21

 千鶴の太腿を枕に、心は寝そべっている。下半身、ちょうどお尻の辺りが愛の太腿の上だ。
 二人をクッションにする形で、先程からずっとごろごろしている。
 ときどき思い出したように、千鶴にキスをしたり、口移しでジュースやお菓子をもらったり、まるで仔猫のように甘えたい放題だ。千鶴はすっかり骨抜きにされている。
 そんな様子を気にも掛けていないようでありながら、愛は余程に手癖が悪いのか、心のお尻や太腿を時おり撫でたりして、悪戯をしている。
 悪戯される度に、心はその手を叩いたり逆襲にでるが、反対に捕まってくすぐられたりしている。
 いまの心はかなり『戻って』いる。はたして小学校低学年程度の判断力が、残っているかどうか……
 子供に『戻って』いて、本人は男のつもり、とは言っても幼過ぎれば、男女の別などあまり頓着すまい。
 いや、小さな男の子なら尚更に、優しいお姉さんに好意を抱き、素直にその気持ちに従うだろう。
 その優しいお姉さんに悪戯されても、好きだから我慢してしまうし、さらに悪戯自体が気持ち良いのだ。
 子供に『戻って』いる時に、男の子としての気持ちに従って振舞うことで、繰り返し繰り返し、何度も何度も『女の身体の快楽』を刷り込まれる。
 それは人生を遡って、女性として教育され直しているに等しい。
 気がつけない間に身体に侵食されて、動作や振る舞いが女の子らしくなってきていること、それ自体は精神が『戻って』いることと、本質的にはあまり関係がないのかもしれない。
 しかし、身体による侵食と、精神が『戻って』行われる再教育、その相乗効果は計り知れない。
 もっとも今のところ、それはあくまで女性同士での行為において、女の身体で快感を『得る』ことに絞られているようだが――
 もう何度目か分からない千鶴とのキスを終えて、心は急に何かを思いついた様子で立ち上がる。
「――心、どうしたの?」
「おしっこ」
「あ、そう。トイレは分かるね?」
「うん」
「私、一緒に行きましょうか?」
 千鶴が申し出る。
「大丈夫よ。まさか迷ったりしないでしょ」
「平気だよ」
 二人に笑顔で即答されては、どうしようもない。
「いってらっしゃい」
「はーい」
 ぴょんぴょんと跳ねるような足取りで向かう心を、千鶴は笑顔で見送る。
 ドアを開けて待合室に入ると、国中さんが驚いたように振り返る。
 彼女はここでも座りもせずに、秘書用のデスクの傍に佇んでいたようだ。
 一人きりなのに、ずいぶんと遠慮深い人だと心は思った。
「お嬢様、どうかなされましたか?」
 慇懃な態度で尋ねてくる。彼女の顔はなんだか赤い。
「おしっこ、トイレに行くの」
 すっかり子供に『戻って』いる心は、素直に答える。
 そんな心の様子を見て、国中さんは強い不安を覚えた。なんと言うか頼りない。
 雰囲気がふにゃふにゃしているとでも言おうか、生まれて間もない仔猫のようなのだ。
 {この子を一人で行かせちゃダメ! 危ない、すごく危ない}
 こころに何かが強く働きかけてくる。母性本能のようなものだろうか?
「お嬢様、私が案内させていただきます」
「ボク、分かるよ? 一人で平気だよ!」
 心は『お嬢様』と言われたことが気に入らないのもあって、少し強い口調で断る。
「いいえ!! 当院のトイレには介護が必要な患者の方用のものがあります。
 そちらは非常時と介助のために鍵自体ございません。万一、そちらをご使用になられて、その、間違いがあっては……困ります」
「間違いってなに? 誰がこまるの?――鍵無いの?」
 立て続けに質問しつつ、心は考える。鍵が無いとどうなるのか?
