償い

第4話 監視と護衛

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 今朝はお兄ちゃんと一緒にマンションを出た。
 迎えの車の傍には、黒服の男の人が待っていた。
 お兄ちゃんの護衛をしている人は交代を含めて十人前後はいるみたいだけど、その人の顔だけは覚えていた。
 年はお兄ちゃんと同い年ぐらい。
 護衛を仕事にしているだけあって、体格が良く、背は180以上はあると思う。
 精悍な顔つきをしていて、二枚目俳優並みに目鼻だちも整っている。ミーハーな鳩音ちゃんが彼を見れば、目を輝かせて大騒ぎするはずだ。
 実はわたしは彼に少し興味を持っている。
 恋愛感情ではなくて、純粋なカッコイイって憧れの気持ち。
 名前も知らない、一度もしゃべったことのない人だけど、なぜか親しみが湧いてくる。人当たりの良さそうな雰囲気がそう思わせるのかな。

 会釈をすると、向こうも同じく会釈を返してくれる。
 微笑みが、ちらっとわたしに向けられた。
 好意的な視線をもらって嬉しくなった。
 誤解されると困るから、この気持ちはお兄ちゃんには内緒。

「雛、いつも言っているが、予定が変わったらオレの携帯にメールを入れろ。嘘をついてもすぐにわかるからな」

 車に乗り込む時に、お兄ちゃんは毎度の警告を残していく。
 監視がついているらしいけど、わたしはそれらしい人を見たことがない。
 プロは監視対象に発見されるヘマはしないということだろうか。

「はい。今日は鳩音ちゃんと遊びに行くの、女の子だけのはずだよ。遅くなるけど、日付が変わる前にはちゃんと帰ります」

 こうして報告しておけば、お兄ちゃんは自由にさせてくれる。
 友達との付き合いや、大学への通学なども今まで通りだ。実家にだってたまに帰らせてもらっている。
 束縛されているのは異性関係のみ。
 大学は女子大だし、積極的にさえならなければ男友達なんか作れない。
 お兄ちゃんを裏切る心配なんて少しもないんだ。

 お兄ちゃんを見送って、わたしは駅に向かった。
 車での送迎は目立つからと断っている。
 わたしはお嬢様じゃなくて、平凡な家庭の子なんだ。お兄ちゃんに甘えて贅沢なんかしたら、それこそ単なる愛人みたいで嫌だったからだ。

 電車に揺られながら、久しぶりに鳩音ちゃん達と遊べると思うとわくわくしてきた。
 カラオケに行くんだって。
 何を歌うか、考えておかなくちゃ。




 大学についたら、鳩音ちゃんがやってきた。

「雛、今日は楽しみだね。お互い、頑張ろう!」

 強く背中を叩かれて困惑する。
 頑張るって、カラオケを?
 点数で競うとか、何か企画してるのかな?

 疑問に思ったけど、聞きそびれてしまった。
 鳩音ちゃんにカラオケに誘われた時、誰と行くのかしっかり聞いたんだよ。
 すると、仲の良い女の子達の名前が挙がった。
 それならいいかと思って、誘いに乗った。
 鳩音ちゃんが一言も、彼女達だけだと言わなかったことにも気がつかずに……。




 実際にカラオケ屋に集まったメンバーを見て、わたしは動揺した。
 男の子もいたからだ。
 鳩音ちゃんの友達繋がりで集まったらしい。
 女子の人数の同数ってことは、これはまさか、あれですか?
 鳩音ちゃんの袖を引いて、小声で問いただす。

「は、鳩音ちゃん。女の子だけじゃなかったの?」
「あ、ごめん、言ってなかったっけ? これ、一応合コンだから」

 鳩音ちゃんはぺろっと舌を出した。
 以前から、わたしを合コンに連れて行きたがっていたけど、こんな手で来るなんて。
 女の子ばっかりだって思ったから誘いに乗ったのに。
 お兄ちゃんにバレたらどうしよう。
 これは裏切りじゃないの、不可抗力なの。
 青くなっているわたしをよそに、自己紹介が終わり、幹事の鳩音ちゃんと男の子が歌い始めた。
 みんなは歌っておしゃべりをしながら盛り上がっていたけど、わたしはカラオケどころではなく、お兄ちゃんへの言い訳ばかりを考えていた。

