償い

第3話 過去−償いの始まり−

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 高二の春。
 わたしは初めて告白をされた。
 相手は同級生の男の子。
 一年の時のクラスメイトで、一緒に文化祭の実行委員をやったことをきっかけに親しくなった。

「返事は急がないから、よく考えて」

 彼は優しい雰囲気を持つ真面目な人で、恋愛感情はなかったけど、いい人だと思う。
 勇気を出して告白してくれたんだから、わたしも真剣に考えなくちゃ。
 悩んだわたしは、お兄ちゃんに相談することにした。
 それが、わたしとお兄ちゃんの関係が変わったきっかけだった。




 翌日はちょうど土曜日で、お兄ちゃんの家に泊まりに行くことになっていた。
 大学を出て就職したお兄ちゃんは、お世話になっている鷲見隼人(わしみ・はやと)さん所有のマンションで一人暮らしを始めた。
 二十階建ての建物は、セキュリティもばっちりの高級マンション。
 その最上階にお兄ちゃんの部屋がある。
 ワンフロアをまるまる使った部屋は、そこらの一戸建てより広いかもしれない。
 交通の便も良く、周辺施設も充実しており、売値は億単位と聞いている。
 隼人さんはお金持ちだ。
 先祖から莫大な遺産を受け継いできた資産家で、その財力と経営手腕を生かして多くの会社を経営している。
 お兄ちゃんは彼の後継者として仕事をしているらしい。
 隼人さんと奥さんのつぐみさんには子供はいなくて、お兄ちゃんを本当の子供のように可愛がってくれていた。
 そのこともあってか、お兄ちゃんは後継者にと望まれて、隼人さんの会社に入社した。
 わたしは複雑だった。
 実の両親であるお父さんとお母さんより、二人の方がよっぽどお兄ちゃんの両親みたいだったからだ。
 二人は悪くなかったけど、お兄ちゃんが彼らと馴染んでいることが嫌だった。
 そんな嫉妬も、真実を知った後では吹き飛んでしまったけど……。




 お風呂から出てきてリビングに行くと、お兄ちゃんがテレビを見ていた。
 お兄ちゃんも入浴済みで、後はもう寝るだけだ。
 寝る時はゲストルームを使わせてもらっている。
 お客さん用――とは言っても泊まるのはわたしぐらいなものだが、ベッドはセミダブルの大きなもので、掛け布団も羽毛布団だ。
 ここや鷲見家にあるものは、全部高価な品ばかり。
 最初は落ち着かなかったけど、今では仮のお嬢様気分を味わって楽しんでいる。
 でも、ちょっとだけお兄ちゃんと住む世界が違うような気がして寂しくなる。
 贅沢な暮らしがしたいわけじゃないけど、これだけ生活水準の違いを見せ付けられると、いつか彼に手が届かなくなるんじゃないかと不安になる。
 兄妹でも、大人になると、貧富の差で対等ではなくなってしまうんだろうか。
 頭を振って、嫌な考えを全て追い出す。
 お兄ちゃんはそんな人じゃない。
 わたしとお兄ちゃんは、これからも仲良しの兄妹でいるんだ。

 お兄ちゃんが見ていたのはニュース番組で、わたしには退屈な経済の話題が流れている。
 真剣に見ている彼の邪魔をしないように、そろそろと近寄った。
 何インチあるのかもわからない大画面のテレビは、近所の電気屋でも見たことがない特注品だった。
 わたしもお兄ちゃんの隣に腰を下ろして、画面を見る。
 しばらくするとスポーツの話題に切り替わったので、話しかけた。

「お兄ちゃん、相談したいことがあるの」
「どうした? 雛が相談なんて珍しいな」

 肩を抱かれて、引き寄せられる。
 お兄ちゃんの胸に顔をくっつけて、すうっと彼の匂いを吸い込む。
 落ち着く。
 やっぱりお兄ちゃんは頼りになる。

「あのね。昨日、同級生の子に告白されたの。こういうの初めてで戸惑ってる」

 昨日のことを思い出して、頬が熱くなった。
 ドキドキしてくる。
 彼と付き合うことになったらどうなるのかと早くも想像して、勝手に困っていた。

「好きってわけじゃないんだけど、いいなぁとは思うんだ。どうしたらいいと思う? 試しに付き合ってみるのってどうだろう? ちゃんと好きって思えなかったら付き合ったらだめ?」

 お兄ちゃんなら、答えをくれる。
 そう思って尋ねたけど、彼は黙っていた。
 眉間に皺を寄せて、わたしを見つめている。
 怒っているの?

