11

 監禁されて二日目。
 カイトは閉ざされた窓の隙間からこぼれてくる陽射しで夢から醒めた。
 起き上がった途端、両耳に取り付けられた隷属の証のピアスがチリチリと音を発した。
 同時にブラで胸を支えられる感覚と内腿に感じるブルマの肌触りがカイトを現実を認識させる。
 夢の中でカイトは、男として葵の体を貪っていた。だが、目覚めてみれば現実のカイトは犯される側のか弱い女だった。
 カイトはブルリと身震いした。
 寒かったわけではない。尿意を催したのだ。昨晩、葵にお茶を差し入れられたおかげで尿がたまっていた。
「ああくそっ、トイレどうしたらいいんだよっ!」
 カイトは丈夫な鎖に八つ当たりした。これに繋がれている限り、半径数メートルの範囲から外へ出ることはできない。
 次第に強くなってくる尿意。カイトは腿をすり合わせるようにして耐えた。
 そこへ、ムラタと浩司たちが姿を見せた。
「おはよう、カイト君」
「へへへっ、カイトさんのブルマ姿が見れるとは思わなかったぜ」
 浩司が近寄ってきて、強引にカイトの体操着の裾をめくりあげた。
「や、やめろ!」
「おーっと、律儀にブラまで着けてるじゃん! ……カイトちゃんって実は、そのケがあったんじゃねーの?」
「なわけないだろ! 放せよ!」
「えへへ……」
 嫌がるカイトの反応を面白がって浩司はブラの背中側の紐を何度も引っ張った。そのたびにボリュームのある胸がフルフルと揺れた。まるでそういう玩具のように。
 カイトは浩司のイタズラから逃れられずにいた。
 下手に暴れると小便を漏らしてしまいそうだった。男の体と違って、ちょっとした衝撃で尿が漏れてしまいそうな感覚なのである。
 抵抗が少ないのをいいことに、浩司は次にブルマを摘んで引っ張り上げた。カイトのプニプニとした股間にきゅっとブルマの布地がきつく食い込む。
「ひぃっ!」
 カイトが尿を我慢しようと、せつなさそうに腿をすり合わせる。その仕草を見落とすムラタではなかった。
「どうやらカイト君はおしっこを我慢してるみたいですね」
 浩司はそれを聞いてブルマを弄る手を止めた。
「なーんだ、そうならそうって言ってくださいよ、カイトさん」
 わざと、カイトの手下だったときのように「さん」づけで浩司は言った。
「君たち、このダッチワイフをトイレに連れて行ってあげなさい。何をさせればいいかはもう説明しましたね」
「分かってますよ、へへへ」
 カジ、ハネダもひひひ、と笑った。
 少年に三人がかりで引っ立てられ、カイトは抵抗のチャンスもなくトイレに連れ込まれた。
 もちろんそこは旧校舎の男子トイレだった。
「そういや前にここで、カイト君にリンチされたことあったっけ」
 ハネダは皮肉っぽく言うと、二の腕に残る根性焼きの跡を見せた。もちろん、それはカイトに煙草の火を押しつけられた跡である。
「そんなこもあったかな。ザコをいたぶったことなんて、いつまでも憶えちゃいないな」
 カイトはハネダに向かってツバを吐きかけた。
「このやろっ……!」
「よせよ」
 浩司がハネダを制止した。
「ダッチちゃんの強がりにイチイチむきになんなって。それより、ショーの始まりといこうぜ」
「ああ、そうだったな」
 カイトは男子の立ち小便用の便器の前に立たされた。
「なあ、カイトさん。あんたにはひとつ、男らしく立ちションで用を足してほしいなぁ。まさか男の中の男のカイトさんが立ちションひとつできないなんて言わないよね?」
「テメェら……!」
「立ちションができたら、解放してやってもいいってムラタ先生、言ってたぜ。でも立ちションできなかったら罰ゲームだってさ」
 カイトはぎりぎりと歯噛みした。
(できねぇって知ってて無理やりやらせるつもりかッ!)
