償い

鷹雄サイド・3

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 徐々に雛も、オレがまともではないことに気づき始めた。
 たまに勉強しなくていいのかとか、早く帰ってきて欲しいなど、心配そうに言ってくる。
 雛に言われると、朝から登校し、授業も受けて、家にも早めに帰るようにしていた。

 ただ、やはり長くは続かない。
 家にいれば、ちどりさんがいる。
 母さんがオレを捨てても、あの人を受け入れることができなかった。
 どう考えても、彼女にとってオレが必要な存在だとは思えない。
 ちどりさんも親父と一緒で、世間体を気にしてオレの世話を焼いているだけだ。
 彼女が親身になろうとするたびに、オレはイラつく。

 苛立ちが頂点に達すると、外へ逃げた。
 しばらく家に寄り付かないでいると、雛に会いたくなって帰る。
 その繰り返しだ。
 雛のおかげで、オレは最後の一線を越えることなく半端な不良を続けていた。




 先輩に勧められて何気なく手を出したタバコ。
 親父とちどりさんが仕事で家を空けた日曜日、くつろぎがてらに吸おうと出したところを雛に見られた。

「お兄ちゃん!」

 いつになく、雛は切羽詰った表情でオレの体にしがみついた。

「お兄ちゃん、病気になっちゃうよ。お兄ちゃんが死んじゃったら嫌だ」

 かわいい顔をくしゃくしゃに歪めて、雛は泣いていた。
 タバコで病気にはなるかもしれないが、すぐ死ぬヤツはいないだろう。さすがにこれは短絡すぎる。
 雛の頭の中では、タバコ→病気→葬式へと、直結して連想されていっているらしい。

「お兄ちゃん、やめて。そんなの捨てて。死んじゃやだぁ」

 オレを思っての綺麗な涙。
 雛の言葉だけは、オレの心に届く。
 十分笑い話のネタになるが、オレは笑わなかった。

「泣くな、雛」

 まだ残っていたタバコを雛の目の前でゴミ箱に投げ入れた。
 雛の前に膝をついて頭を撫でてやる。

「二度とタバコは吸わない。酒もクスリも、病気になるようなものはやらない。だから、泣くな」
「お兄ちゃん……、約束……、してね?……」

 涙を拭い、鼻水をすすりながら、雛が問う。
 オレは雛を抱きしめて、頷いた。

「約束する。雛との約束だけは破らないから安心しろ」
「お兄ちゃん、ほんとだよ? 嘘ついちゃやだよ」

 雛と約束した通り、オレはそれ以来、それらの品には勧められても手を出さなかった。
 後から思えば、この時に雛がオレを止めてくれなければ、更生も容易ではないところまで堕ちていたかもしれない。
 雛はオレに与えられた最後の希望だった。
 だがオレは、その希望を自分から手放したんだ。




 中三になってすぐのことだ。
 族をやっている連中と遊びに行くことになり、制服を着替えに帰ることにした。
 時刻は午後十一時で、合鍵を使って家に入るつもりだった。
 オレが明け方近くまで街をうろつくようになってからは、ちどりさんも諦めたのか、戸締りをして雛と一緒に寝ていることが多い。
 今日もそうだろうと気楽に構えていたのだが、様子が違った。
 仲間には家の前で待ってもらい、玄関に近づいて気がついた。
 電気がついていて、鍵が開いている。
 玄関扉を開けると親父の靴があった。
 今日は帰ってきていたんだ。

 ただいまも言わずに家に上がったが、物音で気づかれた。
 リビングから出てきた親父は、険しい顔をしてオレの前に立ち塞がった。

「鷹雄、こんな時間までどこに行っていた」

 いつもの説教かと舌打ちした。
 待たせている時に限って捕まってしまうタイミングの悪さを呪った。

「どこでもいいだろ、どけ。着替えてまた出かけるからよ、ダチを外で待たせてるんだ」

 押しのけて通ろうとしたが、引き戻された。
 親父はオレの胸倉を掴むと、力任せに引っ張り、リビングへと引きずりこんだ。
 床の上に投げ出されて尻餅をつく。
 オレを見下ろすと、親父は厳しい表情を崩さずに話し始めた。

