10

 パジャマの下から現れたのは、ピンクのレースのブラジャーだ。斜めに切れ目が入ったカップに包まれた重たげな乳房が、きれいに真ん中に寄せられ美しい曲線を描いている。レースの向こう側に固くなった乳首が見える。下も同じピンク色のショーツ。サイドが紐になっているタイプだ。
 雄一郎の指が布地の端から亜美の秘処へと潜り込む。
「い、痛いっ!」
 ろくに愛撫もされずに膣口に突っ込まれた指に、亜美は身をひねって抵抗する。こんなことを望んだわけじゃない。
 だが、女は望まなくても濡れる。粘膜を守るための防衛反応だ。しかし亜美の体は、単なる自己防衛にしては過剰なほど、じっとりと愛液を分泌させていた。
 どうしてこんな下着を着けてきてしまったのだろう。
 雄一郎は亜美の後頭部をつかむと、乱暴に顔を引き寄せてキスをした。唇を閉じようと思ったのに、入り込んできた舌に自分の舌を絡ませてしまう。
「ん……ふっ」
 まるで喉奥を突こうとでもするように、雄一郎は顔を動かしながら、亜美の口腔を舐め回す。
 気持ち悪い。
 胸がむかむかする。
 亜美は初めて、男を嫌悪した。それは悠司の精神が与えた影響なのだろう。それとも今は亜美は悠司なのだろうか。だが、混乱していてよくわからない。
 手を胸にあてて雄一郎を押し退けようとするが、力の差は歴然だ。
 雄一郎はこんな人ではないという思いと、男なんて所詮そんなものだという相反する思いが亜美の中でぶつかる。
 弱々しく抵抗する亜美を床に馬乗りになって押さえつけ、唇についた紅を手の甲で拭うと、雄一郎はズボンを脱ぎトランクスを下げた。
 ブルン! と音がしたような気がする。酒が入っていると勃起しにくいというが、少なくとも目の前のそれは、そんなことなど関係なしに隆々とそびえ立っていた。今日の中学生の物とは比べ物にならない。
 腰が痺れたように、熱い。
 挿れてほしい。この、長くて固くて太い物を、私の中に……!
「抵抗……しないのかよ」
 雄一郎が、ぼそっと呟く。するとペニスは彼の気持ちを反映してか、力無く垂れ下がってしまう。亜美は彼のそんな様子が痛々しく、顔を背けてしまった。
「くそっ! どいつもこいつも、俺を」
 触りたくない。
 それなのに亜美の手は、ゆっくりと雄一郎のペニスへと伸びてゆく。
 雄一郎の体が、電撃でも食らったかのように跳ねた。驚きを込めた目で、亜美を見つめる。
 完全に固さが抜けきれていない茎に手を添える。
 とても、温かい。生命のあたたかさだ。
「ふう……」
 亜美の唇から吐息が漏れた。
 男が感じる場所はわかっている。男がどうして欲しいのか、どうすれば満足できるか。
 わかっている。わかってはいるが、その先は……。
 恥かしい。こんなこと、したくない。
 心に秘めた思いとは裏腹に、体は熱く火照り、股間からはじくじくと愛液が染み出ている。
 手の中で再び固さを取り戻すペニスを見ていられなくて、再び亜美が目を逸らす。それでも手は離さない。
 まるで自分が同性愛者になったような気がする。
 今の彼女は亜美でありながら、悠司だった。自分から握ったのに、ペニスを強制的に握らされたみたいで、腹の底が煮えくり返るようだ。でも体は心を裏切る。牡(オス)の匂いが彼女の官能を刺激する。
 呆然としている悠司の下から抜け出て、亜美は四つ這いになって膝立ちをしている雄一郎の股間に顔を近づけた。恥ずかしくて、くやしくて、胸が熱くなる。心臓が破裂しそうだ。
 三十度ほどの角度にまで回復したペニスの切っ先に、キスをする。
 まだ唇に残っていた口紅の跡がついた。
「汚れて……しまいました」
 そのままの姿勢で、雄一郎を見上げる。まるで媚びるような、お預けをされた小犬のような瞳が彼を射貫く。潤んでいるような彼女の目を見て、急激に股間に血が集まってきた。
「それじゃあ、綺麗にしてくれ」
 雄一郎はかすれた声で言う。
 亜美は首を少し斜めに傾け、口紅で印を付けた場所に向かって舌を突き出した。男が喜ぶだろうという計算を込めた所作だ。ペニスが地面と並行する角度まで勢いを回復したのを確認して、ルージュ無しでも美しい桜色の唇で、亀頭に挨拶のキスをする。
 たちまち、ペニスは天を衝く勢いで反り返った。
 太い幹に左手を添え、口を開けて先端を口に含む。大胆なのに、どこか恥ずかしげでおぼつかない手付きが、かえって男を刺激する。小さな音を立ててキスを繰り返し、尿道口の方まで唇を這わせる。
 透明な粘液が溢れてきたのを見て、亜美は親指の腹で根元の方から先端に向かって、つい……と指を走らせた。
「うっ!」
 ペニスがびくびくと震えた。指についた粘液を、亜美は顔を上げて彼の目を見ながら、ぺろりと舐めた。