「雛ちゃん、これ食べる?」

 隣に座った男の子――鷺谷(さぎたに)くんが、ポテトチップスを差し出してくれている。
 髪も服装も派手な、いかにも遊び人て感じの人だ。
 外見だけで判断しちゃだめだとは思うけど、雛ちゃんなんていきなり呼ぶし、こういう軽いノリの人って苦手だな。

「ありがとう」

 幹事をやってくれている鳩音ちゃんのことを思うと、邪険にもできなくて、お礼を言って一枚食べる。
 彼はさっきから、わたしの隣から動こうとはしない。
 話しかけられれば、わたしも受け答えはするけど、会話はうまく弾まなかった。
 他の子といた方が楽しいはずなのに、あぶれてしまったんだろうか。




 カラオケの後は、ファミレスで夕食を食べた。
 そこでお開き。
 うまく意気投合できた子達が、二人連れで去っていくのを見送って歩き始める。
 方向が違うからと次々と別れていって、駅に向かうわたしと同じ方向なのは、鷺谷くんだけになった。

「鷺谷。雛をちゃんと送っていって。わたしの親友なんだから、変なことするなよっ」
「わかってるって。お前こそ、連れの男を襲うなよ」

 鳩音ちゃんが別れ際に念を押して、鷺谷くんも冗談で返した。
 みんなで笑って、その場は和やかに別れた。

「駅まででいいから案内してもらえるかな、後は家の人に迎えに来てもらうから」
「鳩音にも頼まれてるしな。オレ、この辺には詳しいから任せて」

 近くの駅まで送ってくれるようにお願いして、鷺谷くんについて歩く。
 情けないことに、初めて来た街なので方向がわからない。
 彼がいるから大丈夫かと思っていたのに、気がついたら、いかがわしい雰囲気が漂うホテル街に連れ込まれていた。

「鷺谷くん、駅はもうすぐ?」
「うん、もうすぐつくよ」

 鷺谷くんは、わたしの問いをはぐらかす。
 もうすぐって言うけど、ちっとも駅が見えてこない。
 急に彼が立ち止まった。
 目の前の建物を指して、ニヤリと笑う。

「ここって女の子に評判いいんだよ。ヨーロッパのお城みたいだろ、お姫様な気分になれること間違いなし」

 真っ白なお城のような外観のそれは、ラブホテルだった。
 手を引っ張られて我に返る。
 どうして中に入ろうとしているの? 駅に行くんじゃなかったの?

「ここ駅じゃないよ。送ってくれるんじゃなかったの?」
「もちろん送っていくよ。ここで休憩してからね」

 いくらわたしでも、ラブホテルで休憩の意味がわからないわけじゃない。
 ぞっとして逃げようとしたら、腕を掴まれた。

「逃げなくてもいいじゃない。オレ、雛ちゃんのこと気に入ったんだよね。お嬢様みたいでおとなしいし、今まで付き合ったことのないタイプなんだ。せっかくこうして出会ったんだから、体の相性を確かめてみようよ、いい気持ちにさせてあげるからさ」

 めちゃくちゃなことを言いながら、鷺谷くんがわたしの腕を引く。

「いや! 離して、行かない! 家に帰るの!」
「恥ずかしがってるの? かわいいなぁ。でも、あんまり拒否られるとムカつく。オレが笑っている間に、誘いに乗った方がいいよ」

 どんなに頑張っても男性の力には敵わない。
 入り口まで引きずられて泣きそうになった。
 掴まれている腕が痛い。
 無理やり迫ってくる彼に嫌悪感を抱いた。
 その時、わたし達に近づいてくる複数の気配がした。

