大広間を出て思ったのは、『コンラッドを強姦する誰か』を探すのも一苦労だなあ、ということです。
城内を当てもなくうろつきながら、私はうーんうーんと唸り続けます。そして、中庭に出てシーザーの姿を見かけたので、彼に救いを求めました。
その時シーザーは大きな木の陰で横になっていて、目を閉じていました。しかし、呼吸の速さから眠ってはいないだろうと踏んで近寄ると、案の定、私が近寄っていく足音を聞いてすぐに目を開けてきました。
「よう、どうした」
シーザーの態度はいつも通りです。そして、近くにグラントの姿はありませんでしたから、訓練の途中なのか、それとも今日は訓練は休みなのか。
「困ったことになりました」
私がそう前置きして彼に話し始めると、最初は興味津々といった様子で話を聞いていた彼も、だんだんその眉間に皺を寄せて困ったように笑います。
「まさか、俺にその役をやらせようって腹じゃねえだろうな」
「いえ、そんなことは」
私は静かに首を横に振りました。「誰か紹介していただけると助かるなあと思いましたので」
「紹介?」
「はい」
「人間の男を強姦する役目のために?」
「はい」
「あっさり言うねえ」
シーザーはくくく、と笑ってから首を傾げます。「ま、声はかけてみるけどよ、あんまり期待すんなよ」
と、彼は言って辺りにいた獣人たちに声をかけて集めました。そして、魔王様のご命令で人間を強姦しなくてはならないことを伝えたところ、獣の姿だった彼らの間にも、興味を示す者が数名。
「強姦? そりゃいいけど美人?」
そう言ったのは獣人の中でも巨体である男性で。
私は笑顔で「美人というか……見方によっては美形というか。早い話が男性なので」と言った瞬間、その獣人のぴんと立っていた耳が垂れ下がり、尻尾まで力をなくして地面に落ちました。ま、そりゃそうでしょうねえ。
集まった獣人たちも、一気にこの話に興味が失せたような表情になって、しかしどこか諦めたような口調でそれぞれが言い合います。というか、役目をなすりつけ合います。
「お前、最近女とやってないって言ってたじゃん。顔さえ見なけりゃ大丈夫だって」
「馬鹿か、男の身体は硬いぞ! 柔らかい胸がないぞ!」
「人間の女だって、胸がほとんどないヤツだっているじゃん。大丈夫大丈夫」
「じゃあお前行けよ。俺はやだぜ、股間に余計なモノがぶらついてるのを押し倒すの」
「俺だってやだよ。いくら美形だって、なあ?」
と、どうやっても誰もその役目を受けたがらない様子。
シーザーも苦笑混じりに私を見つめ、「どうすんだ」と訊いてきました。そう言われましても、私も返事に困ってしまってぼんやりとしているだけでした。
やがて、シーザーが笑みを消して真剣な眼差しを私に向けてきました。
「で、何があったのか教えてもらえるのか?」
「何がですか」
私も真剣な表情で訊き返すと、シーザーが薄く微笑みます。
「以前のお前と、魔力の力が違いすぎる。この前会った時は、別人だと思った。話し方も何もかも。でも今は少し、以前のお前に近づいたような気もする。何が原因だ?」
「それは」
私は一瞬、誤魔化そうかと思いました。
彼の問いを全てはぐらかして、何もなかったことにしようかと。
元々、彼は魔物であり、私と同じ立場の存在です。記憶を取り戻した直後は、私も怒りに囚われていたせいか、彼にも冷たく接したような気がします。でも、我々は確かに仲間で、今自分が落ち着いて見ると、あれは八つ当たりだったと思わざるを得ません。
「記憶が戻ったんです」
やがて、私は正直に言いました。「昔の記憶が戻ったら、封じていた自分の力も戻ってきた、ただそれだけです」
「封じていた?」
「あまりにもつらい記憶だったから、夢魔に悪夢ごと記憶を引き取ってもらいました。記憶のない私は……多分、本当の私ではなかった」
「そうかね」