「やっぱり、お試しはだめだよね。ちゃんと答えださないと、彼に悪いよね」

 沈黙が重くて、わたしは早口でしゃべった。

「いいきっかけだと思うの。わたしもそろそろ兄離れしないといけないでしょう? お兄ちゃんは彼女とか作らないの? あ、そうか。わたしが毎週来るから呼べないんだね。でも、大丈夫。彼と付き合うことになったら、忙しくてお兄ちゃんとは遊べなくなっちゃうから、これからは邪魔しないよ」

 お兄ちゃんはカッコ良くてお金持ちだから、彼女もすぐにできるはず。
 寂しかったけど、わたしはわざと明るく言った。
 その途端、視界がまわった。
 天井が正面に見えている。

「お兄ちゃん?」

 わたしはソファの上で、お兄ちゃんに押し倒されていた。
 肩を掴まれて、圧し掛かられている。

「そいつと付き合う気か? 男ができれば、オレは用なしだから、ここにはもう来ないって言うのか?」

 お兄ちゃんは怒っていた。
 肩を掴む手にさらに力が込められて、わたしは痛みに顔をしかめた。

「お兄ちゃん、痛いよ」

 困惑して文句を言うと、お兄ちゃんの顔が近づいてきた。
 唇を塞がれる。
 キスをしているのだとわかるまで時間がかかった。

「何で? 兄妹なんだよ? こんなことするの、おかしいよ。初めてだったのに、悪ふざけにしてもひどいよ」
「おかしくない。オレには兄弟なんかいない。生まれてから一度も妹なんぞ持った覚えもない」

 お兄ちゃんの言葉はショックだった。
 存在まで否定されるなんて、何が彼をそんなに怒らせたのか、わたしにはわからなかった。

「そんな、嘘でしょう? お兄ちゃんは、わたしのお兄ちゃんで、わたしは妹で……」

 わたしに覆いかぶさったままのお兄ちゃんは、口の端を持ち上げた。
 背筋が凍るような、冷たい笑みだった。

「知らないって幸せだよな。教えてやるよ、どうしてオレが両親を嫌って家を出たのか、オレがあいつらを憎む理由も全部だ」

 お兄ちゃんが語り始めた話に、衝撃を受けた。
 お兄ちゃんの現在の姓は鷲見。
 つぐみさんが本当のお母さんで、中三の家出をした時に親権を移してもらって、隼人さんの養子になった。
 わたしはお母さんの連れ子で、お父さんとは血の繋がりがない。
 つまり、わたしとお兄ちゃんは、戸籍の上で兄妹になった時期があったが、血縁上ではまったくの他人だったというのだ。

「嘘だよ、そんなの……。嘘だって言って!」
「本当のことだ。信じられないなら、戸籍を見てみろ。すぐにわかる」

 耳を覆いたくなったけど、聞かなきゃいけない気がした。
 目を逸らしてはいけないと、心の中の冷静な部分が呼びかけてくる。

「あれはオレが小三の時だ。両親は別に不仲ってわけじゃなかった。母さんは家族に愛情を注いでいる普通の母親だった。それなのに、ある日親父が家に子連れの女を連れてきた。あの野郎、こともあろうに「大事にしたい人ができたから別れてくれ」って母さんに言いやがった。その女がちどりさんだよ。子持ちのバツイチで、くっついてたのがお前だ」

