初潮の来た日。
その日はまだ一時間目になったばかりだったが結局早退した。
なんか女になってからまともに最後まで授業に出たことがない……。
今日もさっさと自室に戻り、血まみれのベタベタする下半身を洗う為とっととお風呂に入る。
取り合えず服を脱ぐと、そこで改めて確認出来る血まみれのズボンとトランクスと内股。
ち、血が……血まみれ……。
おびただしい出血に、少しクラっとくる。
……女って月に一回こうなるのか……これからずっと……。
くらくらする頭を抱えながら、取り合えず汚れた衣類はほっといて浴室に入る。
シャワーの栓をひねり手で擦りながら血を洗い流す。少し黒くなった血が水に落とされていく。
下腹部の痛みはまだあるものの、別に気になるほど痛まない。
じゃーーーー。血が流れる水の中で帯状に混じって排水溝に吸い込まれていく。
膣口に指をいれ、軽くかき出す。……血が指をつたって垂れてくる。実にエグい。
……もう、ついでに体も洗ってしまおう。
スポンジを手にとりボディーシャンプーをキコキコとつけて全身を洗い出す。
ごしごしごし……。
……一通り綺麗に洗った。
さて……下着も一応洗っとくか……。血まみれのまま洗濯に出せないし。
浴室の扉を開けて体を乗り出し、そこにほっぽってあった血塗れのトランクスを引っつかむ。
こんな血だらけの物、共同炊事場で洗うわけにはいかないし。
ズボンは……しらん。またそのままクリーニングに出して知らん顔してしまえ。
シャワーを口にくわえて、床のタイルの上で石鹸をトランクスにこすり付けるようにして洗う。
がしがしがし…。
血はまだ完全に固まっていなかったようですんなりと落ちていく。
卓哉は洗いながら考えた。
「(もしこの先、毎月これじゃあたまらん……)」
……そういえば女って生理用品を使うんだったな。やっぱりそういうの使うしかないのか……。
いやだなあ……。といっても選択の余地など残されているはずが無い。
毎月数回(?)下半身血まみれなんてゴメンだ。
「……買いに……行くか……。」
……男子校だから園内の購買や本舎の保健室に行けば生理用品が手に入るとか言う事はないだろう。
1時間目で早々に引き上げてきたのもあって時はまだ午前中。
許可をもらって今から外に買いに行っても問題無いだろう。
早いうちに外で買っとかないと、また血が出てこられても困るし。
いや、一日に数回出血するのかどうかはしらんけども。
「何でこんな事に……。」
洗いながらトホホとうなだれる卓哉。
浴室内にはため息とシャワーの音がこだましたのでありますた。
風呂から上がって体を拭く。
体を拭きながら今洗ったトランクスを良く搾って台所に干しておく。
そして朝、急いで着替えたときに脱ぎ散らかしたスパッツとティーシャツをまた着る。
全裸のままスパッツをはこうとしたところで、はたと思いとどまる
「(また血が出るかも……)」
下半身血まみれで歩き回るなんて冗談じゃない。
……かといってその生理用品を今から買いに行くわけで、今持ってなどいない。
「………………………………。」
キョロキョロと室内を見回す。……卓哉はティッシュの箱に目をつけた。
「……こ、これしかない……か?」
さっさっと二枚ほど抜き取り、重ねて軽く捩っていく。
……完成。なんとなく頼りなくみえる捩れたティッシュ。
「……こ、こんなもんで大丈夫かな……。」
かといって他に代用品など思い付かない。
ふぅ……とため息を一つ吐いて、立ったまま足を開き、それを膣口に手探りで突っ込む。
手探りで探し当て、グリグリ……と廻しながら挿れる。すこしひりひりする。
ぐりぐりぐり……。ティッシュが大体埋没する頃合いを見計らう。
「こ、こんなもんかな……。」
浴室にもどり、大鏡の前に立ち、どの位突っ込んだか確認する。
鏡に映る全裸の女体。視線を下に巡らす。……股間のティッシュは半分ほど埋まっているたようだ。
「うーむ……まあ、このくらいで漏れないかな……。」
部屋に戻りスパッツとティーシャツを身につける。
再び髪を後ろで束ねながら、ふと窓の外を見る。
……朝からの雨は少し小降りになっているもののまだ降っているようだ。
「……………っきしっ!!」
くしゃみが出る。体が冷えてきた。
髪をポニ"もどき"に結んだら、朝着ていた黒いトレーナーを引っ張り出して身につける。
エアコンが効いている室内でこれだから、ちゃんと防寒しなければ。
箪笥から靴下とジーパンも引っ張り出す。この際、スパッツは下着代わりだ。
靴下とジーパンをはく。もぞもぞ………矢張りジーパンは大きかった。
腰周りは相当余り、股下も自分の脚より長く、端をふんずけている状態。
「……面倒くさいなあ……。」
腰をベルトでグイと絞め上げ、足の裾をくるくると巻いて、踏んづけない程度に合わせる。
よし、準備完了だ。
リュックと財布を引っつかみ、まずは外出許可をもらいに事務室へ行く。
玄関に出ようとしたところで、血まみれのズボンが目に入る。
「…………………………。」
これはどうしようか。……そういえばズボンの代えはもう無い。
そして、寮内のクリーニングの回収は昨日あったばかりだから来週まで無い。
それを思いだして、やはりさっき一緒に手で洗ってしまえばよかったと思いつつも
着替えてしまったし、今更洗っていられない。
「帰ってからでいいか……。」
とりあえずティッシュでごしごしと血を拭き取って机の上に畳んでおいておく。
……さて、今度こそ準備完了。
スニーカーを履き、紐を結び直したら廊下に出た。目指すは学園事務室。
学園本舎内を向かっているときに、教室移動なのか前からどやどやと生徒達が向かってきた。
見知った顔。卓哉のクラスの連中だ。……と、先頭の生徒が卓哉に気付く。
「あれ、蘇芳。どうしたの?」
その言葉に反応したのか廊下を進む一行の目が卓哉に集中し、行進が止まる。
