本日の魔王様 番外編1-11


 目が覚めた時、真っ先に目に入ったのはいかにも裕福な屋敷の天井、といったものだった。
 白い天井板には細かい模様が入っていて、それが光を反射して光っている。
 身体が動かない、と思って焦ったものの、意識を集中させればゆっくりと上半身を起こすことができた。柔らかなベッドの感触に困惑しつつ辺りを見回そうとすると、ベッドの脇にあった椅子に座っている男の姿に気づいて息をとめた。

「……よう」
 そう声をかけてきたのはハルで、ぎこちなく微笑んで俺を見つめていた。椅子に座ったまま緊張したように身じろぎし、やがて小さく溜息をつく。
 ――ハルか?
 それとも中身は――と考えつつ何か言おうとして、俺は唇が動かないことに気づいて眉を顰めた。
「お察しくださいってやつだなあ」
 ハルはそんな俺を見ながら肩をすくめて見せる。「お前に余計なことをしゃべられても困るってことだ。しばらく大人しくしてれば、クリスト様だってもう少し待遇をよくしてくれるかもしれないよ」
 ――ハル、か。
 俺はただじっと彼を見つめた後、その部屋を見回した。
 広い部屋だった。
 ベッドの他にはサイドテーブルと椅子くらいしか置いてなかったが、空間が余り過ぎといっていいくらいに広い。続き部屋らしいものも見える。書斎なのだろう、魔法書らしきものが詰まった本棚と、机と椅子。
 大きな窓、そこから見えるバルコニー。外は陽が高いらしく、部屋の中に差し込む光の強さがまぶしかった。
「リィンの部屋だよ」
 ハルが俺の視線を追って顔を動かし、静かに言った。「考えてみりゃ、結構待遇いい方かな? 何しろ息子の代わりなんだし」
 俺はハルに視線を戻しながらも、唇が動かないという状況を忌々しく思った。
 訊きたいことはたくさんありすぎた。
 何とか俺は自分の口元に手を持っていくと、そこに何らかの魔法がかけてあるのかと探ろうとする。しかし、何も魔法らしき気配は感じない。
 身体を動かすのは、何とかなる。
 それでも、頭で命令すれば身体がそれに従う、といった感じだ。反応するまで多少の時間差ができる。それが酷くもどかしく、苛立ちが募る。
「……なあ、コンラッド」
 ハルが僅かに声を潜め、こちらに少しだけ身を乗り出してきた。
 ――何だ。
 俺が明らかに不快そうに表情を動かしたのが解ったらしく、彼はくくく、と笑い声を上げた。
「怖い人だ、なんて言ったけどさ。でも、身内には酷いことはしないと思う。だから、あんまり騒がないで欲しいんだよな」
 ――勝手なことを言う。
 酷いことはしない?
 じゃあ、これは何だ?
 無理やり連れてきたというこの現状は?
 一瞬、目の前にいるこの男を思い切りぶん殴ってやりたいという衝動に駆られたが、どうやらハルは俺の殺気に気づいたのか慌てたように身を引いて両手を軽く上げた。降参とでも言いたげだ。
「納得はできないだろうがなあ」
 ハルは両手を上げたままの恰好で情けなく眉根を寄せる。「一応、俺はあの人の弟子だし。恩があるから逆らうつもりはないよ。だから、当然だけどお前をここから逃がすこともしない。でもできれば、協力はしてもらいたいかな。お互い、上手くやっていこう」
 馬鹿馬鹿しい、と言いたかった。
 こんな状況で協力とは。
 つい、気が付けば俺の歯がきりきりと厭な音を立てていた。それでも、それ以上何もできなかった。
 ――くそ。

「……きたかな」
 ハルはふと、表情を引き締めて椅子から立ち上がる。すると、目の届かない場所でドアが開くような音がした。
 そして、書斎らしき部屋の方から、若い男性が現れた。
「体調は?」
 そう、彼が口を開いた瞬間、俺は眉根を寄せた。