 わたしにはまるで記憶がなかった。
 二歳の時だから仕方ないとはいえ、そんな修羅場を目にしていながら、少しも覚えていないことに罪悪感が芽生えた。
 それと同時に、どうしてお兄ちゃんが両親を嫌い、荒れていたのかも理解した。

「離婚が決まると、経済的な事情からオレは親父に引き取られた。親父が出せる養育費じゃ、オレと母さんは生活していけなかったからだ。オレと別れる日、母さんは泣いていた。いつか必ず迎えに来ると言って抱きしめてくれた。それから母さんは働き始めた。世間知らずのお嬢さんだったのに、オレと一緒に暮らすために自立しようと頑張っていた。そして、一生懸命に働いていた母さんを隼人さんが見初めて、二人は再婚したんだ」

 いつも優しそうに微笑んでいたつぐみさん。
 あの人は夫を奪った相手に息子まで取られて、自分の家を追い出されたんだ。
 お母さん、どうして?
 いくらお父さんを好きになったからって、ひどすぎるよ。
 その時のつぐみさんの気持ちを思うと、胸がつぶれそうなほど痛かった。

「お前も知っての通り、中学に入った頃からオレは親父達への怒りと反発を爆発させて荒れていった。そんなオレの状態を知って、母さんは助けに来てくれた。約束通り迎えに来てくれたんだ。オレの母さんはあの人だけだ。ちどりさんも、お前も、オレにとってはずっと他人だった」

 他人という言葉には真実の重みがあった。
 お兄ちゃんの瞳には、わたし達に対する憎悪の感情が宿っていた。
 きっと、あの家出した夜も、こんな目をしてお父さん達を見ていたんだろう。

「お兄ちゃんがつらかったの、知らなかった。ごめんなさい、ごめんなさい……」

 謝罪の言葉を繰り返す。
 お兄ちゃんは憎い女の子供であるわたしを、邪険にせずに構ってくれた。
 何も知らずにまとわりつくわたしを見て、彼が胸中ではどんな思いでいたか、想像するだけでつらかった。
 わたしには謝ることしかできなかった。

「雛、お前がいくら謝っても何も変わらない。不倫で母さんを苦しめて、オレの幸せを奪った二人を許す気はない。真面目に更生したのは母さんのためだ。隼人さんにも感謝している、赤の他人のオレを、あの人は実の息子のように育ててくれたんだからな」

 お兄ちゃんの手が、わたしのパジャマの襟にかかった。
 力任せに引っ張られて、ボタンが飛ぶ。
 下に着ていたキャミソールがかろうじて肌を隠していたけど、それすらもまくり上げられて、膨らみが空気に触れたことで乳首がつんと尖った。

「あいつらの大事なものを手に入れることも復讐の一つだった。このままおとなしくオレにくっついていれば、もうしばらくは優しいお兄ちゃんでいてやったのに。バカだよ、雛は」

 ズボンの中に手を入れられた。
 膝までズボンを引き下ろされて、ショーツの布越しに指で割れ目を擦られる。

「あっ」

 敏感なところを触られて、びくっと体を縮めた。
 痛いような、変な感覚。
 自分でも触ったことのないそこを、お兄ちゃんは馴れた手つきでいじくった。

「やぁ、痛い……。やだ……」

 触わってくる手を止めようと両手で押さえていたら、今度は胸を触られた。
 左手でショーツ越しの愛撫を続け、右手で胸を揉んで、もう片方の胸を舌で愛撫してくる。
 唾液で湿った舌で、乳首を転がされ、感じたことのない快感に体の芯が痺れた。

「ここが気持ちいいのか? ほら、言えよ。どこがいいんだ?」

 お兄ちゃんは両手で、わたしの乳房を掴んだ。
 手の平にちょうど納まるサイズの膨らみを、捏ねるように揉んでいく。
 左右から膨らみを中心に寄せてくると、頂を唇で含み、ぺろっと舐められた。