 (誰かに見られちゃうかも……恥ずかしいな。それに見ちゃうかもしれない、こまる)
 幼いながら、納得しかける心だったが、それなら鍵のあるトイレに入ればいい。
 やっぱり案内はいらないと思う。
 心はもうすでに自分がトイレで用を足すとき、座って、つまりは女式ですることが当然になっている。
 そのこと自体を疑問にすら感じていない。
「困るのは、皆です。お嬢様もご家族も、院長も私も……」
「せんせい、こまるの? 国中さんも?」
「はい」
 大好きな玲那が困るのは嫌だと思った。それに、目の前の若い看護婦さんが困るのは気の毒だとも。
「ん、分かった。じゃ、一緒にきて」
「はい、ご一緒させていただきます――どうぞ、こちらへ」
 ぺこりと頭を下げた彼女は率先して歩きだす。心はとたとた彼女について行く。
 追いついて、何も言わずに彼女の手を握る。ごく自然に。
 手を握られて一瞬、軽く驚いた。だが心の態度があまりに『当たり前』といった感じで何も言えない。
「国中さんは、何ていう名前?」
「亜津子です。国中 亜津子と申します」
 亜津子は握られた手が、とても心地良いのに驚いている。心の手の平、その柔らかな皮膚が、まるで自分の手に吸い付いてくるように感じる。温かく柔らかで、小さく華奢なその手。
 手から視線を少しづつ移し、心の横顔を見つめる。白磁のように美しく滑らかな皮膚。
 明るい栗色の艶やかな髪が、陽光を受けて輝いてみえる。まるで人形のように整った顔立ち。
 目は大きく黒目がちで、目尻が少しだけ上を向いており、品よく適度に引き締まった印象を与える。
 小さく細いが適度に高い鼻、形の良い唇は桃色の蕾のようだ。
 横顔に見とれていると、不意に心がこちらを振り向いた。
 呆けたようにその瞳に魅入られてしまい、しばらく無言で見つめ合う。
「亜津子さんっていうんだ……あっちゃんって呼んでいい?」
「え?……あ、はい。何とでも、お好きにお呼びください」
「ほんと? じゃあ、あっちゃんだね」
 ニッコリと嬉しそうに微笑む。瞬間、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を覚えた。
 同時に、この子を守りたい、守らなくてはという思いが一層強くなる。
 先程から、二人とすれ違う人々は皆一様に女も男も、年齢すら関係なく心の姿に目を奪われ、振り返ってまでジロジロと見る者までいる。どういうつもりで見ているのかは分からないが、少なくとも、心が異様なほど人の関心を引くのは間違いない。
 そんな人がいるとは思いたくもないが、もし、妙な男にでも目を付けられたら……
 間もなく、来賓と医師用のトイレに着く。ここは当然、それぞれの個室に鍵が付いている。
 病院のトイレ、特に入院施設のあるところでは、介助の必要な患者用のトイレには鍵はおろか、男女の別さえない場合がある。入り口だけは別になっている場合もあり、田崎医院はまさにそうだ。
 元々、女性の入院患者が大半だし、非常時の安全のための措置なのだから当然ではある。
 院長室からは方向こそ真逆だが、ちょうど等距離に患者用と来賓用のそれぞれがある。
 もしも心が患者用に入ってしまい、それを誰かに見られたりしたら……
 心は、いや黒姫家の人間はこの病院にとって超がつくVIPなのだ。間違いがあってはならない。
 けれどいまの亜津子はそんなことに関わり無く、心を守りたいと思い始めている。