「……別に。ちょっと出てくる。」
簡潔にそれだけ伝えると、足を止めずに集団の中を通り過ぎる。
モーゼのように道が開く。……せめて同じクラスのこいつらだけは早く慣れて欲しい物だが。
止まった人垣を進んでいくと巨人が声を掛けてくる。
「卓哉、何処行くの?」
……灰谷だ。
「………………………。」
……別に答える義理はない。何も返さず通り過ぎる。
さらに人垣をズンズンと進むと最後尾で佐藤がこちらをじっと見ている。……つい目が合う。
良く分からないけど捨てられた小犬のような目、言葉を飲み込んだ様子でこっちを見つめてくる。
……嫌われたと思っている佐藤の胸中は、他人の感情に鈍感な卓哉にわかるはずも無いが。
「(…………………?)」
自分を見つめる目がなんだか普通じゃない。……とりあえず、すれ違いざまに肩をポン、と叩き
「…………ぁ、頑張ってな。」
となんだか良く分からないが励ましの言葉を掛ける卓哉。
「……!………」
そのまま通り過ぎて、小さくなっていく卓哉の背中。
佐藤は嬉しそうな顔でそれを見送った。
「(嫌われて、なかった……!!)」
その事で一気に感情がピンク色に染まる。
その日一日中、佐藤は幸せな気分で過ごせたのは言うまでもない。
1階事務室前受け付けに来た。
「すいません。外出許可を……。」
リュックを背負い直し、コンコンとノックして受け付け窓にそう告げる。
……透明な穴空きプラスチック板ごしに、奥から机に座っていた中年のオッサンがぱたぱたと
スリッパを鳴らしてこちらに来るのが見えた。はて……なんだかオッサンが面食らっている顔だ。
「……が、外出許可って?」
怪訝な顔で言う。
「……へ? だから、外出許可をもらいに……。」
卓哉も怪訝な顔で返す。ほんの少し静寂が訪れる。
窓越しにしばらく硬直して見詰め合う二人。
「(……あ、もしかして。)」
……卓哉はなんとなく、理解した。
「えーと……き、君はどこの生徒?」
この空気の静寂を破り間抜けな顔で聞いてくる。思った通りだ。まだ卓哉の話を聞かされていないのだろう。
普通に考えれば男子校に女の子が通っているはずが無い。そういうことだ。
……いや、こうなると問題は事情を知らない人相手にこの事態をどう説明するのか、だが。
「いや、ここの生徒で……う〜ん……その……」
片手を口にあてて、モゴモゴと口篭もる。……1から説明するのも面倒だし、
なにより証拠も無しにこんな馬鹿げた話、誰が信じるのだ。
怪訝な顔でこちらを伺うおっさん。
「えーと、それで結局面会か何か……?」
「あ、え〜と……その……。」
しかし煮え切らない返事しか返せない。
ん? まてよ? このまま関係者じゃない振りしてそのまま出るというのは……。
……いや、どのみち事情を知ってる先生とかに最終的に無許可で出たのがばれるとマズイ。
女になって、少し特別な扱いの生徒になったからといっても規則にはちゃんと従う必要があるだろう。
何とかしてこのオッサンにわからせて……いや、でも……それはどうすれば……?
煩悶する卓哉。卓哉を見つめる事務のオッサンの目に疑いの色が強くなっていく。
「……え〜と、その……………ん?」
と、その時偶然にもこの学園の理事長が近くを通りかかったのを卓哉は横目で見かけた。
初日に面通しした理事長。事情を知ってて、しかも一番偉いはず。
「……………ん?」理事長がこちらを見、卓哉と目が合う。
……これはチャンスだ。キュピーンと卓哉の目が光る。
「理事長! よかった、ちょっと来てこの人に説明を……」
片手をぶんぶんと振り、呼ぶ。
「説明?……ああ、君は確かあの……蘇芳君……だったか?」
そう言いながら、方向を変えこちらに来る。
彼の初老の頭では、大勢いる学園の生徒の個々の名前などとても把握出来ないだろうが
どうやら卓哉の名前だけは覚えていたようだ。……まあ、それもそう。突如女性化した男子生徒。
彼の教職人生で初めて出会っただろう。強く印象に残るのは当たり前の事である。
「そ、そうです! それであの、この人に俺が関係者だって教えてあげて下さい!」
卓哉は無礼にも事務のオッサンを指差して、理事長に仲裁を頼む。
「り、理事長、この子は一体……?」
オッサンは怪訝そうに理事長と卓哉の顔を見比べる。
「ああ、え〜と……その、いいんだ。この子はうちの生徒でね……。」
苦々しく説明する理事長。
「ええ? しかし……この子は……」
目をしぱたたかせながらオッサンは二人を交互に見比べる。
「だから…いいんだ。この子はもう……うちの生徒なんだ。つまりその、特例……という奴かな?」
卓哉をちらちらとみながらモゴモゴという。……理事長も卓哉のことを少し扱いきれていないようだ。
……まあこんな突然女になったという、気持ちの悪い生徒だろうし。仕方ない。
「と、特例……なのですか? ……ま、まあ理事長がそうおっしゃられるのでしたら……。」
どうやらすぐに微妙な問答が集結したようだ。ほっと胸をなで下ろす卓哉。頼んでよかった。
「……と、ところで蘇芳君。そんな格好で授業はどうしたのだね?」
今頃気付いたのか、服装をじろじろ見てそう言う。
「あ、その、外出許可をですね……。」
もごもご。
「外出? ……どんな理由で?」
……その少し煮え切らない様子に理事長が怪訝そうな顔をする。
……この学園は滅多な事では外出許可は出ない。
遊びに行くから。買い物に行きたい。ちょっと家に帰りたい。そんな事で許可は出られないのだ。
というかこの学園では、夏休みなどの長期休暇以外、滅多に外に生徒が出る事はない。
そう、脚を折るとか、病気になるとかでないと。それくらい風紀を徹底した学園なのだ。
しかし今、卓哉には大義名分が十分にある。……そう、身体的な理由だ。
「……その、ちょっと買わなきゃいけない物が……」
でも、生理なんですなんて言わなきゃ駄目か。
