それは凄まじいまでの圧迫感でした。
じりじりと進んでくるラース自身。熱くて、彼の指とは比べ物にならないくらい大きくて、そして怖かった。
怖かったから、ただ私はラースにしがみついて唇を噛み、悲鳴になりそうな声を押し殺します。
ラースの吐息がすぐ近くで聞こえて、少しだけほっとします。彼も苦しそうで、でもその苦しさを和らげることができる方法なんて何も知りませんでした。
「……いいぜ、シェリル」
彼が私の耳元にキスを落とし、そっと囁きます。
――それは本当だろうか。
それなら、いいのだけれど。
何とか目を開けてラースを見上げると、彼の目元が少しだけ上気しているのが解りました。それがとても色気を感じるものだから、胸が苦しくなりました。
そうしている間にも、彼がゆっくりと腰を動かして。
呼吸すら忘れるくらい、ただ唇を噛んでいると。
「全部、入ったな」
彼が小さく言いました。
彼が何を言っているのか解らず、それを聞いても身体を震わせることしかできずにいました。すると、ラースがそっと笑って私の手を――右手を掴んで唇を寄せ、指先にキスしてからそっとそれを私の下半身の方へと引っ張って。
「根元まで飲み込んでる」
彼がそう言いながら、結合部分に私の手を、指先を導いたのです。
「く、う……」
それは何て生々しい感触だったろう。
彼の熱いモノと、それを飲み込んでいる場所。ぬるりとした感触が指先に伝わった瞬間、私は自分が理解できる範囲を超えた、と思いました。
頭に血が上る感覚と、この場から逃げ出したくなる思いと、何もかもがぐちゃぐちゃで解りませんでした。
そんな状態で、ラースはつながった部分――私のそこに触れてゆっくりと指を滑らすものだから、とうとう堪えていた声が上がってしまいました。
「や、駄目、ラース……!」
ただでさえ彼自身を受け入れることだけで精一杯だったというのに、そのくすぐるかのような彼の指先の感触に、私は悲鳴を上げつつ全身を――そして彼を受け入れている場所を痙攣させました。
そんな状態で、ゆるゆると始まった抽送。
彼のモノがゆっくりと引き抜かれ、また最奥へと突き入れられる。
何て表現したらいいのかも解りません。
彼自身の先端、その括れた部分。それが私の内部を変な風に擦りあげ、引き抜かれて楽になったかと思えばまた押し広げられる。
最奥にまで彼のモノが到達するたびに、私は悲鳴じみた声を上げました。これはどうやっても我慢することができず、気が付けば私の目尻に涙が浮かんでいると気づきました。
痛くはない。でも、どこかもどかしくて苦しい。
「あ、あっ……」
掠れた声が繰り返され、やがてラースが熱い吐息を吐いて少しだけ動きをとめます。
「……もう少し、力を抜いてくれ。じゃないと、俺がそんなに長く保たん」
「……う……」
そんなことを言われても、どうにもならないことがあります。
結局、私が身体を強張らせたままでいると、ラースが「すまん」と言いながら激しく突き上げました。
その途端、でした。
自分の喉から今までとは違う悲鳴が。嬌声が。
「や、や……!」
自分の口を押えたらいいのか、それともラースをはねのけたらいいのか。
私の身体の奥に、何か変な場所がある。
ラースが乱暴に突いた先に、酷く敏感な場所が。
背中から足の爪先まで、痺れたような衝撃が走って、それがあまりにも……あまりにも。
自然と私の身体がラースから逃げようとしていました。彼を押しのけて、『その場所』に触れてもらいたくなくて、本能的に身体を引いて逃げようとしました。
でも、ラースの腕がそれを許してくれませんでした。
私の身体を抑え込み、さらに激しく突いて、私の身体が跳ねました。これ以上はないというくらいに、ぎゅうぎゅうと彼を締め付けています。
「やだ……や、駄目、ラース……」
「厭じゃ、ないだろ」
私の頬にかかる彼の吐息が熱い。
その腕も、触れる場所、全てが。
「すげえ、きつい。……シェリル」
その声すらも。
何もかもが熱を帯びていて。
私の男性器も、ただ熱くて。私の中にあるラース自身は、もっと……。
「……もう、やだ……」
完全に私の声は泣き声そのもので、涙もとめることができません。彼の腕から伝わる体温は気持ちいい。触れている肌も、このまましがみついていたいと思います。
でも、どうしても私の身体の中が。今まで知らなかった痺れるような感覚が。ただ怖くて仕方なくて、必死に彼の胸を両腕で押しのけようとしているのに。
ラースは微かに呻いた後、また乱暴な動きを再開させました。
「俺のものになると、言ったろう?」
彼の声も僅かに掠れていました。
それ以上に、私の声も女性のような変な声で。こんな声が出せるなんて、初めて知りました。
勝手に彼から逃げようとする自分の身体。確かに私は、ラースに言いました。あなたのものになりたい、確かにそう自分から言ったはずなのに。
自分で考えていたよりもずっと、彼との行為は……。
「あ、あっ」
強烈な快感。
喉が震えるのがとめられず、全身が痙攣してしまう。
今にもおかしくなってしまいそうなのに、身体だけがどんどん高みへと追いやられていく感覚。
いつしか、彼の身体を押しのけようとしていた私の腕は、彼の背中に回っていました。必死にしがみついているうちに、彼の与えてくれる快感が私の思考能力すら奪っていきました。
どんなに唇を噛んでもこらえきれない嬌声と、執拗なまでに私の感じる部分を突いてくる彼と、激しく軋むベッドの音。
何もかもがどうでもよくなった時。
