浅人6

「ぅあ・・・だ、めぇ・・・!」
艶のある嬌声が響いていた。妖しい雰囲気と香りが、そこ一帯を包んでいる。
いたのは、一組の男女。両者とも全裸で、その行為に没頭していた。
───セックス。
「あくっ、だめ、だめぇっ!はぅっ!」
女の方──青い髪を靡かせながら悶えている少女は、何度も拒絶の声を上げている。
しかし、その声は男にとってはただの媚薬にしかならない。声を聞く度に、荒々しい腰の動きはより一層ダイナミックな抽送へと変わっていく。
「あ、ぃ、ああーっ!」
男が肉棒を突き入れる度、ぐちゅっ、ぐちゅっ、と、既に愛液が濡れ滴るっている秘部から音が聞こえてくる。さらに、下腹部に感じる圧迫感。
そして・・・圧倒的な快感。
「ゃ、ふぁはっ、だ、めぇ・・・ぁふ、あはぁっ!」
所謂正常位と言われる形で繋がっている二人。少女の方には未知の感覚が下腹からこみ上げて来る。
気持ち、いい。
たった今純血を破られたばかりだというのに・・・感じてしまっている。それまでの──『男の時』とは到底比較できないくらい、『女』としての快感は少女──浅人を支配していた。
「あふっ、あうっ・・・んあぁっ!」
胸を鷲掴みされた。形の良い双丘が、ぐにぐにと形を変える。元に戻ろうとする弾力が、男にさらなる興奮を与え、動きをさらに乱暴にさせる。
そんな動きでも、敏感になった神経は『快楽』として伝えられる。貪るように、浅人の膣が妖しく蠢く。
(もっと・・・もっとちょうだい・・・!)
「あう、あふぁ!い、イク、イっちゃうぅぅっ!」
手を男の首に伸ばし、絡ませる。抱きついて体を密着させ、余す事なく快感を享受する。
「イく、イク、イ・・・〜〜〜ッ!!」
目と口を大きく開けて、ビクビクと体を震わせて背筋をのけ反らす。
浅人の視界に最後に残ったのは、男の顔。『それ』は───

「・・・・・・な」
ベッドの上で上体を起こし、呆然とする浅人。びっしょりと汗をかき、息は荒い。
「・・・何ちゅう夢を見てるんだ俺は・・・」
頭を抱えその場でうずくまる。その頭には長い髪の感触・・・まだ自分が女である事を証明している。
欲求不満か、はたまた昨日の沢田とのキスか、それとも昨晩の自慰が原因か、わからない。
でも、あんな悪趣味な夢・・・『男の自分』に貫かれる夢など、何故見たのだろうか?

「・・・はぁ」
今朝方の夢を思い出して、鬱に入る浅人。今は遅刻しての登校中。病院に行っていたのだ。
鞄は、普通の登校鞄。野球部は、昨日の一件で、正式な処罰が下るまで停止処分を受けた。
『精神的に問題はありませんし、原因はよくわかりません。今度、精密検査をやってみましょう』
それが、医者が下した第一審であった。母親は何だか浮かない顔をしていた。
(そりゃそうか・・・原因が掴めない謎の病だもんな。お母さんが心配するのも無理はない)
なるべく考えないようにしていたが、この状況で考えるな、という方が難しかろう。
自分の母に多大な心配をかけている事に、浅人の胸が締め付けられた、まさにその瞬間であった。
「よう、浅人ちゃん」
突如、浅人の行く道を阻むように人影が現れた。野球部の狂気の根源。
「・・・沢田」
咄嗟に身構える浅人。脊髄反射の速さ。
そこにいたのは、髪を茶色に染めた、私服姿の岸田であった。風貌は、まさに今時の若いヤツ。
「そんなにビビんなよ。何も取って喰おうって・・・」
「用件は何だ?っていうか、何でお前そんな格好でここにいるんだ?」
浅人の反応に、ニヤリ、と片頬を上げて笑う岸田。生理的に、嫌悪感を感じさせる。
「ちょいと停学くらってね。用件は・・・大した事じゃない」
パチン、と岸田が指を鳴らす。それを合図に、岸田の後ろと浅人の背後から、ゾロゾロと現れる人影。
「約束を守ってもらおうってだけだ」
終始笑みを浮かべている岸田。浅人はちらりと背後に視線を遣り、また正面を向く。
「野球部総勢23人。お前と沢田、種倉を除く20人に、オナニーを見せてくれるんだろ?浅人ちゃん」
そこにいたのは、制服と私服が混ざっているが、紛れもなく野球部員であった。
それらに対し、浅人は・・・あくまで気丈な態度をとる。
「・・・へっ、たかが女一人に野郎20人ってか。おめでてーな」
そう言いながら、周りを伺う。左右は塀、前後を囲まれ、逃げる術は無い。
「わりーけど、今はお前らに構ってる程暇じゃねーんだ。また改めて・・・」
と、浅人が言葉を紡ごうとした、その瞬間だった。

 ガッ!