シーザーはしばらくの間考え込み、ぼりぼりと頭を掻きながら言うのです。「記憶なんてあってもなくても、そいつの本質ってのは変わらんだろう。所詮、お前はお前で……でも、記憶のない時の方が悩みがなさそうで楽しそうだったがな」
「失敬な。それじゃまるで私が馬鹿みたいな……」
と、笑いながら反論しようとして、その笑みが強ばります。
記憶がなかった時の方が、確かに悩みなど無縁だったと思います。魔王様にただ従って、そばに控えているだけでよかった。人間に対する憎悪なんて何も関係がなかった。
「でも確かに、幸せだったのかもしれません」
私はやがてそう認めました。
胸の内に残る、大きな傷。前の魔王様を失った時に受けた傷。それはまだ塞がってはいません。この胸にある大きな喪失感は、きっとこれからも消えることはないのでしょう。たとえ、何があっても。
「でも、私はこれでいいんです」
そう小さく呟いた時、獣人たちが何やら騒ぎ始めました。
「戦って負けたヤツが強姦ー!」
と、いきなり戦闘態勢に突入した彼らを見て、シーザーも私もただ笑うことしかできませんでした。
戦うのが好きな種族ということもあって、何が戦闘の原因になったとしても、彼らは楽しんで一対一の戦いに挑んでいるようでした。しかも、長引きそうな雰囲気です。戦っている二人を囲むようにして、他の獣人たちが戦いをけしかけるかけ声を上げます。それは、とても楽しそうなものでした。
結果が解ったら声をかけてもらえればいいと結論づけ、私はその場を離れました。他に誰かその役目をやってくれそうな者はいるだろうか、と考えましたが、元々私には知り合いなど数えるくらいにしかいません。シーザー、夢魔、そしてラース。
ラースは多分、こんなことに興味などはないはずで。
そして彼は、いえ、私は。これからどうやって彼と接したらいいのだろう。私は多分、彼に対しても八つ当たりを繰り返してしまうに違いありません。だって、彼は。
ぼんやりとしたまま城内を歩き、城の裏庭にある森の奥へと足を踏み入れた時、私は聞き慣れた声を聞いたのです。
「本当にいいのね? いいと言ったらさっさと始めるわよ?」
それは夢魔の声でした。
森の奥、薄暗いその場所で、夢魔は誰かと話をしているようでした。
私は足を止め、このままだと会話を立ち聞きしてしまうと思い、彼に知られぬようにそっとその場から離れようとしました。
しかし、それに続いた声を聞いて、足を動かすことができなくなりました。
「いい。手っ取り早く済ませてくれ」
その声はラースで、どこか苦しげでもありました。
私はいつの間にか、そっとその声に近づいていっていました。彼らに気づかれぬように、息を殺して足音を忍ばせて。
すると、遠くに見えた彼らの姿。私が木の陰に立って見つめていると、夢魔の右手がラースの顔の前にかざされます。それから、いきなり輝き出すその指先。
ラースがそっと目を閉じて息を吐き、夢魔の輝く指がラースの額に触れました。途端に指先の光が辺りに弾け、気がつくと球体の光が夢魔の手のひらの中にありました。夢魔はそれを見つめ、うっとりと何事か呪文らしき言葉を呟きました。拳大くらいだった光の珠は、あっという間に小さくなっていき、小さな輝く石となって夢魔の服に仕舞われてしまいます。
「いいコレクションになりそうね、ありがと」
夢魔はそう呟いた後、くるりと身を翻しました。途端にその場からかき消える姿。
そして、その場に残されたのは目を閉じたままのラース。
彼はしばらくの間、身じろぎもしないままでそこに立っていました。
そして、やがてそっと目を開けた彼の双眸には、今までとは違う輝きが宿っていたのです。
記憶。
彼も記憶を捨てたのだ。
私はそう理解すると、なぜか胸が突かれたような気がしました。
その理由など解りません。そう、解らない。