「今日、学校で先生と面談をしてきた。無断欠席が続いて、授業もまともに出ていないそうだな。それに毎晩明け方近くまで外で遊んでいるんだろう? お前はこの先のことを考えているのか? お前の人生なんだぞ! 大事な時期に遊び呆けて、一生を棒に振ってもいいのか!?」

 怒鳴られて萎縮するどころか、怒りが湧いた。
 すぐさま立ち上がり、親父に掴みかかった。

「だったら、どうだってんだよ! どうせオレは親に捨てられた生きてる資格もねぇクズだよ! 目障りだってんなら、てめぇが始末しろ! 作ったヤツが責任とるのが常識だろうがっ!」

 親父の顔が強張った。
 だが、撤回する気はなかった。
 言葉通り、殺されても構わないと思った。
 オレの命を奪った罪を、一生背負って苦しめばいい。
 それがオレを裏切った罰だ。

 オレは親父に殴りかかった。
 手を上げたのは初めてだった。
 拳は顔面に入り、親父は背後の戸棚に背中をぶつけ、戸棚の中に入っていた食器が落ちてきて割れた。

「鷹雄! いい加減にしろ!」

 親父はすぐさま体勢を立て直して飛び掛ってきた。
 今日は退く気はないんだ。
 望むところだ。
 暴れて暴れて、今まで溜めてきた黒い感情を全て吐き出してやる。

「鷹之さん! 鷹雄くん! 話し合いましょう、ケンカはやめて!」

 ちどりさんが仲裁に入ろうとするが、オレ達は無視してつかみ合った。
 取っ組み合いを続ける間に、家具が倒れて、部屋が荒れていく。

「どうしてわからないんだ! オレを恨んで拗ねていても、お前のためにはならないだろう! いつまでこんなことを続けるんだ!」

 親父も冷静ではなく、オレを怒鳴り、押さえつけようとしてくる。
 この期に及んでも、親父は本音を吐き出さない。
 それが悔しくて、怒りに火をつける。

「てめぇに、とやかく言われる筋合いはねぇ! それにオレがこうなったのは、元はといえばてめぇらのせいだろうが!」

 偽善者め。
 本当は邪魔で消したくて仕方がないのに、世間の目が怖くて、本音を押し殺して親のフリをしているだけのくせに。
 嘘で固めた偽善者の仮面を剥ぎ取りたくて、オレはわざと挑発的な言葉を吐いて親父の怒りを煽った。

「親に向かってなんて口の聞き方だ! それにどんな環境で育ったのだろうが素行の悪さの言い訳にはならん! 問題をすり替えるな、自分のやったことを反省しろ!」

 だが、親父の態度は変わらない。
 口から出るのは、相変わらずの説教だった。

「鷹之さん、落ち着いて! 鷹雄くんの気持ちをちゃんと聞いてあげて!」

 ちどりさんは親父にすがりついて、場を取り直そうと懸命になっていた。
 やめてくれ。
 あんたはどうしてオレに構うんだ。
 もう十分だ、自由になればいい。
 あんたが必死になってオレを繋ぎとめる理由なんかないはずだろ。

「ちどりさんも、いいお母さんの振りしなくっていいんだよ。あんたもオレがうっとうしかったんだろ? 残念だったよなぁ、このクソ親父に甲斐性がねぇばっかりに邪魔者が残っちまってよ。正直に言えばいい、面倒ばかりかける厄介者は出て行けってな」

 こんな芝居に付き合うのは、もうごめんだ。
 解放してやるつもりで代弁してやったのに、ちどりさんの反応は予想外のものだった。
 真っ青になって、泣きそうな顔をしていた。
 キレちまえばいいのに。
 その通りだって、今まで溜まってた鬱憤を晴らせばいいのに、どうしてそんな傷ついた顔してんだよ。

 代わりに動いたのは親父だった。
 力一杯、平手で頬を殴られた。
 ソファに体がぶつかって、頭がぐらぐらした。
 今のでどこかが切れたのか、口の中がさび臭くなった。
 そうだ、怒れ。
 あんたの大事なものがはっきりしたじゃないか。
 もうオレなんかに構う必要がないってわかっただろ?

