束縛

02.手錠

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 穂高先輩は、冬樹くんにトップを奪われ続けているそうだけど、成績評価は常に最高、加えて人望もある。
 そんなすごい人が、何を血迷ってわたしに告白してきたのか、わからない。
 おまけにキスまでされてしまった。

 先輩の顔が離れると、目を見開いて瞬きを繰り返した。

「あ、あの……、わたし……」

 キスされたことも手伝って、びっくりしすぎて何も言えない。

「オレは本気。あんまり疑うから、キスしちゃった」

 先輩はくすっと笑って眼鏡を掛けなおした。
 本気だからキスって、意味がわからない。

「そ、そんな、急に言われても。お、お友達からでいいですか?」

 混乱したわたしは、すぐには答えられなくて、何とも曖昧な答えを返してしまった。
 先輩はそれでもいいよって笑ってくれた。
 大事にしたいって言われて、胸が高鳴った。
 わたしを大事に思ってくれる人がいるなんて、夢みたいだった。

 先輩とメールアドレスと携帯番号を教えあった。
 浮かれて、ふわふわした気持ちのまま、家路についた。
 この後に訪れる苦しい時間のことさえも、忘れてしまうぐらいに。




 いつもの時間になって、玄関のチャイムが鳴った。
 冬樹くんが来た。
 先輩のことを思うと、胸が痛くなった。
 わたしはこれから冬樹くんに抱かれる。
 先輩にこのことを相談したらどうだろう。
 先輩も信じてくれなくて、わたしを嘘つきって責めるかもしれない。
 ちょっと興味を持った後輩より、付き合いが長くて深い、友達の方を信じるよね。

 わたしは諦めて、冬樹くんを部屋に迎えた。
 今日の彼は、少し不機嫌だった。
 何か嫌なことあったのかな。

「春香、両手を出して」

 命じられて、両手を差し出すと、がちゃんと銀色の輪が手首にはめられた。
 こ、これって手錠?
 なんでこんなもの持ってるの?
 それより、どうしてわたしの手首にはめるわけ?

「ん……、んんっ!」

 冬樹くんはいきなり私の唇に、自分のそれを押し当てた。
 舌を絡め合わせて、吸い付いたりして深く求めてくる。
 いつも以上に執拗で苦しい。
 ぴちゃぴちゃ唾液が音を立ててる。

 手首に手錠をはめたまま、床の上に仰向けに転がされて、万歳の姿勢に腕を上げさせられた。
 手錠に紐を通されて、ベッドの足に結び付けられる。
 わたしの腕は、動かないように固定されてしまった。

「穂高に何を言われた?」

 冬樹くんの口から先輩の名前が出て、ぎょっとする。

「す、好きって……」

 冬樹くんの目を見ていると、嘘がつけない。

「何て答えた?」
「お、お友達からって……」

 冬樹くんは険しく眉を顰めた。
 その後、急にニヤリと笑って、わたしの胸を服の上から揉みながら、顔を寄せてきた。
 右の耳朶を甘噛みして、その周囲にキスを落としながら、意地悪な声音で囁いてくる。

「無理だよ、春香は処女じゃないからな。ちょっと触っただけで濡れちまうもんな。おとなしくて純情そうな顔して、男を喰いまくってる淫乱女だって思われて嫌われるぞ」

 冬樹くんの言葉を聞いて涙が出てきた。
 先輩は大事にしたいって言ってくれたけど、わたしにはそんな資格はない。
 絶望感に襲われて、わたしは声をもらして泣いていた。

「春香は、オレに抱かれていればいい」

 泣いていてもおかまいなしに、冬樹くんはわたしを抱いた。
 ブラウスの前をはだけられて、スカートも下着も脱がされて、裸にされた。
 珍しく猿轡はされなかったけど、わたしには助けを求める声が出せなかった。
 現場を見れば、お母さんもわたしを信じてくれる。
 でも、知られるのが怖い。
 それに、冬樹くんがわたしに誘われたからだって言えば、責められるのはやっぱりわたしの方だった。
 どう足掻いても、抵抗できなかった。
 彼の手が胸の膨らみをこね回し、硬くなった乳首を指先で挟んでくりくりいじくる。
 両足を持ち上げられ、股間に彼の息がかかった。びくっと震えがきたら、秘所に舌を這わされた。

