7. 平凡な恋がいい!



 耳朶を甘噛みされながら犯されるのは本当に気持ちが良くて。

「ぁっ、ああ……漏れちゃうよぉっ」
「安西が出すとこ、見てみたい」
「いや、いやっ…ん、ぁっ、ああ……ッ」

 前立腺を突き上げられ、俺は為すすべもなく放尿してしまった。
 開放感とアンモニア臭に頭がクラクラする。排泄行為を見られるのは射精よりもずっと恥ずかしくて、まともに榊原の顔を見ることができない。

「……凄い締め付け。安西は辱められるほど感じるんだな。これじゃまるで変態だ」
「あっ、は……やぁっ」
「おしっこするとこ見られるのが、そんなに嬉しかった? これからは毎日見てやろうか?」

 榊原は浅い位置でチ×コの出し入れを繰り返しながら、掠れ気味の声で囁く。俺が漏らすところを見て興奮してるお前の方がよっぽど変態だ――と言おうとしたところで、目が覚めた。

「……っ、嘘……だろ」

 荒い呼吸を繰り返しながら、見慣れた天井を凝視する。じっとりとした汗に全身がまみれていた。とりわけ、下半身の濡れ具合がひどい。
 おそるおそる腰を上げれば、シーツには大きなシミが広がっていた。下着の中は白濁でドロドロ。おねしょと夢精のダブルパンチだ。

「さっ、榊原のあほぉお!」

 かつてない事態に半泣きになりながら、俺は濡れた下着を脱いだ。



++++++



 榊原とのエッチな夢を見るだけでもアレなのに、内容がよりにもよってスカトロなんだから笑えない。本当に。

「こんなんじゃマジで変態だよ、俺……」

 ぼやきながら駅のホームに足を踏み入れる。サラリーマンに囲まれるようにして榊原が立っているのが目に入った。
 ……コイツさえ、やらしいことを教えてこなければ!
 俺は榊原のもとに大股でズンズン近づくと、彼の鳩尾に肘鉄を喰らわせた。

「ぐふっ!? ……あ、朝から激しいな安西。どうした?」
「どうしたもこうしたも、お前のせいで」
「もしかして、また酷い血便になったのか!?」

 大きな声で尋ねられて言葉を詰まらせる。周囲にいるサラリーマンからの視線が痛い。
 俺はぷるぷる拳を震わせると、榊原の頭を叩いた。

「ご、ごめんって。昨日ちょっと調子に乗りすぎたのは認めるから……」
「確かに昨日は調子に乗りすぎだし、実際まだ血便だけど、俺が今怒ってるのはそこじゃない! 不審に思われるから、でかい声で血便とか言うなっ!」
「大丈夫。誰もアナルセックスが原因だとは思わないさ。せいぜい痔とか……」
「どのみち嫌だわ!」

 先程からチラチラこちらを見てくる、とあるサラリーマンの視線が妙に生温かいのは、彼が痔を患っているからなのだろうか。
 申し訳ないが、俺の血便は痔のせいじゃない。気が触れそうな程、榊原が中をチ×コでいっぱい突いたからだ――やばい、思い出したら身体が熱くなってきた。

「安西。今、エロいこと考えただろ? 顔が赤い」
「っ……うるさい、ばかぁ」

 ちょっとした表情の変化にも敏感な榊原が疎ましい。俺はやって来た電車に逃げるようにして乗り込んだ。
 電車内は相変わらずの混みようで、押し潰されるような息苦しさがある。大量の人間が狭い箱の中にギュウギュウ詰めにされているのだからそれも当然か。
 空調が効いているとは思えない蒸し暑さに眉をひそめて耐えていると、臀部に違和感を覚えた。肩越しに背後を振り替えれば、やっぱりというべきか、榊原が立っている。俺の下半身をまさぐっているくせに、目が合うとニコリと笑いかけてくるのだから性質が悪い。