 浩司たちの意図は明らかだった。男の象徴を失って、もはや立って用を足せなくなったカイトを辱めたいのだ。
「早くしろよ〜カイトちゃん。ここで我慢したらもうトイレ行くチャンスないんだぜ?」
「ったく、じれってー!」
 カジがカイトのブルマに飛びついてずり下げると、足先からパンティごと抜き取ってしまった。
 剥き出しになった下半身にひんやりとした冷気が触れる。
 必死で堪えていた尿意がそこで限界を越えてしまった。
 下腹部が冷えてブルッと震えた。それが引き金となって尿が溢れてしまった。
「やっ!」
 手で股間を押さえようとするが、浩司たちがそれを許さない。
 チョロッ……
 温かな液体が流れ出た。
 一度出てしまうと、女の肉体構造ではどうやってもその流れを止めることは不可能だった。
 たまっていた尿は、だらしなく太股を伝いながら落ちていった。
「アハハハハ! ダセー!」
「へぇー。オンナの立ちションってこういうふうになっちまうんだ!」
 チョロチョロと尿が出続ける。
 カイトは実感として理解させられた。女の体では、足を開いてしゃがんで用を足すほかないということを。
 不意に、浩司が万年筆大の筒のようなものを取り出すと、それをカイトの股間に突き立てた。
「なにしやが……いぎゃっ!」
「えへへへ。実験、実験」
 尿道口のあたりにゴムチューブのような医療器具が押し当てられた。
 すると、尿はそのゴムチューブを通って便器へと放出された。
「これならオンナノコでも安心して立ちションできるってわけだ!」
「ふざけんな!」
「これ、カイトちゃんにやるよ。男の立ちションが懐かしくなったら、遠慮なく使いなって。ゴムチン●さ。ま、セックスにゃ使えないのが残念だけど」
 浩司はカイトの傷ついた顔を見て声を立てて笑った。
 尿ができると、濡れ雑巾が手渡された。それで足を拭け、ということだった。
 元通りブルマをはかされると、カイトはムラタの待つ廃教室へと連れ戻された。
 浩司たちの報告にムラタは一言、こう言った。
「では、罰ゲームですね」
「卑怯だぞ!」
「みなさん。カイト君を例の杭の上に」
「うわぁぁ、いやだァァァ!!」
 カイトは必死に暴れたにもかかわらず軽々と体を持ち上げられ、杭を使った拷問器具へと運ばれてしまった。
「やめろ! クソ、離しやがれ!」
「うん。離すよ」
 杭の先端がカイトの女性器に合うように調整されると、カイトを支えてた力が緩んだ。
「は、離すなーっ!」
「観念しなさい、カイトちゃん♪」
 体重で体が沈み、杭に貫かれていく。
 ズブリ……
 柔肉を押し広げて異物がカイトの内側に侵入した。
「新鮮な媚薬をたっぷり染みこませてあるから楽しみにして下さい」
「やめ……ろ……」
 カイトは掴みかかるように手を伸ばしたが、浩司たちは余裕で身をかわした。
 横にずらされたブルマとパンティの隙間から、容赦なく杭がめりこんでくる。
 たちまちカイトは身動きができなくなった。
 体重移動させようとするとますます深く杭に貫かれてしまう装置の上では、どんなにもがいてもその場を動くことはできない。
 展示物のマネキンのように固定された杭の上で身悶えすることしか許されない。
 早くも杭から染み出す媚薬が効果を発揮しだしていた。
 カイトは体の芯が熱く高ぶってくるのを感じた。
 ちょうどそのときチャイムが鳴り出すと、連動して杭が震えだした。
 一瞬にして頭が真っ白になるほどの衝撃だった。
 カイトは歯をカタカタ鳴らしていたがついに耐えきれず、甘い鼻声をもらした。
「あああああ……いやだぁ、これでイクのはいやだよぉ…………あああん……でも……こんな気持ちい……い……」
 自分で何を言ってるのかさえ分からなかった。
 ムラタがくすりと笑った。
「淫乱なお嬢さんだ」
「すげぇ反応ですよね、先生」
「肉体に馴染みつつある証拠だ。日毎に、彼の心は女の快感に浸食されていくさ」
「なんだか分かんないけど、スゲェ」
 チャイムが鳴り終わってしばらくすると、杭は振動を止めた。
 それまで背筋をエビぞりさせていたカイトの全身ががくりと弛緩した。
「うぅ……」
 イク直前で振動が止まってしまい、カイトの肉体はさらなる刺激を求め、勝手に蠢いた。
 満たされない欲求が心にピンク色の巣を張っていく。それが媚薬のせいだということは分かっていても、どうしようもなかった。
 本校舎へ戻るクラスメイトたちが去り際に胸を触っていったが、その乱暴な愛撫にさえ感じてしまい、甘い吐息をついてしまう始末だった。
(まずい、このままじゃホントに女にされちまう!)
