求められるがままに口付けをしていた光伸だが、ふいに唇を離し要を軽く遠ざけた。
要は強い不安感に襲われ、口付けでうっとりとしていた表情が一変して陰った。
「そんな顔をするな。すぐに頭の中を快楽でいっぱいにしてやるから。」
それを求めていたのは自分だというのに、要は真っ赤になってうつむいた。
光伸は軽く微笑むと、片隅の無造作に転がっていた小瓶へと手を伸ばした。
「これを一口飲むといい。」
要は手渡された小瓶と光伸とを胡散臭そうに見つめた。
「あー、それは前に葡萄酒に混ぜたあの薬だ。何も考えたくないのだったら飲んでおくといい。無理にとは言わんが、今日の俺はどうかしているから、そのままやった後どうなっても知らん。」
「すみません。金子さんにお願いしたのは僕でしたね。」
要は蓋を開けると言われたとおり一口飲んだ。
薬だといわれなければそれと判らない甘みが口に広がり喉をすべっていった。
「もしかしてあの時の葡萄酒が甘くて美味しかったのは、これのおかげなのでしょうか...ぁっ......」
感想も言い終えぬうちに、火照りと疼きに身体が支配された。
「そうそう、薄まっていない分、前に飲んだものより強いかもしれん。」
「...金子さんっ！」
ニヤリと光伸は不適な笑みを見せた。


「場所が悪いな...。すまんが２、３歩後に下がってくれないか？」
要は思うように動かなくなり始めている身体を引きずるようにして後ろに下がった。
すると若干赤みを帯びていた頬が、窓から射し込む月光に照らされ更に妖艶さを増した。
要は明るさに目を細めながら文句を言おうとしたが、その前に制されてしまった。
「俺に任せたんだったよな。月明かりに映えて綺麗だよ。要。それじゃ、次は脱いでもらおうか。そろそろ熱くてたまらないんだろう？」
要は光伸を睨み付けたが、身体は言われたとおりの状態だった。
震える指で袴の紐を解き、肩から着物を滑らせた。
シャツの釦を外す際のわずかな布の動きですら、身体を煽ってならない。
それ以上に、少し離れたところで煙草を燻らせている光伸の視線が、要の羞恥と欲望を掻き立て更に芯を加熱していた。
ついに要の肌が月光にさらされても光伸はその場を動こうとはしなかった。
いたたまれなくなった要が光伸に訴えた。
「金子さんっ......もうっ...」
ようやく光伸が腰を上げ、シャツを脱ぎ捨て要の元へと行った。
「もう一声といったところだが、脱いでいる姿は中々に刺激的だったよ。そして今もね。」
座っているのがやっとの状態で、快楽に流されること無く震えながらも耐えている姿は、独特の色気があった。
光伸は要を床に寝かせると身体を舐めるように見つめた。
抱月が、かつては月村が残した紅い印が、罪人の刻印のように白い肌に焼きついている。
光伸はそれを指先でゆっくりと一筆書きのようになぞった。
「あっ......ん......」
要が身体を仰け反らせ、甘い声を漏らす。
光伸はわずかに顔をしかめると、自身の唇で要の唇を塞ぎ嬌声を閉じ込めた。
要の舌が光伸の歯列を割って侵入し求めてくるのが解った。
光伸は唇を離しそれを窘める。
「そんなに慌てるな。それとももう待てないのか？」
光伸は既に硬く立ち上がっている胸の突起を指先で軽くはじいた。
「ひっ...や......」
悲鳴に近い声を上げて要が跳ねる。
「どうして...そんな...に......意地悪するんですか！」
「さてね。要のいやらしい身体に腹が立ったからかな。」
光伸の唇が、手が、要の体中を弄り犯していくが、要の最も求めている場所には触れてこなかった。
薬の効き目と、自身の欲望とで、要の全ての感覚が開放を求めている一点に集中してゆく。
ふいに光伸の指先がそこに触れた。
「！！」
それだけで、待ち望んでいた快感が一気に全身を駆け抜け、要は熱い飛沫を放った。
光伸は上気して荒い呼吸を繰り返している要を見つめた。
白い肌に放たれた滴がきらきらと光っていた。
窓を振り返ると、満月がまぶしくて目を細めた。
「要、月の見ている前でされるのは良かったか？」
光伸の言葉に、要ははっとした。
今までのように相手が彼なのではなく、彼は遠くから見ているだけなのだと。
彼の見ている前で他人としたことはあったけれど、それは彼も望んだからで、今は違う。
――今、僕の求めているのは、金子さんだ。
要の中に失い始めた熱が再び戻り始めた。
「まだまだ、足りないだろ。」
光伸が汗に濡れ乱れた要の前髪を丁寧に整えながら言った。



>>>続く

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要ちゃんお誕生日企画で始めたこのＳＳ、詰まってばかりで、月を跨いでしまいましたが、まだ終わってません。
だって、金子がまだ......。（笑）
そういうことも込みで続きます。2003/09/03