屈辱の食事を終えたカイトは、両腕を後ろ手に拘束された不自由な状態でなんとか起きあがり、椅子に腰を落ち着けた。
 女の体で目覚めた当初のパニック心理からはようやく抜けられそうだった。
 深呼吸して落ち着くと、カイトは逃亡の算段について思案を巡らせた。
 ムラタたちに復讐したいし、それ以上に元の体に戻りたい。しかし、まず最初に考えないといけないのは、彼らの手から逃れることだった。
 首輪に取り付けられた鎖が当面の曲者だった。
 顎を引いて調べてみると、鎖と首輪は南京錠のようなもので繋ぎ止められていた。針金でも使えばあるいは錠を開けられるかもしれない。
 だが両手の自由がない今は、どうしようもない。それに針金なんて都合良く手に入るとは限らないし、手に入ったとしても錠前開けなど、いままでやったこともない。
 むしろ、セキュリティホールがあるとしたらムラタたちの心理的な部分にあるだろう。
 カイトの頭の中でひとつのアイデアが思い浮かんだ。
 そうこうしてる間に時間が過ぎ、再びチャイムが鳴った。一時間目の授業が終わった合図だ。
 今度もやってきたのはヤマセだった。
「よう。いい子にしてたかい……ん?」
 ヤマセは眉をひそめた。
 床に、不自然な姿勢でカイトが倒れている。
 ミルクをこぼした跡に、血の色が混じっている。
 毒に当たって吐血したまま意識を失ったように見える。
「お、おいっ! どうしたんだよ!」
 ヤマセはあわてて駆け寄った。
 倒れているカイトの手首を掴み、とりあえず生きていることを確認した。
 髪をつかんで顔を引き寄せると、カイトはかすかに喉を鳴らした。
「これ、どうしたんだよ。血ィ、吐いたのか?」
 カイトは弱々しく頷いた。
「なんでこんな……」
「腹が痛い……病院に…………」
 最後の力を振り絞るようにカイトは訴えかけた。
「やべっ。ムラタ先生に見せねぇと!」
「うっ……!」
 カイトは身を折って咳き込んだ。
 ぴちゃ、と血の飛沫が飛ぶ。
「ひぇぇぇ!」
 ヤマセは動揺し、カイトを担いでムラタのもとまで走ろうとした。鎖が邪魔なことに気づき、ポケットから鍵を取りだして南京錠を開いた。
 鎖がカシャンと床で跳ねた。
 今度こそヤマセはカイトの体を持ち上げた。少女の体のなめらかな感触は、相手があのカイトだということをしばし忘れさせるほどだった。
「ヤマセぇ……」
「ちょっと待ってろ! すぐに運んで……」
「廊下に……ほら……」
「あ? 誰かきてるのか?」
 ひょいと廊下のほうを振り向くヤマセ。
 その瞬間、カイトは生気を取り戻していた。
「なんだよ、誰もいないじゃ…………ぐふぁ!?」
 強烈な頭突きをくらってヤマセは悲鳴を上げた。両腕でカイトを抱えていたから、防ぎようがなかった。
 さらにもう一発。鼻柱を狙って頭突きがいった。
「ぎゃっ!!」
 ヤマセはたまらずカイトを放り出し、顔を覆った。
 ストンと着地したカイトは、狙い澄ましてヤマセの股間を蹴った。
 非力な少女の力でも、その効果は絶大だった。今度は悲鳴をあげることもできず、ヤマセは悶絶して倒れ伏した。
 容赦なくさらに数発、金的蹴りを浴びせると、ヤマセは泡を吹いて失神した。
「ケッ」
 カイトは血の混じったツバをヤマセの顔に向かって吐き捨てた。
 吐血の演技をするために、唇の内側を噛みきっていたのだ。
「テメェごときが俺に逆らうからそうなんだよ」
 カイトは拘束された手のかわりに足先で器用にヤマセのポケットを物色した。すぐに手錠の鍵も見つけ、両手を自由にすることにも成功した。
「ふう……」
 ふとヤマセの姿を見下ろすと、意識を失ったヤマセの下半身で、股間の部分だけが元気良く突っ張っていた。如意棒だけが激しく自己主張している。
「こいつ、ヘンな趣味でもありやがるのか……?」
 それを見ていると、いいように弄ばれた記憶が生々しく甦ってくる。あそこに震えるバイブを突っ込まれ、胸の先端にあてがわれたストローで強烈に乳首を吸われ……。
 嫌悪感にカイトは身震いした。
 と、同時に下半身がわなないた。
「!?」
 奇妙な感覚に驚いて股間に手をやると、生温かい湿り気が指についた。
(これが「濡れる」ってやつ……?)