 個室の目前まで心に手を引かれていく。
「あっちゃん、呼ぶまで待ってて」
「こちらで、ですか? あの、入り口で待たさせていただきます」
 幸い、今ここには二人だけだ。なにかある可能性は低い、入り口で待った方がよいと思う。
「ちょっと恥ずかしいけど、ここで待ってて……」
 頬を赤らめてもじもじしながら言う。聞き届けてあげたい、そう思う。
「分かりました。こちらで待たさせていただきますね」
「お願い……します」
 個室の扉が閉じられ、施錠の音がした。微かな衣擦れの音のあと、ちょろちょろと可愛らしい水音が、静かなトイレ中に響く。デパートなどならいざ知らずここは病院だ、非常時のため音消しの類はない。
 用を足す音が止み、ウォシュレットの音がする。それもやがて消え、大きな水音。次いで鍵が開く。
 しかし、出てこない。
「あっちゃん、入って……」
「え!……あの、お嬢様?」
「いいから、はやく、きて」
 ほんの少しだけ扉が開き、心の顔がのぞく。仔猫のような瞳で見上げてくる。とても恥ずかしそうだ。
「――失礼いたします」
 目を伏せて、素早く個室に入る。
「鍵、しめて」
 言葉に従って、後ろ手にロックする。顔を上げて心を見ると、まだ下着を下げたままだ。
 顔を真っ赤にしながら、真っ直ぐにこちらの目を見つめてくる。
「あのね、あっちゃんに見て欲しいの」
「お嬢様? 一体何をおっしゃって?」
「聞いて下さい! あの、ボクの身体を見て欲しいの」
「いけません! 駄目です……そんな、そんなことをなさっては」
「だって!! だって皆、せんせいもお姉ちゃんたちも、ボクの身体のこと……ちゃんと、ちゃんと、ボクに話してくれないよ――キレイだとか、可愛いとか、そんなのばっかり!!」
「お嬢様……」
「違う! ボクはお嬢様じゃない!!!」
「ですが、貴女は黒姫家のお嬢様です。私どもにとって、とても大切なお方です」
「じゃあ、代わりにボクを、身体を見て! お願い、お願いします」
 目に涙をいっぱいに溜めて、真っ直ぐに見つめてくる。裏切れない、裏切りたくない。
「分かり……ました。受け給わります」
「ありがとう……ありがと、あっちゃん」
 ハンカチで心の涙を拭いてやると、照れくさそうに笑う。その笑顔がまた可愛らしい。
「よーく、よぉく見てね?」
 下着を脱いでポケットにしまう。蓋をしめた上に座ってゆっくりと肢を開いてゆく。
 ワンピースの裾を捲り上げて、ヘソの辺りまで見せている。心の下半身はすっかり丸見えだ。
 亜津子はゴクリと唾を飲み込んだ。美しいとか綺麗だとか以外に、どんな言葉が在ると言うのだろう。
 いつもはピッチリと閉じているのであろう大陰唇が、大股開きになっているせいでほんの少し開き、綺麗なピンク色の秘肉を覗かせている。白くすべすべした皮膚は顔と同じく磁器のようで、染みはおろかホクロさえ見当たらず、土手部分に申し訳ていどに生えた陰毛は髪と同じ明るい栗色だ。
「キレイ……」
 思わず呟いてしまう。亜津子の言葉に、心は微かに表情を曇らせる。
「――ダメ。キレイとか、可愛いとかはダメ。そうじゃなくて、おかしくない? あ! そうだ。
 もっと、もっとよーく見えるようにするよ?」
 片手を股間に伸ばすと、指先を大陰唇にあてがう。くちゅりと小さな音を立て、左右に開いてみせる。
 目一杯に開いて、腰の位置をこちらにせり出すようにずらし、片膝を抱え上げて見せ付ける。
