15. 陣side


料理を平らげた俺は、紅茶の注がれたカップを片手に雑誌を読んでいた。
二宮をあの部屋に残して喫茶店に来てから、かれこれ五時間ほどが経っている。
窓からは沈みかけた太陽の光が差し込んできていた。

「辻村ー。終わらせたぞ〜」
「あ……先輩」

雑誌に向けていた顔をあげると、二宮を背負った先輩が立っていた。
長時間たくさんの男に犯され続けた二宮は、気を失っているようでぐったりとしている。

「どうでした? 二宮の身体は」
「さーてね。俺は抱いてないからな」

二宮を先輩から受け渡されながら、俺は眉を寄せた。
先輩は飄々とした表情を浮かべていて、何を考えているのか分からない。

「……どういうことですか。二宮は先輩の好みだったでしょう?」
「ああ。それはもう好みだったな。でもずーっとお前の名前、呼んでるからさ。ちょっと可哀想になって」
「輪姦の対象に同情なんて必要ないと思いますが」
「いや、この子に対してじゃなくてだな? ……まあ、これは俺が口出しするようなことじゃないか。とりあえず、無自覚って辛いよな。お互いに」

先輩は苦笑いを浮かべると、喫茶店を出て行ってしまった。
“無自覚がお互いに辛い”とはどういうことだろう。
意味の分からない台詞を残して去っていかないで欲しいものだ。
俺は苛立ちを覚えながらも二宮を背負い、喫茶店を後にした。



++++++



俺の家には少しだけ特殊な部屋がある。
三階に造られたそこは、外からドアに鍵をかけると内側からは開けられない仕組みになっていた。
俺があの男の気に食わないことをしたときに閉じ込められる、いわゆるお仕置き部屋というやつだ。
広い部屋の中央にはベッドがあり、それを囲うようにして様々な道具――それこそ拷問器具まで――が置かれている。
俺はその中の一つである鎖の繋がった首輪を手に取ると、眠っている二宮につけてやった。

「よく似合ってるよ、二宮。……つっても、聞こえてないか」

滑らかな表面をした革製の赤い首輪は、二宮の白い喉には本当によく映えていた。
そこから伸びている鎖の端を、ベッドの脚に括り付ける。
まるでリードに繋がれた犬だ。
嘲けりながら、目を細めてその様を眺める。
二宮の瞼は泣き腫らしてしまったのか赤く、頬にはくっきりと涙の跡が残っていた。
嫌がってはいた。助けを求めてはいた。けれど――快楽を得ていたのも確か。
俺はぐっと歯を食いしばると、二宮の手を握り締めた。
触れられれば反応してしまうのは生理的な現象だし、何より二宮の身体は俺によって快楽に慣れさせられている。
だからたとえ輪姦であっても萎えることなく感じてしまうことは仕方がない。
それを理解しているはずなのに、胸の奥がズキズキと痛み、苛立ちが募っていく。
俺は二宮にどんな反応を期待していたというのだろうか。

「おい」

不意に聞こえてきた声に、全身を強張らせる。
ゆっくりと肩越しに振り返ると、あの男が値踏みするように二宮を見つめていた。
俺の気づかないうちに部屋に入ってきていたらしい。

「そいつ、二宮光だな? この部屋に連れてきた目的は何だ。監禁でもするのか?」
「そのつもりだ。構わないだろ?」

俺が頷くと思わなかったのか、男は目を丸くした。
けれどすぐに、声を立てて笑い出す。

「二宮光を監禁! ははっ、直純はさぞかし心配するだろうな。いい復讐方法を思いついたじゃないかっ」
「……ああ」

二宮直純への復讐。
――本当に、そうなのだろうか。
ふっと浮かんだ疑問を振り払うように、俺は男の顔を真っ直ぐに見つめた。

「二宮の世話は俺がするから、アンタは何も気を使わなくていい」
「当然だ。……監禁中に、思う存分そいつを痛めつけろ。お前の憎しみが少しでも和らぐといいな?」

微塵もそんなことを思っているとは感じさせない言い方をすると、男はニヤリと口角を引き上げた。
相変わらず嫌な笑顔だ、と胸中で罵りながら二宮へ視線を移す。
輪姦されて二宮の精神が傷ついていることは間違いない。
そこに追い討ちをかけるように、監禁という完璧に自由を奪った形で強姦を続ければ、二宮が正常な思考を保てなくなるのは時間の問題だろう。
二宮光が、壊れる。
望んでいたはずのことなのに、いざ実現されるかもしれない状況になると、素直に喜ぶことが出来なかった。




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