「ああぁん……、やぁ、そんなとこ……」

 蜜が湧き出るそこは、舐められることで、さらに溢れた。
 わたしの入り口をぐちょぐちょにして、冬樹くんはズボンのジッパーを下げて、大きくなった肉棒を取り出した。
 避妊具をつけて、入れる準備をしている。

「やだ、やめて……」

 必死の思いで懇願したけど、聞いてはもらえなかった。
 とうとう猿轡で口を封じられて、秘所を犯された。
 首を振って拒絶の意思を見せても、腰は一緒に動いているし、受け入れたそこは一対の鍵みたいにぴったりとはまっていた。

「強情を張るなよ。気持ちいいんだろ?」

 首筋を強く吸われる。
 肌に痕が残るほど、キスマークをいっぱいつけられた。

「お前の体は、オレのものだからな」

 肌に彼の舌が這い、胸は手で揉まれ、秘所は貫かれている。
 体は確かに彼の物。
 だけど、心は?
 拾ってもらえない心は、先の見えない闇の中を頼りなく漂っている。
 助けて。
 誰か……。




 二時間後、やっと手錠が外された。
 手首が少し赤くなっている。
 服を着なおして涙ぐむと、冬樹くんがいきなりわたしを引っ張り寄せた。
 唇がまた重ねられた。
 だけど、今度は触れるだけの優しいキスだった。
 わたしの涙を指で拭って、冬樹くんは額にもう一度口付けた。

「次の日曜、予定はあるのか?」

 質問されて、首を振る。
 予定はないけど、どうしてそんなこと聞くんだろう。

「だったら、予定は入れるな。朝から出かける。九時に迎えに来るから用意しておけ。目一杯めかしこんどけよ」

 一方的に約束を承知させて、冬樹くんは帰って行った。
 めかしこめって、おしゃれしろってこと?  急にどうしたのかな。
 日曜日は海藤先輩とデートするんじゃないの?




 寝る前に、何気なく携帯を見ると、穂高先輩からの初メールが入っていた。
 音を消していたから、着信に気がつかなかったんだ。
 メールが届いたのは、二時間ほど前だった。
 ちょうど冬樹くんとの勉強会の時間中。
 メールで先輩は、今日はいきなりキスしてごめんて謝ってくれてて、また明日学校でね、おやすみって、笑顔の顔文字と一緒に何気ない一言が添えられていた。
 わたしが冬樹くんに抱かれている間、先輩がこのメールを打っていたんだと思うと、涙がこぼれた。
 優しい先輩の手を、わたしは取れない。
 冬樹くんがわたしに飽きるまで縛られ続ける。
 ごめんね、先輩。
 真剣に考えたけど気持ちは受け取れないと返信して、布団にもぐり込んだ。




 その夜、夢を見た。
 少し昔の、わたしと冬樹くんの夢。
 初体験の時の記憶が混ざった幸せな思い出の中で、わたし達は裸で抱き合っていた。

「怖いよ、冬樹くん」
「ゆっくりやるから、我慢して。背中に爪立ててもいいよ。春香はそれ以上に痛いだろうから」

 初めて入れられる時、怖くなって泣いたわたしに、冬樹くんは優しかった。
 キスをいっぱいして、声をかけてくれながら、ゆっくりゆっくり進んでくれた。
 初めてだから、本とかネットで調べて、避妊を含めた正しい知識をたくさん仕入れたんだって聞いて、わたしのこと大事にしてくれてるんだって嬉しかった。

 本当に大事な子には、あんなことしなかったんだって知った今は、悲しいだけの思い出だった。
 今も昔も好きだったのは、わたしだけ。
 朝になって目を開けたら、涙が一筋こぼれ落ちた。

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