「こらっ、榊原……!」
「こんなにもすぐ傍に安西の無防備な尻が晒されているんだ。触らないわけにはいかないだろ? そりゃ失礼ってもんだ」

 意味が分からないことをほざきながら、榊原は俺の尻肉を両手でギュムッと掴んだ。そのまま弾力を確かめるかのように揉みしだかれ、得も言えぬ感覚が込み上げてくる。
 ――まずい、このままじゃ勃起する!!
 それだけは避けたい、と榊原の手首を掴む。けれど榊原は簡単にそれを振り払うと、更に大胆に尻を刺激し始めた。
 双丘をグッと割り開かれ、その中心にある窄まりを指で擦られる。

「んぅ……!」
「声、殺さないとマズイんじゃないか?」

 耳元で低く囁いた榊原が憎らしくてしょうがない。声を押し殺すことを俺に求める前に、まずは自分が俺の身体を弄るのを止めるべきだ。
 そんな非難の気持ちを榊原が知る由もなく、彼は楽しそうに指先で俺の後孔を撫でまわしている。昨日、一昨日と榊原のモノを受け入れたそこは驚くほど刺激に敏感になっていて、触れられる度にひくつくのが自分でもよく分かった。
 ――できることなら、ズボンの上からではなく、直接触って欲しい。そして、指を突きいれて掻き混ぜて欲しい。
 とめどなく溢れてくる衝動を抑えるために、これでもかというほど強く拳を握りしめる。掌に食い込む爪の感触すらも今は気持ちがよくて、頭がどうかしてしまいそうだ。

「もっ……やめ、ろよ……」

 弱弱しい、震える声で言う。チ×コはとっくに勃起しており、下着とズボンに押さえつけられているせいで鈍い痛みを放っていた。
 こんなになっているのに、俺ができることと言えば、ただ俯いて快楽に耐え忍ぶことだけ。それが悔しくて唇を噛みしめると、犬歯によって唇がプツリと切れ、鉄の味が口中に広がった。

「力、抜けよ。もっと素直になれって。そしたら、今よりずっと気持ちよくしてやる」
「あ、ほ……ここ電車……ッ」
「その電車内でこの前、盛大にイッたのは誰だよ? ――あ゛」

 不意に、榊原が何とも形容しがたい声を上げた。誰かに痴漢を見咎められたのかと思い、冷や冷やしたが、どうもそうではないらしい。
 電車が止まり、車掌さんの声によるアナウンスが流れる。俺たちが降りるべき駅に着いたようだった。

「時間切れだ。つまんねぇの」

 榊原が残念そうに小さく舌打ちをする。
 一方で俺は、耐えきれたことに腹の底から安堵の息を吐き出し、胸を撫で下ろしていた。誰に見られるとも知れない公共の場で、みっともなくイクのを回避できたのだ。喜べないはずがない。
 けれど――。

「……ど、どうしたもんかな」

 勃ち上がったままの下半身に視線を落とし、引き攣った声を洩らす。果たして抜かずにどこまで耐えきることができるのやら。



++++++



 一時間目の授業が終わると同時にトイレの個室へと駆け込んだ。中途半端に放置された身体は熱く火照り、じっとりとした嫌な汗を滲ませている。我慢の限界だった。
 慌ただしくベルトを外し、下着ごとズボンを膝辺りまで摺り下ろす。途端に飛び出したチ×コを握って、上下に擦った。
 高校でオナニーするなんて初めてだ。そのせいかひどく興奮している。朝からずっと堪えていたことも関係あるのだろう。先端からはすぐに蜜が溢れ出した。にちゃにちゃと湿った音を立てながら、乱暴ともとれる手つきで扱きあげる。

「んっ、ふ……ぁ」

 膝がガクガク震え、立っていられなくて背中をドアに預けた。身体の奥がひどく疼いている。前だけの刺激じゃ物足りないらしい。だからといって自分で弄る気にはなれなかった。
 ――いや、違う。本当はすぐにでも指を突っ込んで、攻め立てたい。でもそれだけは、してはいけない気がするのだ。
 今更男としての矜持も何もないかもしれないが、やっぱり開き直ることはできなかった。自分で尻の孔を弄って快楽を得るなど、心が許さない。
 湧きあがる衝動を何とか抑え、鈴口に親指をねじ込む。