 カッと顔が紅潮した。
 弄ばれた感触を思い出して女みたいに「濡れて」しまったなんて絶対に認めたくなかった。
「畜生、おまえらのせいだ!」
 カイトはそばにあった椅子を振り上げると、それでヤマセをめったうちにした。
 最後にとどめと言わんばかりに、ヤマセの股間を踵で徹底的に蹴りつけた。
 ヤマセの全身がピクピクと痙攣を始めたあたりでようやくカイトは攻撃を中止した。
 意識不明のヤマセを残してカイトは廊下に出た。
 旧校舎には前にも忍び込んだことがある。出口のだいたいの方向は把握してた。
 肝試しの舞台のような旧校舎を横切り、進んでいく。
 階段を降りてからしばらく廊下を行くと、昇降口だった。
 昇降口自体は封鎖されてて、その横の職員用の通用口だけが旧校舎への出入り口になっている。
 通用口の戸に手をかけたとき、はたと自分の格好が気になった。
 サイズの大きすぎるワイシャツを着ているだけで、下半身には下着すらつけてない。それよりなにより、女にされてしまった姿を他人に見られることには強烈な抵抗感があった。
 その抵抗感をあえて払いのけ、カイトは戸を開いた。
 一歩外に出ると、強い陽射しで目が眩んだ。ずっと薄暗い中に置かれていたせいだ。
「アハハ、自由になってやったぞ!」
 旧校舎を囲む金網にもたれ、カイトは一日ぶりの外気を胸一杯吸い込んだ。
 旧校舎のあたりは普段あまり生徒たちが立ち寄る場所ではない。授業中ということもあって今は周りに人っ子ひとりいなかった。
「さて、と……」
 カイトの眼が危険な光を宿した。
 このまま教師なり一般生徒なりに助けを求めるという考えはなかった。それでは、ムラタたちに復讐する機会を失いかねない。
 カイトは旧校舎の隣にある用具室に目をつけた。
 錆だらけの扉をこじ開けて中に入ると、カビ臭い用具室で武器になりそうなものを物色した。
 刃物は見つからなかったので、金属製のスコップを手にした。
 得物さえあれば、こんな体になっててもムラタたちに喧嘩で負けるつもりはない。不意をつけばさっきのヤマセのように軽く叩きのめせる。喧嘩の場数を踏んできたカイトには、自信があった。
「おい、そこで何してる」
「っ!」
 焦って振り向くと、用具室の入り口に中年の男が立っていた。
「あんたは……用務員の沼作!」
「へへへ。わしも意外に有名人なんだな」
 女としての人生経験を持たないカイトは、沼作の視線が自分の体を舐め回していることに気づいてなかった。
「……そこ、どけよ」
 ぶっきらぼうにカイトは言った。
 沼作といえば、学校の敷地を管理するため、旧校舎近くのプレハブに住み込んでる用務員だ。いつ洗濯してるのか垢にまみれた作業服で時折、敷地内の見回りをしている。噂では、学校内で逢瀬を楽しむカップルを覗き見るのが沼作の趣味なのだという。
「これは、これは……どこへおでかけかな?」
「あんたにゃ関係ねぇ」
「ところが、関係あるんだな。カイトちゃん」
「なにっ!?」
 不意に名前を呼ばれてカイトは動揺した。この用務員がなぜカイトの名を知ってるのか。
 沼作が自分の監視役だったという結論に到達するやいなや、カイトは手にしたスコップを振り上げて沼作に襲いかかった。
「むっ!?」
「死ねぇ」
 ガンッ!
