16

 カーテンが閉じられる、先生は――玲那はニッコリと笑いかけてくる。
「それじゃあ、心ちゃん、下着を脱いでベッドに横になってもらえるかしら?――脱いだものは、この籠にね」
 言われるままに、下着を脱ぐ。脱いでいる姿を見られるのが恥ずかしいので、横を向いて視線を逸らしながら。
「あらあら、可愛い……」
 ワンピースの裾をたくし上げて脱いだが、慣れていないせいで丸見えになっていた。
 心は気付いていない。下着のことを言われたのかと思う。
 自然と、脱いだそれを小さくたたんで籠に入れている。
 靴を脱ごうとベッドに腰掛けると、脱ぐのを手伝ってくれる。
「可愛い靴ね。バレエシューズかしら? とっても似合ってる――この包帯はどうしたの?
 どうしてさっき、先生に言ってくれなかったの?」
 悲しそうな瞳で、訴えてくる。
「あの、それは……ちょっと怪我しただけだから、だから」
「心ちゃん、先生は、私は心ちゃんの主治医なの。ですから、どんなことでも言ってちょうだい。
 私は確かに婦人科が専門だけど、一通りの診察はできるわ、ね? こっちはあとで診させてね?」
「ごめんなさい。あの――お願いします」
「いいのよ、謝らなくっても。心ちゃんは悪くないわ――仰向けに横になって、待っていてちょうだい」
 心が横になる間に手を洗い、幾つかの器具を準備している。
「最初に、お腹を触らせてもらうわね」
「服の上からで、大丈夫ですか?」
 いまの心は下着なしでワンピースのみを着ている状態だが、布地一枚隔てていることに変わりは無い。
 それが少し気になった。
「でも心ちゃん、恥ずかしくないかしら? もしも平気なら――お願い、前を開けてもらえる?」
「平気……先生と、二人だけだし。怖くない」
「そう、私を信用してくれるのね。ありがとう」
 心が胸元を開けようとすると、手伝って開けてくれた。一番下までとめ具がはずされ、ヘソくらいまで丸見えになる。むき出しになったお腹に、玲那の手が触れてくる。
 気のせいか、さっきまでよりも少しだけ温かく感じる。心は目を閉じた。
 やっぱりとても『やさしい』、そして心地良い手。
 彼女が『心』のことを、真剣に心配してくれているのが伝わってくるようだ。
 さっき診察中に変な気分になってしまったことが、少し悔やまれた。
 玲那には以前から、男の時から仄かに好意をもっていた。それもあって、彼女を騙しているような後ろめたさも感じる。
 そんなちょっぴり苦い気持ちすら、少しづつ溶かしてしまうような玲那の手。
 服の下へ潜りこんで、だんだんと下腹部に移動していく。ふにふにと弾力を確かめるように、何箇所も触れてくる。
「――!……先生?」
「ん。どうかしたの、心ちゃん?」
 心は目を見開いて、玲那の顔を見つめる。彼女は相変わらず優しく微笑んだまま。
 しかし、下腹部に当てられた手の、その指先が心のクリトリスに触れている。
 くりくりと指先で小さな突起を弄りながら、何食わぬ顔で触診を続ける。
 何度も手を移動させているのに、指先はクリトリスに触ったままだ。
 いやらしいくらいにしつこく、クニクニともてあそんでくる。
 (どうして……こんな、こんなの駄目だ。先生やめて、駄目だよ/
 先生モット、モット……イッパイ、優シクシテ。気持チ良イノ、大好キ)
 まったく違う二つの気持ちが、同時にこころの中に溢れてくる。
「……ん。ん、ぁん……ん」
 もし声が聞こえたら、カーテンのむこうにいる恋や愛、看護婦さんにばれてしまう。
 声を抑えるのに必死で、抗議することもできない。両手で口を押さえて、ただ耐えるしかない。
 (駄目だよ。モット。こんなの駄目だ。気持チイイノ。やめろ。大好キ。やめて。イッパイ触ッテ。
 ダッテ、先生ノコト好キ。でも、これは……気持チ良イから、イイよね……そうダヨ、気持ち良いノハ、それはトテモ良イコト。だよ、ネ?)
