14. 光side


辻村が何かを企んでいることは、一昨日の様子からしても明らかだった。
けれど腕を引っ張ってくる彼に逆らうことが出来ず、オレは見知らぬ男がたくさんいる部屋に連れていかれた。
――輪姦。
確か昨日、辻村はそう呟いていた。
嫌な予感にじっとりとした汗が浮かぶ。
辻村はオレを男たちの方へ突き飛ばすと、腕を組んで壁にもたれ掛かった。
参加はしない、ということだろうか。

「ほんっと可愛らしい顔してんのな、お前」
「早く始めようぜー」

オレの身体を舐めるように見ていた男たちが、手を伸ばしてきた。
反射的に叩き落すと、ひゅーっと口笛を鳴らされる。

「いいねぇ、反抗的で」

愉しそうに笑いながら、一人の男がオレを床に押し倒した。
衝撃に息を詰める間もなく、制服が剥ぎ取られていく。
ジタバタと暴れると頬を叩かれ、じんとした痛みが広がった。

「おい、顔はやめとけよ。腫れちまったら、勃つもんも勃たなくなるだろうが」
「うるせぇ。……あのさ、確かに生意気なのは好きだぜ? でも立場っていうものをわきまえろよ?」
「そーそー。俺たちだって痛い目に遭わせたいわけじゃねーんだからさ。大人しく従っとけよ。一緒に気持ちよくなろうぜ?」

男たちは好き勝手なことを口々に言うと、オレの身体に手を這わせた。
多くの手に緩急をつけてゆっくりと肌を撫でられ、あまりの気持ち悪さに吐き気が込み上げてくる。
けれど胸の突起を食まれ、舌で刺激されると腰に甘い疼きが生まれてきた。

「ぁっ…ぅ……」
「おぉ? 感じてんのか、ガキのくせに」
「こっちもご開帳といきますか〜」

男の手がオレの脚を掴み、左右に大きく開いた。
下股の中心は少しだけれど頭をもたげ始めている。
たくさんの人間の視線がそこに集中し、羞恥に頬が熱くなった。

「やめっ…離せ! おいっ」
「嫌じゃないくせに、そういうこと言うなよな」

握り込まれ、唐突な刺激に腰を跳ね上げさせてしまう。
何度か擦られると先端から雫が溢れてしまった。
指の荒々しい動きにあわせて、ぐちゅりと湿った音が立つ。

「おい、見ろよ。ちょっと触っただけで……すげぇなこれ。辻村、こいつ相当淫乱だな」

――辻村。
耳に入った名前に、火照りかけていた身体が急激に冷めていく。
そうだ、この部屋には男たちだけでなく辻村もいるのだ。

「ぁっ……あ、あ…ッ」

冷ややかな視線を感じた。
それは先程、辻村がもたれ掛かった壁の方からではないのか。
嬲られ、感じているところを……見られているのだ。

「いっ、いやだ…見るな……見るなぁッ」
「ん〜? 誰に対して言ってんだこれ」
「そんなことどうでもいいだろ〜? もっと気持ちよくしてやろうぜ。感じて何も考えられなくなっちまうくらいさぁ」

