わたしの黒騎士様

エピソード1

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 【1】

 我がロシュア王国には、二つの騎士団がある。
 白と黒をそれぞれ象徴の色として掲げ、その色の名で呼ばれる騎士団には、武術に優れた選りすぐりの男達が集う。
 国の防衛を担う双璧の一つである黒騎士団に、念願叶ってわたしの入団が決まった。
 七年前、レオンが通った騎士団への門を、ついにわたしもくぐることができるのだ。

 先ほども述べたが、騎士団に集うのは男ばかり。
 この国で剣を握る女性は稀だ。
 護身のために習う者もいるが、騎士団にまで入ったという前例はない。

 そんなわけで、入団試験への入り口となる応募書類には性別を書く欄がなかった。
 入団希望者は男性だけという暗黙の了解みたいなものがあるのだろう。
 しかし、わたしの本来の性別は女だ。
 記入すべき項目がないのだからと、わたしはそのまま書類を提出した。

 書類は何事もなく受理されて、面接、入団試験へと進み、めでたく合格通知を獲得して従騎士の資格を得た。
 詰襟の黒い制服の胸には、階級章代わりの星型のバッジが光る。
 従騎士となった、わたしの星は一つ。
 星は最大で五つまで増える。
 五つ星の人は、各騎士団の団長と副団長のみ。
 その他の団員は、四つが最高階級。

 わたしの憧れの彼は、四つ星の一級騎士。
 黒騎士団の中でも最強クラスの実力を誇る一級騎士、レオン=ラングフォード。
 わたしは彼に追いつくために、ここまできた。
 彼に照らされた未来を掴み取るために、今まで頑張って剣の腕を磨いてきたんだ。




 入団式の当日。
 わたしは身の回りの物を詰め込んだバッグを持って、騎士団の詰め所となっている巨大な施設の門をくぐった。
 男性しか存在しない空間にも関わらず、誰もわたしに違和感を抱いていない。
 髪を短くしたおかげかな。
 入団試験を受けると決めた時に、伸ばしていた金の髪を切った。
 髪が短くなった当初は、頭が軽くなったような感覚がして落ち着かなかったけど、もう慣れた。
 面接の時もそうだったが、髪を切って男物の服を着ているだけで、性別を疑われもしないというのは、ちょっぴり悲しかった。

 騎士団が所有する敷地内には、詰め所に宿舎など、複数の建物がある。
 敷地はきっちり二等分されており、白騎士団と黒騎士団がそれぞれ使用している。両騎士団が対等であることを示すように、全て左右対称になるように同じ役割を持つ建物が配置されていた。

 騎士団では基本的に寮生活となる。
 結婚すれば寮を出てもいいらしいけど、独身の騎士は例外なくここで暮らす。
 緊急時に備えて、命令伝達が迅速に行き届くようにとのことから決められたそうだ。

 わたしを含む新人従騎士達は、門を通ると詰め所の大広間に行くようにと指示された。
 そこで騎士団長からの挨拶と、仕事についての説明や寮生活に関する注意事項を述べられた。
 それが済むと解散。
 わたしは宿舎に入り、あてがわれた部屋へと荷物を持って移動していった。

「あれ? もしかして一人部屋?」

 開けた部屋にはベッドが一つ。
 寮は二人部屋だと聞いていたのに、一人余ってしまったのかな。
 同室の人の目を気にしなくていいから、ちょうどいいけど。

「へえー、君は一人部屋なんだ。いいなぁ」

 背後からかけられた声に驚いて振り返る。
 人懐っこそうな笑みを浮かべた少年がいた。
 髪はブラウン、瞳は青でくるくる丸い好奇心の強そうな目つきをしている。
 背や体格はわたしとそれほど変わらない。