 クリスト、俺の実の父親の声。
 ハルの身体を操っていたときに聞こえてきていた、『クリスト』の声だった。しかし、目の前にいる男性は若すぎた。
 黒い髪の毛に黒い瞳。痩せ形で背が高い。
 整った顔立ちは、認めたくはなかったが俺に似ていた。正直に言えば、俺よりもずっと目鼻立ちが華やかだとも言える。一挙一動、何もかもが人間を惹きつける雰囲気を持っている。
 だが――見た目だけではまだ三十代……いや、見ようによっては二十代後半にも思えた。俺とそれほど年齢が違わないようにすら見えるのは、ああ、そうか、魔物の血なのか。
 ああ、そう、か。
 俺は何となく、自分が殴られたような衝撃を受けて息を呑んだ。
 こいつは、人間じゃない、んだ。
 そして『これ』が、俺の父親。

 ――黒い、魔物。

「顔色はそれほどよくないな」
 彼は苦笑し、俺の目の前に立って笑う。俺はその場に硬直したまま、彼を見つめる。相変わらず唇は動かず、それでも後ずさろうとした瞬間、彼の手が俺の頬に添えられた。
 それは拒否反応だった。
 俺が考えるよりもずっと早く、俺の右手が彼の手を振り払う。
 一瞬だけ、彼が驚いたように俺を見つめ、小さく声を上げて笑った。
「意外だな。動けるとは」
「ち、が」
 俺は必死に声を上げようとした。掠れた声が絞り出されるかのように喉の奥で生まれたが、とてもそれは言葉にはなりそうになかった。
「意外だよ」
 彼はもう一度そう繰り返すと、振り払われた手をゆっくりと伸ばし、俺の喉に触れた。
 呼吸が楽になった、と感じると同時に、俺の喉から声が出るようになる。
「……触られるのは苦手なんだ」
 そう言葉を吐き出してから、ゆっくりと後ずさる。しかし、気づけばベッドが背後にあって、それ以上下がることができなかった。
「一体、俺に何をした?」
 クリストを睨みながら、今度は左右どちらに動けばいいか、と頭の隅で考えたが、急にクリストの顔が目の前に移動してきたため、緊張で身体が強張ってそれどころではなくなる。
「薬と暗示。それだけで充分なのだよ」
 クリストは薄く微笑む。どうやら俺にはそれ以上触れようとはせず、ある程度の距離を置いた場所で足をとめている。
「薬と……暗示?」
 俺はちらりとハルへ視線を投げ、舌打ちした。「そういえば、そっちの男も薬を使うのが得意なようだ」
 ハルもさっき、何か怪しげな薬を飲み物に仕込もうとしたはずだ。
 さっき。
 いや、あれからどのくらい時間が経った?
 義父さんは……アリウス様はどうした?

「薬草学は得意分野でね」
 どこか探るようなクリストの声に我に返る。俺が改めて彼の方に観察する視線を戻すと、クリストは少しだけ首を傾げ、目を細めて見せる。
「アリウス様は君には教えなかった……かな。一応、アリウス様にも暗示はかけてみたんだよ。あれだけの魔法使い相手に、魔法では太刀打ちできないから賭けではあったけども」
「アリウス様にまで?」
「そう。こちらも追われては困るしね。できれば、君たちはあの村に大人しく引きこもっていて欲しかった。記憶の改ざんは簡単だったが、あまり魔法は使いたくなかったんだよ。何故なら、本人が魔法使いであれば、自分にかけられた魔法ならやがて気づくだろう。だから、薬と暗示というのは便利だったと言える」
 『あの』アリウス様が、そんな簡単に暗示にかかるだろうか?
 俺が唇を噛んで考え込むと、クリストは俺の考えを読んだかのように続けた。
「かかった振りだったかもしれないけどね。おそらく、私という存在は彼にとっては人生の汚点だ。もう、関わりたくなかっただろう。それが、君という存在を介してであったとしても、避けたかったかもしれない」
「汚点か」
 俺が鼻を鳴らすと、彼は穏やかに笑ったが、その笑みは間違いなく偽物だった。
「それに、君の存在は危険でもあった。幸か不幸か、君は魔法使いとしては優秀な血を引いてる。だから、必要以上に君には魔法使いとしての知識を与えたくなかった。薬草学もそうだ。アリウス様が君に教えたら、簡単にこんな暗示などとけたかもしれない」
「だから教えないようにした?」
 ――アリウス様に暗示をかけて?
 俺にはあまり薬草に詳しくならないように、と?
「どちらにせよ、その件についての話はもう終わりにしよう」
 彼はそう言って、僅かにその右手を挙げた。
 その瞬間。