ラースはしばらくの間、困惑したように辺りを見回していました。それから、ゆっくりと自分の手を見つめ、おもむろにその手を上げて近くにあった木に当てました。
途端、鈍い音がしてその木が激しく燃え上がりました。
一瞬だけ、驚いたような色がその瞳に浮かんだ後、彼はまた別の木に手をかざすのです。すると、空気を切り裂くような音と一緒に、粉々に弾け飛んだ大きな幹、飛び散った緑の木の葉。
「悪くない」
ラースは楽しげに笑った後、ふとその手を自分の頬に当てました。
そして、自分の顔の形を確認するかのように撫でた後、片方の顔を覆っている仮面に手をかけました。それを外してしまうと、その下から現れたのはまるで火に焼かれたかのような引きつった傷跡。
私は見てはいけないものを見てしまったような気がして、目をそらそうとしました。しかしその前に、ラースは傷跡に触れた手のひらに力を込めて。
ラースの唇から聞こえてきたのは、私も知っている呪文。
治癒の魔力でした。
あっという間に、ラースの顔にあった傷跡が消えていきます。そして、現れたのは傷跡一つない、精悍な顔立ちの彼で。
彼は綺麗になってしまった頬を撫で、満足そうに目を細めます。それから、片方の手に持ったままの仮面を見下ろし、それを投げ捨てようとして、急に思いとどまって何事か考え込みます。そして、傷のない顔を隠すために、もう一度それを身につけたのです。
そして、その目が急に私に向けられて。
木の陰に立っていた私を、彼は鋭い眼光を放つ瞳で見つめ、やがて何の感情も含まない声で言いました。
「何を見ている」
何て応えるべきだったのか。
私はただ無言で彼を見つめていました。すると、彼がつまらなそうに鼻を鳴らし、乱暴に髪の毛を掻き上げました。それは、私が今まで見たことのないラースの冷徹な横顔でした。
そして、辺りをもう一度見回した後、短く訊いてきました。
「ここはどこだ」
「魔王様の城の庭です」
「魔王様、ね」
ラースはそう呟いた後、じっと何か考え込んでいました。そして、困惑したように笑った後、何も言わずに私の横をすり抜けて歩いていってしまいました。私はその彼の背中を見送り、やがて小さなため息をこぼします。
これでいいのかもしれない。
彼が過去を捨てることを選んだのなら、それが正しい道なのでしょう。
私はそう内心で呟き、しばらくその場に立ちつくしたまま、ぼんやりと天を見上げました。
中庭に戻ると、一人の獣人が項垂れている姿があり、その周りでは歓喜の声が。
「決まったらしいぞ」
シーザーが私の姿に目を留め、にやりと笑ってそう声をかけてきました。シーザーはどこか間延びしたような声で続けます。
「まさか決まるとは思わなかったなあ。若いっていいねえ。いやあ、同情する」
「同情……まあ、そうなんでしょうけども」
私もそう頷いてから、獣人たちの中央で耳と尻尾を垂れている『彼』に声をかけました。「早速、一緒に行っていただいてもよろしいでしょうか?」と。
すると、彼は何とも情けないような目つきで私を見やり、「もう?」と切なげに言います。可哀相に。
「はい」
私は心からの笑顔を彼に見せ、彼の心にトドメを刺したのでした。
「まいいや、行ってくる」
獣人は諦めたのかあっさりと頷き、周りにいた皆に手を振ってやけくそのように叫びました。「英雄になってくるー!」
すると、「頑張れー」とか「負けるなー」とか、お気楽な返事が辺りから。本当に可哀相に。
獣人はやがて、人間の姿へと変身しました。
私の横に立っていると、その肉体がゆっくりと小さくなっていきます。ふさふさとした毛が消えて、鍛えられた『人間の肉体』といった感じの彼は、世間一般的に言えば『美丈夫』といっても間違いではありませんでした。でも、どこかワイルドな感じのする男性。
赤銅色の髪の毛は、ばさばさと逆立っています。意志の強そうな眉と、わずかに垂れた目尻。笑うととても親近感をわかせる顔立ちをしていました。
