた。
「でも確かに、邪魔だよな。今頃になって、委員長に前髪について言われたときに切っておけば良かったって、後悔することになるなんて」
「深町…」
俺の言うことが正しかったと理解してくれたらしい…。
ちょっとだけ感動していると、おもむろに、深町は前髪を掻き上げた。
そうして露になった彼の顔立ちに、俺は目を引ん剥いてしまった。
「ばっ、ばばばば……っ」
「……気でも狂った?」
「馬鹿なあああッ!?」
俺は深町の胸倉を掴むと顔を引き寄せ、至近距離でじっくりと見つめた。
し、信じられない。
顔のパーツのバランス、取れすぎじゃないか…?
「一体、何なんだよ?」
「おっ、俺は認めないぞ! 隠れていた顔が実は整っているだなんてそんなこと、絶対に!!」
そんなフィクションみたいなこと、あってたまるものか!
ワナワナと拳を震わせていると、深町は前髪を手で掻きあげた状態のまま、ため息をついた。
何度も見ているはずの、俺に呆れるその様子。
それなのに、ただ顔が見れているってだけで…あ、辺りが輝いて見えます!
深町から燐光が感じられて、俺は思わず目を閉じた。
これぞまさに直視出来ない顔だ。
「委員長?」
「お前、顔良すぎだ! 良すぎて最悪! この卑怯者!!」
「はぁ? 顔つきだったら生んだ親に文句言ってくれ」
「馬鹿言うな! 親御さんには感謝しなさいっ。そんな綺麗な顔に生んでもらったんだからっ」
「…あのな。委員長のその矛盾した発言はどうなのよ? ……つか、もう我慢の限界」
「へ? が、我慢って…」
首を傾げた俺の目の前で、深町はズボンのチャックを下ろしたではないか。
サァーッと顔から血の気が引いていくのが分かった。
「ふっ…深町!? それは駄目だッ」
「委員長だって丸出しじゃないか」
「俺をこんな格好にさせたのはお前だろうが! とにかくこれ以上は……っ」
深町を制止させようと腕を掴むと、舌打ちと共に振り払われてしまった。
その勢いでベッドに両手を着き、彼を睨んだ俺は、目に入ったブツに固まってしまった。
なんだ、あれは。
ぞ…像?
像なのかアレは!!?
そうツッコミを入れてしまいたくなるほど、深町のものは大きかったのだ。
「結構慣らしたし。入るよな」
入るかァーッ!!
という文句は「ひぃっ」という短い悲鳴へと変わった。
深町が切っ先を押し当ててきたのだ。
「ふか…っ!?」
「大丈夫。入る、入るっ」
「何を根拠にそんな明るく!?」
「俺の勘だ」
「到底信じられるものではないーッ!」
ますます顔を青ざめさせた俺を嫌そうに深町は見ると、腰を前へと進めた。
宛がわれた部分が押し上げられる感触に、身体が強張る。
「……ふぇ…っ」
「そんな情けない声、出すなよ。大丈夫だって言ってるだろ? 俺に任せてくれればいいからさ」
深町は爽やかな笑顔を浮かべて言うと、一気に突き入れてきた。
やっぱり、こいつの勘は当てにならない。
ものすごく、痛い。
痛すぎて死にそうだ。
「うぁああ゛ッ!!」
「うるさいな…っ」
「だって痛い! これは痛い! 実に痛いぃっ!!」
「そういうこと言ってると、あんまり痛くなさそうに見えるぞ」
「見えても痛いよ! ちょ…これ…は…ッ」
引き裂けそうな痛みっていう表現があったりするけど。
まさしくそんな感じなわけで。
っていうか…。
「いったぁー!?」
実際、裂けてしまったわけでして。
後孔に走った激痛に、俺は思い切り深町の腕に爪を立てた。
「いてっ!?」
「こっちのが痛いわ!」
「だからって爪立てんな!!」
「無理やり突っ込んで切れさせといて、それはないだろ! 痔になったらどうするんだ!!」
「薬塗れ」
「痔になってからの治療方法が聞きたいわけじゃっ…なくってぇ…っ!!」
最後の方はもう思いっきり涙声だった。
だってあんまりにも痛くって、泣いちゃったんだもん。
男のくせに、だとかそんな悠長なことは言っていられない。
深町の前で泣くのは屈辱的だが、気にしていられるほど余裕はないのだ。
「……そんなに痛いのか?」
「あたり……まえ…っ」
「そりゃ、悪かったな」
微かに罪悪感を滲ませた声で深町は謝ると、そっと俺の頬を撫でた。
優しい触れ方に、目を細める。
深町は啄ばむような口付けをすると、腰を動かしだした。
「ん…ぁ…っ!」
ピクンッと身体をしならせた挙句に漏れた甘ったるい声に、俺は目を見開いた。
な、なんちゅー声を出してるんだ俺は…!!