 頭を押さえて起き上がろうと身動きした時、目の前に小さな体が飛び込んできた。
 雛だった。
 オレに背中を向けて両手を広げて立ち、親父を睨みつけている。

「お兄ちゃんを叩いたりしたらダメ!」

 雛は親父に抗議の声を上げ、オレを庇った。

「どくんだ、雛」
「嫌! どかない! お兄ちゃんを叩くお父さんは嫌い!」

 雛が親父に反抗したのは初めてだと思う。
 オレのために雛は怒っていた。
 それが嬉しくて、オレは憑き物が落ちたみたいに冷静になった。

 ここは雛の家だ。
 両親がいる温かい家庭がある。
 オレが失ったものが全部揃っている。
 くだらない生き方しかできなかったオレだけど、お前のことだけは守りたい。
 お前の幸せ――この家庭を壊さないためには、オレはここにいちゃいけない。

 頭が明確に答えを導き出す。
 簡単なことだ、オレが消えればいいんだ。
 そうすれば、何もかもうまくいく。
 オレの存在は誰の役にも立たない。
 重荷と邪魔にしかならないんだ。

 最後に雛の温もりを確かめたくて、後ろから抱きしめた。
 オレが何かすると思ったんだろう、ちどりさんが取り乱して大声を上げた。

「やめて、鷹雄くん! わたしは何を言われても、殴られても構わない! だけど、雛は何も悪くないの。お願いだから、その子には手を出さないで!」

 大丈夫だ、雛は愛されている。
 オレみたいに捨てられることはない。
 安心して消えることができる。

「ありがとうな、雛。でも、もういいんだよ」

 もういいんだ。
 オレはお前に出会えただけで、生きてて良かったと思ってる。
 お前にまで嫌われたら、オレは死んでも死に切れなくて、成仏できなくて彷徨うだろうな。
 だから、ここで別れたい。
 大好きなお兄ちゃんのままで、永遠に雛の記憶に残っていたいんだ。

「心配しなくても雛に危害を加える気はない。オレは今日限りでこの家を出る。今まで世話になったな。二度と帰ってこないから、安心してくれ」

 雛を離して立ち上がった。
 誰も動かない。
 オレが言ったことが、そんなに驚くようなことだったのか?
 まあ、いいや。
 未練がましく居座る気もねぇし、行くとするか。




 外に出ると、仲間達は怪訝な顔でオレを見た。

「遅かったじゃねぇか。待たせたクセに着替えてねぇし、それにその顔、何かあったのか?」

 親父に殴られた頬は赤く腫れていた。
 本気でやりやがったな、クソ親父。
 口の中で悪態をつき、頬に触って大した腫れでないことを確かめる。

 だけど、これは親父がオレと本気で向かい合った証でもあった。
 ふん、今度は長続きすることを祈ってるぜ。
 雛までオレと同じ目に遭わせたら、絶対に許さねぇ。
 あの世から化けて出て、呪い殺してやるからな。

「いや、何でもねぇ。行こうぜ」

 バイクの後ろに乗せてもらってその場を離れた。
 熱を持った頬に風が当たって気持ちがいい。
 吹き抜けていく風の中で、雛がオレを呼ぶ声が聞こえたような気がした。




 急用ができたと言って、途中でバイクから下ろしてもらった。
 遊びに行く気になれなかったのと、最後に行きたい場所があったからだ。

「鷹雄、今日のお前変だぞ。大丈夫か?」
「何でもねぇって、また今度な」

 心配する仲間に笑いかけて見送る。

 今度なんてないけどな。
 嘘ついて悪い。

 一人になると、歩き始める。
 暗がりに浮かび上がる道は、小さい頃によく通った。
 母さんと一緒に。
 ある日は親父と手を繋いで。
 三人で歩いたこともある。
 この道は、親父の仕事場へと続く道だから。