 金属が頭蓋にぶち当たる鈍い音。
 女の腕力にはなっていても、それなりに強烈な一撃だった。
 だが次の瞬間、カイトは立ちすくんだ。
 沼作がニヤリと笑ったのだ。
「わしの頭は特別、石頭にできててなぁ」
「このクソ親父がっ!」
 沼作の金的を狙って蹴り上げた足は空中で、掴まれていた。
「手癖の悪い娘っ子だ。ヒヒヒヒ……」
 足を掴まれ、力任せに投げられた。カイトの体は用具室の壁に激突して、その場にくずおれた。
 中年の脂ぎった男の腕力と、か母沿い少女の力では、はなから喧嘩にすらならなかった。そこには絶対的な力の差があった。
 また、沼作が若い頃、“ジプシー沼作”として三流プロレス団体で地方興行をしてたと知ってたなら、カイトの対応もまた違うものになってただろう……。だが、全ては手遅れだった。
「どれ、よっこいせ……」
「あぐぅっ!」
 沼作はカイトの首輪に手をかけると、無造作にそれを持ち上げた。当然、カイトは首吊りのような状態で持ち上げられてしまう。
 カイトは爪先立ちになって必死で耐えた。
 すると沼作は携帯を取り出して、片手でどこかへ連絡をとった。
「おう。わしじゃ。ムラタさん、ちょいといいかい?」
 ムラタの名を耳にしてカイトは必死でもがいたが、沼作が首輪をさらに持ち上げることでいとも簡単にその抵抗は封じられた。
「ああ、そうじゃ。例のカイトちゃん。フラフラとお外に出てきよったんで、捕獲しときましたぜ」
 電話の向こうで、ムラタが何やら指示を出してるようだった。
「へへっ、そうしときますよ。御心配なく」
 沼作は通話を終え、携帯をしまった。
「てめぇ……ムラタの野郎とグルなのか!」
「へっへっ、そういうこった。そのまま逃げられるとでも思ってたかい?」
「くそったれ!」
「へへへへ……」
 沼作の生臭い息が顔にかかってカイトは吐き気を催した。
「そぉら」
「うわっ!」
 首輪を掴んで思いきりブン投げられ、カイトは体育用のマットの上に投げ出された。
「そのマットに両手ついてケツをこっちに向けな!」
「なんのつもりだよ!」
「いいから早くしやがれ!」
 沼作は近づいてくると、カイトの尻を思いきり叩いた。
「ひぃんっ!」
 押し殺したはずなのに、怯えた少女のような悲鳴が口から漏れてしまった。
「ほら、こうするんだよ!」
 世話が焼ける、と言わんばかりに沼作はカイトの手を取り足を取り、マットの山に向かせて注文通りのポーズを取らせた。
 極端に前のめりの姿勢にされ、否応なくマットの山に両手をつくしかなかった。非力になっているせいで、その姿勢から腕力だけで上体を持ち直すことができなかった。
「フヘヘヘ、こんな上玉は久しぶりだぜぇ」
「くそっ!」
 身をひねって逃げようとしたカイトだったが、その前に節ばった男の手でがっしりと腰を掴まれていた。万力で固定されたみたいに身動きがとれない。
 青臭い男の精の臭いが鼻腔に侵入してくる。男が下半身を空気に晒したのだ。女の肉体は敏感に男の放つ臭気に反応する。そのむせるような臭いにカイトは身もだえした。
「クネクネと腰をふりやがって。もう、たまんねぇな!」
 言うなり、熱く張り詰めた突起物が押し当てられた。
「あああっ!!」
「いくぜ……」
 火傷しそうなほど熱い剛直。
 ヌルリ……
 両腿の間にそれが侵入してくる。
 ヌルリ、ヌルリ……
 あまりにもグロテスクな感触に、本能的な動作で両腿をぴったりととじ合わせた。それがかえって男を悦ばせることになった。
「へへへへ、ヒッヒヒヒヒ……」
 熱くヌルヌルとしたペニスが敏感な腿の肉を押し割って進む。
「ひぃぃぃ……」
 おぞましさに、カイトは叫んだ。
「ああ……いい声で鳴きやがるぜ……」
 男の腰がカイトの尻に密着した。玉袋が押し当てられる感触まである。
 次にすうっとペニスが後退していった。ほっとする間もなく、それはすぐに突き押す運動に変わる。
 やがてカイトは、機関車のようなピストン運動に晒された。
 男の息がハッ、ハッと弾む。いつしかカイト自身もそれに合わせるように息をしていた。
「やだ……もういやだ! やめてくれぇ……」
「ヘヘ、でるぜ……」
 吐息混じりに男がつぶやいた直後だった。
 カイトの腿に挟まれた男のペニスが一瞬、信じられないほどにふくらんだ。そして、熱い男の精を吹き出した。
