6. 光side


耳元で囁かれた言葉の意味を問いかける間もなく、ネクタイで両手首を縛り上げられてしまう。
未だに状況が把握出来ていないオレは、遠慮がちに辻村の顔を見上げた。
その瞬間、ぞくっと背筋に怖気が走った。
藍色の瞳が、息がかかるほど近くでオレを見つめていたのだ。
無感情な、けれど艶やかで獰猛な光を湛えて。

「つじ、むら……」

呼びかけた声が掠れた。
何故だろう、喉がカラカラに渇き、身体が熱帯びていた。
興奮している――この状況に?
そんな馬鹿な、と考えをすぐに打ち消す。
オレは拘束された腕で、辻村の胸を押し返した。

「冗談よせって。ほら、早く解けよ」
「冗談でこんなことするはずがないだろ? いい加減、自分がどういう状況下にいるのか理解しろよ」

辻村は冷たく言い放ちながら、オレの制服に手を掛けた。
ワイシャツのボタンを外されて前を開かれ、あまり筋肉のついていない薄い胸が露にされた。
上半身を見られることは水泳の授業があるから慣れているはずなのに、急激に頬が熱くなる。
羞恥に目を背けると、ぴちゃりと濡れた感触がした。

「ひぁっ…!? な、に……っ」

辻村がオレの胸に顔を埋めていた。
ゆるやかな動きで、彼の舌が胸を這っていく。
初めてされるこの行為に、度し難い感覚が身体を襲ってきた。
悪寒だとか嫌悪だとか、そういうものとはまた違ったそれに身じろぎする。

「感じてるのか?」
「っ……!? そ、んなわけ……っ」

揶揄するような声に、いつの間にか閉じていた目を開く。
辻村の舌先が、オレの乳頭に伸ばされるのが見えた。

「ぁ、んっ」

ペロッと軽く舐められただけなのに、上ずった声が出てしまった。
慌てて口を噤むと、辻村がからかうような視線を向けてきた。
それから、舌で何度もそこを舐る。

「んっ…やめ……ろよ…ッ」
「止めろ? 何言ってんだ。本当は気持ちいいんだろ? 硬くなってきた」

辻村の言う通り、初めこそ柔らかかったそこは芯を持ったように尖っていた。
オレは左右に首を振ると、辻村の顔を胸から離そうと試みる。
けれど当然、簡単に離れてくれるはずがない。
辻村は邪魔だとばかりにオレの腕を片手で押さえ込むと、再び胸に舌を這わせた。
唾液に濡れた部分が空気に触れて、ひんやりする。
そのくせ身体は火照っていくわけで……意識がぼんやりとしたものに変わり始めていた。
熱に浮かされている、とでもいうのだろうか。
妙な高揚感が全身を包んでいる。

「はぁ、はっ……ん、ぅ…」

ただ胸を弄られているだけなのに、どうしてこんなにも息が荒くなるのかが判らなかった。
辻村は未知の感覚に戸惑うオレの顔をじっと見つめながら、手を下腹部へと滑らせる。
その手は止まることなく下着の中に忍び込み、下股の間で息づく熱を握り込んだ。

「ぁっ、あー…」
「濡れてるな」

あまりの恥ずかしさに瞼をキツク閉じる。
それでも痛いほどに、視線が顔に浴びせられているのを感じていた。
決して表情に出すまいと努力するものの、緩急をつけて上下に動いていただけの指が括れを撫で始めると、自然と唇が開いてしまう。
そこからは耳を覆いたくなるような声が漏れるわけで、泣きたい衝動に駆られた。

「んっ……は、ぅっ……」
「ほら、見てみろよ二宮」

促されるままに目を開けて下腹部を見る。
下着の外に取り出されたそこは、先端の窪みから雫を漏れ出していた。
それを塗りこめるようにして、辻村の指が動く。

「無理やりされて感じるんだな、お前」
「ぁっ…うーっ…ん、んっ…」

オレだって男だから、自分でこういうことをしたことがないわけではない。
けれど他者から与えられる刺激と自分で与える刺激とでは、差があまりにもありすぎた。
何より耳元で囁かれる言葉に、身体が昂ぶらされていく。

「はぁっ…っ…ぅ…ン…」
「お前さ、電車で痴漢に遭うたびにどうしてたんだ? もしかして今みたいに、自分で腰振って喘いでたのか?」
「ちがっ……ぁ…」

辻村の手が奥に潜む蕾に伸ばされた。
知らず、息を呑む。
緊張と恐怖に顔を強張らせるオレの窄みへ、辻村は俺自身から零れた滑りを利用して、指を一気に突きたてた。

「――ッ! ……ふ、ぁ…っ」

一瞬硬くなった身体は、すぐに与えられた刺激に弛緩する。
辻村の指が内壁を何度も擦り上げてきたのだ。
異物感は快感に摩り替わり、脳の内側を犯されているようなそれに甘ったるい声が漏れる。
前を扱かれながら奥を弄られると、知っている感覚が腰の辺りを這い上がってきた。

「あ……いやだ、やめっ……!」

このままイキたくなんてない。
震える声で制止を求めると、辻村の指が引き抜かれた。
安堵する間もなく、代わりに熱が宛がわれる。
身体を引き裂くような痛みと共に、脈打つ熱棒が身体の奥に沈み込んだ。

「ぁっ…あ、ぁあ……ッ!!」

捻じ込まれたそこは切れ、辻村が動くとずちゅっと湿った音が立つ。
シーツに血液が染み込んだが、そんなことを気にしている暇はなかった。
荒々しい腰使いで何度も奥を穿たれ、背筋を戦慄かせる。

「あんっ…ぁ、はっ……ひ、ぁあっ」
「乱暴にされると感じるんだな。マゾなのか、お前?」
「っ…やっ、やだ…ん、ぅっ…ふ……」

込み上げてきた涙に視界が霞む。
これが痛みによるものなのか、辻村の言うように快楽によるものなのか、判断がつかない。
閉じてしまいそうになる瞼を必死に開いて辻村を見上げると、彼は眉間に深いしわを刻んでいた。
陵辱している側なのに、オレ以上に苦しそうなその様子に疑問が浮かぶ。

「なんで、んな……悲しそうな顔、してんだよ……ッ」

今にも泣き出しそうな表情をしていた辻村は、一瞬だけ息を詰めて瞠目した。
けれどすぐに、激しい突き上げを再開する。
一体何が彼を突き動かしているのか分からないまま、オレは追い上げられるがままに達してしまった。




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