 ほどなく目的の公園に着いた。
 小学生の頃、渡達と遊んだ懐かしい場所。
 ブランコに腰掛けて、回想した。

 親父を仕事場まで迎えに行って、帰りにここに寄って遊んでもらった。
 あの頃は幸せだったな。
 大好きだったから、余計に裏切りが許せなかった。
 それでも、オレは親父が好きだ。
 母さんのことも好きだ。
 二人の口から直接「お前なんかいらない」と言われなくて、本当は安心していた。

 オレは臆病だから、すがりついて突き放されるのが怖かった。
 それなら最初から嫌われる態度をとっていた方が傷つかなくて済む。
 でも、親父もちどりさんも最後までオレを見捨てなかった。
 母さんみたいに、適当な理由をつけて、さっさと捨てりゃ良かったのに。
 中途半端に情を見せるから、オレも迷うんだよ。

 オレが親父に言って欲しかったこと。
 世間の評価や将来とか、お前のためにならないとか、そんな建前の説教じゃなくて、オレのことをどう思っているのかを教えて欲しかった。
 本音では捨てたがっているんだとわかっていても、オレはまだ期待していた。
 親父の口から、お前はオレの子供だと、愛しているんだと言ってもらえることを。

 生まれたばかりの赤ん坊みたいに、泣き喚いて気づいてもらえるのを待っていた。
 声も言葉も、伝える術は十分持っていたクセに、オレはそれらを使わなかった。
 言えば何かが変わったのだろうか。
 母さんはオレを捨てなかった?
 親父はオレを愛してくれたのか?

 ひりひり痛む頬が、その考えを否定する。
 オレは邪魔者だ。
 たった今、思い知ったばかりじゃないか。
 壊れた家庭の遺物がオレだ。
 オレが存在する限り、親父と母さんは過去を思い出すだろう。
 幸せだった日々と、それが壊れた日の苦い思い出を永遠に引きずるんだ。

 オレはもうじき消える。
 幸せな思い出だけを抱えて、この世からいなくなる。
 それでみんな幸せになれる。
 オレも苦しまなくて済む。
 なんだ、いいことばっかりじゃないか。
 もっと早くこうすれば良かったんだ。




 ぼうっと暗闇を眺めていると、自転車が公園に入ってきた。
 こんな深夜に誰だ?
 見回りの警官だったらやばい。
 補導されて連絡がいったら親父が迎えに来る。
 せっかく覚悟決めて出てきたってのに、そうなったらまずい。

 立ち上がったが遅かった。
 自転車のヤツはオレの前まで来ると、ブレーキをかけて止まった。

「やっぱ、ここにいた! お前がいそうな場所、探しまわったんだぜ!」

 自転車に乗っていたのは渡だった。
 渡は自転車を降りると、その場に止めて、隣のブランコに腰を下ろした。

「何、不思議そうな顔してんだよ。さっき携帯に電話かかってきてよ。お前の族の連れ、オレの幼なじみなんだよ。そいつが鷹雄の様子が変だって連絡してきてさ、気になったから探しにきた」

 親に内緒で、こっそり家を抜け出して来たそうだ。
 お節介な渡らしい。

「何でもない。親父とケンカして家を出てきただけだ。心配ないから、親にバレないうちに帰れよ」

 ごまかそうとしたが、渡には通じなかった。

「鷹雄が帰るまでオレも帰らない。お前の親父さんも、義理のお袋さんも心配してるだろ」

 ブランコの鎖を強く掴んで俯いた。
 心配してる?
 そんなことあるはずがない。

「心配なんかしてるわけねぇだろ。誰もオレなんかいらねぇんだから、あいつらだって今頃は清々してるはずだ」
「お前のこと心配してくれるヤツはちゃんといる。お前に何かあったら、本命の彼女も泣くんじゃねぇの?」

 本命の彼女。
 雛のことだ。
 あの後、あいつはどうしただろう。
 オレがいないと寂しいと言って泣く雛。
 泣き顔が鮮明に思い出されて胸が苦しくなった。
 だが、雛のところにも戻れない。