「あーらら。彼女、嫌がってるんじゃねぇの? 無理強いは良くないね、嫌われちゃうよ」

 かけられたのは、知らない男の人の声。
 鷺谷くんが顔を上げて固まった。
 いつの間にか、大きな男の人達にぐるりと周りを取り囲まれていたからだ。
 どの人も身長は鷺谷くんを越えている。プロレスラー並みの体格をしている人もいて、立っているだけなのにすごい威圧感があった。
 鷺谷くんの顔色が悪くなって、足が震え始めた。
 わたしだって怖い。
 服を着崩した怖そうな男の人達は、どう見ても普通の人じゃなかったからだ。
 彼らはわたしを舐めるような目つきで見て、口元を歪めている。

「なあ、ニィちゃん。その子、譲ってくれない? 色男のキミと違って、オレら女に飢えてんだよねぇ。痛い目に遭いたくなかったら、彼女を置いて、さっさと失せな」

 わたし達の正面に立つ、サングラスをかけた男性が低い声で鷺谷くんを脅した。
 鷺谷くんは飛び上がって直立し、わたしの体を彼らに向けて押した。

「は、はいっ! どうぞ、ご自由に!」
「さ、鷺谷くん!」

 わたしの方を振り向かず、鷺谷くんは逃げ出した。
 あっという間に、人ごみに紛れて姿が見えなくなる。
 生け贄みたいに置いていかれたわたしは、震えながら目を瞑った。
 怖い。
 助けて。
 お兄ちゃん。

 わたしがとっさに助けを求めた相手は、鳩音ちゃんでも、両親でもなく、お兄ちゃんだった。
 前に連れ去られそうになった時も、助けてくれたのは彼だ。
 でも今日はこない。
 わたしが油断して男の子について来たから、バチが当たったんだ。

「お、お兄ちゃん、助けて。怖いよぉ……」

 ぽろぽろ涙をこぼして、身を硬くする。
 肩に男の人の手が触れた。
 もうおしまいだと目の前が真っ暗になった。

「泣かないでもらえるかな。鷹雄に知られたら、オレら殺されるから」

 鷺谷くんを脅した怖い声がうって変わり、優しくなって、びっくりして目を開けた。
 サングラスを外したその人は、どこかで見た覚えがあった。
 あ、お兄ちゃんのボディガードやってる人だ。
 私服ですぐにわからなかったけど、わたしが密かに憧れていた彼だった。

「鷹雄の命令でずっと尾行してたんだ。二人になったら、案の定ホテルに連れ込まれそうになってるし、ちょっとお仕置きしてみました。さっきの男は、ただの調子に乗ったガキみたいだったから、あれだけ脅せば懲りただろうな」

 彼はにこにこ笑って、わたしの手を引いてくれた。
 他の人は後ろからついてくる。
 どうやら彼が主に指示を出しているみたい。

 鳶坂渡(とびさか・わたる)。
 それが彼の名前。
 今日からわたしの監視と護衛の責任者を任されることになったんだと自己紹介された。

「オレ、君のこと覚えてるんだよ。中三の時、鷹雄が母親に引き取られて鷲見に改名したばっかりの頃、コンビニの駐車場で集まってたオレらの所に来て、いきなり「お兄ちゃん」って言いながら、鷹雄に飛びついただろ。あれが印象深くてね。鷹雄の護衛に雇われてから君を見た時、すっかり大人になっててびっくりしたよ」

 あの時にいた人か。
 匂いのきつい女の人しか覚えていない。
 男の人も何人かいたから、彼はその内の一人だったんだろう。
 ということは、鳶坂さんはお兄ちゃんの友達でもあるんだ。

「鷹雄さ、あの時、君のこと大事な女だって言っただろ? 最初はただのシスコンだと思ってたけど、本気だったとはまいったね。誰にも取られたくないからって、始終監視をつけて囲ってるんだから、君も大変だね」

 それは違うと思う。
 お兄ちゃんはわたしを奪うことで、お父さんとお母さんに復讐したいだけだ。
 愛されてるわけじゃない。

 鳶坂さんは、お兄ちゃんの本心を聞いていないんだろうか。
 隼人さんとつぐみさんも知らないみたい。
 お父さんとお母さんは疑っているけど、わたしがお兄ちゃんと体の関係を持ったことは知らないはずだ。
 お兄ちゃんの憎しみを知る人は、わたし以外に誰もいないんだ。