そして彼は、獣人の姿から人間の姿になったばかりということもあって、全裸でした。だから、その隆々とした筋肉が何もかも見えて、私は凄いなあ、と素直に思っていました。さすがに、毎日鍛えているだけあって凄い、と。
「悪い、ちょっと待っててくれ」
彼はその姿を恥ずかしがる様子もなく、堂々と近くの木陰に歩いていき、そこに投げ出してあった服を身につけて大きく伸びをします。それから、彼は私のところに戻ってくると、一緒に歩き出したのです。魔王様の城内を出て、勇者たちがいるだろう村へと向かって。
「あんた、魔王様のそばにいつもいるヤツだよな」
やがて、彼は頭を掻きながら言ってきます。
私はその問いに無言で頷き、だから? と言いたげに首を傾げて見せます。すると彼は随分と開けっぴろげに笑いました。
「俺はギルバート。あんたは?」
「シェリルです」
「そうか、よろしく」
彼が手を差し出してきたので、一応握手をしておきます。ギルバートと名乗った彼は、とにかく明るい性格のようです。歩いている間、何かと話しかけてきたのですが、そのどれもがどうでもいいような日常の笑い話が中心。
そして、今回の役目に関しての会話になった時には、さすがにその表情を曇らせました。
「さすがの俺も男を強姦したことはないなー」
と、頭を掻いています。
「女性だったらあるのですか?」
と私が訊けば、彼はさらに苦笑しました。
「いや、俺、女の子には優しいから和姦しかしない主義」
「じゃあ、今回のこの役目はどうやっても無理では……」
「ま、仕方ねえ、負けてしまったからにはやらなきゃなー」
「潔いんですね」
私も苦笑を返すと、ギルバートは何度も頷きました。
「確かに皆に比べると、俺は若いしまだ肉体的にも弱い」
「ああ、そうなんですか」
「しかし!」
彼は拳を振り上げて叫びます。「格好良さでは負けてない!」
「……」
ああ、変な性格をしている。
遠い目をしながら聞き流していると、彼はさらに続けました。何だか私が聞いていようと聞いていまいと、気にしてなさそうです。
「仲間内でも見た目では上の方だし、女の子を口説いたらほぼいける! なぜなら俺は格好良いから!」
……厄介なのを連れてきてしまったような気がします。うん、シーザーを恨んでおこう。
「でも男を口説いたことも口説かれたことも、ましてや強姦なんてしたことない。俺、今、すっげえピンチじゃね? そりゃ、魔王様の願いだってんだからやるよ、そりゃあやるけどよー」
「あーはいはい、頑張って下さい」
面倒だったのでそう流すと、ギルバートが私の肩を掴んで「聞けよー」と前後に揺らしました。でも、ちょうど我々は森を抜けて明るい一本道に出たところだったので、あっさり話を変えたのです。
「あれがおそらく、勇者たちがいる村です。一気に行きましょうか」
そう私が言った瞬間、さすがにギルバートにも緊張が走りました。その表情に真剣なものが浮かんで、唇から笑みが消えました。私は自分の銀色の瞳を隠すために、マントのフードを引き上げて目深に被ります。
そして、我々はその村に歩いて入っていったのです。
勇者の姿を見つけるのは難しくはないでしょう。何しろ、ここでは彼らもよそ者です。村の人々の様子を見ていれば、何となく彼らの興味が向いている方向が解ります。奇妙な来客たちのことに意識が向けられていましたから、我々もすぐに向かうべき方向が解ったのです。
「ギルバート」
私は勇者たちに向かい合う前に、彼の腕を掴まえて言いました。「あなたが襲わなくてはならない相手は魔法使いです。おそらく、彼はかなり抵抗すると思いますし、何をしてくるか解りません。なので、私はあなたを守るための仕掛けをしておきましょう」
「守るって」
ギルバートが馬鹿にするなと言いたげに眉を顰めました。「俺は誰かに守られるほどヤワじゃないつもりなんだけどな」