「……買い物? そんなもの学園の購買でなんとかならないのかね。そんな理由で外出は出来ないぞ。」
……いい辛い。しかし正直に話さなければ許可が下りないのは間違い無かろう。
「いや、その……生理が……。」
……もごもご。……それを言って、すこし顔が赤くなる。
……元男。それが生理が始まったんです、なんて、こんなこと、恥ずかしくて他人に言えた物ではない。
それにコレはごくプライベートな事だ。例えれば
「今朝、夢精しました!」
なんて事、
人前で言うような物じゃないだろうに。……卓哉にとってこの生理とはそんな感じだった。
……それでも。
「えっ? ……何かね?」
聞き取れなかったようで、きょとんとして顔を覗き込むように身をすこし屈める理事長。
「くっ………。」
益々顔が紅潮する。
なんかイライラしてきた。何でこんな事言わねばならんのか。それに腹もまだ軽くずしりと痛んでいる。
また血がでてくるかもしれない。とっとと買いに行かねば。そんな人の気も知らずにこいつらは……。
だいたいなんでこんな理不尽な生理なんぞ、男の俺があわねばならんのか。
男として生まれてきんだから、俺の人生、端から子供など生む気などない。
……そこまで一気に考えが及ぶほど急速に鬱憤を募らせた。恥じらいの感情がスライドして怒りに変わる。
それに人間、生理中は何かあったらイライラしやすい傾向にある。女性とはそういう物だ。
それも手伝ったのだろう。感情が昂ぶり、ヤケクソ気味になる。
ガシ。理事長の肩を掴む。
「……??」
理事長が卓哉の予想外の行動に面食らう。
そんな理事長の目をはっきりと見据え、少し赤らんだ顔を寄せて
「生理が始まったので生理用品買いに行きます……許可を、下さい。」
少し喧嘩腰に……一語一句よどみ無く、大きめの声で伝えた。
「……はっ?」
「……な、何と!?」
二人のオッサンがほぼ同時に目を剥いて素っ頓狂な声を上げる。
「……そんなものも用意して持ってないのかね?」
呆れたようにそう言うのは事務のオッサン。
彼にとって卓哉は特例ってだけの普通の女の子としか認識してないらしい。
……事情を知らない部外者はすっこんでろ。……卓哉は一瞥して心の中で舌打ちをした。
「……そ、そんな馬鹿な!? そ、それは本当かね!?」
それとは逆にその傍らで慌てた様子の理事長。そんな理事長を事務のオッサンは窓越しに
きょとんとした顔で見つめている。何を驚いているのかわからないんだろう。
「……はい、それはもうどばどばと。」
卓哉は肩から手を放し、未だヤケクソ気味に返事をする。
「え……そ、それじゃあ、完全に女になってしまっているんじゃないか!」
相当驚いているようだ。逆に肩を掴んできて、全身に目を追わせつつ聞いてくる。
「……そ、そうなります……ね。」
その剣幕にすこしトーンを落とし
ぽりぽりと頭を掻いてもごもご返答する。それは認めたくない事なのだが。
「……ああ、てっきり胸が腫れたり、陰部が中に引っ込んだだけのものと思っていたが……そうか……。」
卓哉の肩から手を放し、そわそわと落ち着きなく体を震わせて自問自答する理事長。
胸が腫れて陰部が引っ込んだ他にも、身長とか骨格とか色々変わったわけだが、まあ突っ込まないでおこう。
事務のオッサンはまるで気が触れた人を見るような目で理事長と卓哉を見比べる。
「……で、その、さっさと買いに行きたいんですが……いいですか?」
おずおずと進言する。
「……え? ……ああ、そうだ、な……うん、うん……いいだろう、行ってきなさい……。」
理事長はこの超常現象に改めてショックを受けているのか、まだそわそわとして返答した。
「あ、じゃあ……行ってきます。」
……ぺこ。
落ち着きのない理事長と、会話から事態が飲み込めずきょとんとしている事務のオッサンに頭を下げて
玄関の自動ドアに踵を返す。理事長直々になら堂々と出て行けるという物だ。
雨がシトシトと降っているので玄関の傘立てに有るどなたかの傘を適当に一本拝借することにする。
なに、すぐに帰ってくれば問題はないはずだ。……ボフッ。傘を開いて雨の中に踏み出していく。
外に出て校門を潜る。
さて……さっさとすまそう。とりあえず駅前の商店街に行くか……。
ポケットに手を突っ込み駅前に足を向けて歩き出す。3日ぶりの外。病院行ってそのとき以来。
開放的な空気に少し心が弾む。道ゆく親子や車も新鮮に思える卓哉であった。
駅前のドラッグストア。
卓哉は生理用品の棚の前に佇んでいた。ポケットに手を入れ、キョロキョロと少し挙動不審だ。
「……こんなに、あるのか……。」
見渡す限り生理用品。こんなものバンドエイドみたいなもんだろうに、なんでこんなに種類が?
卓哉はほへー、と面食らった。
「(……どれを選べというのか?)」
普通の女の子であったら母親に聞くなりしてどういうのがあって、
どれを買うのか選んだりするんだろうが生憎そんな経験も無い。あってたまるか。
しゃがんで、下の棚から適当に一つ手にとる。
「よるようすーぱー……。」
何がスーパーなのかさっぱりわからない。……羽根付き? 羽毛でも使っているのだろうか?
もうひとつ適当に手に取る。
「よるよううるとら……?」
……ウルトラマンとスーパーマンはどっちが強いのだろうか? しかもこれも羽付きかよ。
手に取った二つをしげしげと見比べる。……でも何がわかるわけでもない。
「…………………………。」
二つを棚に戻し、よじよじとしゃがんだままカニ歩きで平行移動。
……ナプキンは駄目だ。タンポン系にしよう……。
そういう、系、というのがあるのか知らんが、確かナプキンとは別にタンポンというのがあるのは知ってる。
それらしい棚の前で止まる。種類はナプキンに比べてやたら少ないみたいだ………。
少ない中から適当に一つ手に取る。
「ふ、ふぃんがーたいぷ……??」
フィンガー。日本語で指。……指の大きさなのを言っているのだろうか?