「あぁ、やっぱいい声してるな」
「ばっ…!」
羞恥に顔が一気に熱くなる。
どうしてそういう人が恥ずかしくなるようなことを平然と言ってのけるんだ!
わざとか?
わざとなのか!?
「せっかくだし、もっと聞かせて」
「誰がっ…ん、ッ!」
浅く出し入れを繰り返されて、小さく息を呑む。
激痛の中に混じる、確かな快感。
こんなところに突き入れられて良いはずがないと自分に言い聞かすものの、意思とは反して身体が反応し始める。
「ふぁっ、ぅ…!」
「……っは、すげー締め付け! 食い千切られそう…っ」
「そうおも…なら、抜け…よぉっ」
「抜いちゃっていいのか?」
「ぁ……」
入り口ぎりぎりまで引き抜かれてしまい、微かに声が漏れる。
それは明らかに残念そうな声なわけで。
どうして自分がこんな声を上げてしまったのか分からないけれど、深町が満足感を得ているのだろうことは分かった。
「…やっぱり、嫌なんじゃないか。委員長って嘘つきなんだな」
「そ…な、こと…っ」
「何でそうやって意地を張るんだか。自分の身体のことなんだから、自分が一番分かってるハズだろ? どうして欲しいのか、言ってみろよ」
「ッ…ふざけんな!」
睨みつけて怒鳴り返すと、強く突き入れられてしまった。
身体に戦慄が走り、今までで一番大きな喘ぎ声が出る。
「そうそう。どうせ声を上げるなら、そういう色っぽいのがいいよな」
意地悪く笑う深町があまりにもムカツクので、ちょっと肛門に力を入れて、腰を揺さぶってみる。
すると彼に声を上げさせようとしたのに、逆に俺が声を上げるはめとなった。
自分から腰を動かすと、深町の腰の動きと相まって、快感が二倍になってしまうようだった。
く、悔しい…!!
「……ほんと、馬鹿だな。誘うようなマネばっかして」
「誘ってな…いっ…!」
俺は怒りの気持ちを込めて、深町の手に齧り付いた。
一瞬痛みに眉を顰めた深町だったけれど、フッと笑みを浮かべると俺の耳元に口を寄せた。
「素直に抱かれるよりもさ。そうやって抵抗とかしてくれる方が、俺としては楽しいんだよな」
「最低…っ」
「自覚はしてるさ。でも委員長、意地悪されるのが好きなんだろう?」
「そんなわけ!」
「あるさ。そうじゃなきゃ、何でココ…こんなになってるんだ?」
「ひぁっ…」
先程からひくひくと震えながら蜜を流す俺自身を、深町は思い切り握りこんだ。
指で輪を作られ、そのまま上下に擦られて、嫌でも上ずった声が漏れる。
腰を大きく動かされると、身体の奥底から快感が沸き上がった。
「んくっ、あ…ふっ……!」
「声、我慢しなくていい。出しちゃった方が、楽だぞ?」
「やだぁ…!」
「俺は気にしないから。むしろ可愛い声が聞ける方が嬉しいし」
「俺が嫌…なのぉ…っ」
「……困った委員長さんだなぁ」
深町は苦笑しながら呟いて、けれど腰の動きを早めていく。
ただのピストン運動とは違う、時折突き上げるようなそれにガクガクと身体が震える。
頭の中も身体も、全部が熱くって、たまらない。
「やぁっ、あっ…ひぁんっ…!?」
「ココ、突かれるの好きだよな?」
「んぁああっ」
俺の感じる場所を掴んだらしい深町は、そこばかりを重点的に攻めまくる。
悔しいけれど、それはやっぱり気持ちよくって。
認めたくなんてないけれど、中を擦られることに、深町から与えられる快楽に、俺は溺れていた。
「あぁっ、ぁ…ふかっ…ま…」
「んっ…何、委員長…?」
「も…あっ、そこ…気持ち…ひぃ…っ」
「……っ! はっ、いいよ。もっと気持ちよくしてやるからな」
「んぅっ、あ!」
ズンズンとリズムよく腰を打ち付けられて、その度に例えようのない快感が全身を包み込む。
「……委員長。手、俺の背中にまわしなよ」
「はっ…ぁ…んぅっ」
行き場がなくて困っていた手を、深町の背へとまわす。
すると身体が密着して、互いの体温が混ざり合い、上昇していく感覚に囚われる。
深町と繋がっているのだと強く認識させられて、中にある彼のものをよりリアルに感じ取ってしまう。