「がっ!?」
浅人の首筋に、強烈な激痛。前のめりになった浅人の頭を、前に出た岸田が掴む。
 ゴッ
「うぐっ・・・」
鳩尾への膝蹴り。それを確認したと同時に、浅人の意識がぷっつりと途切れた。
「ククッ・・・楽しませて、くれるよなぁ?」
岸田のその狂気に歪んだ笑みを見て、背筋に寒気が走った人間が、この場にいただろうか。
・・・一人、だけ。

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

「・・・う・・・」
意識がハッキリしない。思考が回らない。考える事を体が拒絶する。
「お目覚めかい?浅人ちゃん」
その声ですら、最初は誰の声だか理解できなかった。自分の中で改めて反芻して、ようやく浅人の意識が表層まで持ち上げられた。
「て、てめ・・・っ!?」
そこで初めて、浅人は自分が置かれた状況を確認することになる。腕が後ろにいったまま前に戻らない。
手足首に、窮屈な感覚。両者共に動かす事が出来ない。
岸田の体が横から生えている──これは勘違いだ。自分の頬に感じる冷ややかな感触が、自分が寝かされているのだ、と浅人に諭させた。
「な、何・・・?」
周りを見回す。しかし、電気が点いていない為満足な情報は得られない。かろうじて、倉庫かどうかと予測できるくらいである。
続いて、自分を確認する。服は着ている。だが、妙に股ぐらが寒い。スースーする、とも言い換えられる。
「どうだ、状況は理解できたか?」
椅子に座りながら、岸田が言葉をかけた。浅人は寝転がった状態から睨みつける。
「てめ、誘拐じゃねーか!こんなことしてただで済むと思ってんのか!?」
「お前が黙っていれば問題ないさ」
露にされた激情を、岸田はさらりと受け流す。余裕と侮辱が混じっている岸田に、浅人の言葉は届かない。
「ふざけんな!ここを出たら、真っ先に警察に通報してやる」
「・・・ま、その話は後にしよう」
岸田が唐突に立ち上がった。そして、浅人の方に近寄ってくる。
「それより、約束は守ってくれるんだよな?」
下種、という言葉がまったく似合う岸田の笑顔に、浅人は背筋に寒気を感じた。
ここにきて初めて、岸田という男の狂気に気付いたのか、或いは。
「だ、誰がやるか!あんな一方的なもの、約束でも何でもない!」
「だが、同意したのはお前だぜ?」
暗い、岸田の後ろから嘲笑の気配。部員もいるのか。
「全部で三点。よって、俺らは三回お前のオナニーを見る権利があるって訳だが」
三回・・・?浅人の中でその言葉が回り巡る。
三回とは何が定義だ?三回イくことか?好きな時に見せる、を三回繰り返すのか?
もし後者だとすると・・・だとすると・・・。
「この回数は、言わば日にちにも置き換えられる、と思う次第だ。お前がオナニーしてる場を見れば一回ってことになるんだからな」
浅人の嫌な予感は的中してしまった。つまり、こいつ等がこの場を出ない限り、延々と『一回目』である訳だ。
(馬鹿な、そんな事有り得ない)
頭の中で否定して・・すぐに諦める。今の岸田の目を見ればわかる。平気でそんな事をするだろう。
(逃げ道は・・・ないのか)
表情が曇る。だが、決して涙は流すまいと浅人は心に決めた。泣けば泣く程、奴等の思う壺だ、と。
だが、兎にも角にもこの場を切り抜けなければいけないのは何よりも揺ぎ無い事実であった。
「・・・わかった、やってやるよ。やるから、この縄を解いてくれ」
浅人のその決心を、岸田は嘲笑うかのようにこう言った。
「今の浅人ちゃんじゃ〜面白くないなぁ。もっと女の子らしくなくっちゃなぁ?」
「な・・・え、ちょい待てっ!」
突然浅人の左右から人が現れた。浅人を壁際まで運び、色々と作業を始める。
「おい、お前ら、止めろっつってんだろが!な、やめ・・」
浅人の抑止も聞かず、浅人は壁に押さえつけられた。同時に、足を一時的に解放されたかと思うと、無理矢理Mの字に開かされた。
「なぁっ・・!」
浅人の股間に、冷ややかな感触。これではっきりした。自分は、ショーツを脱がされている。
さらにその状態で、両足首を手頃な長さの鉄パイプに縛りつけた。これで浅人は足を閉じることが出来ない。
 ドクン
心臓が爆ぜた。こんな下種野郎達に、好きなようにされている。その怒りが、沸点を超えて爆発する。
「ふざっけんじゃねえ!!」
それまで準備していた男達が、その鬼気とした叫びに驚き立ち竦んだ。怒りに染まった浅人の睨みを受けて、そのまま逃げるように引っ込んでいく。
「てめえら、上等だぜ・・・ここまでしたんだ、覚悟は出来てんだろうな!?」
力いっぱい咆える。ギシギシ、と手首を結ぶ縄が軋む。当然縄が食い込んで痛みは走るが、それよりも力を出せることに意味があった。
「覚悟?お前を犯す覚悟かなぁ?」
近くに寄ってきた岸田が、突然浅人の秘裂にその人差し指を突っ込んだ。
「ひぎぃ・・っ!?」
まだ準備などできているわけもなく、無理矢理挿入された浅人の秘部は、突然の異物に拒絶反応を示す。
「い、痛・・・だぁっ!」
口から漏れるのは悲鳴ばかり。だが、岸田の目的はそれであった。
「さて、強情になれるのはいつまでかなぁ?くっくっく・・・」
浅人の秘部から指を引っ込ませ、後ろに下がっていく岸田。
(クソがっ・・ぶっ殺してやる・・!)
浅人は息を整えながら、上目遣いに岸田達を睨みつけた。