「泣くだろうな。あいつはガキで何も知らないから、どんなろくでなしかも知らないで懐いてるんだ。いつかはオレがくだらない人間だって知って、軽蔑して離れていくんだよ」

 オレは親に捨てられるような価値のない人間だ。
 雛にだけは、捨てられたくない。
 あいつに蔑みの目で見られることを思うと、早く消えなければと焦りが湧いてくる。

「お前さ、死のうとか思ってない? それだけはやめろよ、オレの寝覚めが悪くなる」

 渡の声は震えていた。
 わからなくていいことだけは、しっかり伝わってしまうんだ。
 お前はオレの一番の友達だ。
 だからこそ、重荷にはなりたくない。
 オレはお前の前では死なない。
 誰も知らない遠い場所で、ひっそりと消えるつもりなんだ。




 いきなり視界が眩しくなった。
 車のライトが公園を照らしていた。
 慌ただしくドアが開閉され、女が一人こっちに駆け寄ってきた。

「鷹雄!」

 その声は、長く聞いていなかった人のもの。
 オレを捨てていなくなったはずの母さんが、息を切らせて走ってくる。

「母さん……」

 立ち上がって数歩動いたところで、母さんが抱きついてきた。
 幻じゃなくて、本物の温もりがあった。
 どうして母さんがここにいるんだ?
 偶然にしたって、できすぎてる。

「鷹之から連絡があって飛んできたの。今までのこと全部聞いたわ。鷹雄が苦しんでることを知らずに、放っておいてごめんね。今日はお母さんと一緒に帰ろう。これからのことはゆっくり話し合いましょう」

 親父が連絡?
 どういうことだ?
 どうして親父が母さんの連絡先を知っているんだ。

「渡くんもありがとう。鷹雄を探している時に、あなたが自転車で走っていくところを見かけたの。それでこの公園のことを思い出したのよ。ここは鷹雄の大事な思い出がいっぱい詰まった場所だってことをね」

 母さんの登場に、渡も安堵したのか笑みを浮かべて頷いた。

「さあ、鷹雄。行きましょう」

 かけられた声は紛れもいなく本物で、夢でも幻でも、ましてや別人でもなかった。
 張り詰めていた糸が切れたように、感情が動き始めた。
 目に涙が滲んで止まらない。

「……うっ……、くぅ……ぅう……」

 堪えようとしても止まらなかった。
 母さんにすがりついて、声を殺して泣いた。
 母さんは何も言わずにオレの背中を撫でてくれた。
 オレは捨てられたんじゃなかったんだ。
 母さんはオレを迎えにきてくれた。




 自転車で帰る渡を、家の前まで送ってから、母さんは自分の家にオレを連れて帰った。
 鷲見という再婚相手の家だ。
 資産家とは聞いていたが、屋敷は想像以上に広く立派で圧倒された。
 庭も学校の校庭並みにある。
 真夜中ということもあり、静かなものだったが、家政婦は住み込みと通いが十人ほど、執事や専属の運転手までいるらしい。
 ここは日本か? どこの国の貴族の家だ。
 世の中には、オレの知らない世界がたくさんあるようだ。

 夜も遅いこともあり、今夜は休むようにと客間に通された。
 部屋には風呂がついていたので、使わせてもらった。
 豪華なユニットバスだ。
 風呂に入っている間に母さんが着替えを持ってきてくれた。
 旦那の物らしくサイズが大きかったが、寝るだけなので問題はない。

「おやすみ、鷹雄。お母さんが傍についているから、安心して寝なさい」

 母さんはオレをベッドに入れて、寝つくまで手を握って傍にいてくれた。
 幼稚園のガキでもないのに、おかしかったけど、オレは拒まなかった。
 今夜だけは甘えたい気分だった。
 母さんの手は柔らかくて温かくて落ち着いた。
 オレはここにいてもいいんだ。
 闇の中から光に包まれた世界へと連れ出された気分だ。
 これが現実であるといい。
 そう願いながら、オレは眠りについた。

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