「あっ、ああああ…………」
 精を放たれ、太股に熱くぬめる液体の感触が広がった。ぬめぬめとその液体が伝い落ちて膝のあたりまでを汚した。
「ふぅ、スッキリしたぜ……。まったく、こいつが元々は男だったなんて信じられないぜ、ヒヒ」
 男の腕から解放されたカイトは、その場で膝を折り、汚された部分を手でぬぐった。
 べったりと男の濃い白濁液が手に付いた。
 欲望の捌け口。ただそれだけのために、意志と関係なく体を使われてしまったのだ。これほどの悔しさと無力感をカイトはいままで知らなかった。
「ほら、なにぼけっとしてやがる!」
 沼作に乱暴に首輪を掴まれた。そのまま引きずられるようにしてカイトは薄暗い旧校舎に連れ戻された。


「カイトくん。君には『お仕置き』が必要そうですね」
 ムラタのメガネのレンズが冷たく光った。
「僕の手から逃げようとしたばかりか、あまつさえクラスメイトにあんな怪我をさせて」
「勝手なこと言うな!」
 カイトが暴れようとすると、鎖がやかましく鳴った。カイトは沼作によって、あの鎖に繋ぎ直されていた。
 それからしばらくして昼休みになると、ムラタが訪れたのだ。
「可哀相に、ヤマセくんは緊急入院ですよ」
「すぐにあんたも後を追わせてやるさ」
「やれやれ……反省の色、なしですね」
 芝居がかって肩をすくめてみせるムラタ。
 ムラタは隣で作業をしていた生徒たちに声をかけた。
「準備はできてますか?」
「はい。言われた通りに設置しました」
「よろしい」
 ムラタはその「装置」に目を移す。
 それは木製の奇妙なオブジェにも見えた。
 木の枠組みがボルトで床に固定され、その枠組みの中央には垂直に伸びた棒が突き出している。
「運びなさい」
 そうムラタが命じると、三人の生徒がよってたかってカイトの手足を捕らえ、鎖から外して装置のもとまで運んだ。
「放せ、この、放しやがれ!」
 抗議は冷ややかに無視され、カイトの体は装置の上に運ばれた。
 左右にある踏み板の上に立たされると、ちょうどその中央にある棒をまたぐような格好になった。
 二人の生徒がカイトを押さえつけ、一人が棒の根本にあるハンドルを回した。すると、股の下にあった棒がせり出し、ちょうどカイトの女性器に頭を突っ込んだあたりで止まった。
「うっ、く!」
 柔肉にめりこむ異物の固さにカイトは呻いた。
「どれ……」
 ムラタが屈んでその場所を調べ、棒の先端を膣口へとあてがった。
「いいですよ。手を離してやりなさい」
 ムラタが命じると、カイトを押さえつけていた生徒たちが離れた。
 途端にそれまで支えられていた体重がかかり、踏み板が沈んだ。
「あうっ!」
 体が沈んだぶん、棒が膣内に侵入する。
 棒の太さは、大人の親指ほど。昨日のバイブに比べれば細いといえるが、それでも異物が体内に侵入してくるおぞましさに違いはない。
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
 声にならない悲鳴だった。
 体重で少しずつ踏み板が沈んでいく。そのたびに棒……いや、巨大な張り型が胎内へと突き上げる。
 カイトにできるのは陸に上がった魚のようにただ口をパクパクさせることだけだった。
 やがて5センチほど沈んだところで、棒の侵入は止まった。たった5センチとはいえ、カイトにとってそれは全身を貫かれたにも等しい衝撃だった。
「フフフ。まるでカカシみたいですね」
 貫かれたまま身動きのできないカイトにそんな言葉が投げかけられた。
「脱走なんて企てるから、そうなるんですよ」
「あ、うぅ……」
「そんなに逃げたいんだったら、そこから逃げてごらん。鎖にも繋がれてないんだ。好きにしたらいい。フ、フフフ……」
 カイトは異物感と必死に戦っていた。
 男の身には存在しない器官。それを貫かれ、体内に異物が侵入している。そしてカイトの肉体はそれを受け入れるように形作られている。肉体から送られる感覚に、脳が、精神がパニックを起こしていた。
「どうした? 口もきけなくなったのかい?」
 ムラタが装置を蹴ると、その衝撃がじかに膣へと伝わり、カイトは身悶えした。
(こんなこと! こんなこと、あっていい筈がないっ!)
