13. 陣side


俺は中学生時代に部活でお世話になっていた先輩と会うために、喫茶店で待ち合わせをしていた。
時間にルーズなところは相変わらずなようで、俺は既にコーヒーを三杯も飲み干している。
四杯目をもらおうか迷っていると、くせっ毛の金髪が目に入った。

「先輩っ」
「お? おーおー、辻村っ」

呼びかけると先輩は人の良い笑みを浮かべて見せた。
片手を振りながら俺のいるテーブルに近づいてくる。

「どうぞ、座ってください」
「ははっ。会うの久しぶりだな〜」

先輩は俺の向かい側の席に座ると、懐かしそうに目を細めた。
それから机から興味深げに身を乗り出してくる。

「お前、全っ然ここら辺で見かけないんだよなー。他の奴はしょっちゅう登校するときに見るんだけど」
「あー…都心部の高校に通ってるんで。電車なんですよ」
「金かかるなぁ。……それで、今日はどんな用件なんだ?」

店員が運んできた水を飲みながら促してくる先輩に、携帯電話を開いて見せる。
画面には柔らかな微笑を浮かべる男子生徒の顔写真が表示されていた。
先輩の瞳孔が猫の目のように細められていく。

「こいつは?」
「二宮光って言うんですけど、どうですか? 先輩好みだと思ったんですが」

返事など聞くまでもないことだった。
先輩の目はもう画面に釘付けになっており、欲情の色を滲ませている。
可愛い子を見ると男女問わず強烈な性衝動に駆られてしまうのが、人のいい先輩の欠点だった。

「それで? 俺に何をしろと?」
「まわしてもらいたいんです」

先輩が驚いたように目を丸くした。
まさか俺がまわし――輪姦――を頼んでくるなど、思っていなかったのだろう。
俺だって自分がこんなことをする日がくるとは想像もしていなかった。
負い目はある。
けれど二宮光を壊すためには、必要なことなのだ。

「……どういう子なんだ。その光ってのは」
「――知る必要はないでしょう、そんなこと。ただ善がらしてあげてください。何かあったら責任は俺が取ります。先輩は俺に脅されていたとでも言えばいい」

先輩は推し量るように俺を見つめた後、妖しげな笑みを浮かべた。

「分かった。お前がそこまで言うんだ。友達に掛けあってみるよ。何時だ?」
「明日にでも、出来たら」
「性急だな。まあいい。多分なんとかなるだろ。その写真、俺の携帯に送ってくれ。それさえありゃ、いくらでも喰いついてくるだろうからな」

先輩の携帯電話へ、二宮光の写真を転送する。
明日以降、二宮が俺をどんな目で見るようになるのか――想像出来ない。
……想像したくないのかもしれない。

「辻村?」
「あ……何ですか?」
「お前がここまで誰かに対して積極的になるの、珍しいよな。それがまわしの頼みっつーのが微妙だけどさ。惚れてんのか?」

俺は先輩の言葉に息を呑むと、小さく笑んで見せた。



「まさか。ただの執着ですよ」




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