更にもうひとつ手に取る。
「……あぷりけーたー……??」
……最早何を表しているのかさっぱりわからない。
しばらく両手のタンポンを睨み付けた後、結局両方を棚に戻す。
なんだか訳のわからんもんをアソコに突っ込みたくない。アプリケーター……名前からして痛そうだ。
……やっぱり、ナプキンでいい。またカニ歩きでしゃがんだまま、にじにじとさっきの棚に戻る。
もはや何を選んだ物か判断が付かない。無造作に手に取っていき一つ一つチェックする。
レギュラー、カーブ、座るとき用、夜用、昼用、重いとき用、どんなに動いてもよれずに安心、などなど。
「うーん………?」
レギュラーとかは多分布地の大きさ、重い軽いは恐らく腹部の痛みとかだろうかと推測する。
で……この夜と昼ってのは、何か別のものが流れてくるから使い分けるのだろうか?
カーブって何がどう曲がってるなのか? いや、布みたいなペラペラしたのを何故曲げると表現するのか?
ナプキン着けてるときはあまり動いては駄目なのか? というか最初からずれない物は作れなかったのか?
もう、訳が分からない。しかし、なにか選ばないことにはしょうがない。加えて変な物選ぶわけにもいかない。
万が一使えないもの買ってしまっても、もう一回外出許可をもらって買いに来るのも色々と面倒だろう。
いっそ夜用で昼用でレギュラーでカーブでウルトラマンでスーパーマンの羽付きってのはないのだろうか?
「むむぅ……これ……いや、こっちか……。」
使えないものを使って血まみれになるのは自分だ。それだけは避けたい。
慎重に考えて比較していく。生理用品を一つ一つ手にとり、唸りながら最善の物を捜す。
……その一部始終をカウンターから伺っている店員が、その顔に徐々に警戒の色を示しはじめる。
「……よし、これにしよう。」
決めた。レギュラー羽付き夜用しっかり吸収動いても横漏れしませんってやつ。
結局よくわからんかったが、要は血を全部受け止めてくれればいい。それならこれが一番機能豊富みたいだ。
動いても大丈夫ってのもなにかとよろしい。値段も他より一回り張る分、効果もあるだろう。
レジへ持っていき清算を済ませる。……生理用品なんて買ったことがないので少し恥ずかしいが。
清算中、店員がこちらの顔をじろじろとみていたのは気のせいか。
……まあきっと自意識過剰とかの類だろう。気にしない。
……で、早速だが使おう。ティッシュなんぞを突っ込んでいたのでは、また出たら不安だ。
ドラッグストアを出たところでキョロキョロと公衆便所かなにかを探す。
……辺りを見渡すとすぐそこに某私鉄線の駅が目に入る。そうだ、あそこならトイレもあるだろう。
そう思い立ち、傘を開いて駅の方に足を進めていく。……ものの1分もかからずに構内に入る。
駅は昼前とあって、少し閑散としていた。傘を閉じて水気を切りながら改札口へ。
そして改札口横の窓口の駅員に改札奥のトイレに入れてもらうように言う。
二つ返事で快諾される。以前こういうの断られた覚えがあるが……外見によるものだろうか?
女性というのはこういう利点があるのだなあ………しみじみ。
まあ、いい。改札口を抜け、脇のトイレに入る。
中に入った途端に手を洗っていた中年男性が驚きの目でこちらを見る。
「………………??」
顔をしかめる卓哉。……何故そんな顔されるのか分からなかった。何か変な格好なのだろうか?
足を止め、鏡を見る。まじまじ……。おっさんの横に自分の姿が写っている。特になにも………あ。
弾かれたように振り向いて、入り口のプレートを見る。男性を象徴したシルエットのプレートがある。
そうだ。もう男子便所じゃなく女子便所を使うべきなのだろう。……コレはそういうことか。
なにぶん、男子寮で生活しているもので卓哉はトイレの性区別という概念は忘れがちであった。
「は、失礼ー……。」
引きつった笑いを返すとそそくさと男子トイレを飛び出す。呆然と見送るオッサン。
男子トイレを出て、そのまま折り返し女子トイレに飛び込む。……そこで一息。
ふう、変に思われる所だった。……もう思われてるか。いいや、頭を切り替えよう。
軽く二、三回、頭を振る。
ぴた。…と、女子トイレに踏み込んでいる自分に改めて気付く。
そういえば女子トイレなんて入った事なかった。
……キョロキョロ。未知の空間を見渡してみる。端から見れば挙動不審極まりないが。
「(ふーむ、こうなっているのか……。)」
個室しか並んでないトイレは視覚的に新鮮に写る。ドラッグストアの袋を胸に抱えたまま感心する。
それから他の人の姿は見えない。自分以外いないようだ。
……まあいいや。さっさとつけよう。手近な個室に入り、鍵を閉め、傘を立て掛ける。
洋式便所の便座に腰を下ろし、ベルトを外してスパッツとジーパンを下ろした。下半身裸になる。
そして、股間のティッシュを抜く。
「……んっ……。」
抜き取ったティッシュを見ると、先っぽに血が染み込んでいた。どうやらまだ血は出てるらしい。
ティッシュを汚物入れにほうり込み、先ほどの買い物袋を破り、封を切ってナプキンを1枚取り出す。
「……えーと、どうするんだ?」
ナプキンを一枚手に持ったまま、袋の裏面を良く読む。
「……下着を挟みこむようにして羽を折って図のように下着に固定する……?」
……なるほど、こうするのか。図を見て使用方法を確認する。
そして、今下着代わりの足元のスパッツに目を向ける。折り込んで固定……しようが無い。
一般の下着のように内股付け根で布地が切れてる訳ではないので、図のように固定はどう考えても無理だ。
普段はいているトランクスも同様である。そうすると……これどうしよう。無駄という事に……?