 ムラタたちへの怒りだけを支えに、カイトは砕け散りそうな精神を支えた。
 ムラタたちは油断している。
 そしてカイトをつなぐ鎖はない。
 ということは、反撃のチャンスではないか。
 そそり立つ張り型からなんとか逃れようと、カイトは意志の力を総動員して体を動かした。小刻みに震えている足を持ち上げ、踏み板から降りようとする。
 すると、片方の踏み板だけに体重がかかった瞬間、がくんと板が沈んだ。
 たちまち、張り型がさらに深くカイトを突き上げた。
「きゃああああっ!!」
 無意識に口を衝いた叫びはまさに悲痛な少女の悲鳴だった。
 装置の踏み板は、両方に均等に体重がかかっていない限り、沈みこむような仕掛けになっていたのだ。自転車のペダルのように片方が持ち上がり、片方が沈み込む。
 カイトがあわてて上げていた足を下ろすと、踏み板は元の高さに戻った。
「ふわっ……!」
 深くまで侵入していた張り型が少しだけ、引き戻された。引き戻されながら張り型のふくらんだ先端は膣壁を摩擦していく。
 周到に計算され、女体をいたぶるように造られた装置なのだ。
「ヨーロッパのバスク地方で中世、魔女の拷問に考案された器具だよ。多少、改良してあるがね。そいつに貫かれたら最後、自力では抜け出せなくなる」
 得意げに解説をしたかと思うと、ムラタはくるりと踵を返した。
「そのまま惨めな姿を晒してるといい。二度と逃げようなんて気が起きなくなるまでね」
 ムラタは足早に教室を出ていった。
 カイトは自分を貫く杭から逃れようと何度ももがいた。すると、生徒の一人、浩司がニヤついて言った。
「その棒の先端にさァ、特殊な薬品が染みこませてあるらしいぜ」
「なっ!」
「だからよォ、そんなにモゾモゾ動いてると、そのほら、アソコの中ですみずみまで薬が染みこんじまうんじゃないかねぇ」
 カイトは絶句してしまった。
 薬品……
 こんな拷問器具に塗られる薬品があるとすれば、それは……
 気のせいか、部屋の気温があがっているような気がした。
 素肌の上に来ているワイシャツがじっとりと汗ではりついている。
「うっ!」
 そのとき体の奥で灯った、小さな「火」。カイトはつとめてそれを無視しようとした。
「カイトちゃん、なんだかホッペ赤くなってない?」
「う、うるせぇ。さっさとどっか行きやがれ!」
「ケケケ。なんだかハァハァしちゃってない? カイトちゃん」
「うるせえっつって……くっ!」
 力んだ拍子に体が揺れ、張り型の先端がぞろりと体を内側から刺激した。
 少しずつ、少しずつ、体の芯に灯った火は強くなっていた。それを顔に出さないだけで、一苦労だった。
 少年たちは欲情に目をぎらつかせながらも、直接は手を出してこない。恐らくムラタにきつく注意されてるのだろう。その代わり、執拗に言葉でカイトをいたぶる。
「見ろよ、アレ!」
「ハハッ、カイトのやつ、乳首立ててやがる!」
 クラスメイトたちの喚声からカイトは顔をそむけた。
 さっきから、ワイシャツの布地を持ち上げてピンク色の蕾が固くしこっていた。シャツの表面に飛び出た二つの小さな突起。誰の目から見ても、カイトが乳首を固くしているのは丸分かりだった。
(くそう……なんでこの体はこんなに敏感に反応しちまうんだ!)
