19. 陣side
琥珀色の瞳がみるみるうちに潤み、目尻から透明な雫が溢れて頬を伝っていった。
ズクンッ、と鈍い痛みが頭を襲ってくる。
無理やり突っ込んだせいで二宮の蕾は裂け、シーツには血が染み込んでいた。
ときおり耳に届く小さな嗚咽が、ただでさえ息苦しさを覚えていた胸をギュウギュウ締め付けてくる。
「はっ…ぁあ、うッ……!」
「二宮……っ」
俺の呼びかけに、二宮はびくりと怯えたように肩を竦める。
小刻みに震える身体がひどく可哀想に思えて、俺はたまらず抱きしめていた。
伝わってくる温もりや匂いに安堵を覚える。
ああ、もうだめだ。
やっぱり俺にはこれ以上、こいつを傷つけることは出来ない。
腰の動きを緩めると、二宮が焦点の合っていない虚ろな目で見上げてきた。
「辻村……。頼みが、あるんだ。嫌ならそれでもいい。でも……名前、呼んでくれないか?」
「……二宮」
不安と期待の入り混じった視線を向けられて、オレは怪訝に思いながらも名前を呼んだ。
けれどこの呼び方では満足させられなかったらしく、ふるふると首を横に振られる。
発音やアクセントをどう変えるべきなのか悩んでいると、光、と小さな声で呟かれた。
“名前を呼んで欲しい”というのは、まさしく文字通りの意味だったらしい。
俺は少なからず緊張しながら口を開いた。
「……ひかる」
「ありがとう」
二宮は嬉しそうに微笑んだが、どこか苦しそうだった。
まだ体調が万全でないのにセックスをするのはやはり止めたほうが良かったかと軽く後悔しつつも、すぐに仕方なかったのだと諦めて、俺に出来うる限りの優しい口付けをしてやる。
二宮とのセックスは、これで最後にするつもりだった。
改めてこのこと考えると、寂寥が込み上げてくる。
二宮を傍に置いておきたい……いや、隣で笑っていて欲しい。
そんな気持ちが自分の中に芽生えていることを強く認識させられる。
「動かないのか?」
「だって、辛いだろ。もう少し待ってからの方が――」
「大丈夫。……動いてくれ」
これまで二宮に対して散々、馬鹿だとか可笑しいとかそういう感情を抱いたけれど、おそらく一番愚かだったのは自分だった。
他人に犯させ、監禁までしなければ、自分の中で大切な存在になっていることに気づけないのだから。
こんなところにくるまでに、機会はいくらでもあったはずなのに。
「んぅ、ぁっ……あっ……!」
「はっ…く……ッ」
襞という襞全てが絡み吸い付いてくる感覚。
一体感を得ているのは俺だけではないらしく、二宮はうっとりとした表情を浮かべていた。
そんな二宮を抱きしめながら、何度もキスを交わす。
……ずっと、二宮直純を憎んでいた。
彼があの男に精子を提供さえしなければ、俺は性的な虐待を受けることはなかっただろうから。
けれど同時に、この世に生まれることさえなかったのだ。
それでは、二宮に出会うことが出来なかった。
こうして抱き合うことは勿論、話すことだって出来なかった。
そうやって考えると、俺は彼には感謝をするべきだったのかもしれない。