8. 平凡な恋がいい!
放課後、榊原の家に寄った俺に待ちかまえていたものは、ピンク色のナース服だった。ご丁寧にも黒のガーターベルトつき。
どこからどう見たって女物。しかも間違いなくソレ目的のものだ。
「こ・と・わ・る! こんなもの着てセックスなんて絶対に嫌だ!!」
「何でだ? 安西、ナースモノ好きだろ?」
断られると思っていなかったのか、榊原は心底分からないとでも言いたげな顔をしていた。それが余計に怒りに拍車をかける。こいつ一体、俺のことを何だと思ってるんだ。
「確かにナース好きだし、そういう特集のエロ本はよく見るけど! 決して自分がナース服を着たいっていう願望があったわけじゃねーんだよ!!」
「んじゃ、俺がナース服を着ればOK?」
「えっ。それはそれで遠慮したい」
「じゃあ、やっぱり安西が着るしかないだろ。せっかく高い金払って購入したんだし、使わないと損だからな」
ほれ、と榊原は俺に向かってナース服を放り投げる。反射的にそれをキャッチしてしまった。
「じゃ、宜しくな。着替え終わったら呼んでくれ。楽しみにしてるから」
榊原はニッコリと笑って、寝室から出て行った。
一人残された俺は、握っているナース服に視線を落として溜息をつく。
男がこんなものを着たところで、気持ち悪いに決まっているのに。
++++++
「やっぱコレだめだろ」
「そうか? なかなか良いと思うけどな」
榊原は満足そうに笑んでいるが、俺は鏡に映る自分の姿に怖気を覚えていた。
運動部に所属しているわけではないから、ガタイはそれほど良いわけじゃない。かといって一般的な男子高校生よりも細身なのかというと、やっぱりそうでもない。ごくごく普通の体型だ。
もしも俺が小さくて細身で中世的な顔立ちの人間だったなら、さぞかしナース服は似合っただろうが、生憎とそうじゃないんだから本当に気持ち悪いとしか形容の仕様がない。
「無理。いやほんと、無理」
「せっかく着たのに速攻で脱ぐんじゃない! それじゃ、つまんねぇだろっ」
いそいそとナース服を脱ぎ始めた俺を、榊原は慌てて止めに入った。それからジロジロと上から下まで、全身を舐めるようにして見てくる。
「ばか。あ、あんま見るなって」
「何でだ? もしかして、恥ずかしいのか?」
「当たり前だろ! こんな格好させられて、何とも思わない方がどうかしてる!」
苛立ちを感じながらベッドの縁に腰掛ける。足を組むと、短いスカートから下着が覗いた。
「おぉ、いい光景だな。目の保養になる。やっぱよく似合ってるぜ、安西?」
「嬉しくない! あと捲くるな!!」
ピラッとスカートを捲くってきた榊原の手を叩き落とす。彼は悪びれもなく笑うと、顔を近づけてきた。
反射的に目を閉じれば唇に柔らかいものが触れる。すぐに熱く濡れた舌が口腔に滑り込み、戸惑ったように奥へ引っ込めた俺の舌を容易に絡め取った。
「ふ、ぁ……っ」
深い口づけだった。意識が朦朧となってくる。粘膜と粘膜の触れあいは、どうしてこんなにも心地よいのだろう。まるで毒でも飲んだみたいに、全身が甘く痺れ、身体の奥が熱くなっていく。
涙が滲んだ。息苦しさからじゃない。ただ、ひたすらにもどかしかった。もっともっと、深く繋がれる方法を俺は知ってしまっていたから。
くいっと榊原の制服を引っ張ると、彼は唇を離し、困ったように微笑した。
「急かすなよ。時間はたっぷりあるんだから」
「……ん」
ベッドに横たわり、白いシーツを少しだけ自分の方に引き寄せる。時間がたっぷりある、というのは確かだ。何なら泊っていったっていい。榊原の家なら、俺の両親も文句は言わないだろうから。
それでも気持ちが急くのは、身体が疼くからに他ならない。早く挿れて欲しかった。熱く太い榊原のモノで、俺を埋め、満たして欲しい。
「榊原ぁ……っ」
切なさを吐き出すように名前を呼ぶ。
せり上げてくる欲望が、男同士によるこれらの行為が、道徳に反することだという自覚はあった。だからといって、どうにかなるものでもない。もう俺は、最上級の快楽を知ってしまったのだから。
スカートをたくしあげ、上目づかいに榊原を見る。一瞬息を詰まらせた彼は、すぐに笑みへ表情を戻すと、下着の上から俺の股間を優しく撫でた。
「はっ……あぁ、う」
俺のモノの形を確かめるように、ゆっくりと指先が動いていく。ひどく緩やかな刺激は甘美な快楽を秘めていて、びくびくとはしたなく身体が震えた。先端から滲んだ蜜が、下着の一部を濃く変色させる。
「……安西のココ、ぐしょぐしょだな。腰、上げろよ」
「ん、っ……」
言われた通りに腰を浮かせると、足から下着が引き抜かれた。そうして露わになった俺のモノは、天井を向き、先っぽからダラダラと蜜を滴らせている。どうしようもなく感じ、そして期待しているのが一目で分かる状態だ。
