9. 陣side
しまった、と舌を打つ。
ネクタイを外したことで露になった琥珀色の瞳は、涙に濡れそぼっていた。
潤んだそれはガラス玉のようで綺麗だと思ったけれど、言うつもりなどなかったのに。
二宮は何を考えているのかよく分からない、茫然とした表情を浮かべていた。
……おそらく何も考えていないのだろう。
「おい、二宮。いつまでぼーっとしてるつもりだ」
「あ……お、オレは! 辻村の瞳の方が綺麗だと思う!」
「――何だって?」
耳を疑うとはこのことだ。
いきなりどうしたというのだ、こいつは。
俺が怪訝な視線を向けると、二宮は気恥ずかしそうに俯いてしまった。
「……だ、だから。辻村の目の方が綺麗だって言ってるんだけど」
もごもごと歯切れ悪く話す二宮の頬は赤く、触れると信じられないくらいに熱い。
きっとそれは、俺にも当てはまることなのだろう。
俺たちはどちらともなく視線を外すと距離をとった。
おそらく二人とも、セックスによる快感の余韻のせいで頭がどうかしているのだ。
高鳴り始めた鼓動の音を掻き消すように、俺はわざと大きな音を立ててトイレットペーパーを引くと二宮に渡した。
「自分で処理しろ」
「あ、ああ」
制服にまで飛び散ってしまった精液を拭き取っていく。
その間はずっと沈黙に支配されていたけれど、居心地が悪いわけではなかった。
ふわふわと、例えるなら宙に浮いているような感覚。
今までに味わったことがないそれに、何だか無性に身体が痒くなった。
「……辻村、終わった?」
「俺は拭くだけで十分だからな。お前は――」
「家に帰ってから、風呂でする」
苦い笑みを二宮は浮かべた。
俺の前で後孔に指を突っ込んで精液を掻き出すことに抵抗があるのだろう。
だったら……。
「俺がしてやる」
「は!? え、いやっ……。そんなことしなくても……!」
「うるさい。お前は黙って脚を開いてろ」
強いもの言いに二宮は反感を覚えたようだったが、睨みつけると大人しくなった。
便座に座らせ、脚を左右に割ってやる。
恥ずかしそうに身じろぎする二宮を無視して、俺は指を蕾に差し入れた。
浅く入れただけなのに、とろみのある液体が溢れてくる。
「すげぇな」
「つ、辻村のせいだろ。……お腹、たぽたぽ」
「まあたっぷり注いだからな。直にその感覚にも慣れる」
更に指を押し入れると、血液が精液と混じることなく出てきた。
床に零れた白濁に浮かぶ紅はやけに鮮やかだった。
ああ、そうだ。
俺は二宮に解すことなく突っ込んだのだ。
無理やり犯されることに対する痛みや屈辱は、何よりも深く知っているというのに。