「ふぁあんっ、……ぁう……」

 股間がじわりと熱くなり、濡れてきたのがわかった。
 おっぱいを愛撫されて感じてるんだ。
 愛液が溢れてきたことに気づいて、どうしようもなく恥ずかしくなった。

「お兄ちゃん、離してぇ……」

 気づかれる前に、何とかしないと。
 焦るわたしを楽しそうに見つめ、お兄ちゃんはわたしのショーツの中心に再び指を当てた。

「ここ、びしょびしょだぞ。高校生にもなっておもらしなんて、恥ずかしいヤツだな」

 どうして濡れているのかわかっているくせに、彼はわたしを嘲笑って指でそこを強く押した。
 ぐちゅっと愛液がショーツの中で音を立てる。
 恥ずかしくて、消えてしまいたくなった。
 ふいに腰を持ち上げられて、ズボンとショーツを抜き取られてしまった。
 足を開かされて、その間に彼が顔を埋める。

「あ、いや、やだぁ」

 舌での愛撫は、指より痛くはなかった。
 それどころか気持ちよくて、蕩けそうになる。
 快楽に身を委ねてしまいそうになるたびに、わたしは我に返って拒絶を続けた。

「だめだよ、お兄ちゃん、お願い、やめて……」

 懇願の声と喘ぎを交互に発しながら、高みへと上り詰めていく。
 そんなわたしを、お兄ちゃんの冷酷な視線が捉えていた。

「雛もいつかは、人の男まで取っちまう淫乱な女になるんだろうな。口じゃ嫌だとか言いながら、気持ち良さそうな声出してるじゃねぇか」

 わたしは反論することができなかった。
 言葉の通りだからじゃなくて、彼の心に刻まれた深い傷を見てしまったから。
 わたしにぶつけられる酷い言葉は、彼が抱く憎しみのせい。
 こんな気持ちを抱えて、きっと苦しいに違いない。
 いきなり家庭を壊されて、大好きなお母さんと引き離されて、たくさん傷ついて、消えることのない憎しみのせいで、今でも苦しんでいるんだ。
 大好きな人の苦しんでいる姿を見ているのはつらい。
 わたしも苦しい。

 抵抗をやめて、体を任せた。
 受け止めたかった。
 憎しみも悲しみも、全部この身で受けとめようと思った。

「諦めが早いな。もっと抵抗してくれないとつまらんが、いいだろう。だが、ここじゃやりづらい、場所を変えるぞ」

 お兄ちゃんはわたしを抱き上げると、リビングを出た。
 連れて行かれたのは寝室だった。
 幼い頃は一緒に寝ていたけど、わたしが中学生になった時から別に寝るのが暗黙の了解になっていた。
 今までのわたしと彼は『兄と妹』だったから。
 生理的にブレーキがかかるのが一般的だとしても、普通の家庭なら年頃になった男女の兄弟は寝室を別にする。
 彼がわたしを自分のベッドに連れてきたということは、完全に女として扱われていることを意味した。
 悲しく思うと同時に、どこかで喜んでいる自分がいることに戸惑った。

 寝心地のいいベッドの上に、体を横たえられた。
 お兄ちゃんの匂いが微かにする。
 腕に袖を通しているだけの上着も脱がされて、裸にされた。
 お兄ちゃんも服を脱ぎ捨てて、わたしの上に跨ってきた。
 部屋の明かりは、ベッドサイドの淡い光だけ。
 筋肉で覆われた彼の厚い胸板を直に見て、ドキドキ胸が高鳴った。

 首の付け根辺りに口付けられて、チクリと痛みが走った。
 肌に赤い痕――所有の印しがつけられた。

「初めてのはずだよな? 特別に今回だけは優しくしてやる。その代わり、どんなに痛がってもやめないからな」

 言葉通り、彼の愛撫は優しかった。
 胸を揺らすように手の中で遊ばれて、乳首が舌でくるくる回された。
 彼の舌は胸だけじゃなくて、お腹を伝い、足の間にまで及んでいく。