いや、むしろ今自分の持ってる下着類自体の側が生理用品をつけられるような作りをしてないって事だろう。
ダボダボのトランクスじゃ固定しようが無いし、無理につけても数歩進んだ所で股から滑り落ちていくのが
容易に想像出来る。……ちなみにブリーフは持ってないし。あれならつけられるかもしれないけど。
「う〜ん……。」
とにかくナプキンを付けないわけにもいかない。血まみれはゴメンだ。
……それでも、いつものトランクスやスパッツではこれの使用は無理。
そうぐじぐじ悩んでいるとき、ナプキンの袋の付け方の図解を見ているとふと思い立った。
「(それなら、これを使えるように女性下着も買わなきゃ駄目…かな……?)」
それなら名案……いや、でもなあ……。女物のパンツなんて恥ずかしいし、買うのにも少し抵抗があるし。
いや、でもそういうの買わないとこれつけられない……。手に持ったナプキンを弄ぶ。
買う物か買わぬ物か、買うべきなのは薄々感じているが、男としてのプライドがその決断を遮る。
「うーん………………。」
………しばらく悩んだが、やはりどう考えてもそれが一番妥当なものであった。
そう考えると、何時までも腰周りがダボダボのトランクスを履き続けているのも締まりが悪いし。
そう、それに卓哉はこのところブラジャーみたいなの買わなきゃならないかもと思っていた。
女になった当初から体を動かす度に胸が跳ね回り、なんだか気が散るし肩が凝るしで悩みの種になっている。
いつしか、それならブラジャーとかで押さえつければマシになるかな、と考えていたところであった。
丁度いいかも。……うん、女性下着を買うのは少し抵抗があるが、これも日常生活の為……。
そう自分に言い聞かせて決心する。
そうと決まれば善は急げという。便座から立ち上がってスパッツとジーパンを履き直す。
ナプキンは今はとりあえず着けないでリュックの中に押し込んでおこう。ごそごそ……。
よし、準備完了だ。下着はデパートでいいかな……。ガチャっと個室のドアを開けて
傘を取りトイレを出て行く。目指すはデパートの婦人下着売り場。急がないとな……。
そして訪れた駅前のデパート。
ピンク色の売り場を前に固まっている卓哉。とても男が近づける雰囲気ではない。
「(や、やっぱやめようかな……。)」
思わず弱気な言葉が出る。しかし、ここで帰っては血まみれの日々がこの先待っている事になる。
「(これも生活の為、心臓の為……)」
おずおずとピンク色の売り場の中に入っていく卓哉。
キョロキョロと辺りを見渡しながら歩みを進めていく。
見る限りレースだのピンクだの黒だの。とても買いたくないようなのしかないなあ……。
そして、ふと目をやった先に地味目の下着類の吊るしてある一角を発見した。
こ、こういうのかな、やっぱり。
その前で足を止め、縮れた青のしましまパンツを一つ手に取ってみる。
……なんかやたらと小さい? いや、普段からトランクスなんかはいてるからそう思えるのだろうか?
こんなの本当にはけるんだろうか? 子供用じゃないよな? 値札を確認する。……婦人用だな。
「うーむ……。」
怪訝な面持ちでなんとなく引っ張ってみる。
ぐぃ〜〜ん。おお? やたらと伸びる。なるほど、そういうものなのか。
ふむふむ……更にぐいぐいと弄ぶ……とそのとき。
「……お客様?」
「え、ぁっ……ちょ……」
突然後ろから声を掛けられ、つい後手に下着を隠す。つい、女物の下着を弄んでいるという
変態的な行為を咎められると思ったから。卓哉の外見からしてありえないことだが。
振り向いた先に居たのは声を掛けてきたのは見た目30代の女性店員だった。
「?…なにかお困りですか?」
「え、いやぁ…別に……。」
頭をぽりぽりと掻いて、もじもじと答える卓哉。
店員は顔に?マークをつけてこちらを伺っている。
「…そうですか、お困りの事が在りましたら遠慮無くお申しつけ下さいね。」
結局そう言って営業スマイルを見せて踵を返した店員。
……ん? ……ひょっとして丁度いい?
この際下着選びの相談に乗ってもらおうか。というか買うべきサイズすらもわからないし。
「…あの、ちょっと待って…。」
すぐに踵を返した店員を呼び止める。
「はい? 何か?」
再びこちらを振り向く店員。
ここはもう、恥ずかしがっても仕方あるまい。正直に頼もう。
「……あのぅ、下着のサイズがわからないんですがぁ……。」
頭を掻きながら照れ照れと言う。
「は、サイズがわからないといいますと…S、M、L、のどれを買うかと?」
慣れた様子で応対してくる。その様子に少し、安心する。
「はい。その……急に痩せたりしたんで正確なサイズが……。」
ここばかりはデマカセを言う。本当のこといったら逃げられて終了だろうし。
「そうですか、ではお調べいたしましょうか?」
そのまま営業スマイルを浮かべながら聞いてくる。
「あ……お願いします。」
「…わかりました、試着室へどうぞ。」
表情を変えない店員に促されるまま奥の試着室にはいり、リュックを降ろす。
「スリーサイズ全てお計りしますか?」
メジャーをポケットから出しながら聞いてくる。
「え、あぅ……、お、お願いします。」
と、おずおずと答える。
「はい、では後ろを向いて下さい……じゃあ失礼します。」
後手にシャッとカーテンを閉めて、そういうとトレーナーとティーシャツを捲り上げてきた。
卓哉の背中に冷たい店員の手が直に背中に触れる。
「ひゃぁっ!」
素っ頓狂な声を上げて身を捩る卓哉。
「あ、ごめんなさい。でも、じっとしていて下さいね。」
淡々といい、更に服を捲り上げてくる。
「(ぅ…服の上からでもいいんじゃないのかなぁ?)」
思っても言い出せない。そういう物なのかな、と思って。
「あら、お客様ブラジャーされてないんですね。」
今度はメジャーを体に回してきながら意外そうな声を上げる。
「え、ええ……。」
顔が紅潮する。恥ずかしいことこの上ない。わざわざ言わなくてもいいって…。
「お客様、ずれないように服を持ってて下さいね……。」
メジャーを直接胸元に回してきながらいう。言われるままに捲り上げた服を持つ。
ふと目線を上げ目の前の鏡を見ると大きな胸を放り出した自分の姿が写っている。なんか惨めだ。
店員が胸にメジャーを回す。冷たいメジャーが胸の先端に巻かれてきゅっと軽く絞められる。
「んふ……。」
それでつい、吐息が漏れる。
「(あ……き、聞かれなかったかな……?)」
顔を赤らめて焦る卓哉。でもこういうのは普通店員にとっていつものことだ。
「……えーと、92ですねー…。」
そういってしゅるりとメジャーをゆるめる。
「……き、きゅうじゅうに?」
結構でかいと思っていたがそれほどまでか!? 自分でも驚く。
「ええ、最近の若い人は発育が良くって羨ましいですねぇ。」
褒めてるのか皮肉なのかわからない答え。そう言いながらも今度は胸の下を計る。
しゅっ……
「えーと……68ですねー。じゃあ、サイズはFになりますねー。」
「……え、えふですか……。」
なんか学園の奴等がじろじろ見てくるのもわかった気がした……。
「はい。では今度は腰周りを。」
淡々と腰にメジャーを回す店員。……しゅっ。一瞬の静寂。
「……56です。まぁ、随分と痩せられましたねー…」
しゅるり。少し皮肉っぽく言われる。
でも卓哉はそうとは気付かない。元々鈍くもあって、女心などわかる物でもない。
ぽかん……として、つい捲り上げていた服から手を放し、ぱさっと露出していた体が隠される。
「ごじゅうろく……。」
なんとなく復唱する。92と56。なんだか相当豪気な数字じゃないだろうか?