 酔いがさめたのか、雄一郎が困ったような顔をしている。こんなことをしてしまった自分に戸惑っているのだろう。何かを口に出そうとした雄一郎に向かって、亜美は一本だけ突き出した人差し指を彼の唇に押しあて、顔を左右に振った。
 亜美は立ち上がって、雄一郎から一歩下がった。
「今のことは、お忘れになって……」
 寂しそうに微笑む。
 今ならまだ、取り返しがつく。最後の一線を越えないですむ。
 男として。
 そうだ。半ばまで染め抜かれてしまっているとは言え、まだ男としての意識がある。今日は体に流されるまま何度かセックスをしてきたけれども、これは違う。こんどこそ、壊れてしまう。そんな気がしていた。
 雄一郎が踏み込んで、亜美の肩を抱きしめた。
「ごめん……亜美ちゃん」
 拒まなくっちゃ……。
 この手を退けてください。私は部屋に戻ります。そう言えばいいだけだ。
 だが出てきた言葉は、
「お義兄様、お酒臭いですわ」
 だった。
 目をつぶって、雄一郎に体を預ける。酒臭い男の匂いが亜美の唇を奪った。
 亜美は雄一郎の首に手を回し、目を閉じた。
 体が――蕩けてゆく。
 軽々と抱かれ運ばれてゆく。行先は恐らく、ベッドだ。時折ふらふらとなりながら、雄一郎はそっと亜美をベッドに横たえさせる。
 再び唇を奪われる。唇を愛撫するような、濃いキスだ。
 どうして自分は抵抗しないんだろう。
 亜美は目を閉じたまま身をすくめて、じっとしている。体を横向きにされて、ブラジャーのホックを外された。亜美は閉じたまぶたに、ぎゅっと力を込めた。
 まるで、何も知らない処女の子みたいだ。
 恥ずかしくて、心臓がどきどきする。
 蹴飛ばして逃げてやれ、という気持ちがないわけではない。だがそれ以上に、雄一郎を待ち焦がれている自分がいるのだった。
 不思議だ。
 亜美は小さい頃から姉に、そうとは知らないまま性の知識を教えこまれていたので、恥じらいというものを知らなかった。他人に自分の体を世話させるのも当たり前だったし、男性相手でも女性でも、彼女は常にセックスの主導権を握っていた。
 受身のセックスは、これが初めてだ。
 亜美の体が表向きにひっくり返され、雄一郎がおおいかぶさってくる。ただ息を吐く音と、ベッドがきしむ音だけが部屋を満たしている。脚を割って、剛直が彼女の股間に押しあてられる。
 そのまま、インサートされた。
 圧倒的だった。
「い、いやああぁぁっ!」
 思わず悲鳴がこぼれる。
 挿入されただけで、深い所まで落ちてゆくようだ。
 昼間の中学生とはまるで違う。あんなものは子供騙しだ。ひと突きだけで軽く達してしまう。浅い所を軽く抜き差しされているだけで、どんどん快感が深くなってゆく。
 セックスで初めて、恐怖心が込み上げてきた。だが雄一郎は冷静な表情で、亜美の反応を引きずり出してゆく。
「いや、だめ! だめ! やめてください、お義兄……様っ!」
 哀願する亜美の口をふさぐように、雄一郎は再び唇を重ねる。
 今度はさっきのような乱暴なキスではなく、ねっとりとした淫らな交わりを感じさせるものになっている。
 亜美の体の力が一気に抜けた。
 その瞬間を待っていたように、雄一郎は深くペニスを突きいれた。
「んふぐっ!」
 ズン! と頭に衝撃が走る。思わずねじ込まれた雄一郎の舌を噛みそうになってしまった。
 まるで蛙のように足を広げたまま、押さえこまれるようにして貫かれている。なんとも屈辱的な感じだ。これが男と女の差なのだろうか。こんなに脚がらくらくと左右に開くなんて驚きだ。
 奥まで入る。何ともいえない異物感以上に、満たされる悦びがある。身体中に痺れが広がるようだった。
 雄一郎が唾液を送り込んでくる。
 亜美は顔を背けて拒絶する。雄一郎はほっぺたにキスをした。
「ほら、亜美ちゃん……見てごらん」
 見やすい位置へ、お尻を持ち上げる。亜美はゆっくりとまぶたを開いた。
 ぬるぬるとした白い粘液にまみれた赤黒いものが引きずり出されてゆく。それを惜しむように、紅の粘膜がまとわりついているのが何とも艶めかしい。ペニスのくびれの感触が、亜美を酔わせてゆく。
 楠樹先輩との交わりは、初めて自覚した女としての快感だった。
 次のカラオケボックスでは、男との交わりに溺れた。
 そして今。
 だがそれは、許されることのない義兄とのセックス。彼には帰るべき所があるのだ。
 それに――男としての恥辱の意識が、彼女に恥じらいを与える。だが悠司でさえも、今の快楽に溺れている。
 体も、心も蕩ける、本当の交わり……。
 口から出るのはただ、小犬の鳴き声のような吐息だけだ。