 虫けらのように思っていたクラスメイトが、自分のことを見世物にして楽しんでいる、あまつさえ欲情の対象にさえしている。そのことが我慢ならなかった。
 だが少しでも身じろぎすると、内側からは張り型に刺激され、外側からは乳首の先端を布地に擦られ、危うく甘い声をあげてしまいそうになる。
「ムラタのクスリってすげぇ効果だよなぁ」
「どうかな。カイトちゃんが淫乱体質なのかもしんないぜ」
「あはははっ、そりゃ言えてるぜ」
「いいザマだぜ。アソコに棒っきれブチこまれて、身動きできないままハァハァしてるんだからな」
「ま、お前の鼻息もかなりハァハァとウルサイけどな」
「ちっ。オマエモナー!」
 聞きかじった2ちゃん用語を振り回す少年たちに冷笑を浮かべる余裕さえ、いまのカイトにはなかった。彼らがあげつらうように、カイトはハァハァと乱れた呼吸をしていた。
 体に無理やり産み付けられた甘い疼きを押し殺すためには、自然とそういう呼吸になってしまう。
 昼休みの終わりとともに、クラスメイトたちは本校舎へと戻っていった。
 けれど、カイトは悪魔の拷問器具から解放されはしなかった。
 たった一人残された教室で、カイトは孤独に肉の疼きと戦っていた。
「あぁ……はぁ……はぁ……」
 何とか装置から逃れようと、カイトは何度もあがいた。
 たった一本の杭によってカイトは惨めに拘束されているのだ。
 逆にいえば、この杭から飛び降りることさえできれば、自由の身になれる。
 踏み板の上で爪先立ちになろうとすると、不安定な支点で支えられた踏み板は斜めに傾いでしまう。そのたびにカイトは張り型の突き上げに悲鳴をあげることになる。足の裏で均等に体重をかけてないと、踏み板は安定しないのだ。
 おまけに時間とともに、カイトの全身は誤魔化しようもないほど火照ってくる。
 汗にぬれたワイシャツはその下の白い肌や、しこった乳首さえも透けて見えてしまう。その猥褻な姿を、床に置かれたビデオカメラがひたすら録画してる。カイトが意志に反して演じさせられているエロティックなショーは全て記録されてしまう。
 ほんの数歩先にあるビデオカメラさえ、いまのカイトにはどうすることもできない。そして、汗をかくほどに薬品は全身に浸透していくようだった。
(ああ……早く、早く抜け出さないと、おかしくなっちゃう……)
 心の中にさえ、甘い匂いの靄が立ちこめ始めた。
「ま、負けてたまるか……」
 食いしばった歯の間からつぶやく。
 たった一本の杭によって、まるで何かの展示物のように人格も何もかも奪われた。そんな状態に甘んじるわけにはいかなかった。
 左右の踏み板の上でそろりそろりと体重を移動させる。もう何度目かもわからない、虚しい行為の繰り返し……。
 少しずつ、つま先を伸ばし、忌々しい張り型から体を浮かせようとする。
 そのときだった。
 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。と同時に、装置に変化が生じた。
 ブゥゥゥゥゥン…………
 チャイムの音に連動して、張り型の基底部に取り付けられたモーターが振動を開始した。
 その振動はもろにカイトの「女」の部分を直撃した。
「あっ!! あああああああああああ!!! い、いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 もとから薄氷を踏むようなバランスで欲情に耐えていたカイトだった。
 不意の刺激に理性のダムはあっさりと決壊した。そして甘い快楽の洪水が肉体と精神を丸呑みにした。
「あん、あん、あんんん、はぁぁぁぁぁぁん!!!」
 鼻にかかった声で喘ぐと、カイトの背筋が弓なりに反り返った。
 「女」の器官は何度となく収縮を繰り返し、暴れる張り型をくわえこんだ。「受け入れる」側の性本能がカイトの体を操る。
 気が付くとカイトは快感に張り詰めた乳房をかき抱き、腰を蠢かせていた。
「あはぁ…………」
 一気にからだを持ち上げられるようなエクスタシーの奔流だった。
 最初の波が引いていったとき、自己嫌悪が頭をかすめた。
(俺は負けたのか……)
 もっとも、それはカイトが後に経験する屈辱と屈服に比べれば、ほんの些細なものではあったが……。
 すぐに次の波が押し寄せ、カイトの思考は泡となって砕け散った。
 女の肉体は、エクスタシーの余波がくすぶるうちに次の快感を運んでくる。
「あ、あ、あ、ああああ…………いやぁ…………」
 ビデオカメラは静かに一部始終をテープに収めていた。
 チャイムが鳴り終えると、張り型の振動も停止し、カイトはがくりと首を垂れた。
 口の端から透明な涎が糸を引いた。
 それ以上に下の口から分泌された蜜は、しとどに杭を濡らしていた。


 カイトがようやく意識をとりもどそうとしていた頃。
 ムラタは、平然とした顔で授業を進めながら、カイトの有様を思い浮かべていた。
(ククク。その躰で悦びを経験するほど、淫らに発情する雌の躰になっていくんですよ……)

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