「ボクはトニー=ナッシュ。お隣さんだから、よろしく!」

 元気良く片手を上げて、挨拶をするトニーに、わたしも笑みを返した。

「わたしはキャロル=フランクリン。十六才だよ、よろしくね」
「あ、ボクも十六なんだ。最年少同士で仲良くしようね」

 ノリのいい彼につられて、握手を交わす。
 トニーはポンと手を打ち合わせて、自分の部屋のドアをノックした。

「ちょっと、ノエルも出といでよ。お隣さんに自己紹介!」

 ドアが開き、出てきたのは筋骨逞しい大柄な青年。
 いや、屈強な騎士団の面子からすれば、彼の体格で普通なのだろう。わたしやトニーが小柄なのだ。

「ノエル=レイモンド。年は十八、よろしくな」

 爽やか好青年という印象だ。
 整った顔に、人の良さそうな笑みを浮かべている。

「こちらこそ、よろしく」

 入団早々知り合った人達はいい人そうだ。
 良かった。

 トニーは情報を仕入れるのが早く、騎士団についてわたしの知らない歴史や伝統のことなんかも教えてくれた。
 彼の話は、今日の予定に及んだ。

「これからボクらの歓迎会を兼ねた馬上槍試合が行われるんだって。騎士団対抗で三戦。もちろん最後の試合にはラングフォード様が出るんだよ。ボク、あの人に憧れて黒騎士団を志望したんだから、すっごく楽しみなんだっ」

 レオンの名前に反応したわたしだけど、それはノエルも同じで、彼が先に相槌を打った。

「あ、オレもだよ。すっげぇよな、ラングフォード様。一級騎士になってからは無敗なんだって。騎士団に入ったからには言葉を交わす機会もあるはずだぞ。剣の手合わせとかしてもらえるといいなぁ」

 トニーとノエルはレオンの話題で盛り上がっていた。
 彼はみんなの憧れの騎士様。
 もう、わたしだけの彼じゃないんだ。

 集合の鐘が鳴り、わたし達は会話をやめた。

「行こう、キャロル。張り切って応援しよう」
「うん」

 わたし達の初仕事は、試合に出る先輩騎士の応援だった。
 レオンの勇姿を間近で見ることができる。
 表に出さないように気をつけていたけど、わたしの心は高揚して、早く彼の姿を見たいと願っていた。




 円形の闘技場に歓声が沸き起こる。
 貴族から一般市民まで、様々な人々が観客席から声援を送り、すさまじい大歓声が建物全体を包み込んでいた。

 中央の高みの席には王が鎮座している。
 王の傍らには王女のエミリア姫がいて、興奮した面持ちでしきりに王や側近に何事か話しかけていた。
 王の子供達の中では、あの王女が一番好戦的な性格らしいと、トニーがこっそり耳打ちして教えてくれた。

 ここで行われているのは、白騎士団と黒騎士団による、馬上槍試合。
 この試合は新たな騎士団員――つまり、わたし達の入団を祝して行われている記念行事のようなものだ。
 王の御前で実力を見せる好機でもある。
 平時での階級昇進を望むなら、地味に実績を積むか、こういった場で活躍してみせるしか方法はない。

 わたしは黒騎士団側の席につき、仲間の応援のために声を張り上げていた。
 二つ星、三つ星の代表騎士の試合が終わり、現在は一対一で両騎士団の勝敗は同点。
 次の四つ星の騎士の試合で、今回の勝利騎士団が決まる。

「白騎士団、アーサー=メイスン、中央へっ!」

 白騎士団団長に呼ばれて、白馬に跨り、槍を持った騎士が闘技場の中心まで進み出てきた。
 白く塗られた全身鎧に、真っ白なマントを身につけている。
 レオンの対戦相手で、宿命のライバルとも呼ばれている人だ。

「黒騎士団、レオン=ラングフォード、中央へっ!」

 黒騎士団団長ウォーレス=マードック様の呼びかけで現れたのは、黒い毛並みの馬に跨った一人の黒騎士。
 黒の鎧を装備したレオンは、記憶に残る少年の姿とは似ても似つかない、大柄で威圧感のある歴戦の勇士として、わたしの目の前に現れた。
 周囲にいる団員達の熱気も強くなり、わたしの胸も高鳴る。
 観客席からの声援が大きくなる中で、二人の騎士は激突した。