 持ち前の反抗心が頭をもたげかけたところで再びチャイムが鳴り、杭の振動が甘い疼きへと変換された。
 せっかくの理性がこなごなに吹き散らされるほどの快感だった。
「うぐぁぁぁぁ!!」
 体を蝕む甘い衝動に身をよじる。
 ほどなく振動がやむと、今度はやるせない疼きが体を支配するようになる。
 その繰り返しで、カイトの理性は崩壊していった。
(あああ……逃げる算段立てなきゃいけないのに……これじゃ、もう、あああああんっ!!)
 杭が静かなあいだは、カイトは大事な部分を貫かれたままグッタリと頭を垂れていた。
 そうしていると、時間をおいてまた杭が震え出す……
 何度めかの絶頂でカイトは気を失っていた。

 気付いたときは、数人の少年によって胸を揉まれていた。
「ん……」
「あれ、カイトの奴、起きたみたいだぜ」
 カイトはハッとして目を見開いた。
 廃教室に五、六人の少年がきていた。その後ろで浩司たち三人組がニヤニヤしている。どうやら彼らが仲間を呼んだらしい。
「うはぁー。オレ、女のオッパイ触ったの初めて!」
「これで本物の女だったら良かったんだけどさ」
「でも一応、肉体的には女らしいよ」
「でもさぁ、中身があのカイトだからなぁ……」
 カイトに群がる少年たちは大半がクラスメイトだった。それも、いままで手ひどく虐めたことのある相手ばかりだ。
「ねえ。君、ほんとにあのカイトさんなの?」
 山田がカイトの乳房を揉み上げながら尋ねる。
「知るか……くふぅ」
「あ、ちゃんと感じてるんだ?」
 さんざん杭と媚薬に晒されてきた躰は、極端に感じやすくなっていた。クラスメイトの小汚い手で乱暴に揉まれているだけなのに、胸に甘い快感が走ってしまった。
「も、もうっ、やめろ!!」
 少年たちから逃れようとしたが、しょせん杭に貫かれている展示品の身ではどこへも逃れようがない。
 こりこりと固くなった乳首のあたりを指でつつかれると、カイトはさすがに声を抑えきれなかった。
「いやああっん!!」
 自分で聞いてゾクッとするほど甘い喘ぎ声を出してしまい、それを聞いた少年たちはどよめいた。
「効いてる、効いてる!」
「あのカイトがおっぱい弄られてアンアン言ってるよ!」
 少年たちは面白がって乳首を責める。そのたびに敏感に反応してしまう肉体をカイトは呪った。
 弄ばれるうちにブラジャーがずれ、ぽろりと乳房がこぼれてしまった。
 そのとき、いつのまに来ていたのかムラタが手を叩いた。
「君たち。今日のフリータイムはここまでですよ」
「ちぇー……」
 少年たちは残念そうに鼻を鳴らしながら、カイトの体から手を離した。
「カイト君、いつまでも丸出しにしてるのは、その立派なオッパイを自慢したいのですか?」
「くぅっ!」
 カイトは殺意のこもった目でムラタを睨みながら、体育着を引っ張って胸を覆った。
「恥ずかしがることはありませんよ。その立派なオッパイに相応しいデコレーションをしちゃいましょう。君たち、出番ですよ」
「うぃす」
 ハネダとカジが椅子から立ち上がり、カイトの前までやってきた。
 いつもこの二人と一緒に行動してる浩司の姿は見当たらなかった。
「浩司はヘタレだからこなかったぜ」
 カジは言った。
 ハネダがカイトの両腕を背中に押さえつけ、カジが正面に立った。
 昨日ムラタの持ち込んだ小箱から、金色のリングピアスが取り出された。指輪には大きすぎる、十円硬貨程度の大きさをしたリングだ。
「まさか、それ付けるんじゃ……」
 カイトの声は震えていた。