といっても卓哉にとって女を褒める言葉は全て、少しマイナスの響きを持って脳に伝わるのだが。
「下の方失礼しますねー……。」
ベルトを外されジーパンが脱がされる。
「……う。」
そこまでするか。まさか店員とはいえ女性の前でズボンを脱ぐとは……。顔が紅潮する。
「あら、下着を履かれてないんですか?」
店員にまじまじとお尻のラインを見られ、そう言われる。
「(か、勘弁してくれ……。)」
卓哉のそんな気持ちは露知らず、スパッツの上からメジャーが巻かれる。
「………85ですね。」
シュッ。役目を終えたメジャーがしまわれる。
「はちじゅうさん……。」
ばんきゅぽん、というやつか? ……灰谷に気に入られるわけだ。
なんだか聞いてゲッソリした。どうやらこの体は男を惹き寄せる力が相当強いみたいだ。
……俺には全然嬉しくない。掘られる可能性が高くてどうする。
その後はさっさと服を着て2人して試着室を出る。
「あ、ありがとうございました。」
取り合えず出たところで頭を下げてお礼を言う。
「いえ、お役に立ててよかったです。それではごゆっくり。」
営業スマイルを向けて踵を返し、奥に去っていく店員さん。なんか少し冷たい。
「(…俺、なんかしたっけ? いや、恥かいたのはこちらのような気が…。)」
よくわからない。
まあ、いい。とにかくサイズは分かった。あとは買うだけだ。
踵を返し先ほどの地味な下着売り場に行く。ピンクだの黒だの、色気など不要。
まずはブラジャー。サイズFは……と、あった。この中で一番大きい奴。これ以上は取り寄せか。
運がいいというべきか。一つ手に取ってみる。こ、これはまたでかい。こんなの着けるのか。
「(えと、カップとアンダーで選ぶんだっけ?)」
とりあえずサイズFの無地で白い安物ブラを
6枚掴んでかごに投げ込む。えーと、次。パンツ。パンツのぶら下がっている棚に移動する。
俺のサイズは……Sか。これまた無地の白の安物を6枚ほどサイズだけ見て無造作にかごに放り込む。
よし。これでいいだろう。そのままレジに持って行き会計を済ます。
やはりこの時ばかりは少し恥ずかしい。女物の下着を買うなんて初めてでやましい感じがする。
さて、では改めて。
会計を済ましたら袋を持ってそのままデパートの一角にあるトイレに直行する。身につける為だ。
せめて下だけは今すぐ変えておきたい。歩くたびアソコがビニールの生地に擦れてひりひりしてきたし
それに、さっさとナプキン付けないとまた血の恐怖が襲い来るやもしれぬ。
今度は最初から女子トイレに入る。うむ。間違えないぞ。
鏡の前で化粧をしている20代とみえる女性の背後をなんとなくコソコソと通りすぎ、
適当な個室に入り鍵を閉める。傘を適当に立て掛けて洋式の便座に座り、またジーパンとスパッツを脱ぐ。
「(あ、血、血ぃが…また…。)」
……血を見てまたクラっとする。
膣口の辺りに少し血の跡が見え、スパッツにも黒いから目立たないが、少し濡れたような後が見える。
垂れた時気付けよ、俺。とりあえず横のトイレットペーパーで適当に拭く。がしがし。
そして腰掛けたまま袋から下着を一枚、リュックからナプキンを取り出し、二つを説明書きに従って
組み合わせる。下着のアソコがくると思われる位置にナプキンを宛がい、羽を折って固定……
なるほど、このための羽、か。しゅっ……しゅっ……。慣れない手つきで組み合わせる。こんなものかな。
……うーん、オムツの小型版みたいだ。まあ赤子のお漏らしとは勝手が違うわけだが。
立ち上がって履く。しゅ…。卓哉の尻にぴったりとフィットする下着。
今迄のダボダボスカスカのトランクスとは違い、なんだか安定してて安心感がある。
スパッツでなくとも、動いても腰からズレなそう。これならもっと早く買ってくるべきだったかな。
ナプキンで少し盛り上がった股間をポンポンと叩いて馴染ませる。
よし、これでいいだろう。……上は寮に帰ってからでも着けよう。
スパッツとジーパンを履き直し、下着の袋をごそごそとリュックにしまう。
傘を取って個室を出る。先ほどの女性も居なくなり、人気が伺えない。
鏡の前で軽くポニーな髪形を整えたら、リュックを背負い直してトイレを出る。
閑散とした店内を進み、入り口付近でよどんだ空だが雨が上がっているのに気付く。
あれから何時間経ったのか? ふと、きょろきょろと時計を捜す。
きょろきょろ……バッグ売り場の一角にかかった時計が12時少し過ぎを示している。
今は真昼か。授業もまだ少し残っている。
「(……出ようかな。いや、出なきゃ駄目か?)」
今日の午後の授業、何があったか思い出す。えーと……体育だ。
う、とんでもない。動いたらなんかズレるらしいし、生理のせいか知らんが体調も優れない。
見学……も駄目だ。生理中の女子が見学するってのは中学のときに見ていたが、
あの飢えた腐れち○こどもの前でそういうことを推測させてしまう事はマズイ。
……もう、今日は休もう。体調が悪いってのをごり押しすればこの体だ、許可など出るだろ。
そう思い立つと、よどんだ空の中、寮への帰路に就く卓哉。
……お腹もへった。つーか朝食えてないし。少し早足で帰る。
デパートから学園への道のりは途中、駅の前を通る。
……そこで誰かが声を掛けてきた。
「あ、ねえ、どこ行くのー?」
「……はぁ?」
素っ頓狂な声を上げて足を止め、顔をそちらに向ける。茶髪で少し色黒の調子の良さそうな男がいた。
「ねえ、一人でご飯食べるのさみしいんだけど、昼ご飯付き合ってくれないかなー?」
へらへらと笑いながら捲くし立てつつ近づいてくる。瞬時に気付く。こ、これは……なんぱというやつか!