「おおっ!」

 どよめきと歓声が幾つも沸き起こる。
 白と黒、対極の色を身にまとう騎士達は、華麗に馬を操って、槍を繰り出し、相手を突き落とそうと試みていた。

「メイスン様! しっかり!」
「ラングフォード様ぁ! わたくしがついていますわ!」

 貴婦人達がハンカチや扇子を振りながら、二人の騎士に黄色い声援を送っている。
 彼らは国の英雄。
 彼女達にとっても憧れの的なのだ。

「ラングフォード様! 頑張ってください!」

 わたしは負けじと声を張り上げた。
 今のわたしは一介の従騎士、性別も男と偽っているけれど、彼への想いの年数だけは誰にも負けていない。

 仲間に混ざって声をからし、声援を送っていると、一瞬だけ彼と目が合ったような気がした。
 まさかね。
 こんな大勢の中から、わたしがわかるはずがない。
 それに、あれから何年も経っている。
 彼はわたしのことなんて、忘れているに違いないんだ。

 その瞬間から、レオンは猛然と白騎士に戦いを挑んだ。
 槍を打ち合わせる速度も衝撃も、先の騎士達が見せた戦いより何倍も激しくすさまじい。
 興奮で失神する女性も出るほどだ。
 全ての観衆、王まで身を乗り出して勝負に見入った。

 馬も興奮し、鼻息を荒くして、高くいななく。
 突き出される黒い槍が、白いマントを引き裂いた。
 間髪いれずに第二撃。
 槍先が白い鎧の肩当てを砕き、相手を落馬させた。

 レオンは静かに中央へと馬を戻した。
 落馬の時点で勝敗は決した。
 彼の勝利だ。
 黒騎士団が勝った。

「勝者、レオン=ラングフォード! よって、今回の馬上槍試合は黒騎士団の勝利とする!」

 歓声と拍手が沸き起こる。
 両騎士団の健闘を称える声で闘技場は包まれた。
 勝っても負けても二つの騎士団は国民に称えられる。
 それだけ勇猛な戦いを見せた証拠。
 いつ来るかもしれない国の危機に備えて、我ら騎士団は力を磨き、こういった場で実力を試すのだ。




 入団式から一ヶ月が過ぎた。
 騎士団での生活や仕事にも少し慣れてきた。
 従騎士は、いわば雑用係。
 寮内の食事の支度に掃除、洗濯と、先輩騎士達の世話をこなし、その合間に訓練に励む。
 二つ星の正騎士にならないと、治安維持等の任務は与えてもらえない。
 これは白騎士団も同じこと。
 誰も不平不満をもらさない。
 現在活躍中の騎士達も、みんなこうやって下積みをしてきたからだ。

 レオンとは一度も話せていない。
 遠目に姿を見ることはあっても、忘れられているんじゃないかって思うと怖くて行けない。
 お世話を口実に近づこうと目論んではみたものの、その類の仕事は他の従騎士が率先してこなしてしまうので、機会を得られずに日は過ぎていった。

 軽鎧を身につけて、刃先を潰した剣を使っての稽古の最中、騎士団長を始めとした一級騎士達が姿を見せた。
 訓練の場に憧れの騎士達が現れて、従騎士達に緊張が走る。

「今日は我々が一対一で稽古をつける。相手はお前達が選んでいいぞ。人数は従騎士の方が多いから、順番待ちの間は各々素振りなどの自己鍛錬のメニューをこなしておけ」

 団長の言葉に、従騎士達は顔を輝かせた。
 お目当ての騎士様に教えを乞いに走り寄っていく。
 うう、また出遅れちゃった。
 レオンの周りには人垣ができていた。
 わたしも行きたかったけど、あれじゃ順番がまわってくる前に訓練の時間が終わってしまう。

 しょんぼりと、他の騎士様にお願いしようと顔を上げたら、肩を叩かれた。
 振り返ると、知的な風貌の男性がわたしを見下ろしていた。
 副団長のグレン=ロックハート様だ。