「ふぁっ…! 深町っ、あぁ…ッ」
「…っ委員長…の中…熱っ…!」
「んぅあっ、あっ…あ…ッ」
与えられる快感が強すぎて、生理的に涙がボロボロと零れた。
「委員長…な、かに…出してもいいか…っ!」
「あっ、い…いい、よ…っ」
「んっ…く…ッ!」
「っ…ふっ…ぁあっ…!!」
ズンッ、と。
深町の楔が最奥に突き入れられ、俺は彼の背に思い切りしがみつきながら、快楽の絶頂を迎えた。
自身から白濁が放たれ、一気に脱力感が押し寄せる。
ベッドに力なく寝転ぶと、大きくなった深町自身から、熱が体内に注がれているのを感じた。
「はぁっ、はぁ…は…ッ」
「はっ、はっ、はっ…」
互いの荒い息が重なり、呼吸の度に上下する胸と胸が触れ合う。
深町と抱きしめあったまま、俺はあまりの息苦しさに眉を寄せた。
酸素が上手く吸えない…っ。
「委員長…平気?」
「はっ、は…あっ…はぁっ」
苦しすぎて、満足に返事をすることも出来ない。
深町は速く浅い呼吸を繰り返す俺にキスをすると、そのまま息を吹き込んできた。
彼の目的が分からずに戸惑うものの、少しずつ呼吸が穏やかになっていく。
「……どう? 落ち着いた?」
「はぁ…うん。もう平気みたいだ…?」
「それはよかった。過呼吸って、キスでも止められるもんなんだな」
「かこきゅう…?」
聞きなれない言葉に首を傾げる。
普段ならどういう意味を持つ言葉なのか理解出来たのかもしれないけれど、達してぼーっとしている頭では無理だった。
深町はそんな俺に笑みを零すと、ゆっくりと、腰を引いた。
少しずつ抜かれていく彼自身に中を擦られ、思わず声を上げてしまう。
すると深町は、自身を引き抜きながら俺のことを咎めるように軽く睨んだ。
「いやらしい声、上げないでくれないか?」
「おまっ…えが、抜くから…!」
「あれ? 挿れっぱなしが良かった?」
「ちがっ…!」
否定しようと思ったのだけれど、俺は深町のことをまともに見ていられなくて目を逸らした。
彼の汗ばんだほどよく引き締まった肉体が、やけに扇情的だったのだ。
この身体に、抱かれた。
そう考えると頬に熱が溜まっていく。
「……そういう可愛い反応も、しないでもらえると有難いな」
深町は優しげに目を細めると、その眼差しに負けないくらいに優しいキスを俺にした。
次第に彼の唇は俺の口から頬へと移り、そのまま首筋へと落ちていく。
「んっ…深町…」
「委員長にこういうこと出来るの、俺だけだよな…」
「なに、馬鹿なこと…言ってんだ…っ」
「馬鹿なこと…か。委員長にとってはそうかもしれないけど。でも俺にとっては、重大なことなんだよ」
深町はゆるく肌を吸い上げながら、少しずつ、頭を下げていく。
彼の唇が胸の突起を挟んだ瞬間、背筋を思い切り反らせてしまった。
中を擦られるような強い快感とは違う、甘い痺れが感じられたのだ。
「委員長…?」
「なっ、んでも…ないから…っ」
「ふぅん…」
深町はチロリと舌を覗かせると、くすぐるようにそこを舐め始めた。
俺の反応を確かめるように、何度も何度も、硬く勃起したそこを刺激する。
「何で、そこ…ばっか…っ」
「嫌なのか?」
「んっ、や…だぁ」
「そっか。委員長は乳首弄られても、気持ちよくないんだ…?」
深町は胸の突起を舌で弄びながら、キュッと俺自身を握り締めた。
唐突な刺激に腰を浮かせると、彼は鈴口を指の腹で擦り始めた。
とろり、と先端から蜜が零れる。
「…さっきイッたばかりなのに、どうしてこんなに硬くなってるんだろうな? 委員長のここは」
「ッ…!」
「蜜もダラダラ流れてるし。感じてないのにこんなになるなんて、締りがないなぁ」
「そっ…な…あっ、あぁ…!」
自身を上下に激しく扱かれて、気が触れそうになる。
深町はそんな俺を満足げに眺めると、空いている手で、口に含んでいない方の乳首に触れた。
「ひゃぅっ!?」
きゅんっと抓られて、微かな痛みとそれ以上の快感が身体を襲う。