「これからよく顔を合わせることにもなるし、雛ちゃんて呼んでいいかな? 実は鷹雄と話す時はそう呼んでるから、他の呼び方だとしっくりこなくて」
「はい、いいですよ。よろしくお願いしますね」

 すでに親しみを持ちかけていたから、彼にそう呼ばれることに抵抗はなかった。
 でも、お兄ちゃんとわたしの話をしているの?
 どんなことを話しているのか気になった。
 聞いてみたけど、「余計なこと言ったらクビにされる」って言われて、はぐらかされてしまった。



 近くの駐車場に待たせてあった車まで案内された。
 鳶坂さんはわたしを後部座席に乗せると、すぐには乗り込まず、どこかに電話をかけた。
 ドアも窓も閉まっているから、声は聞こえない。
 しばらくして通話を切った彼も後部座席に乗り込み、運転手さんに車を出すように指示した。

「鷹雄に連絡入れたんだ。友達に騙されて合コンのメンバーに入れられたことも説明しといたから、怒られたりはしないよ」

 それを聞いてホッとした。
 裏切ったと思われることが、一番怖かった。
 お兄ちゃんの信頼だけは失いたくなかった。




 鳶坂さんはマンションの最上階まで送ってくれた。
 彼は玄関の扉を開け、入ることをためらうわたしの背中を押して、中に呼びかけた。

「鷹雄、雛ちゃんは無事に連れて帰ってきたぞ。経緯はさっき説明した通りだから、いじめるなよ」

 お兄ちゃんの返事は聞こえなかった。
 鳶坂さんは肩をすくめて苦笑した。

「オレはすぐ下の階に住んでいるから、いつでも逃げこんでおいで。雛ちゃんを守ることがオレの仕事だから、遠慮しなくていいからね」

 励ましてくれているのか、そう言って、鳶坂さんはエレベーターに乗りこんで行ってしまった。
 ここにいても仕方ない。
 怒られる覚悟をして、わたしは中に入った。

 お兄ちゃんはリビングにいた。
 わたしを見て立ち上がり、両手を広げた。

「雛、来い」

 予想していた反応ではなく驚いた。
 嬉しくて、伸ばされた腕の中に飛び込んでいく。
 彼の背中に腕をまわして抱きついた。
 今さらのように体が震える。
 お兄ちゃんが監視をつけてくれていなければ、わたしは鷺谷くんに無理やり抱かれていたんだ。

「お兄ちゃん、ごめんなさい。怖かったよぉ」

 くすんと鼻をすすって泣いたら、頭を撫でられた。

「合コンに来るような男は、女に飢えてるに決まってるだろ。これに懲りたら、そういう時は電話入れろ。どこにいようが迎えに行く」
「うん」

 顎を持ち上げられて、キスをされた。
 貪るように唇を奪われて、とろんとしてくる。
 唇が解放されると、甘い吐息が自然にこぼれた。
 キスを終えたお兄ちゃんは、わたしの腰に腕をまわした。
 体が浮き上がって、肩に担ぎあげられる。

「合コンの件は見逃してやる。だが、簡単に騙されるマヌケにはお仕置きが必要だな。朝まで喘がせてやるから覚悟しろ」
「わああんっ」

 寝室まで連行されて、ぽんとベッドの上に投げられる。
 寝転がったところに、彼の体が覆いかぶさってきた。
 上の服をまくられて、冷やりとした手が肌に触れた。
 ブラジャーを押し上げて、膨らみを軽く握られる。