「相手してあげようか? 私は人気がないのか、誰も寄ってきてくれないんだ」
「に、人気がないなんて、そんな……」

 わたしは首を横に振った。
 人気がないなんてことはない。
 ロックハート様は副団長に任命されるほどの人。
 レオンと同じか、それ以上にみんなの尊敬を集めている。

「違いますよ、みんな気後れしてるんです。だって、ロックハート様は副団長で、五つ星の騎士様で……。わ、わたしも……、その……」

 緊張してきた。
 騎士団で二番目に凄い人に話しかけてもらえるなんて、すごく名誉なことだ。

「硬くならないで。肩書きのことは気にせずに、単なる先輩だと思って打ってきなさい。呼び名も堅苦しいのは好まないから、グレンでいい」
「はい!」

 グレン様って優しい。
 強さを鼻にかけることなく、後輩の面倒を見てくれる。
 実際に言葉を交わしたことで、わたしの中でグレン様を慕う気持ちが芽生えて大きくなった。




 向かい合って剣を構える。
 グレン様の目つきも鋭く変わった。
 訓練とはいえ、真剣勝負。
 刃を潰した剣でも鎧で覆われていない箇所に一撃を食らえば骨折で重傷、打ち所が悪ければ死に至ることもある。
 気を抜いてはいけない。

「それでいい、実戦ではもっと余裕がなくなる。生死がかかっている戦いの場では、武器を持っている間は余計なことを考えるな」
「はい」

 わたしはまず正面から飛び込んだ。
 打ちかかると見せかけて、直前に足を使って右に飛ぶ。
 グレン様の利き腕は右。ならば、利き目も右のはず。彼の左側に回りこんで、死角を突くのが狙いだ。

「やぁっ!」

 渾身の一撃だったけど、わたしの動きは見切られていた。
 グレン様は小さな動作で体を左へとずらし、振り下ろしたわたしの剣を刀身で受け止めた。

「いい動きだ。君の長所である素早さが生かされている。その調子で打ち込んでこい」

 距離をとって、再び挑む。
 わたしが繰り出す剣は、全て受け止められて流された。
 五つ星は伊達じゃない。
 結局、一度もグレン様の鉄壁の防御を崩すことはできず、時間切れとなった。

「ありがとうございました」

 頭を下げて礼を述べると、グレン様は元の柔らかい雰囲気に戻っていた。

「こちらも礼を言わせてもらうよ。おかげで他の生徒を迎えられそうだ」

 気がつくと、終わった頃合を見計らってやってきたのか、順番待ちをしている従騎士がいた。
 やっぱり気後れしてただけだったんだ。
 わたしはグレン様と顔を見合わせて笑った。

 ふと、視線を感じて周囲を見回したけど、気のせいだった。
 その際、視界に入ってきたレオンは次の人と稽古を始めていた。
 羨ましいな。
 昔、彼と稽古した時のことを思い出して、胸がきゅっと締めつけられた。
 わたし、ここにいるんだよ?
 あなたは気づいてくれないの?
 わたしのこと、本当に忘れたの?

 それからは自己鍛錬と、手の空いた騎士様のところにいって稽古をつけてもらった。
 予想通りにレオンの相手が途切れることはなく、押しのけて出しゃばるほどの積極性を持ち合わせていないわたしは、彼との稽古は諦めた。
 訓練の時間が終わる。
 集合して、騎士団長の話を聞いた。

「これからも一級騎士が指導に当たる日を設ける。従騎士の諸君は日頃の鍛錬を怠らず、彼らとの稽古を腕を磨く機会として今後も活用するように」

 解散を告げられて、トニーやノエルらと一緒に装備を片付け始めた。
 自分達の物はもちろんとして、一級騎士の装備を片付けるのも、わたし達の仕事だ。

 二人はレオンと手合わせをしてもらえたそうだ。
 真っ先に飛んでいってたもんね。
 彼らもレオンから名前で呼べと言われたらしい。
 黒騎士団に所属する騎士達は意外に親しみを重視している。
 上下関係は厳しいが、誰もが兄弟か家族のような温かい雰囲気で後輩の面倒を見ていた。