私は自分でも思い出したくなくなるだろう声を上げ、彼の背中に爪を立てて絶頂を迎えました。一瞬遅れて気づく、私の中に広がった熱。彼とつながった部分に、何かが叩きつけられたかのような感触。
彼も達したのだ、と気づいて自分の顔が熱くなりました。
その時、私はただベッドの上で虚脱状態で、身体のどこにも力が入れられませんでした。急に思い出した羞恥心のためにラースのことを見ることもできず、ただ首を捻った状態で壁を見つめ、そのまま目を閉じようとして――。
また、ラースの動きが再開されて、私は唇を震わせました。
「……もう……」
無理、と言いたかったのに、もう彼は私の弱いところを見抜いていたから、いとも簡単に私を泣かせるのです。そして私は、急激に高められた快感の波に呑まれて続きの言葉も口にできませんでした。
「なあ、シェリル」
ラースの声が酷く遠くに聞こえました。「おそらく、俺は嫉妬深いぜ。だから、諦めろ」
「あ……う」
「何があっても、逃げようなんて思わないでくれ」
逃げようなんてそんなこと、思ったりなんかしません。
そう言いたくても喉は震えるだけで何も言えませんでした。彼が私を押さえつける力は強く、そして――。
「ああ……っ、もう……」
さらに迎えた絶頂は今までよりもずっと激しく、そして強すぎる快感に意識すら押し流されていきました。
それは深い眠りでした。
こんなに――夢すら気配を感じさせぬほど、暗い眠りの中に沈んだのは初めてだったかもしれません。
目が覚めた時、目の前にラースの顔があって思わず声を上げそうになりました。それほど広いとはいえないベッドに身を寄せるようにして眠っていたようで、私の頭はどうやらラースの腕に乗っていました。
に、逃げるべきでしょうか。
私は瞬時にして羞恥による血の逆流を全身に覚えて、身を強張らせました。何というか、のたうち回らずにはいられない、そんな感じで。
眠っているラースを起こさないように、じりじりと身体を起こして辺りを見回します。すると、床に散らばったままの私の服が見えるものですから、裸のままの今の私を余計に意識して頭がおかしくなりそうでした。
あんなに……あんなに、気持ちいいなんて。
ラースに抱かれるということが、あんなにも嬉しく感じるなんて。
でも、どうしても恥ずかしくてたまらない。
私は音を立てないようにしてベッドから降り、服を拾ってそれを着ようとしたとき、背後からラースの「よう」という声がかかって飛び上がるほどに驚きました。
「あああああ、あの」
私は慌ててラースの方を見やり、言葉を探します。「起こしてしまいましたか、すみません!」
すると、ラースはベッドに身体を横にして肘枕で寝ながら、小さく笑いました。
「いいから落ち着けよ」
「いや、あの! すみません!」
私は視線を宙に泳がせつつ、呼吸を整えようとしました。目の前にいるラースは当たり前ですが全裸で、鍛えた身体とか、その筋肉の流れとかが酷く男性的な色気があって。見ていると変な気分になりそうで、私は別のことを頭に思い浮かべようとしながら言葉を続けます。
「もう、朝みたいですね」
窓の外はとても夕方とは思えない白っぽい光で覆われています。鳥の鳴き声も、毎朝の雰囲気そのままです。
「ええと、食事に……あああああ、グラントのこと、忘れてました!」
私はそこで頭を抱えました。そういえば、一緒に食事をしようと言ったはずだったのに。きっと、待っていたでしょう。彼のことだから。
「ああ、あの毛玉か」
「毛玉……」
私はそこでラースに視線を戻します。すると、ラースは少しだけ不機嫌そうに眉根を寄せ、私を睨みつけます。
「あいつのことは一度お前に話そうと思ってた」
「え?」
「子供だと思っていても、ああいうのはすぐ大人になる」
「は?」
「だから、釘を刺しておけ」
「ええと、何がでしょうか」
私は困惑してラースの顔をまじまじと見つめました。ラースの双眸にだんだんと剣呑な色が浮かんできているのも解ります。
ラースはそこで身体を起こし、ベッドの上で胡坐をかきました。
……あの、その恰好は……どうかと思いますが。いえ、別に似合っているんですけどね、でも。
「こいよ、シェリル」
彼は小さく苦笑すると、私に軽く手を伸ばしました。「もう一回やろう」
「えええええ、でも」
「厭なのか」
「え、そうじゃなくて! あの」
「シェリル」
ううう。
私はやがて、彼のそばに歩み寄りました。手にしていた服は、ラースに奪われてそのまま床の上へと放り投げられてしまいます。
「あいつがお前に惚れると困るんだよ」
ラースは私の腰に手を回し、ゆっくりと背骨の辺りを撫でます。微かな感触なのに、ぞくぞくした何かが腰から伝わってきました。
「惚れる……なんてこと、ないですよ」
私は小さく返しました。「彼は弟みたいな立場ですから、あ」
背中からゆっくりと降りてきた彼の指が、散々昨夜いじめられた場所に潜り込もうとしてきたから声が跳ねてしまいます。
「弟と思ってるのはお前だけさ。その辺り、鈍いんだよな、お前は」
そこでラースは私の腰を乱暴に引き寄せ、自分の上に乗るようにと促してきます。でも、私はラースの……その、座るようにと促された場所にある――彼自身が気になるわけで。
ラースは無理強いはしませんでした。
私が全身を羞恥によって赤く染めていくのを楽しげに見つめ、ただ私が動くのを待っています。
だから、私は彼から顔を背けつつ、ゆっくりとベッドに膝を乗せ、彼の身体の上に乗りました。
――あああああ、もう!