「どうかな? ボク、おかしくない? ねえ、ねえ?」
「……あ、ああ……」
 亜津子は言葉が出ない。何と言って良いのかわからないのだ。
「どうしたの? おかしいの? やっぱりボクへんなの?」
「いいえ! いいえ、違います」
 やっとそれだけ言えた。これ以上は何と言ってあげれば良いのだろう? 亜津子は懸命に言葉を探す。
 心の未成熟な印象は、あくまで印象だけのもの、そういうことなのだろう。
 性器は、『お花』はしっかりと成熟している。過不足ない、年齢相応なものに見える。
 しかし、どういうわけなのか、匂い立つような強い色気を発していながら、何か穢れというか、後ろめたさが微塵も感じられない気がする。整い過ぎているせいなのだろうか、肉の持つ生々しさや、グロテスクさが抜け落ちているような……
 それにこの甘い匂いはいったい? これが人の体臭なのか? 亜津子には信じられない。
 院長が、玲那がさきほど診療中に何度も口にしていた『甘い匂い』という言葉。
 同じ室内にいて微かに感じてはいたが、ここまで強いものだったとは。
「ねえ! ねえ、ねえ、どうしたの? ねえってば!!」
 心は業を煮やしたのか、その場に立ち上がると衣服を首元まで捲り上げる。
 腰をせり出して、性器を見せ付けながら、亜津子を真っ直ぐ睨み付ける。
 ふわりと、甘い香りが鼻孔をくすぐる。
「美味しそう……」
 つい、口に出してしまう。
「え……あっちゃんも、そうなの? ボクに悪戯するの?」
「申し訳ございません! そんなことは決して、決していたしません」
「ほんとう? ほんとうに?」
「もちろんです」
「良かった……ボクね、怖いんだ。悪戯されると、おかしくなっちゃう気がするんだ。
 ボクが、どんどん違うボクになっちゃう気がするの――あっちゃんは、そんな時ある?」
「私にも、ございます。そんな時が……」
「あっちゃんは、ボクに嘘つかないよね?――教えて、ボクはおかしくなあい?」
「大丈夫です。どこもおかしくはございません。それに、とてもお美しい――」
「やめて! 嬉しくないから、キレイとか言われたって嬉しく無い!」
「ですが、ほかに申し上げようがないのです。言葉が、見つからない……」
 実際のところ、心にはおかしい部分がある。いや、全部と言っても差し支えないだろう。
 整い過ぎているのだ、異常ともいえるくらいに。『作り物めいてみえる』という『例え』より、作り物だと言い切られたほうがしっくりするくらいだ。
 いま目の前に晒されている裸身の、骨格そのものは同身長の他の少女と比べても随分と華奢だ。
 胴体部分が一回り、下手をすると二回りくらい小さい。そのくせ手足はとても長い。
 全身がとても細く華奢なのに、痩せ過ぎている感じはまるでしない。小さな骨格に丁度よく、適度に肉が付いているように見える。触ったらぷにぷにして、とても気持ち良いだろう。
 身長比で考えたら長すぎる手足は、実物を見る限りとてもバランス良く見える。
 小さな顔だ。頭蓋も身体に見合ってかなり小さいということだろう。
 理想的な体格の女性を、わざわざ小さく縮めたような……そうだ、『扱いやすい』ように、男にとっても女にとっても、誰もが『扱いやすい』サイズにつくり直したみたいなのだ。
 ただ胸だけが、少しばかり縮めすぎたような印象だ。
 こんな少女を目の前にして、おかしくないかと尋ねられて、何と言ってやれば良いというのか?