「キャロルは副団長に稽古つけてもらったんだよな。オレも次回はあの人に頼もう」

 ノエルの言葉で、次回もあるのだと気を持ち直した。
 わたしも次回はレオンのところに一番に走って行こう。
 一級騎士の装備を磨きながら、にんまり頬を緩めた。

「そういえばさぁ、キャロルってレオン様の知り合い?」

 トニーの問いに、驚いて手を止めた。

「ど、どうしてそう思うの?」
「んー、ちょっとね」

 トニーは顔をしかめて「違うの?」と再度問うた。

「知り合いっていうか、家の近所に剣術の道場があって、彼もそこに通っていたんだ。わたしのことなんて覚えてないと思うよ。だって、彼はすぐ騎士団に入って、それから何年も会ってないし……」

 隠すことでもないと思い、正直に話した。
 だけど、トニーのしかめっ面は変わらない。
 何か引っかかることでもあるんだろうか?

「訓練の時、レオン様がよそ見してたんだよね。あんまり何度もだから気になって、ボクも視線を追いかけたんだ。そしたら、キャロルを見ていた。偶然じゃないよ、キャロルがいる方向ばかり見ていたんだから」

 え?
 それってレオンがわたしを気にしてくれてるってこと?
 もしかして、忘れられてない?
 希望を持って、嬉しくなったわたしだけど、トニーは顎に手をやって難しい顔をしている。

「知り合いだから、気にしてるんならいいけどさ。もしかしたらって、心配になったんだ」
「心配って、何が?」

 わたしにはまったくわからない。
 レオンがわたしを気にしてくれていることで、どうしてトニーが心配するんだろう。

「単なる噂だといいんだけどね。ちょっと耳貸して」

 言われた通り、片耳をトニーへと向けて耳を澄ませた。
 こそこそと小声で聞かされた話に、衝撃を受けて固まった。

「そ、それって、本当?」
「うん、上級騎士の命令は絶対だからね。断ったら退団させられるって話らしいよ。何かねぇ、ボクらみたいな小柄なタイプにご指名がまわってくるみたい。うわー、それで面接に受かったんだったらやだなぁ」

 トニーは両腕で体を抱きしめて嫌そうに言った。
 わたしは青くなって震えていた。
 噂話の内容は、小柄な従騎士に命じられる秘密の仕事のこと。
 それは上級騎士の夜伽の相手。
 男同士でそういうことって、噂でしか聞いたことないけど本当にあるんだ。
 指名されたら、どうしよう。
 女だってバレても困るし、それに初めてはレオンにあげたかったのに。
 た、ただの噂だよね、そんなこと。

「何の話?」

 ノエルがわたし達の内緒話に気がついて寄ってきた。

「ううん、大したことじゃないよ。さ、早く片づけて夕食の支度にかからないとね」

 余裕のないわたしに代わって、答えたのはトニーだ。
 ノエルには無縁の噂だと判断したのか、彼はとっさに話を逸らしてごまかした。

 わたしも作業の途中だったことを思い出し、急いで装備を磨き終えて、片づけを済ませた。
 その後は、騎士団員全員分の食事の用意に大忙し。
 忙しさで、先ほどの噂のことは忘れかけていたんだけど……。




 夕食の後片付けをしていると、グレン様がわたしを呼び止めた。

「キャロル=フランクリン。今夜、付き合ってもらおうか。仕事が終わったら寝支度をして、寮にある私の私室まで来るように」
「は、はいっ」

 反射的に返事をしたものの、用事を聞きそびれてしまった。
 ね、寝支度をしてってことは、今夜はグレン様のお部屋で過ごすの?
 トニーに聞かされた噂が、現実となってしまった。
 わたし、どうすればいいの?

「大丈夫、キャロル?」

 トニーが肩に手を乗せて、気遣わしげな声をかけてくれた。
 わたしは暗く俯いて、うんと小さく頷いた。

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