男の指が雁首をくすぐるように動き、トロリと零れた蜜は尻を伝い落ちていく。
決して声を漏らすまいと唇を噛締めるオレを、男たちは嘲笑うように目を細めた。

「すげぇ濡れやすいのな、こいつ。俺だったら男に触られたら絶対に萎えるぜ?」
「慣れてる、とか?」
「マジ? んじゃあ、こっちも経験済みなわけ?」

濡れてもいない指が、乱暴に突き入れられる。
さすがにそれはキツク全身を強張らせるものの、蕾は指を根元まで呑み込んでしまっていた。

「入ったぜ!」
「うわぁ。てっきり初モノだとばかり思ってたんだけどなー」
「いいじゃねぇか。初めてじゃねーんなら、このまま突っ込んだって平気だろ?」

男はニヤリと口角を上げると、ファスナーを下げ、昂ぶったものを取り出した。
まさかこのまま解すことなくするつもりなのか。

「そ、そんなのっ…」

男は顔を引き攣らせるオレをうつ伏せにすると、腰を高く上げさせた。
切っ先を窄みに押し当てられて、恐怖が込み上げてくる。
辻村以外のものを受け入れるのは初めてだったし、慣らしていないそこは相当の痛みを生じるはずだ。
ぐっと割り開かれる感触に歯を食いしばると、今まで辻村と一緒に傍観していた金髪の男が近づいてきた。

「ちょっと待て」
「何スか?」

早く挿入したいと興奮している男を制して、金髪の男は辻村を振り返った。
眉間には深いしわが寄せられている。

「辻村。最後にもう一度確認しとくぞ。本当に、いいんだな?」

オレは辻村へ視線を向けた。
助けて欲しい。止めてほしい。
そんな願望を込めるものの、辻村はオレを一瞥すると深く頷いて見せた。

「っ……ん、で…?」

分かってはいたことだったけれど、胸がきゅうきゅうと痛んだ。
込み上げてくる感情が、怒りなのか悲しみなのかさえ定かではない。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
辻村が何を考えているのか、判らない。

「そいつ、ドMな上にド淫乱なんで突っ込んでやればすぐに腰振りますよ。なぁ、二宮?」
「ッ……辻村!」
「何だよ。感じてたくせに。――誰でもいいのか、お前は」

辻村の目が眇められる。
その藍色の瞳からは、先程まで浮かんでいた冷たい光が消えていた。
代りに感じられたのは、静かな怒りの感情だ。
憤っている……?
辻村の反応に戸惑っていると、無造作にも熱柱が突き入れられた。

「ぁああっ!」
「くっ…すげぇキツイ。でも……気持ちいいなっ」
「ひっ、やめ……ん、ぁあッ!!」

背中を激痛が突き抜ける。
快楽なんて、何一つなかった。
乱暴に腰を動かされ、生理的に溢れた涙がボロボロと床に零れ落ちる。
助けを乞うように辻村を見上げると、彼は蔑むようにオレを見ていた。

「やっ、だぁ…! つじ、むらっ。つじむらぁ……ッ」

痛みもあった。
苦しさもあった。
けれど一番辛いのは、胸を埋め尽くす哀しみだった。
啜り泣きながら、ひたすら与えられる刺激に耐える。

「……俺、ちょっと出かけてきますね」

不意に聞こえてきた辻村の声に瞼を開くと、彼は部屋の出入り口に向かって歩いていた。
オレの身体を貪っている男たちは、荒い呼吸をするだけで返事をしない。

「まっ…待て! やだ、つじ……ッ」

名前を言い切る前に、ドアが閉められてしまった。
辻村がいなくなったことで、部屋にはオレと見知らぬ男たちだけとなり、絶望が胸に押し寄せてくる。
今までは辻村がいたから耐えられた。
見られることは苦痛だったけれど、それでも縋る存在がいたからこそ自分を保てていた。
それなのに――いなくなってしまった。

「……や、だ…いやだ……!」
「おいおい、暴れるなよっ」

無理やり手足を押さえ込まれ、再び突き上げられる。
内臓が押し上げられ、苦しくて満足に呼吸も出来ない。

「ぅくっ…ひくっ……いやだ、いや……だぁッ」
「あぁ、泣くなって。出来る限り体力は温存しておく方がいいんだぜ? まだまだ……ヤりたい奴が待ち構えてるんだからな」

身体の奥に熱が放たれ引き抜かれたかと思えば、直後に新たな塊が挿入されて揺さぶられた。
繰り返される行為に、感覚が麻痺していく。
意識が薄らぐ頃になっても、辻村が戻ってくることはなかった。




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