 俺はその場に膝をついて唸り声を上げていた。
 見たことのない光景が、頭の中に次々に流れ込んでくる。
 知らない誰かの声、笑い声が耳の奥に響く。あらゆるものが一瞬で爆発したかのようだった。目の前が白くなり、何も見えなくなった。
 そして誰かが――クリストが俺の額に手を置いたのが解った。しかし、それを振り払うことなどどうやってもできず、俺はただ小さく悲鳴を上げた。
 目を覆う白い霧のようなものが消えると、すぐに違和感に気づく。
 俺の目を覆う髪の毛の色が違っていた。金色の前髪。
「リィンとやらの髪の色か」
 俺が掠れた声でそう呟き、ゆっくりと立ち上がると、クリストが静かに応えた。
「そうだ。それと、リィンの記憶の一部を移植させてもらった。身代わりとして勤まるくらいの仕掛けだよ。すまないが、君はしばらくの間、この屋敷に滞在してもらうことになる」
 ――本当にすまないと思っているんだろうか。
 俺は疑いの眼差しを彼に向けたが、彼の表情は全く変化しなかった。冷静さだけが目立つその瞳も。
「一緒にきてくれないか」
 彼はそこで僅かに苦しげに目を細めた後、軽くその手を動かす。
 すると、また俺の喉はぎこちない違和感を覚えた。また、唇が動かない。身体がさっきよりも重く感じる。
 まだ訊きたいことはたくさんあるというのに、頭の芯がぼやけたように曖昧になっていく。
「お前は下がっていい」
 クリストがそう小さく言うのが聞こえ、ハルのものらしき足音が遠ざかる。
 その後で、クリストが低く囁いた。
「こちらへ」
 俺の身体が自然とそれに従う。彼の命令を聞くのが当たり前だと言わんばかりに。
 それがとても悔しかった。

 リィンの部屋を出て廊下へと出ると、綺麗に磨かれた窓のある壁が目に入った。
 どこを見ても綺麗に掃除されているのが解る。
 クリストは無言でその廊下を進み、俺は必然的にその後を追うことになる。そして、クリストはある扉の前で足をとめると、軽くノックをした後に扉を開けた。
「エリーゼ」
 そう声をかけながら部屋の中へと入る。
 女性らしい調度品にあふれた部屋だった。それに、化粧品なのか、香水の香りなのか、柔らかな香りが漂っていることにも気づく。
 いかにも高級そうな化粧台、丸みを帯びたテーブルの足も、細かな彫刻の入った椅子の造りも、俺にはなじみのないものばかりだった。
「クリスト様」
 部屋の奥から、若い女性の声が聞こえてきた。
 そして、その声の主と思われる召使の恰好をした女性が静かに現れ、クリストに礼儀正しく頭を下げる。その顔が上げられた時、視線が俺に向けられて目が見開かれた。
「え、あの」
 明らかに驚愕しているその女性に笑いかけ、クリストが身振りで彼女に部屋から下がるように指示をした。その女性は何か不安げに見つめた後で、静かに部屋の扉を開けて出ていく。
 それを見送った後で、クリストはさらに部屋の奥へと歩いていく。
 そこは寝室だった。
 天蓋付きのベッドに腰を下ろしたまま、ぼんやりと宙を見つめている女性の姿が目に入る。
 召使がやったのであろう、綺麗に結い上げられた髪の毛は金色に輝いていた。
 年齢は四十代くらいだろう、僅かに目尻に小さな皺も見える。
「エリーゼ」
 クリストが彼女に近づいてその手を取ったが、何の反応も返ってこない。その目は何もない宙を見つめたまま、焦点すら合っていないのだ。
 しかし、クリストが彼女の手を握ったまま俺を振り返り、僅かにその唇を動かした。
 その途端、俺の唇も動く。
「……母さん」
 そんな言葉が自然に喉の奥から零れ出る。