 苦い気持ちと甘い気持ちが、こころの奥のほうで少しづつほどけて、溶け合っていく。
 いますぐ玲那の腕にしがみ付いて、その手を自分の『女の子』まで導いてしまいたい。
 そんなことまで、頭のすみに浮かんでくる。
 不意に指が離れた。ほっとして、でもちょっぴり残念で、心は――。
 ふたたび、玲那の手がお腹に当てられる。こんどは打診をするらしい。
 トントン、というリズムが心地良く響いてくる。すでに身体の奥が火照り始めた心にとって、この微かな刺激はお預けをくらって、焦らされているようなもの。
「せんせい……」
「もう少しですからね。もうちょっとだけ、我慢して」
 胸に触れてきた。繰り返される打診の僅かな刺激だけで、心の乳首は立ってしまう。
「……あ――どうしてぇ? いやぁ」
「気にしなくていいの。女の子は敏感なんですもの、自然なことよ」
 とても、とても恥ずかしい。いやらしい気分になっているのを、知られてしまった気がする。
 心の瞳は潤んで、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
 玲那の手の動きが変化する。小さな乳房を片手で包み込み、優しく揉みながら、空いたもう片方の指先で数箇所を押してくる。
「えっ――あの?」
「若い女の子に乳癌が増えてるのは知ってるかしら? まさかとは思うけど、念のためにね?」
 ふにふにと本当に『やさしい』その手の動き、そこには本来なら性的なものはまるで無いはず。
 なのに、どうしようもなく気持ち良い。エッチなことをされていると、そう感じてしまう。
 そんな自分が、とても淫らな人間に思えてくる。
 (僕は男なのに。男のくせに、綺麗な女の人に、先生に診察されて気持ち良いなんて。
 いくら好みの人だからって、胸を触られていやらしい気持ちになるなんて……/
 違ウヨ、心ハ女ノ子ダカラ、オッパイガ気持チ良イノ。優シイ先生ガ大好キダカラ、イッパイ触ッテ欲シイノ。デモ、チョッピリイケナイ、エッチナ子ナノカナ……)
 まるで違うはずの男と女の気持ちが、自分はいやらしい淫らな人間だと、同じことで戸惑う。
「は、はぁ……ん……ぁは……んん」
 カーテンの向こうに聞こえないよう、吐息を、声をかみ殺す。
「つらいのね。もう少しだけ、がんばって」
 より慎重に、やさしく丁寧に、刺激を与えないように力を調節してくる。
 これでは生殺しだ。
「違う、違います……せんせい――」
 (もっと、もっと強く触って。揉んで、つまんで、にぎりしめて――)
 大声で訴えてしまいたい、叫びだしたい。でもここには恋も愛もいる、そんなことはできない。
 ワンピースの裾をギュッと握り締めて、衝動を抑える。ぽろぽろと、涙がこぼれた。
 玲那の手が離れていく。
「ごめんなさい、ごめんね。心ちゃん、つらかったね――」
 涙を拭いて、頭を撫でてくれる。心はその手を掴んで、玲那の瞳をじっと見つめる。
 (もう、終わり……もっと、もっと、もっと)
「せんせい……あの、あの――」
「少し、お休みしましょうね。そのあとで――あとちょっと、ちょっとだけ、先生に診させてほしいの。ごめんなさい、我慢してくれるかな?」
 心の手を握り返し、自分の胸に押し当てながら、真直ぐに見つめてくる。
 この後どこを診察されるのか、此処に来たときからもう分っている。
 ここは玲那の病院で、彼女は婦人科の医師なのだから。
 女の子の大切な、大切な部分。彼女になら、まかせてしまっていいと思えた。
 身体が、それを求めて、こころは、それを自然なこと――玲那は『心』の主治医だから――
 だと判断する。
「平気、平気です。だから……だから、はやく、お願いします」
「本当に、大丈夫なの?」
「せんせいを、信じてます。だから、大丈夫」
 (言い訳なのかもしれないけど、だけど、先生は主治医で……違う、好き。先生、大好き。
 せんせいのこと、ずっと前から好きだった。だからもっと、もっと――)
「ありがとう。それじゃあ、いつもみたいに膝を立てて、少しだけ肢を開いてもらえる?