「あっ、お兄ちゃん……」

 むにゅむにゅ揉まれて、気持ちよくてうっとりとしてしまう。
 鷺谷くんに迫られた時は嫌悪感しかなかったのに、お兄ちゃんになら、こんなことされても嫌じゃない。

「あんっ」

 胸の先端が彼の唇で覆われた。
 乳首が舌先でちょんちょんとつつかれて舐められる。

「ううん……、ふぁ…あん……」

 わたしの中の女の部分が目覚めて疼く。
 触られているのは胸なのに、足をもじもじ動かして快感に耐えた。
 もう一方の膨らみにも、彼の唇が触れた。
 わざと音を立てて吸われる。
 唾液で濡れた乳首が指で挟まれて、胸全体を撫でるように揉まれた。
 こらえ切れずに喘ぎ、愛撫に身を任せる。

「もう感じてるのか? お前がこんな風にいやらしいから、男が寄ってくるんだよ。案外、嫌がってるフリして誘ったんじゃねぇのか? 雛はオレに抱かれているだけじゃ不満らしいな」
「ち、違うよ。そんな……」

 他の人に抱かれたいなんて考えたこともない。
 お兄ちゃんに蔑まれていることはわかっていても、今そんな風に言われるのはつらかった。
 さっき優しく抱きしめてもらえた分、余計に心が傷つけられる。
 それでもわたしは彼を憎めない。
 信じて、お兄ちゃん。
 わたしが欲しいのはあなただけだってこと。

「口答えするな。どれだけお前が淫乱か、じっくり調べてやる」

 お兄ちゃんはわたしの弁解を遮って服に手をかけた。
 スカートもストッキングも取り払われて、ショーツだけにされる。
 上の服も全部脱がされた。
 わたしをほぼ裸にして、お兄ちゃんは体を離した。
 シャツを脱ぎ、逞しい胸板を晒す。
 そうしてから、わたしを見下ろした。
 じっと見つめられる恥ずかしさから、胸を隠して顔を逸らした。

「隠すな。お前の全てをオレに見せろ」

 彼の命令は絶対だ。
 そう言い聞かせて、手を下ろす。
 羞恥心で火照った頬がお兄ちゃんの手の平で包み込まれる。

「ほら、自分で触ってみろ。ちゃんと見ててやる」

 お兄ちゃんはわたしの手を持って、ショーツで隠された秘所へと導いた。
 布越しに割れ目を撫でてみたけど、その程度では許してもらえなかった。
 手首を掴まれて、さらに奥へと導かれる。
 自分で中に入れるのは怖くて、入り口の辺りを指で撫でているだけだったけど、見られながらの自慰のせいで体が熱くなってきた。
 愛液が指に絡まってきて、昂りが腰を揺らした。

「ふぁああんっ、ああんっ」

 ベッドに仰向けになって、弓なりに背中を逸らした。
 お兄ちゃんの目の前で、一人でイッてしまった。
 きっと彼の瞳には蔑みの感情が浮かんでいる。
 悲しくてつらくて、瞼を閉じて、手元のシーツをぎゅっと強く握った。
 次に聞こえたのは、嘲りが混じるお兄ちゃんの声だった。

「パンツがびしょ濡れになってるぞ。こんなに濡らして恥ずかしくないのか? 綺麗にしてやるからじっとしてろよ」

 濡れたショーツが脱がされて、床に落とされた。
 足を広げられて、その間にお兄ちゃんが顔を近づけた。

「あっ、やんっ」

 彼の舌が、剥き出しにされた割れ目に触れた。
 蜜と唾液が混じって、舌が動くたびにぺちゃぺちゃ水音が聞こえた。
 愛液が際限なく湧いて、止まらない。

「こら、人がせっかく綺麗にしてやってるのに漏らすなよ。終わらねぇだろ」
「だって、だってぇ……」

 体の奥が痺れて体が震える。
 舐めてくる舌が敏感な肉芽を刺激してきて、愛液が乾くことなく秘裂を濡らした。

「こんなに欲しがって、しょうがないヤツだな。入れてやるから、オレの上に乗れ」

 腰を掴まれて、向かい合う形で上に乗せられた。
 お兄ちゃんは下の衣服も脱いで裸になっていた。
 彼の欲望の象徴が、わたしの体の中に分け入ってくる。
 お兄ちゃんの上に跨って、せりあがってくる快感に逆らえずに叫んでいた。