「(なんと……)」
ドキっと心臓が高鳴る。もちろん、ショックで。
車に轢かれかけた少し後のような感情。驚いた顔でナンパ男の顔をしげしげと見つめる。
「え、な、なに? なんかへんかな?」
ぱたぱたと服装を確認し出す男。
「あ、いや、別に……。」
怪訝な顔をしてそう返す。
「で、どう?」
さっ、と男がこちらの目を覗き込んでくる。
……ああ、これどっかの本で読んだ事がある。目で殺すというナンパのテクニックだったか。
まさか自分がやられるとは思わなかったが。つか、キモい。勘弁してくれ。
「……いや、いいです。」
そっぽを向き踵を返して、帰路に戻る。…でもまだそのあとをついてくる男。
「え、なんで? もう食べちゃった?」
横に回り込み、並んで歩きながらまた目を覗き込んで聞いてくる。
「可愛いからおごるよー。ね、ジュースだけでもいいじゃん。」
「いや、いいです……。」
目を合わせたくないし、顔を近づけないで欲しい。そっぽを向く。
しかしまだそっぽを向いた先に回り込み、目を覗き込んで誘ってくる。
「へぇ、化粧してないんだねー。でも超可愛い。すげー。」
なんか勝手に感心してる。
「いや、いいです……。」
しつこくしてくる男にやる気無く全くさっきと同じ返答を返す。
ふと目のやり場に困り、辺りを見ると……近くに交番が見える。
……ぴた。足を止める。
「お、来てくれるー?」
前に回り込んで顔を覗き込んでくる……でも。
「……………………。」
卓哉の目線は男じゃなく、そのすぐ先の交番に向かっている。
「……?」
ナンパ男が卓哉の目線の先を伺う……交番がある。
「……え? マジで?」
少し焦った様子で交番と卓哉の顔を交互に見比べる男。
………ジロッ。卓哉が自分の意図を汲んだであろう男を睨む。
男はそれに少し戸惑った様子だったが……
「チッ、なんだよ痛え女ぁ……ばーか。」
好き勝手な悪態を吐いてすごすごと退散していく。その背中をジトっと見送る。
「ふぅ……。」
本当に……疲れる。ここ数日で一気に起きた嫌な出来事が全て頭に浮かび出す。
灰谷。学園の、クラスの連中の目。生理。女物下着の買い物。ナンパ。……男とのセックス。
思い出して急に心が落ち込む。なんだか面倒になってきた。このまま家にでも引きこもったろうか……。
……あ、その時は家の連中になんて言おう。先生を納得させたように事情は汲んでくれるにしても
あんまり裕福ではない家の事情もある。良い学校入ったのだからこのまま自立しなきゃ許さないだろう。
女で嫌な目にあったから家に引きこもりますなんて聞いてくれないだろうし、追い出されるかもしれない。
本当にこの女は自分の子供か、赤の他人じゃないか、とまで家族の考えが及ぶかもしれないし……。
「このまま我慢するしかないのか……。」
そう一人つぶやくと、ため息を一つ吐いて寮への家路を急いだ。
……その時、寮内、卓哉と灰谷の部屋。
昼休み、灰谷は昼飯を食べる前に卓哉の様子を心配して見に戻ってきた。
ガチャ。部屋に入る。見渡すが人気も無い。卓哉はベットに寝ていると思ったが……。
ふと卓哉の机の上のさっきまで履いていたであろうズボンが目に入る。
なんとなく手に取る……なんか股の辺りが濡れてる。
「…………………………。」
卓哉のズボン……。そう思うと助平心が湧き出てくる。
……くんくん。匂いを嗅ぐと…何か変な匂い。オシッコじゃない。
卓哉のオシッコだったら……と脳裏によぎる。少し残念なような汚いような…。
でも、卓哉のズボンの股間が濡れてるということ。なんか興奮してきた。きょろきょろ……だれもいない。
当たり前だが。股間を膨らませながらズボンの股間部分を裏っ返してこれがなんなのか確かめやすくする。
触ってみる。これは……血? 指と指を擦りあわせて血である事を確認する。
…血。尋常じゃない。灰谷は卓哉に何が起こったのか推測する……が、すぐに思い当たった。
不機嫌な卓哉の今朝の様子……腹を押えて教室を出た卓哉……ズボンの股間に付いた血……。
「……生理の血?」
流石灰谷。そのことで灰谷の頭にカッと急に血が上り、興奮する。
手に付いた血は卓哉のマ○コの血か。これは………そうか……。生理。生理か。卓哉が生理。
……卓哉は生理までやっている。というと子供が生める。つまり完全に女になったわけか。
その時は……母乳もでるのだろうか? 驚きで考えがどこまでも暴走する。
灰谷の股間のモノがじょじょに大きくなる。さらにほてった頭で頭の暴走を加速させる。
という事は……男と結婚出来るという事だ……。卓哉はいつか男と結婚するのだろうか?