 そう、そう、それくらい」
 言われるままに膝を立てて、肢を開いていく。下着のないそこが風を感じて、ちょっぴりスースーする。
「じゃ、診させてもらうわね。怖くないから……」
 囁くように小さな声。皆に聞こえないように――なのかもしれない。
 玲那が、アソコをのぞき込んでくる。心臓がどきどきと高鳴る。
 この部屋にいる全員に、聞こえてしまうのではないかと思えるほどに。
 (せんせい、せんせい、せんせい、せんせ、せんせえ……)
 胸が苦しい。アソコに彼女の吐息がかかる。生温かくて、こそばゆい。
「――うん。うん、なるほどね。心ちゃん、触らせてもらうけど、いいかしら?」
 そっと囁いてくる。
「……はい」
 指が、そっと心の『お花』に触れる。割れ目にそって、感触を確かめるように撫でてくる。
 少しくすぐったい。『やさしい』、本当に『やさしい』指。
「――ぁん」
 {うそ――心ちゃんが、濡れてる? ほんの少しだけ、でも間違いないわ……}
「ちょっとだけ、中を診させてちょうだいね?」
 両手の指がそうっと『お花』に、ピンクの花びらにそえられる。
「……ん、んん。あん」
 ゆっくりと、花びらが左右に開かれていく。ちょっとだけ湿って貼り付いたものを、剥がしていくときのような、にちにちという微かな音、いや感触が伝わってくる。
 外気に晒されて、少し沁みる。空気がこんなに『痛い』ものだったなんて、知らなかった。
 心の呼吸に合わせて、ピクリ、ピクンと『お花』がうごめいている。
 玲那の表情が明らかに変わる。歓喜を抑えきれない、恍惚の笑顔へと。
 その舌が伸ばされ、『お花』をぺろりと舐め上げる。当然、心からは見えない。
 軟らかくて湿ったあたたかいものが、絡み付いてくる感触。
 (指じゃない!? 指じゃない? 悪戯されてる? だけど――泣き出してしまいそうなくらい、それが嬉しかったら? 僕はおかしいの? いやらしいの? ねえ、誰かおしえて――
 ううん、嬉しいよぅ、気持ち良いよぉ。先生ぇ大好き。だぁい好き……もっと、もっとぉ)
「ぅん……んあ……はぁあん、ぁうん、あぁん……はぁ、はぁ、はぅ」
 両手で口を覆って、声を殺す。二人だけの時間を、誰にも邪魔されたくないから。
 ぺろぺろと立て続けに舐めてくる。『お花』がすっかり唾液にまみれるまで、舐め続ける。
 表面だけでなく、できるだけ中まで侵入して、たっぷりと唾液が塗りつけられた。
「心ちゃん、中を触らせてね? 痛かったら、ちゃんといってね?」
「はい」
 二人は示し合わせたように小声で会話している。
 うに、ぷにゅ、にゅぶり、と、女性の細い指なのに、やっとのことで侵入してくる。
 胎内を探るように、ゆっくりと指がうごめく。その度、ちゅぶ、じゅぴ、ぬちゅ、ぴちゅんと、湿った音がする。こんなにいやらしい音をさせたら、カーテンの向こうに聞こえてしまうのでは?