「あん……、うぁ…、やぁ…あぁん……」

 乾きかけていた秘所も、再び舐められて潤い始める。
 彼の前で大きく足を広げていることが恥ずかしくて、余計に快感が増して蜜が溢れてくる。

「まずはコレから咥えてみろ」

 蜜が湧き出る場所に指を一本押し込まれた。
 初めて受け入れる異物の感触が気持ち悪くて、体が敏感に反応した。
 指を動かされるたびにぐちゅぐちゅ卑猥な音がする。

「ああっ、うぅ……あああっ」

 指と舌で、入り口がどんどん解されていく。
 達するたびに腰が跳ねて、意識が飛びそうになってくる。
 彼が体を起こして、腰を掴んだことにも気がつかなかった。
 頬を手の平で撫でるみたいに叩かれて、ぼんやりと瞳に焦点が戻ってくる。
 お兄ちゃんはわたしの意識がはっきりしたのを確かめて笑みを浮かべた。

「おい、雛。ちゃんと起きてろよ。これからお前の中に突っ込むからな。信頼してた『お兄ちゃん』に犯されるってどんな気持ちだ? 怖いか? オレが憎いか? わざわざ長い時間をかけて懐かせておいたんだ、その分だけ絶望を味わってもらわないとな。オレが初めての男だってことを、一生忘れられないようにしてやる」

 怖い?
 憎い?
 絶望?

 そのどれもが的外れな感情だった。
 わたしを嬲る言葉を口にするお兄ちゃんに痛々しさを感じた。
 切なくて、涙が零れた。

 お兄ちゃんの長い指が、流れる涙を拭い取った。

「泣いても許さない。オレはお前の兄貴じゃない。お前を守ってくれる優しいお兄ちゃんは、どこにもいないんだ」

 腰が浮いて、先ほど入れられた指とは違う圧迫感のあるものが無理やり入ってくる。
 想像していたよりは痛くなかったのは、きっと彼が馴れているからだろう。
 そこに快楽はなく、愛もなく、単なる挿入という行為が行われていることを頭の端で理解していた。

「お兄ちゃん……、おにいちゃ……」

 痛みを堪えて呼びかけても声は返ってこなかった。
 これは罰だ。
 何も知らずに、彼の優しさに甘えていたわたしへの罰。

 わたしは彼の体にしがみついた。
 これで少しでも償いになるならいい。
 わたしはこの人を愛している。
 彼が望むなら、どんなことでもしよう。




 翌朝、目覚めた時には、お兄ちゃんは昨日までのお兄ちゃんじゃなかった。
 服を着て、お兄ちゃんを探してリビングに行ったら、彼はそこにいたけど、雰囲気がまるで違う。
 居心地が良かったはずの空間からは温かさが消えて、彼が放つピリピリした気配で満ちていた。
 お兄ちゃんはソファに座ってテレビを見ていて、わたしが近づいても振り向いてくれなかった。

「雛、ここにはもう来るな」

 視線をテレビに向けたまま、お兄ちゃんは言った。

「兄妹ごっこはおしまいだ。今度ここに来たら、遠慮なく抱く。男の部屋に泊まってタダで帰れると思うなよ」

 兄妹ごっこ。
 その言葉にわたしは打ちのめされた。
 お兄ちゃんにとって、わたしは妹ではなかった。復讐を遂げるコマの一つに過ぎない。
 でもね、ごっこで片付けるには長すぎたよ。
 わたしはこんなにお兄ちゃんが好きなのに。
 失った時、どれほど悲しいのか、すでに知っているから離れることはできない。

 わたしは彼に抱きついた。

「それでもいい。もう、離れたくないの。お兄ちゃんと一緒にいたいの」

 体が引っ張られて、お兄ちゃんの腕の中に収まる。
 密着するぐらい抱き寄せられて、キスをされた。

「お前、人の話を聞いてなかったのか? オレは二度と優しいお兄ちゃんには戻らない。お前は妹じゃない、ただの女だ。傍にいれば、昨夜みたいに抱いて性欲処理に使うだけだ」
「わかってるよ、わかってる!」