想像する。ウェディング姿の卓哉の横に立つタキシード姿の……自分を。
「………………………。」
ズボンを手に卓哉のベッドに腰掛ける。……バフッ。顔にズボンを押し付ける。
……くんかくんか。少し酸っぱい? 微妙な匂い。
以前一回だけ匂った事がある。卓哉との初体験のときだ。これは卓哉のマ○コの匂い。
「はぁ…はぁ…ふぁ…はぁ……。」
息が荒くなる。すーはーすーはー。更に匂いを吸い込む。卓哉の股間の匂いを。
あの日、あの時見た卓哉のマン○。あのとき以来見たくても見れなかった卓哉のマ○コ。
………興奮する。モノが更に張り詰める。我慢……出来ない……!
かちゃかちゃ…片手でおもむろにベルトを外しズボンをはだけ、張り詰めた自分のモノを取り出し、擦る。
実はあの日以来、卓哉が寝静まった時に一人風呂場であの体験を思い出してオナニーしていた。何回も。
思春期。手を届かせればすぐそこある甘い魅惑的で無防備な体。とても何かせずには我慢出来ない。
灰谷の性欲は人並み以上であるというのもあるだろう。しかし、手を出すと嫌われるから想像で我慢した。
そして今、いつもとは違い、"卓哉の股間"が目の前にある。そのことがすごく興奮させる。
すーはーすーはー……しゅっしゅっしゅっ……。灰谷のモノの先端からすぐに液がにじんでくる。
くちゅくちゅくちゅ……。ズボンに残る卓哉の股間の匂いを嗅ぎながらオナニー。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…。」
すーはーすーはー。
バレたらまずいという行為に背徳感を覚え興奮する。
くちゃくちゃくちゃくちゃ…。先端を重点的に細かく擦りながら頭の中で以前の体験を思い出す。
卓哉の甘い匂い。柔らかく、突き上げるたび大きく揺れる胸。くびれた腰をがっちり掴み、
あの丸くて弾力のあるお尻に後ろから思い切り自分の腰を叩き付けた時のプルンと歪んだ尻の形、
そして自らの太いチ○コを卓哉のマン○に激しく叩き込んで擦っている時の快楽。
喘ぐ卓哉の色っぽい顔、(本当は喘いでなどいないが)ムチムチとした感触の脚。
柔らかく、きつく、ぬめって、温かかった。あの情景を何度も何度も反芻する。そして激しく擦る。
先端から更に分泌する液が音を大きくする。くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ……。
…っ来た………興奮のせいか、すぐに達してしまう。
「くっ………………。」
……ビュっ……ポタポタッ……。床に飛び散る精液。
「はぁ…ふぅ…はぁ…ふぁ…。」
しゅ……しゅ……しゅ……。尿道の残りも絞り出すように擦る。
ドク……ドク……。残り汁が手を伝って腰掛けている卓哉のベッドに落ちる。
「……はふぅ………。」
しばし、倦怠感と虚脱感にがくっとする。そして一回射精して落ちついた頭で思う。
卓哉は完全に女になってしまった。……つまり本当に好きになってもいいという事。
結婚も卓哉がハイといえば出来るだろう。そうすればあの卓哉が一生俺の物に……。
……再び萎えかけたモノが膨張する。
毎日卓哉とすごしたり、デートしたりすればどんな楽しく日常が過ごせるだろうか。
毎日卓哉に耳元で好きといわれたらどんなに良い気分になれるだろうか。
毎晩卓哉を自分の好きに出来たらどんなに気分になるだろうか。
卓哉に自分の子供が出来たらそのとき出る母乳はどんな味がするのだろうか。
いっそ子供にやらずに自分が全部飲んでしまいたい。……そう考えると更にモノが膨張する。
いや、あれだけ綺麗なんだ。何とかしなければすぐに誰かに取られてしまう。
なんとか、なんとかして今のうちに卓哉に振り向いてもらわなければ……。
卓哉は灰谷にとって、もはやあらゆる意味で完璧な女だ。その事実で卓哉への恋心は確固たる物になった。
そして思考ばかりが先走る。さきへさきへと。卓哉をものにしたい、その一心だった。
荒い息をなだめながら床に散らばった精液を呆けた面持ちで見つめてぼぅっとする。
……そのとき。
がちゃ。
「ただいー………と。」
卓哉が、帰ってきた。
靴を脱ぎ散らし、ずかずかと部屋に入ってきた卓哉と目があう。
「……………ん?」
ポケットに手を突っ込んだまま足を止め卓哉がこちらを見る。
「あ…………。」
突然の片想いの相手の帰宅を、モノと相手のズボンを握り締めたまま硬直して出迎える。
………………静寂。
卓哉の目に入る光景が通常とは大きく違う気がする。……嫌な予感。
「……………え?」
卓哉の目線が灰谷、灰谷の股間、床に飛び散った白い何かの間を往復する。
「あ……卓哉……これは……その……。」
灰谷の顔が引き攣り、背筋が寒くなる。冷や汗がどばっと吹き出る。
「こ、これは誤解で……あぁ……。」
灰谷自身何を言ってるかわからないくらい。体の硬直は解けず、まだモノを握り締めている。
でも卓哉は聞いてない。目の前の光景をしげしげと見てる。
……卓哉は自分の机に目をやる。ズボンが無い。
すぐに灰谷に目を移す。汚いチン○を放り出して握り締めてる。
やつのもう片方の手には見慣れたズボン。自分のだ。
そして……この匂い。床の白い液体。やつの焦燥している様子。奴と目が合う。
………媚びるような視線。コレは、奴が慈悲を乞う時の目だ。
…………静寂。10秒も無いが灰谷には1分にも感ぜられた。
……そして。卓哉は何が起こったのかその間に全て察知した。
全ての物証が1本の線上に並ぶ。…謎は…全て…とけた。
理解したその一瞬で沸点はレッドゾーンを大きく越え、自我の管轄を遥かに飛び出す。
「………はぁぁああいたにぃぇぁぁぁあああああああああぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!!」
ズッ……シン………グラ…グラグラ……………。
ぎゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ………………。
平和な昼下がり。寮内に地鳴りと甲高い雄叫び、そして断末魔の声が響き渡ったのでありますた……。