「そりゃ付けるよ。でかいオッパイを取り回ししやすいように取っ手付けてやるんだ。感謝しろよな!」
 カジはムラタに渡された麻酔注射の針をカイトの乳首の真ん中に刺した。
「いたいっ!」
 左右の乳首に順番に麻酔が打たれた。十分もすると、胸全体の感覚がぼうっと麻痺してきた。
 それを見計らって、キラキラと光るリングが近づけられた。
「ヒィッ!」
 ピアスを突き刺される恐怖に怯え、カイトは身をよじって逃げようとした。だが、その行為は杭でヴァギナをイタズラに掻き回されるだけだった。動転してるカイトは杭の上でもがいて失笑を買ってしまう。
 無情にも、ピアス穴貫通用の器具が剥き出しにされた左乳首にあてがわれた。
 指で摘んだりされると乳首はカイトの心を裏切ってあっというまに固くなってしまった。
 ゆっくりとそこへ器具が貫通していく。
 血の滴が染み出したところを消毒され、軟膏を塗られた。軟膏で乳首がぬらぬらと光った。
 右の乳首も同じ手順でピアス穴を開けられてしまった。その間、カイトは何一つ逆らえず、歯を食いしばりながら貫通の様子を見守るしかなかった。
 貫通したピアス穴にリングが通される。
「自分が商品に過ぎないことを自覚しなさいカイト君」
 両乳首に金のリングがぶら下がった。
 さらに両リングの間にチェーンが渡された。乳房と乳房の間をチェーンがブラブラと揺れる。
 カイトの見ている前でピアスリングに留め具がネジ止めされ、さらに念入りにペンチで潰されてリングは固定された。
 解放された手でカイトは真っ先にリングを外そうと試みた。
「畜生、畜生!」
 頑丈なピアスリングがカイトの努力をせせら笑うように胸の先端に鎮座し続けた。
 カイトが暴れるほどにバストが揺れ、そこに固定されたチェーンが目立った。
「どれどれ……」
 ムラタがチェーンを引っ張った。
 麻酔が残ってるのに、ジンと痛みが走った。
 ムラタが手を離すと、引っ張られていたチェーンが乳首の弾力でピシャッとカイトの胸を打った。
「あはははっ、パチンコみたいだな!」
 ムラタの真似をしてカジとハネダはかわるがわるにチェーンを引っ張っては弾いた。それがカイトにどんな屈辱をもたらすか、よく知った上で。
「あなたはもう、一人前の人間なんかじゃない。他人に弄ばれるためだけに存在するオモチャなんです。そろそろそれが身に沁みてきたでしょう?」
 ムラタの合図でカイトは杭の上から降ろされた。
 だが今度は首輪で繋がれる代わりに、胸のチェーンにさらに鎖がくくりつけられて自由を奪われた。
 外へ逃げようとすると、チェーンに胸を引っ張られて動けなくなってしまう。これ以上ないほどの屈辱を与える拘束の仕方だった。
 鎖に逆らうたびに自分が快楽の為の道具であることを突きつけられる仕組みになっている。
 ムラタの手によってブラジャーをもう一度着けさせられた。
 チェーンの部分だけが胸の谷間から顔を出している。
「なんで俺だけこんな仕打ちを受けるんだ! 俺よりもっと悪どいことしてた奴なんて、他にいくらでもいただろ!」
「フフ、分かってないですね」
 ムラタはカイトの胸から垂れ下がるチェーンを手にとって口づけした。
「君のように粗暴でありながら、天使のような顔を持って生まれた少年なんて他にいないですよ。……それに、君の姿がこの世から消えても気に掛けるような者がいないというのも都合が良かったですしね」
「教えてくれ……あんたは俺をどうするつもりなんだ」