だが・・・状況は一変する。
放置されること十数分。異変は始まった。
「んっ・・・はぁ・・・」
熱い。躰が熱い。
躰の奥底から何かが湧き上がってくる感じ。何故かわからないが、顔が火照っていく感じ。
「・・・っ」
頬が赤くなっているのを察し、浅人は顔を伏せた。きっと表情を見せることすら危ない。
「・・・ん?」
だが、一瞬遅かった。その気配を察し、岸田が動く。
「どうしたのかなぁ、浅人ちゃん?顔が赤いみたいだけど」
「う、五月蝿いっ」
顔を伏せたまま声を荒げる浅人。だがしかし、最早それすらも精一杯であった。
「ひょっとして・・・俺等に見られて、感じちゃったのかなぁ?」
その言葉に、浅人の頭に怒りが昇って──
 ドクンッ
「・・・あ・・?」
──消えた。代わりに、下半身に熱い衝動。
「ありゃあ、否定しないんだねぇ・・・ほら」
唐突に、岸田が浅人の口元に人差し指を向けた。それを見た浅人は、反撃の衝動に駆られる。
(調子に・・乗んじゃねぇ・・・その指・・・噛み千切ってやる!)
一瞬、牙を向く浅人の凶暴性。しかし、浅人は気付いていなかった。
自分の体に、もうそんな勇気などなくなっていることに。
「・・んっ・・」
噛み千切る筈だった指を、浅人は咥えた。そして、愛しげな表情を浮かべて舌を這わせた。
びちゃぴちゃと、浅人の唾液が指につく。
(え・・・何やってんだ、俺・・?)
頭がボーッとして思考が回らない浅人。何故こんなことをしたのか、自分でも理解できない。
「くくっ、感度良好。ほら」
咥えさせている反対の手の指で、浅人の秘裂をなぞる。
「ひゃうっ!」
それがあまりにも刺激的だったのか、舐めるのを止めて嬌声を上げる。
「ただなぞってるだけなんだが・・・随分な反応だなぁ?」
「あ、あ・・っ」
岸田がそこをなぞる度、全身を包む快感の波。おかしいくらい、今の浅人は感じやすくなっていた。
(な、何で・・・っ)
困惑する浅人の中で、妙な『違和感』が生まれ始める。
嫌がっている自分と、悦んでいる自分。
この感覚は、前にも味わった事があった。遠くない最近、そう──
「そろそろ、昨晩の自慰みたいによがってくれるかなぁ?」
「・・・!?あっ、くぁっ!」
岸田、貴様が何故それを知っている。
浅人に生まれた疑問は、指を再び腟内に挿入されたことによってかき消された。先程とは違い、下半身から疼きと熱さが走ってくる。
「あふっ、あくっ、やめ・・・っ!」
挿入された指を鉤状に曲げて、襞を捲り愛液を掻き出すようにして出し入れする。その度に、浅人の腟はひくつき指を放すまいと強く締め付ける。
それに準じて、浅人が感じる快感が段々と大きくなってくる。
(何で・・っ・・嫌、だ・・・)
拒絶する『男』の浅人。
「あふっ・・もっと・・・もっと、してっ・・・!」
快感に飲まれ、悶え喘ぎ悦ぶ『女』の浅人。
二つの異なる感じ方・・・一つの肉体に二つの心があるようなものである。浅人が感じた違和感の正体は、正にそれだったのである。
だが、そんなことは最早どうでもよかった。
と、岸田がそれまで愛撫していた指を抜いた。捲れた秘裂からトロリと蜜が垂れる。
「・・あ・・・?」
突然なくなってしまった刺激に、腟口が物欲しげにヒクヒクとひくつく。
「このままやってやってもいいんだが・・・それじゃ俺が約束破りに荷担してしまうからなぁ」