ラースは「優しくする」と言いました! でも、全然優しくない! いえ、優しいのかもしれないけど意地悪なんです!
昨夜の行為だけで頭の中がめちゃくちゃになっている私に、まだこれ以上のことを求めてくるなんて酷いと思います!
でも。
「あ……」
彼のモノが私のそこに触れた瞬間、声が漏れてしまいました。
その声には期待など入っていなかったと信じたいです。ただ、くすぐったかったから。きっとそうです。
「あの毛玉の前でやってみるか?」
「え?」
「セックス」
「ちょ」
「本気だぜ、俺は」
そう言って、彼は私の腰を押さえつけてきました。気が付けば彼のモノはさっきより硬度を増しているようで、当たった場所の熱さも、昨夜の行為そのままでした。そして、彼の腕によって沈められていく身体、じわじわとそれが入ってくる感覚。急激に全身に伝わっていく快感。
「お前は俺のものだとはっきりさせておかないとな」
そこで、乱暴に彼が腰を揺らしてきて、私は彼にしがみついて呻きました。
もう、はっきりしていると思う、のに!
とても朝とは呼べなくなった時間帯に、私は大広間へと向かいました。
散々ラースに苛められたのですが、魔物であり体力も人間とは比べ物にならない私は『身体がつらい』と嘘をついて寝込むこともできず、ラースの顔を見ないようにして廊下を歩くことしかできませんでした。
ラースの様子はいつもと全く変わらなくて、その余裕のある横顔が憎らしいと思います。
そして、大広間へと入ると目に入る、玉座に座っている魔王様の姿。
「……ギルド、か」
魔王様は手にした水晶玉を見つめ、眉根を寄せています。「勇者も元気なものだ」
私たちがそこへ近づいていくと、水晶玉の中にクレイグとコンラッドの姿があるのが見えました。どうも、今まで見た光景とは少し違う場所にいるようです。
彼らが長いこと滞在していた村とは違うように見えました。
行き交う人々たちの姿も、もう少し派手でありましたし、裕福そうな服装の人間が大通りを歩いています。
さらに、ギルド……。
石造りの巨大な建物が、魔王様がおっしゃったギルドというものなのかもしれません。たくさんの剣士たちがその建物に出入りしていて、雰囲気だけでも賑やかであることが見て取れます。
そこは仕事を求める剣士たち、魔法使いたちが集まる場所。どうやらクレイグたちのそばには、以前一緒にいた神官の姿はないようです。
「どうも気に入らんな」
魔王様はそこで玉座から立ち上がり、うろうろと辺りを歩き回りました。「ギルドというのは血気盛んな男たちが出入りする場所だ。私が勇者を犯す前に、他の男に犯されたらどうする!」
――相変わらずですねえ。
私は思わず遠い目をしつつ、小さく唸ったその瞬間。
「よしお前、様子を見てこい!」
と、魔王様の白くて長い指が私に向けられました。
「ええ?」
「勇者の尻を守れ!」
――守りたくないなあ。
思わず額に手をおいてため息をこぼすと、隣でラースが快活な様子で言いました。
「俺もシェリルと一緒に行ってきます。お任せください」
「よし!」
「あ、じゃあ、俺も行ってきます!」
と、そこに新しく声が響きました。聞き慣れているその声は、ギルバートで。凄まじい笑顔を浮かべつつ、尻尾が左右に元気よく振りつつの登場でした。
もう、厭な予感しかしないわけですけども。
もの凄く面倒だなあ、と思いつつも、何だか空気が軽くて楽しくも感じる、そんな午後。
魔王様は今日も相も変わらず元気で。変態で。
でも、それが嬉しいと感じるのは面白いものだなあと感じたりもしました。
◆END◆