「さてね、フフフ。楽しみにしてなさい。そうそう、これだけは保証しますよ。君の運命が決まる頃には、君は肉体に相応しく心の中まで淫乱な奴隷女に堕ちていることでしょうね」
「く……」
 いまのカイトには、ムラタの言葉は脅し以上の重みを持って感じられた。
「もっと構ってあげたいところですが、あいにくと僕も研究で忙しい身でね。また来ますよ」
 ムラタが教室を出ていくと、クラスメイトたちも名残惜しそうに引きあげていった。
 カイトは繋がれた床の上でガクガクと体を震わせた。己の体を抱きながら、カイトは歯を食いしばって渦巻く感情に耐えた。
 油断すれば涙がこみあげそうになるのを必死で堪えた。この上、涙など流したらそれこそ女になったことを認めてしまうような気がしたからだ。
 昨日と同じ時間に、葵がやってきた。
「お待たせ、カイト君。お腹、減ってるでしょ?」
「べ、別に……」
 強がってみても、カイトの腹はしきりと空腹を訴えていた。
 葵の差し入れは、サンドイッチとウーロン茶だった。
「このサンドイッチはね、自分で作ったんだ。これくらいなら、なんとか私でも手作りできるから」
「ふうん」
 サンドイッチには、不格好に切られたハムやチーズ、それにレタスが挟まれていた。
「……美味しい?」
「まあまあかな……あ、いや割と美味いぜ」
 味などどうでも良かったが、葵を手なずけておくという目的を思い出してカイトは精一杯の社交辞令を口にした。
「ほんと? 良かったぁ」
 葵は素直にカイトの言葉を信じたようだった。
 サンドイッチを褒められてはしゃいでいた葵が、ふとカイトの胸に目を留めた。
「それ……?」
 ブラジャーと服の上からでも小さな変化に気付いたのは、女ならではの観察力だった。
「ちょっと見せてね」
「…………」
 カイトが迷っていると、葵はカイトの胸をそっと服の上から触った。
 固い手応えが葵の手にも伝わる。
 葵は顔を曇らせてカイトの体操服をめくり上げた。ブラと胸の隙間からチェーンが垂れ下がってるのを見て、葵はさらにブラの位置もずらした。
 葵が息を呑む気配が伝わってきた。
「これって、ボディピアス?」
「あんまりじろじろ見るんじゃねぇよ……」
 カイトはムラタに弄ばれた証のピアスから目を逸らした。もっとも、その動作で今度は耳につけられたピアスが揺れるだけだった。
「かわいそうに……痛かったでしょ?」
「別に」
「女の子の大事な場所なのに」
 突然、胸に奇妙な感触があった。
 傷を舐める動物のように、ピアスを取り付けられた胸の先端に葵が舌を這わせていた。
 ちろり、ちろりと温かく湿った舌先が患部を舐める。
「あ、ああ……」
 身を引こうとすると、葵の手がカイトの背中に回された。少女の力でカイトは簡単に動きを封じられていた。
 一時的にカイトの乳房から顔を上げた葵が尋ねる。
「どう? 少しは楽になる?」
「楽に、っていうか……なんだか変な感じ……ふぅっ!」
 再び葵の顔がカイトの胸に沈んだ。
 左右の乳首を均等に舌で清められた。
 その刺激で乳首が固さを増すのを自覚した。男のときと違ってその場所は刺激に対してとてつもなく敏感になっている。
「も、もう、いいだろう?」
 言ってるそばから、なめらかな舌で乳頭をなぞられてカイトは仰け反りそうになってしまった。
「カイト君、気持ちいいんだね」
「ばっ、バカ言え!」
「不思議……あの男らしいカイト君におっぱいがあって、それを私が……」
「はうぅっ!」
 そっと乳房にキスをされてカイトはビクビクと震えた。
「おっぱいにキスされて、カイト君が、感じてる」
「ば……ばかやろう……」