「……リィン」
 それは痛ましいとも思える変化だった。
 俺の声を聞いた瞬間、それまで何の感情も映っていなかった彼女の双眸に、曖昧な輝きが浮かぶ。ぎこちなく彼女の顔が動いて、その柔和そうな顔立ちがこちらに向けられる。
 そして、笑顔が作られた。
「リィン、お帰りなさい」
 そう掠れた声で言った彼女は、ベッドから立ち上がろうとしてその足元が揺らいだ。倒れそうになった彼女をクリストが抱き留めたが、彼女――エリーゼという名前の女性はクリストの腕を押しやって俺の方へと駆け寄ってきた。ぐらつく足元、血の気のない白い頬、それでも彼女は確かに微笑んで俺を見上げた。
「お帰りなさい」
 そう繰り返し、その目が困惑したように俺の胸元へと向けられた。そのまま、彼女は何か探るように俺の胸に手を伸ばし、困惑した表情で首を傾げる。
「……怪我。怪我は?」
「大丈夫」
 また俺の唇が勝手に言葉を作り出す。
 エリーゼはしばらくの間、ぼんやりと俺を見上げたままだったが、もう一度その手で俺の胸をぱたぱたと叩き、やっと安堵したように息を吐いた。
「そう、そうなの。厭ね、何か夢でも見たのかしら」
 そこで彼女の笑みが強くなる。
 優しく、穏やかな笑顔。
 女性らしい香りが漂う。

 ――これが、リィン・キンケイドの母親。
 クリストの妻。
 裕福な家庭の……貴族の女性。
 俺は心の隅でそんなことを思う。
 そして、その女性の姿とクリストを見比べて思う。見た目の年齢の違和感が奇妙だ、と。

「クリスト?」
 そこに、知らない声が響いた。
 急に開けられた部屋の扉から、かなり年配の男性がノックもせずに入ってきたのだ。綺麗に撫でつけられた白髪、優しげな顔立ちではあるのに、その目だけは酷く鋭く見える。
「……後で話そう」
 その男性も、俺を見て驚いたように息を呑んだが、すぐに苦しそうに顔をしかめてクリストを睨みつけた。
 あまりいい雰囲気とは言えなかった。
 敵意なのか、不快感なのかは解らない。ただ、彼がクリストのことを――そしておそらく、これから彼がしようとしていることを歓迎していないことだけは理解できた。
 俺はただその場に立っているだけだった。
 そして、エリーゼという女性が必要以上に俺に触れようとしているのが解りながらも、それを跳ね除けることもできず、曖昧に笑うということしかできなかった。