「はぁっ、はぁっ……んぁ、あ!」

 ドクンッ、と手の中にあるモノがひときわ大きく脈打った。それとほぼ同時に、尿道を通って熱い飛沫が放たれる。
 全身から力が抜けて、思わず座り込みそうになった。気力のみで身体を支え、便座の蓋に腰を下ろす。
 ふと手元に視線を下ろせば、指と指の間に白濁した液体が糸を引いていた。

「――何やってんだ、俺」

 オナニーしてイった証拠を眺めながら、ふっと唇に自虐的な笑みを浮かべる。最低だ。放尿と夢精によって目が覚め、電車の中では勃起し、高校の休み時間には淫蕩に耽るなんて。後孔を弄らなかっただけ、まだマシか?
 饐えた臭いに顔を顰めながら、トイレットペーパーで指に纏わりつく精液を綺麗に拭う。

「気持ち良かったか?」
「――え?」

 ドアを開けて個室の外に出た途端に投げかけられた声に、心臓が止まったような錯覚に陥った。一瞬にして冷えた身体から、どっと汗が噴き出す。
 ギチギチ音がしそうなほどの硬い動きで声がした方へ顔を向ければ、腕を組んだ榊原が立っていた。
 一体いつから個室の外にいたのだろう。俺が夢中で自身を慰めている間、ずっと耳を澄ませて聞いていたのだろうか。

「トイレに駆け込んで行ったから、まさかと思って追いかけてみれば……。安西のオナニー中の声を聞けるなんてな」
「っ……、聞き耳立てるなんて酷いじゃないか! そもそも、誰のせいでこんなことになってると思ってるんだ!?」
「俺だろ?」

 カッとなって榊原の胸倉を掴んだ俺は、開き直ったような彼の態度に閉口させられた。いつもながらコイツは、訳の分からないところで妙に堂々としている。
 何とも言えない気持ちになって黙っていると、榊原が腰に手をまわしてきた。引き寄せられたことで急激に距離が縮まり、呆れたことに再び身体が熱くなる。いくら思春期だからって、こんなにも性に貪欲にならなくてもいいだろうに。

「はっ、離せよ……!」
「嫌だ。つーか、安西が俺のせいでエロい身体になったとか、たまんねぇな。ゾクゾクする」
「は? おまっ、ばかじゃないのか!?」

 どうやら榊原は、俺が個室でオナニーしていたことを、呆れるどころか喜んでいるらしい。全くもって意味が分からなかった。
 まあでも電車で「痴漢ごっこ」し始めたり、いきなりヤってきたりする男だ。これは一貫した、ごく当然な反応なのかもしれない。変態として。
 
「ところで安西。凄く気になるんだが、もしかして後ろを弄ったのか?」
「いっ、いいいい……弄るわけないだろ!!」
「何もそんな力いっぱい否定しなくても……。ま、どうも本当らしいな。満足できてないみたいだし?」
「ひぅ!?」

 股間をきゅっと握られて息を呑んだ。そこがテント張りになったのは榊原が俺のことを抱きしめて離さないのが主な原因なのだけれど、言うと調子に乗りそうなので黙っていることにする。

「今日の放課後、俺の家に寄ってけよ。そしたらまた、たっぷり可愛がってやる。安西向けのいいモノも用意してあるから、期待してくれていいぜ」
「……いいモノって何だよ。っていうか、俺が行くとでも本気で思ってるのか?」
「――来るさ。安西は、絶対にね」

 榊原は倣岸に薄い唇をゆるめると、俺の鼻先に掠めるようなキスをした。それから片手をひらひら振ってトイレを出ていく。
 残された俺は、自分を抱きしめるように腕を身体に回した。

「……は、っ」

 唇はカサカサで、耳の裏では血管がドクドクと脈打っていた。身体の奥に灯った炎は、消えるどころか更に熱く燃え上がる。
 どうしようもないほどに榊原を求めていることに気がついて、瞼をきつく閉じた。
 おそらく俺は、放課後、彼の家に向かってしまうのだろう。無理やり開拓され、『肉の悦び』を知ってしまった貪欲な身体は、快楽に抗うことを許さないのだから。




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