 いけない事をしているのがばれてしまうのではないかと、心配になる。
 指の腹で胎内の肉壁をなぞる度に、心の腰がくねり、キュウキュウと指を締め付ける。
 処女膜を確かめるように動かし、胎内の各部分を丁寧に点検していく。
 (大丈夫、先生は診察してるだけ。だから、見られても平気。だけど僕が変な声を出したら、先生が誤解されてしまう。我慢しなきゃ駄目、がんばらなきゃ……)
「んん、ぁあぅん……うん。ん、んぁ……ふぅ。は……ぁはあ……ん」
 ゆっくりと指が引き抜かれた。透明な液体が糸をひく。玲那の唾液か、それとも心の愛液なのか。
 玲那は指についたそれを舐めとり、心の耳元で囁く。
「心ちゃん、今度は器具を使って、もっと奥までキチンと診せてほしいの。とっても冷たいし、もしかしたら痛いかもしれないの。それでも、先生に診させてくれる?」
「……はい、平気です。がんばります」
「えらいわ、心ちゃんはとっても良い子ね。がんばり屋さん」
 微笑みながら心に語りかけつつ、器具を手に取る。テレビや本の中でしか見たことのない、不思議な形をしたそれ。銀色の冷たい金属の輝きに、少し怯む。
「あっ……あの、せんせい、やさしく……して」
「ええ、もちろんよ。少しでもつらかったら、すぐに言ってね?」
 手にした器具が、そっと『お花』に触れてくる。ひんやりとした冷たさに、ぞっとする。
「ぴ!――ひぃ……ぃいや……いやぁ。はっ、はぅ…ぴぃ!」
 本当に少しづつ、にぢゅ、んぢゅ、と音を立てながら胎内にもぐり込んでくる。
 異物が胎内に侵入してくるのが、こんなにも『怖い』。
 鳥肌が立って、がくがくと膝が震えてしまう。
 (ダメェ……がんばるのぉ。大好きな先生のためだから、僕は男だから――)
 惚れた女のために意地を張る。最後の最後まで、男のこだわりは捨てない。
 ついさっきまで、あんなに柔軟に玲那の指を受け入れていたのに、強張ってしまった『お花』はとても、とてもきつい。
「心ちゃん、大丈夫? やめましょうか?」
「……ぃ――だ、大丈夫です、先生はやく……ぅう」
「いいのね?――開きますよ?」
 器具によって心の『お花』が開かれていく。ぎぢゅ、ぐぢゅ、と嫌な感触が伝わってくる。
「――っひ……ひひ……ふっ。ふぃ……ひぃ……っは……ひっ……ひぴぃ!!!」
「うん、やっぱり。間違いないわ――心ちゃん、もうお終いですよ?
 よく我慢して――心ちゃん!!」
 ほんの一瞬、心は気を失っていた。幸い、意識はすぐに取り戻した。だが――
 初めて味わった恐怖に訳も分からず、ただ涙を流して放心している。
 怖かった、とても怖かった。二メートルの大男と正面きって殴り合ったときよりも、友人と二人で、得物をもった数人とやり合ったときよりも。
 そんなものが問題にもならないほど、こころ細く、恐ろしかった。
 ほんの数センチ、身体に侵入されただけなのに、何もできなくなってしまう。
 まるで串刺しにされたような、そんな気さえした。
 震えながら涙を流す心を、玲那はそっと抱きかかえる。
「心ちゃん……つらかったのね、怖かったのね。ごめんなさい。もう、お終いだから。
 偉かったわ、とっても良い子にしてくれたから、ご褒美をあげる」
 唇をそっと重ねる。心の口中に舌を差し入れて、やさしく絡める。舌を絡めるうちに、少しづつ心の瞳に光が戻ってくる。やがて完全に我に返ると、むさぼるように玲那を求める。
 それからしばらく、お互いの舌を絡め合い、口中のいたるところを刺激しあう。
 唾液を混ぜ合わせて、むさぼるようにそれを飲み下す。強く吸い付き合いながら、時おり口を少しだけ離して休憩をはさみ、刺激されないところが無いように位置を入れ替える。
 数分間にわたって、とても長く深く、甘い接吻が続く。
「「ぅ――ぷはぁ……ぁ」」
 口付けが済んでも、二人は離れない。抱き締め合ったまま、お互いの瞳を見つめ合う。
「せんせい、大好き」
「私も、心ちゃんのこと大好きよ」
「本当?」
「ええ、本当に。もっと、もっとご褒美をあげましょうね――せっかくのご褒美なのに、私のほうがいっぱい、もらってしまったみたいですもの」
「いっぱい、いっぱいちょうだい。もっと、もっとご褒美ぃ」
 心は玲那の胸に、顔をぐりぐりと埋め、甘えた声で囁く。
 ふたたび二人の唇が重ねられ、先程と同じくらい、いや一層激しくお互いを貪り合う。
 そのまま心はベッドに押し倒された。玲那の手がワンピースの胸元から侵入して、心のクリトリスを弄ぶ。今度はどんなに激しく弄くり回しても、声がもれる心配はない。
 二人の熱い接吻は、心が果ててしまうその時まで続いた。

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