私は彼が不満そうにしているのを理解しつつも、問答無用で彼に防護のための術をかけておきました。掴んだ彼の右腕を見下ろして、魔力をそこに集中させます。すると、銀色の腕輪が彼の手首に巻き付きました。
「人間がしかけてきた魔法を跳ね返す力を持っています。ただ、それが強力な魔法なら保って一度きりの防護壁にしかなりません。よろしいでしょうか?」
「よろしいも何も、もう勝手に俺につけてるじゃん。訊く必要があんのか」
「そうですね」
難しい表情をしている彼を見つめながら、私は薄く微笑みました。「あなたの意見は必要ありませんでした。私はあなたをお守りしましょう」
「お前って変なヤツ」
やがて、彼は銀色の腕輪を指先で撫でながら、ため息をこぼしました。それから少しの間何か考え込んでいたようですが、すぐに肩をすくめて続けます。
「まあ、どうやらあんた……シェリルは強いみたいだから、放っておいても大丈夫そうだってことは解った。俺は俺でやらせてもらうよ」
彼はそう納得したようで、それきり黙り込んで歩き続けました。
そして、村の中央辺りにあった宿屋のそばで、彼らの姿を見つけたのです。クレイグとコンラッドは、その宿屋の前で今日はここに泊まるかどうか決めかねているようでした。何か言い合っている様子であったのですが、我々にはそんなこと関係ありません。
「彼らです。あの魔法使いを……その」
と、私がギルバートを見やると、彼はすぐにため息をこぼして頷きました。彼の口の中で、ぶつぶつと何か呟かれるのが解りました。
「まあ、見事に男だわな」
とか。
「顔はまあまあだし、細い方だし、でも、問題は俺のアレが勃つかどうかってだけで」
とか。
結構切実な問題もギルバートは抱えているような気もしましたが、私が気にしてもどうにもなるものではありません。それは彼自身に解決してもらわねばなりません。
目下の問題は、どうやって彼らと接触するかですが――。
と、私が考えている間に、ギルバートはあっさりと彼らに近づき、快活な笑顔を向けて手を上げました。
「よう、今、ちょっといいか?」
声をかけられて、彼らは驚いたようにギルバートに視線を投げます。そして、見覚えのない男性であると理解すると、わずかに警戒したように目を細めて見つめてきました。
しかし、辺りはまだ陽は高く、人通りの多い場所。長閑な村の光景。
彼らもそんなに緊張感を保ってはいなかったのだと思います。
だから、ギルバートが明るく笑いながら次の台詞を言った時、まるで時間が止まったかのように動きを止めたのだと思います。
確かに、私も思考停止してしまいました。
ギルバートはコンラッドを指さし、大きな声で言ったのです。
「魔王様にあんたを強姦するように言われてきたんだけど、どこでやられたい?」
と。
……全くもう!
私が頭痛を覚えてその場に座り込み、頭を抱えていると、一瞬遅れてコンラッドの声が聞こえてきました。
「ふざけるな!」
そう叫んだ口調には、余裕など感じられません。
目を上げると、クレイグが腰に下げていた剣を鞘から抜いたところでした。
大通りの真ん中で、なぜこんな目立つようなことをしなくてはならないのでしょうか。私のイメージする強姦とやらは、たとえば裏道の人通りの少ないところでとか、えーと、えーと。
「落ち着けよ」
ギルバートは、見る者を魅了する力を持った笑顔を浮かべ、肩をすくめて見せます。大声を上げたコンラッドに目を向けた村人たちはいましたが、ギルバートの風貌がとても人好きのするものでありましたから、誰も話の内容に注意を向ける人はいませんでした。まさか、こんな会話をしているだろうということも、そしてギルバートが本当は人間ではないということも、誰も感じ取れずに通り過ぎていったのです。
緊張していたのは、コンラッドとクレイグ。
ギルバートは相変わらずの笑顔のままで言いました。
「まず、話し合おうぜ」