「どうかしたのか?」
「んぁっ、やめ…っ」
「止めて欲しいわりには、かなり気持ちよさそうだな。腰を動かしちゃって…」
「あぁっ…!?」
深町は俺自身から指を外すと、充血している後孔に挿入してきた。
ぐちゅりと中を掻き回されると、血液と精液が混ざり合った、桃色の液体が溢れ出た。
それを掻き出すようにしながら深町の指が動く。
縦横無尽に動き回るそれは、けれど必ず俺の感じるところを突いてくる。
「ふっ…あ、んっ…!? やっ…胸、あ…吸っちゃ…ぁああッ!」
強く乳首を吸い上げられて、身体の震えが酷くなる。
今は触れられていないはずの俺自身からは蜜が零れ続けており、それを見られているのだと思うと恥ずかしくて堪らない。
しかし今はその羞恥さえも、快感へと変換されていた。
「ぁんっ、はっ…あっ、あ…っ」
「このまま指でイカせて欲しいか?」
「や…やだっ。指じゃ…嫌だ…ぁっ」
ふるふると首を横に振る。
だってこれだと、俺が一方的に感じさせられて、一人だけイッてしまうことになる。
俺だけ、というのはどうしても避けたかった。
何より、一度あの快感を知ってしまった躯だ。
指だけで与えられる快楽に、満足出来るはずがなかった。
「んぁっ…深町…の、が…いいっ」
「俺の、何がいいんだよ。指か? それとも…?」
とてつもなく恥ずかしいことを言わせようとする深町を、涙を浮かべた瞳で睨む。
けれど彼は微笑み返すだけだった。
言わない限りはこのままなのだろうと覚った俺は、深町の背に手をまわして自分の方へと引き寄せた。
「っ…い、一回しか…言わない、から。だから…よく聞いとけよ…?」
「ああ」
「………やっぱ、ちゃんと聞かなくってもいいから」
「何だよそれ。早く言えってば」
「だ、だからぁ…。ふ、かまちの…」
急かす深町の耳元で、本当に小さな声で呟く。
もう二度と口にしたくないような、恥ずかしい身体の部位の名前を。
「……で、イカせて…?」
あぁ、羞恥に胸が焼かれまくっている。
もう穴があったら入りたい。
………あ、布団。
布団でもいいや。
「ちょーっと待ったぁー」
いそいそと布団に潜り始めた俺を、深町は止めにかかった。
それから俺の顔を覗き込むと、クスッと笑ってくれやがった。
「笑うな…っ」
「ごめんごめん。つか、そんなに恥ずかしいのか?」
「ったりまえ、だろ! 名称を口にするのにも抵抗があるっていうのに、こんなこと頼むなんて…っ」
「そっか。それじゃあ頑張ったご褒美、ちゃんとあげないとな」
「え…? あっ、やぁあんっ!?」
一気に貫かれて、俺自身から精液が吹き零れた。
ご褒美ってコレかよ…! だなんて文句を言えるはずがない。
だって身体が信じられないくらいに、悦んでいたのだから。
深町は挿入されただけで達してしまった俺を見て、満悦そうに微笑んだ。
「少しは、我慢しろって。いくらなんでも挿れただけでコレはないだろ」
「だって…あっ、んぁっ!」
揺さぶられて、深町の身体にしがみつく。
挿入された深町のものはやっぱり大きくって、熱い。
激しい快感を伴いながら、それが中で動き回るんだ。
声を上げるのを耐えられるわけがない。
「あっ、ああ…ふかまちぃっ…んっ…ぁあっ!!」
ゆったりとした、けれど確実に俺を絶頂へと追い上げていく腰使い。
強すぎる快楽の波に呑まれるのが怖くて震えていると、深町は手を握り締めてくれた。
指を絡ませあいながら、互いに腰を動かす。
深町の腹部と擦れている俺自身は、再び絶頂を迎えようとしていた。
「あぁっ、あっ…んぁっ…!!」
「ッ…く…あ…」
「ひぁっ、い…イッちゃ…!!」
「イケよ、委員長…っ」
抜けるんじゃないかと思うほどに引き抜かれた深町自身が、奥に向かって勢いよく埋め込まれる。
その衝撃に身体をしならせた瞬間、目の前が真っ白に染まった。
「…っあああ…!?」
解放感と腹部に放たれた熱い迸りを感じながら、俺は意識を落としていった。