「奥様のこと、安心いたしました」
 そう言ったのは、エリーゼの傍付きであるらしい召使だった。
 最初、エリーゼの部屋に行ったときにいた女性。二十代半ばで、真面目そうな目つきをした彼女は、食事が終わると安堵したようにクリストに頭を下げ、部屋の隅に下がって俺たちを見つめてきた。
 俺はその時、クリストによる暗示のせいなのか、ただ椅子に座って黙り込んでいるだけだった。
 広い部屋に置かれた長テーブルには、食事の乗った皿があり、それらのどれもが一般人には縁のないだろうと思われる高級食材を使ったものだった。銀色に輝く食器、精巧な造りの燭台、周りに控える召使たちの姿も、どこか現実味がない。
 テーブルについているのは、クリスト、エリーゼ、そしておそらくエリーゼの父親だと思われる白髪の男性。
 エリーゼだけは上機嫌で、笑顔を振りまきながら食事をしていたが、白髪の男性の表情は厳しかった。
「リィンも立派よね? 今度、お城に上がることになったのでしょう?」
 そんな父親の様子など目に入っていないのか、エリーゼは俺に向かって話しかけてくる。その子供っぽいともいえる笑顔に誤魔化されそうになるが、よくよく観察してみるとまだ目の焦点は僅かに合っていないようだった。
 何となくだが、もし彼女が普通の精神状態なら、俺のこともリィンとは別人だと気づくだろうとも感じた。今は普通ではない。狂気の中に生きているから、気づかない。いや、それとも、気づきたくないから狂気の中に沈んでいるのか。
「心配しないでください、エリーゼ。私が息子のことはフォローしますから」
 クリストも作り物めいた笑顔で彼女に話しかける。
 すると、エリーゼはぎこちなくクリストを見つめて僅かに首を傾げた。
「あなたが一緒にいるなら安心だけど……過保護だと言われないかしら」

 何もかもが偽物だ。
 目の前にある光景、そして人物。
 全てが嘘の上に成り立っている。

「クリスト、私の部屋にきて欲しい」
 突然、白髪の男性が食事の途中で立ち上がり、低く言った。
 クリストは若干緊張したように彼を見つめると、すぐに俺に『命令』を出した。
「君は部屋に戻って寝なさい。朝まで休んでいるように」
 その言葉が頭に入ってくると、どうしても逆らうことができずに自然と身体が動いた。椅子から立ち上がり、広間から出ていくように行動する。
 視界の隅では、エリーゼは召使に何か話しかけているのが解る。召使の女性は一瞬だけ複雑そうな視線を俺に向けたようだったが、すぐにエリーゼに礼儀正しく何事か返事をしたようだ。

 状況が全く解らない。
 リィンの部屋に戻って俺は手を握りしめた。爪が手のひらに食い込む感触すら、曖昧に思える。
 そのままベッドに歩み寄り、腰を下ろす。
 いつもとは違う服装の自分を見下ろし、これからどうすべきか――いや、どうなってしまうのかと思う。
 俺はクリストにとって、『駒』にすぎないのだろう。もしくはいいように扱える人形なのか。
 精神的に危ういエリーゼのそばに置いておくための存在?
 確かにそうなのだろうが、それだけではないような気もする。
 この際、ハルでもいい、話せれば何かもう少し解るかもしれない。クリストの狙いは何か、これから何をしようとしているのか。
 しかし、屋敷の探索どころかリィンの部屋すら出ることができない。
 ――俺は、魔法使いとしてはそれなりに強いと思っていたのに。
 こんな簡単に操られてしまうなんて情けない。

 俺の手は、リィンの服――手触りのいい布地であるから、きっと高級なものなんだろう――の喉元にかけられ、ボタンを外し緩める。僅かに呼吸が楽になったが、結局はそれだけだ。
 脱ぐという行為まではせず、俺はベッドに倒れこむようにして横になった。
 朝まで休んでいるように、というクリストの言葉通り、それ以外の行動は起こせそうになかった。
 ――くそ、くそ。
 こんなのは納得いかない。
 何とかしなければ。
 焦燥に駆られつつも、俺はただ目を閉じる。
 その時。

「へーい、お疲れ」
 と、急にどこからかお気楽な声が響いた。
 目を開けた瞬間、バルコニーの向こう側から素早くこの部屋に忍び込んできたらしい影が俺の身体の上にのしかかってきていた。
 反射的に声を上げそうになった。
 だが、その前に俺の口は相手の手で塞がれていた。
「助けにきたぜ、王子様」
 そう言って俺の上にのしかかっているのは、ギルバートだった。


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