 わたしには愛される資格なんてない。
 でも、愛してもいいでしょう?
 見返りは期待しない。
 傍にいたいの。
 一緒にいさせて。

「雛は救いようのないバカだ。あんな目に遭って、何でそんなことが言えるんだよ」

 服を脱がせて組み敷きながら、お兄ちゃんはわたしをバカだと罵り続けた。

「お兄ちゃんがつらかった分を償いたいの。どんなに憎まれても、あなたはわたしのお兄ちゃんだから」
「わかったよ、好きにしろ。お前が過去の兄貴の幻想にすがりつきたいなら、止めやしない。オレはオレで、都合のいいように利用させてもらうだけだ」

 彼に愛されなくても、わたしは傍にいることを望んだ。
 お父さん達の借金の件で彼のものになるまでは、自分の意思で抱かれていた。
 同級生の告白は断った。
 お兄ちゃんへの気持ちが異性に向ける愛だと、はっきりとわかったから。
 愛する彼のためなら、わたしは何でもするつもりだった。




 久しぶりに実家で過ごして一週間目に、お兄ちゃんから帰宅の知らせが入った。
 急いでマンションに戻ったら、彼は帰っていて、リビングのソファに座ってくつろいでいた。

「雛、ここに座れ」

 呼ばれて、示された彼の膝の上に背中を向けて座る。

「スカートを上げて、足を開け」

 命じられて、スカートを持って足を開いた。
 ショーツで隠された股間が、リビングの明かりに照らされて晒される。

「一週間ぶりだが我慢できたか? 寂しくて、他の男のモノを咥えてたんじゃないだろうな?」

 ここにと、無遠慮にショーツで隠された割れ目を指で触られた。
 ぴくんと体が反応する。
 何をされるのか、本能が悟って期待を呼び起こし、泉に愛液を注ぎこんでいく。
 服越しに胸を揉まれた。
 強く刺激して、やがて上着をたくしあげてブラの中にまで手を入れてくる。
 両手でぐにゅぐにゅ激しく揉まれて、声を出した。
 尖った乳首を摘ままれて、蜜が湧き出る入り口の辺りがきゅっと締まった。

「……ん…はぁ……ふぁん……」
「もう下の口から涎をこぼしてやがる。呆れるほど、いやらしい女だな。まあ、言いつけはきちんと守っておとなしくしてたようだから褒めてやる。忠実なペットには、ご褒美をやるよ」

 濡れそぼった秘裂を割って指が入ってくる。
 出し入れされて、腰が動く。
 イキそう。

「あぁ……おにぃ…ちゃん……」

 後ろにいる彼に体を預けて、恍惚と呟く。
 この恥ずかしい姿を見られているのだと思うと、余計に興奮してくる。

「んぁ、やぁあんっ!」

 絶頂に達して、声を上げた。
 ぐったりした体を抱えられて床に下ろされる。
 ふかふかのカーペットは、寝転がっても気持ち良い素材でできていた。

「ご褒美はまだやってないんだぞ、寝るのは早い」

 彼はうつ伏せになったわたしの腰を持ち上げ、ショーツを剥いで、大事な部分をむき出しにした。
 硬くなった彼自身が、わたしの中に入ってくる。
 愛しい人の一部を受け入れて、喜んで腰を振った。

「嬉しいか、雛? 全身で喜んでるんだ、聞くまでもないな。そんなにこれが大好きなら、後でたっぷりしゃぶらせてやる。せいぜいオレを楽しませろ」

 嘲りの言葉は、快楽の虜となっているわたしの耳を素通りしていく。
 彼もわかったのか、口を閉じて行為に没頭し始める。
 突き上げる動作と共に、後ろから逞しい腕で抱きかかえられた。
 耳の裏から首筋、肩の辺りまでキスをたくさんされた。

 一度果てると、今度は仰向けにされ、荒い息を吐く唇同士を重ねて、小鳥がついばむようなキスを続けた。
 償いの行為のはずなのに、幸福を感じていた。
 彼が自分のものになったような錯覚さえ起こしている。
 瞳に涙が溢れてくる。
 わたしと彼が、この苦しみから解き放たれる日はいつくるんだろうか……。

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