「あっ、ああっ、ああああんっ」
「しっかり動け。オレをイカせることができたら、今夜は勘弁してやる」

 彼の燃えるような熱い瞳が、この淫らな姿を映している。
 応えなくてはいけない。
 彼を満足させることが、わたしに与えられた償いの方法なんだ。

 お兄ちゃん、大好き。
 声に出せない言葉を、唇の動きに乗せる。
 腰を振り、彼の熱だけを感じて声を上げた。




 意識が弾け飛んだ後に目を覚ますと、わたしはお兄ちゃんの隣で横になっていた。
 裸のままだったけど、汗ばんで精液と愛液で汚れた体は綺麗に拭かれている。
 掛け布団がずれて、肌寒く感じた。
 もぞっと動いて、お兄ちゃんに身を寄せる。
 彼は薄く眼を開けると、わたしの背に腕を回して胸元に引き寄せた。

「お前はオレのものだ。この体をオレ以外の男に触らせることは許さない」

 耳元で落とされた囁き。
 甘い愛の言葉ではなかったけど、わたしは嬉しかった。
 償いは傍にいるための口実なのかもしれない。
 復讐の道具でもいい。
 愛されることも望まない。
 こうして傍にいて、あなたを感じている時間が、わたしは一番幸せだ。




 暗闇の中でわたしの携帯電話が微かに鳴った。
 リビングの方から聞こえる。
 着信の音楽は鳩音ちゃん専用のものだった。メールじゃなくて通話の方だ。
 ベッドから出ようとするわたしを、お兄ちゃんが止めた。

「ほっとけ、雛。非常識だぞ、何時だと思ってやがるんだ」
「鳩音ちゃんからだよ。もしかしたら、鷺谷くんが連絡したのかも」

 ガウンを着てリビングまで出て行くと、バッグから携帯を取り出した。
 かけ直してみると、すぐに繋がり、切羽詰った鳩音ちゃんの声が聞こえた。

『ひ、雛なのね! 大丈夫!? 今どこにいるの! すぐに助けに行くから場所を教えて!』

 電話の向こうからは、複数の人の声が聞こえている。
 もしかして警察とか呼んでたりして。

「あ、あのね。今、家なの……」

 説明しようとしたわたしの手から、携帯が消えた。

「雛と代わった。オレは元だが、雛の義理の兄にあたる者だ」

 お兄ちゃんが携帯を奪い、代わりに事情を説明している。
 わたしに監視をつけていることは言えないから、少し事実は変えていたけど。

「幸い、たまたま通りかかったオレの部下が雛を救い出したから良かったものの、そうでなければ取り返しのつかないことになっていた。君も男友達はよく選べ」

 お兄ちゃんは通話を終えると、携帯を私に返した。
 再び耳に携帯を当てて呼びかけると、鳩音ちゃんは涙声になっていた。

『雛、ごめんね。ごめんねぇ』
「泣かないで、こっちこそごめんね。鳩音ちゃんは悪いことしてないもの、謝ることないよ。お兄ちゃんは心配性なの、きついこと言ったかもしれないけど、気にしないで。でも、もう合コンは遠慮するね。鳩音ちゃんとなら遊びに行くよ」
『うん、鷺谷には蹴り入れといたからね。縁も切る。こんな最低なヤツだったなんて思わなかった』

 鳩音ちゃんの背後では、許しを請う男の子の情けない声も聞こえていた。
 鷺谷くんは、鳩音ちゃんにきつくお仕置きされたようだ。
 一応鳩音ちゃんに連絡したってことは、彼も少しは反省しているんだろうか。
 もう関わることもないだろうけどね。

 通話を切って、お兄ちゃんと一緒に寝室に戻った。
 ベッドに入って、さあ寝ようって目を瞑ったら唇を重ねられた。
 触れ合うだけの、甘くて優しいキス。
 目を開けた時には、お兄ちゃんは背中を向けていたけど、わたしはその背中にくっついて、安心して眠りに着いた。

渡の独り言

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