浅人の愛液で濡れた左手をペロリ・・・と舐めながら、岸田は呟いた。それとほぼ同時に、部員の一人が動いた。その手に納められた物は暗い照明の元、鈍く輝いている。
虚ろな瞳をその男に向ける浅人。その妖しげな表情に、襲いかかりそうな衝動を抑えながら、男は手元にあるナイフで、浅人の手に縛られた縄を切る。
「・・・あ・・」
開放された両手を眼前に持ってくる。手首に縛られてできた赤い痣がある。
男が引くのを確認してから、岸田が笑った。いつもの、あの歪んだ嘲笑。
「さぁ、見せてくれよ。浅人ちゃんのオナニーショーを!」
両手を広げ高々と叫ぶ岸田。それが、開宴の合図となるのか。
「・・・・・」
まるで操られたように、浅人の左手がゆっくりと、ゆっくりと・・・自分の秘裂へと向かっていく。
一度触れれば、自分の熱が冷めるまで貪り続けるだろう。
(駄目だっ!)
それを止めた のは、『男』浅人の他有り得なかった。
 ガシッ
伸びた左手の手首を、右手が掴み強制的に動きを止める。上体を前屈みに倒し、その掴んだ手を凝視しながら浅人は歯を食いしばる。
(止めろ・・・止めろ、止めろ・・・止めろ、止めろ、止めろ
止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ
止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろっ・・・!!)
食いしばっていた筈の口からガチガチと音が鳴る。目は見開かれ、その横を汗が流れる。
冷や汗か、脂汗か、或いは。
何より凄まじいのは、その手に込められた力であった。
左手からギシ、ミシ・・・と軋んだ音が聞こえる。その力から、左手の手首より先に血の気がなく、土気色に変わってしまっていて、圧迫から開放されようと痙攣を起こしている。
もしかしたら、男の時よりも遥かに強い力かもしれない・・・否、確実に、そうだ。
(ふん・・・男の浅人が邪魔をしてるか)
先程までの楽しげな雰囲気が一変、侮辱・侮蔑の感情を剥き出しにして岸田が浅人を睨みつける。
(まあいい・・・ここまでくれば時間の問題だ・・・だが、気に入らん)
岸田はスッと浅人の前に立つと、おもむろに浅人の秘部に足の爪先を立てた。
「ひぎぃっ!」
背筋に稲妻が疾ったかのような刺激に、浅人は上体を起こし仰け反り悲鳴を上げた。訳もわからぬまま焦らされた躰に、それは強烈すぎたのかもしれない。
「ほらほら、とっとと堕ちちまえよ!男の浅人なんか要らねぇんだよ!」
爪先を捻り、浅人の秘部にグリグリと押し付ける。
「あぅ、あ、ああーっ!」
背筋を仰け反らせ、痛みやら快感やらわからない感覚に浅人が絶叫する。
(止めろ・・・!これ以上、俺を壊さないでくれ・・・!)
『男』浅人の必死な訴えは、岸田の前では無意味そのものであった。
「無駄な足掻きは止した方がいいぜぇ?無駄に怪我したくなかったらなぁぁあ」
沢田は吐き捨てるように呟いた後、足を離して再び距離をおく。
突然の強烈な責めに、浅人の思考が完全に麻痺してしまった。その瞬間、『彼』は『彼女』に主導権を渡してしまったのだ。
「ひぁっ!んんあぁぁ!」

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