21. 陣side


二宮を家から追い出した俺は、玄関に座り込んでしまった。
ドアを閉める直前に見た、悲しそうな顔が頭から離れない。
ここまでする必要はあったのだろうか。
ただ家に帰せばよかったのではないのか――そんな考えを打ち消すべく、俺は深く呼吸をした。
中途半端な別れでは、俺は二宮を求めてしまう。
きっと二宮のことだから、今までのように俺に流されるままに相手をしてくれるのだろうけれど、それでは駄目だ。
俺の傍にいるということは、あの男の傍にもいるということなのだから。

「……おい」

低く唸るような声が、鼓膜を震わせる。
ふと横を見ると男が鋭い視線を俺に向けていた。
剣呑な雰囲気に、唾液を呑み込む。
おそらく二宮を逃してしまったことに腹を立てているのだろう。

「何してるんだ、お前。どうして二宮光を解放した」
「……これ以上、苦しめるようなことをしたくなかった」
「何だと?」

男は眦を裂くように目を見広げた。
怒りにぷるぷると拳が震えているのが見える。

「お前は二宮直純を憎んでいたんじゃないのか」
「……ああ」
「そうだろう? そのために二宮光を利用していたんじゃないのか」

利用していたつもりだった。
――途中までは。
俺が口ごもってしまったことに堪忍袋の緒が切れたのか、男は胸倉を掴んできた。

「どういうことだ!? 俺はお前が監禁中に二宮光を滅茶苦茶にしてしまうことを期待していたんだぞ!? お前まさか、本気であのガキを……ッ」
「期待を裏切って悪かった。でも二宮直純へのダメージにはなったはずだろ? 自分の子供が行方不明だったんだからな」
「その程度で……俺の気が済むと本気で思ってるのか?」

男は俺のことを思い切り壁に叩き付けた。
衝撃に息がつまり、ぶつかった肩が痛みを発する。
俺は咳き込みながら男を見つめた。

「アンタが何でそんなに憎んでるのか、分からない……っ。悪いけど、俺はもうそういう感情を持ってな――」
「俺の幸せを壊したからに決まってるだろ」

やけにはっきりとした声に聞こえた。
二宮直純が、幸せを壊した?
漠然としすぎていてよく分からない。

「俺は……少し前に光の家で会ったけど。そういうことする人間には見えなかった」

どこにでもいる、優しそうな父親だった。
そのことに対して憤りと戸惑いを覚えたことも、記憶している。
俺の言葉に男は悔しそうに唇を噛み締めると、肩に俺を担ぎ上げた。

「なっ……!?」
「仮にも父親の言うことが信じられないのかっ。お前は本当に……ッ」

男は文句を言いながら、家の中を走っていく。
向かう先は――二宮が先程まで監禁されていた、あの部屋だ。
幼い頃に閉じ込められて仕置きを受けていた記憶が蘇り、萎縮してしまう。
自分から入るのはいい。
けれど男に連れて行かれることは、我慢ならなかった。

「ぁっ…うぅ……ッ」
「怖いか? そうだろうなぁ。また一日中、喘ぎ続けることになるんだもんな。苦しくて辛くって、堪らないよな?」

男は部屋に入るなり、俺をベッドに放り投げた。
重みにベッドが沈み、ギイッと軋んで嫌な音を立てる。

「でも生意気なお前には、躾が必要だ」

男の掌に握られた鎖が、窓から差し込む日の光によって鈍い輝きを放つ。
空はあんなにも青く澄み渡っているのに、部屋の中は薄暗くどこまでも陰湿だ。
近づいてくる男の顔は、喜悦に歪んでいる。
押し寄せてくるさまざまな感情の波に耐え切れず、俺はキツク瞼を閉じることにした。




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