 吐息混じりにカイトはつぶやいた。
 ようやく葵が顔を離す。
 最前までの行為で葵の着衣は乱れていた。制服のブラウスの襟がずれてブラの紐が覗いていた。カイトの位置からだと、襟の隙間からほのかな胸のふくらみが見えた。
 その瞬間、カイトの欲情に火がついた。
 カイト自身の自覚はなかったが、胸の性感帯を責められたことで欲情させられていたのである。
 上気したような葵の顔を目にしてたまらなくなったカイトは、先ほどと逆に葵に覆い被さっていき、強引に床に押し倒した。
「きゃっ!」
 有無を言わせずキスをした。
 いつも女を犯すときのように葵の手を頭の上でまとめさせて床に押さえつけ、体を密着させた。
「あ……」
「!?」
 二人の胸が重なって柔らかく形を変えた。その感覚がカイトを現実に戻した。
 葵を押し倒して腰を振ったところで、女を貫くための器官は喪われているのだ。
 どうしたらいいのか分からず、カイトは呆然と動きを止めてしまった。
 カイトの下で、葵が心配そうに見上げていた。
「かわいそう……まだ、混乱してるんだね」
 葵がカイトの頬に手を当てる。
「綺麗な顔。私なんかよりずっと綺麗」
 葵の手はカイトの首筋をなぞりつつ、下に降りていった。胸のふくらみをそっと撫でていく。
「やめろ、触るな……」
「それに、可愛らしい声。スタイルだってこんなにいいし」
「へ、へんなこと言うなよ」
 葵は不意に両手をカイトにからめてきた。そのままきゅっときつく抱きしめられた。
 セックスするときの抱擁ではなく、それは女同士で情愛を確かめ合う抱擁だった。
「カイト君」
「葵……」
「本当に女の子になっちゃったんだね」
「違う!」
「受け入れないと辛いだけだよ、きっと。心配しないで、私が女の子のこといろいろ教えてあげるから」
「俺は男なんだぞ!」
 葵を突き放そうとしたが、力では葵のほうが上だった。
 逆にいっそう強く抱きすくめられる。やわらかな躰が溶け合うように重なる。女同士での抱擁だけが持つ感触だった。
「ねえ、カイト君。もっと低い声で、葵って呼んで。男の子の真似をして」
「俺は、男だって……」
「いまは女の子だよ。男らしくって凛々しい……女の子」
 葵のほうからキスをしてきた。
 反射的にカイトはそれを受け入れた。
 唇と体を重ねることで、心も重ね合わせる女同士のキス。
 自分でもしらないうちにカイトは女としてのキスに酔っていた。それは男のときの、支配欲にかられたキスと違って、全身が熱くなるほど気持ちのいいものだった。
「私、生まれて初めて女の子とキスしちゃった」
 陶然として葵はつぶやいた。
 カイトはガラス窓に映った二人の姿を目にしてしまった。二人の少女が抱き合う花のような姿を。もう、葵に反論はできなかった。
 葵はようやくカイトから離れると、頬を上気させたまま着衣の乱れを直した。
「また明日も来るね。身の回りのもので欲しい品物があったら……きゃっ!」
 カイトは素早く葵の肩を掴むと、爪先立ちをして強引にキスをした。
 今度は荒々しい男としてのキスだった。
 唇を離すと、カイトは宣言した。
「俺は男だ。葵、お前はいつか俺の女にしてやるからな!」
「カイト君……」
 葵は突然のことに目をぱちくりとさせた。
「俺はもう寝る」
 そう言うとカイトはごろんと横になって目を閉じた。
 眠りに引き込まれるまで、ずっと葵が側にいる気配がしていた。

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