見られるのが恥ずかしくてスカートをグッと下に引く。勿論こんなに短いスカートで覆い隠せるはずもなくて、勃起したチ×コによってスカートがパツンパツンに張った。布地の一部には、じわりと染みが広がっていく。
「あ……や、ぁっ」
先程よりもむしろ淫猥さが増した気がした。見ないでくれとばかりに身をよじる。
いつまで経っても羞恥が抜け切らない俺に対して、榊原は呆れたようにふっと吐息を洩らして笑うと、額にキスを落としてきた。
「こんな可愛い安西が見れるなんて、やっぱナース服、買って良かったなあ」
「あ、頭おかし……っ、あ!」
ナース服の上から尖った乳首を指で探り当てられ、反論しようとした口を閉じる。捻られると気持ち良くて、無意識のうちに腰が動いた。スカートにチ×コの先端が擦れ、焦れったさがますます募っていく。
――もう、堪えきれないっ。
俺は榊原の身体を押し退け、上体を起こした。それからベッドに腕をついて腰を高く掲げ、四つん這いの姿勢をとる。
「お……ねが……っ、早く触ってぇ」
ひくつく後孔を自分から見せる日がやって来るなんて思ってもいなかった。激しい羞恥に胸が焼かれる。でもそれ以上に、刺激が欲しくてたまらない。
榊原は驚いたように目を広げていたが、すぐにニッと笑みを作った。唇を舌で舐めながら、指を伸ばしてくる。
つぷり、と指先が後孔に沈んだ。それだけで打ち震えるような快感が押し寄せる。シーツに顔を埋め、必死に声を噛み殺した。
指が動く度にぐちゅぐちゅといやらしい音が立つ。
「……まじ、エロい」
熱っぽい吐息を洩らしながら、榊原が呟く。彼の指は今や根元まで俺の中に埋まっていた。ゆっくりと出し入れを繰り返されて、触れてもいないチ×コから白く濁った液がベッドに滴り落ちる。
「何だ? 指だけでイったのか?」
目ざとく精液に気付いた榊原は、意地の悪い声で囁いた。
「安西は、俺のモノじゃなくても良いんだ? 指だけでも、こんなになれるんだもんな」
「んっ、んあぁ……はっ、あぁ!」
否定したくても、榊原が指の動きを激しくしたものだから、できなかった。開いた唇からは嬌声が溢れる。勃起したチ×コからは相変わらず白濁が垂れ続けていた。
「んっ、んン、ふっ……!」
ギュッ、と片手でだらしのないチ×コを握り締める。溢れ出ようとする熱い欲望を押さえ込んで、榊原を肩越しに振り返った。
「あっ……ほ、し……欲しいっ、あっ、ひ!?」
ズルッと中から指が勢いよく引き抜かれた。代わりに、熱く太いモノが窄まりに押し付けられる。
「いやらしいナースだな。腰振っておねだりするなんて」
「あっ、だっ……て……!」
「ここまできて、まだ言い訳するのか。お仕置きが必要だな? お注射いきまーす」
なんて薄ら寒い親父ギャグだ、なんて心の中で突っ込んでいる場合ではない。ズプッと鈍い音を立てて、熱の塊が体内に侵入してきたのだ。
「ひっ……あっ、やぁあっ!?」
朝からずっと待ちわびていた榊原のモノに、襞という襞が一斉に絡みつく。中にある彼の形が、それこそ分かってしまいそうな程の一体感だった。
「んっ、相変わらず……いい締め付けだっ」
「ばっ、か……なに、ぁっ、ん……!」
後ろから何度も激しく穿たれ、犬のように腰を振った。唇の端から零れる唾液を拭うこともせずに、ひたすら与えられる快楽に酔う。
俺が何度目かも分からない精を吐き出したところで、榊原は中からチ×コを引き抜いた。ずっと崩れた四つん這いの姿勢だった俺の身体を優しく仰向けに寝かせ、足を大きく開かせる。
精液に塗れたスカートが目に入って気恥ずかしさを感じていると、一気に奥まで再び貫かれた。
「ああっ!? あっ……あ、ぁっ」
正常位での注挿。激しく揺さぶられて、意識が飛びそうになる。
榊原の首に腕を回してしがみつけば、彼は更に強く敏感な箇所を突いてきた。
「……あ、やっ、ふあっ!?」
「んっ、安西……好きだ……!」
深く繋がった状態で、俺の目をじっと覗き込みながら、榊原は想いを告げてくる。その言葉に嘘はない。本当にずっと、彼は俺のことを愛してくれていたのだと実感する。
それでも、榊原の気持ちを受け入れることはできない。受け入れるわけには、いかないのだ。身体は赦しても、心までは許さない――これはもう意地みたいなものだった。俺は平凡な恋がしたい。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、榊原は僅かに目を眇めた。
「んっ、んぁっ、俺は……っ」
「いつまでだって、待ってるから」
涙にぼやけた視界が色を失くし、徐々に頭の中が白く染まっていく。
薄れつつある意識の中で見た、榊原の優しい微笑みがやけに印象的だった。