 〔あなたは整い過ぎていて、異常です〕
 とでも言ってやれと? 言葉が無い、言葉というものの不完全さを痛感する。
「お聞きください。貴女様は花や猫を見たとき、何とおっしゃいます?」
「え?……えーとね、キレイだねとか可愛いねとか。でも、ほんとにそういう感じのした時だけ」
「そうでしょう? 同じことなのです。そういう風に『感じ』て、それを素直に表現しただけ……
 他にどうしようも無いのです。ご理解ください」
「でもぉ……みんなが同じことしか言わないの……やっぱり、へんだよ」
「それでは、私の印象を言わさせていただきます。心お嬢様、貴女はまるで少年のように、清々しく、健やかにお美しい。それに、看護婦の私が判断する限り、とても健康そうです」
「ほんと!! ほんとうに?」
 心は『少年のように』という言葉が、とても気に入った。すごく嬉しい。
 男の子っぽいと言われた。自分は男だから、男の子らしいと言われたことは良いことだと思う。
 (やっぱり、あっちゃんは良い人だ)
 そもそも心が、亜津子に身体を見てもらおうと考えた理由は単純だ。
 さきほど診療室でいけない悪戯をされていた時、彼女はその場にいて、聞かれてしまった。
 だからこの上さらに、見られてしまったところであんまり大差が無いと思ったのだ。
 それに、この若い看護婦さんは、よく分からないが信用できる気がした。
 うそをつける人ではないと、そう感じたのだ。理由は特にない。勘だ。
 それは一応、正解だったと言えるが、あまりにも軽率であったと言わねばなるまい。
 だが、いまの心にはそこまでは思い至らないのだ。
 危なっかしいという、心に対する亜津子の印象はとても正しいものだった。
「あっちゃん――」
 心は亜津子に飛びつくと、唇を重ねる。千鶴を骨抜きにしたあのキスだ。
 なんのことはない、心にしてみれば単なるお礼のつもりだ。
 優しくて綺麗なお姉さんはみんな大好きで、仲良しになりたい、いまの心はそう考えている。
 小さな舌が吸い付くように絡みついてくる。口中のあらゆるところを刺激して、蹂躙していく。
 こんなに可愛らしい少女なのに、男性的で暴力的な感じのするキスだと亜津子は感じた。
 舌で舌を愛撫され、嬲られながら、理性が吹き飛びそうになるのを懸命に耐える。
 押し付けられた小さな胸が、下着越しに感じられる。やわらかなその感触が、ぽよぽよ、ふにゅふにゅと攻め立ててくる。
 捲り上げられたワンピースが首元で固定されたままなので、下半身が丸出しだ。
 視界の隅にちらちらと目に付く、明るい栗色の薄い茂みと、白い下腹部が眩しくて堪らない。
 甘い匂いが漂ってきて、強く嗅覚を刺激してくる。すごく美味しそうだ。
 手を伸ばせばすぐに届くところに、あの『お花』が待っている。
 ピンク色の花びらが、自分を誘って、悪戯されるのを待っている気がしてくる。
 {うそ、うそよ……私、私そんな趣味ないもの}
 自分には少女趣味は無いはずだと言い聞かせながら、何か気を逸らすものを探す。
 これしかない。唇と舌、心とのキスに集中する。
 心の舌に応えるように、自ら舌を絡めて心の口中を刺激する。
 お互いが分泌した唾液をかき混ぜ、飲み下し合う。
 強く、強く心の存在を意識する。唇と舌のみにだけに集中していく。
 唇が離れる頃には、亜津子はすっかり心の虜になっていた。
 いまこの場で、心に悪戯することはどうにか我慢できた。だがしかし、少女趣味がないと思い込んでいた自分は、もうすでにいないことを自覚している。
 {お嬢様……お嬢様ぁ}
 心が愛しくて堪らない。『あの人』よりもずっと、ずっと――
 二人は頬を染めて、しばらく無言で見つめ合う。
「――お礼だよ。あっちゃんは、ボクのこと好き?」
「はい、もちろんです。お嬢様、お姉さま方が心配なされます。もう、お部屋に戻りましょうね」
「うん」
 ぴょんと飛び降りると、服を直してそのまま出て行こうとする心。
「お嬢様! あの、下着を……」
「あ! 忘れてたぁ」
 これまで脱いだ下着は、ほとんど誰かに着けてもらっていた。そのせいで、穿くのを忘れていた。
 笑いあう二人、亜津子の手が伸びて心のポケットから、下着を取り出す。
「穿かせて差し上げますね?」
「ありがとう」
 心は亜津子の肩に手を乗せると、片足づつ持ち上げ、下着に通してもらう。
 下着を引き上げるとき、亜津子は服の中に潜り込み、わざと下腹部に顔を押し付ける。
 胸いっぱいに、甘い香りを吸い込んだ。鼻先、顎の辺りがクリトリスに擦れる。
「くすぐったぁい……あっちゃんのえっち」
「失礼いたしました。お許しください」
 言葉とは裏腹に、続けて何度か鼻先を擦り付けて、その香りを愉しんだ。

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