 雄一郎は亜美の顔にキスを浴びせながら、腰の動きを加速してゆく。その動きに同調するように、亜美の小さな喘ぎ声も小刻みのリズムとなってゆく。
「あっ、あっ、あん! あん! あんっ!」」
 可愛らしい喘ぎ声で、急速に雄一郎も高まってゆく。
「亜美ちゃん、出すよっ!」
 言い終わるが早いか、亜美の中に勢いよく精液が注ぎ込まれる。
 子宮の奥まで精液が芯まで染み渡ってゆくようだった。
 一方の雄一郎も、久し振りの膣内射精に酔いしれていた。輸精管を通る精液が塊になっているのが自分でもわかるほどだ。身重の観夜の体を思いやってセックスをしなくなって、何か月がまんしていたのだろう。
 雄一郎は亜美の体にのしかからないように気遣いながら、まだ完全に達しきっていない彼女の中に挿入したまま、愛撫をしている。
 一向に萎える気配のないペニスに、亜美は雄一郎の顔を見た。
 雄一郎の瞳に、罪悪感を感じ取った。それを言葉に出さないのは男の矜持というものだろうか。
 よかった……いつものお義兄様に戻っている。
「今日の亜美ちゃんは、なんだかとっても可愛いよ。いつもみたいに澄ましていないで……こういう風だといいのに」
 途端に、恥ずかしさで亜美の顔は真っ赤に染まる。
「お義兄様……ううん、先生のいじわるっ!」
 身体中に媚薬が溶けこんだような、静かな快感が広がってゆく。いつの間にか亜美は、いつもの笑みを浮かべていた。
「もう先生じゃないんだけどな」
「うふふ。今でもお義兄様は、私の先生ですわ。この……」
 亜美は雄一郎の体に脚を絡ませた。
「エッチなことを最初にしてくれたのも、先生でしたから。お義兄様は、私のエッチの先生です」
「亜美ちゃん、エッチって何の意味だか知っている?」
 雄一郎が少し困ったような顔をして言った。
「? ……あの、セックスのことではないのですか?」
 亜美がセックスと言うだけで、雄一郎のペニスは反応してしまう。
「あのね、Hって、変態の頭文字から取ったものなんだ。だから、あまりいい意味じゃないんだよ」
「そうなんですか」
 きょとんとした表情の亜美に、体を曲げて少し窮屈そうにしながら雄一郎は唇をかぶせた。
「今晩は亜美ちゃんをもっとエッチにしてあげる」
「はい……私を、エッチにしてください」
 雄一郎は体を起こして、亜美の脚を持つ。彼女の中で擦れる位置が変って、新たな快感が産み出される。
「ん……っ!!」
 亜美の膣がびくびくっと震えて、雄一郎のペニスを締めつけた。
「どうしたんだい?」
「あの……」
 イッちゃいました、なんて恥ずかしくて言えなかった。
 そんな彼女の表情を見て雄一郎は何かを悟ったようだ。キスをして、体位を変える。達した直後の敏感な体は、まだ余裕を残している。
 股間からあふれた精液が、とろりと流れ落ちる感覚に亜美は酔いしれた。
 もっと気持ち良くなれる。
 仰向けになったまま両脚を揃えて、膝を折り曲げられるような姿勢でのしかかられる。挿入がいっそう深くなった。
 亜美が感極まって、鳴いた。
 そんな彼女が愛しい。愛しくてたまらない。雄一郎のペニスが再びゆっくりと抜き差しされる。
 亜美にも雄一郎の感覚が伝わってくるような気がした。
 ぶつぶつ、ぬるぬる、きゅっきゅっとペニスにまとわりつく媚肉の感触で、普通なら射精してしまうような快感がある。
「凄いよ。亜美ちゃんのおまんこ、きゅっきゅって僕を締めつけてくるね。気持ちよすぎてすぐに出しちゃいそうだ」
「いやんっ! お義兄様の、いじわる!」
 亜美は女と男の二重の感覚で感じている。
 雄一郎が気持ち良くなっているのがわかって嬉しかった。
「観夜としてなかったら、すぐに出しちゃうところだよ」
 彼の言葉が、針のように胸に突き刺さる。
 そうだ。姉はいつでも、彼とこんなことをしているのだ。まだ無垢だった自分に性技を教えこみ、夜な夜な亜美の体をもてあそび、処女にして淫乱な娼婦に仕立てあげた姉、観夜。
 まだ何も知らなかったあの頃とは違う。
 悠司という存在と出会い、混じりあって亜美はようやく、本当の“悦び”を知った。
 一方的ではない、互いを思いやる交わりというものの素晴らしさを……。
 ただ抱きしめてくれるだけで心が満たされ、安らぐ。
 今だけ。そう、この瞬間だけは、彼は私のもの。
「お義兄様……今日は、亜美を……私を、眠らせないでください」
 思わず口をついて出る言葉。
 雄一郎は微笑んで、亜美の奥に向けてゆっくりと腰を突きいれた。
 部屋の中に、亜美の感極まった声が響き始めた。

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