狂愛
王の忠実な騎士・2
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城の地下牢には、罪人は一人もいなかった。
元々この牢には、謀反を企てた不忠者などの、施政を脅かす政治的罪を犯した罪人が入れられる。
数年前なら大勢入れられていたが、政情も安定した現在では罪人の数は圧倒的に少なく、捕らえられてもすぐに処遇が決まって移されるからだ。
先日謀反を企んだ者達も、処遇が決まり出された後のようだ。
わたしは牢の一つに繋がれた。
口は猿轡で封じられ、壁際に立たされ、両手両足に枷をつけられる。
両手の枷に付けられた鎖の先は壁に取り付けられており、足の枷には鉄球が錘としてつけられていた。
兵士達は無言で作業を終えると、牢を出て、扉の外で見張りに立った。
この状態では自害も無理だが、万が一のことを考えてなのだろう。
陛下が死ぬことを許してくださらなかったから、死ぬ気はとうに失せたのだが……。
こんなことになって、両親にまで咎めがいかないか、それだけが心配だ。
わたしだけならいい。
陛下のご命令で命を奪われるなら本望だ。
だが、両親には生きていて欲しい。
陛下にお願いしてみよう。
あの方はお優しい方だ。
幾らわたしが許せなかったとしても、老いた親を思う心を酌んで、きっと願いを聞いてくださる。
音もなく、日の光も射さない暗闇の中では、どれだけの時間が過ぎたのかはわからない。
長い時間が過ぎた気がしたが、もしかするとほんの数時間しか経っていなかったのかもしれない。
地下の床を覆う石畳を踏む音が聞こえる。
誰かが地下に下りてきたんだ。
「どうだ、様子は?」
「お疲れになられたのか、お静かにしておられます」
陛下の声だ。
気配は近づき、牢の入り口を封じていた鉄の扉が開け放たれた。
一人の影が開け放たれた入り口をくぐって近づいてくる。
間違えるはずもない、わたしの陛下だ。
咄嗟に視線が追ったのは、傷を負ったはずの陛下の手だ。
包帯が左の手の平に巻かれ、痛々しい。
陛下はわたしの視線に気づくと、包帯を巻いた左手をじっと見つめた。
「手袋をしていたからか、傷は大したことはない。利き手ではないから、執務にも支障はない」
それを聞いて安堵した。
ホッと肩の力を抜いたわたしの前に、陛下が歩み寄ってくる。
「そなたは死を選ぶほど、私の傍にいるのが嫌なのだな。だが、それだけは許さない。城を出てどこに行くつもりだった? よもや、誰ぞ添い遂げる男でもいるというのではあるまいな」
何を言われているのか、わからなかった。
添い遂げる男?
誰のこと?
わたしは修道院で身を慎み、陛下への想いだけを胸に抱いて余生を送るつもりで……。
「許さない、どんな手を使っても、そなたを私のものにする!」
服が胸元から引き裂かれた。
陛下の腕力は想像以上のもので、丈夫な布地を紙のように引き裂いていく。
上着の前を開かれて、白い下着が露わになる。
陛下はそれさえも引き裂いて、わたしの胸元の肌を剥き出しにした。
「聞け、ヒルデ。そなたが私に逆らうのなら、そなたの両親の命はない。二人を救い、守りたくば、私に従い、その体を差し出せ」
陛下のお手により、両手足の枷が外され、口も自由になった。
わたしはすぐさま陛下の足下にひれ伏し、縋りついた。
「お願いでございます。我が父は先王陛下の代より、王家のためにお仕えしてきました。両親に罪はありません。陛下のお怒りは全てわたしが元凶のはず、責めならば全てこの身にお与えください!」
頭の上で舌打ちの音が聞こえた。
陛下の苛立ちが伝わってくる。
お顔を見ることもできず、ずっと俯いていた。
「私の話を聞いていなかったのか? そなたが従うのであれば、二人には何もせぬと言っておる」
恐る恐る陛下のお顔を見上げた。
表情はわからない。
怒っておられるようにも、泣きそうになっておられるようにも見えて、思わず手を伸ばしたくなってしまった。
どうなされたのだろう?
不安げに見つめるわたしに、陛下の苛立ちが増した。
口調にそれが表れている。
「私は体を差し出せと言った。そなたもすでにいい大人だ。意味はわかるであろう? その体を使って、今この場で私を慰めろ」
そう言って、陛下はご自身の衣服を寛げて、下穿きの中から男性の象徴を取り出した。
それはすでに大きくなっていて、こんなものが女の小さなあの部分に入るのかと恐れを抱くほど雄々しく立ち上がっていた。
「わ、わたしは臣下の身です。陛下の精はお世継ぎための尊き子種。わたしごとき女がお受けするわけにはまいりません」
「下で受け入れられないのなら、口でも手でも使え、その胸でも構わぬ。初めて見たが、見事な体をしておるな。命まで差し出す覚悟で仕えてくれておったのなら、それぐらい容易いことであろう」
陛下の口から吐きかけられた無遠慮で耐え難いお言葉に体が震えた。
滲んでくる涙を堪え、わたしは陛下の前に座り込み、手で肉棒を支えて先端を口に含んだ。
「うっ……、んっ……、ぅうっ……」
咽そうになる度に、己を叱咤し、口一杯に頬張った。
歯を当てないように注意しながら、舌で丹念に舐め上げていく。
「くぅ、はぁ……」
陛下がわたしの髪に手を差し込み、うっとりと甘い息をついた。
心からの恍惚とした声に、我を忘れそうになる。
元々、身も心も捧げたいと想った愛しい人のものだ。
わたしに嫌悪の感情などあるはずもない。
奉仕の結果、吐き出された精までも、夢中になって飲み込んでいた。
ごくりとわたしの喉が鳴る。
荒い息を吐きながら、陛下がわたしを凝視していた。
「飲んだのか?」
「はい」
まだ夢の中にいるような心持ちで頷いた。
「くそ!」
陛下の口から発せられた怒りを込めたお声を聞いて、一気に現実へと引き戻された。
「へ、陛下……」
手を伸ばしたが、陛下がわたしの体を抱きしめたのが早かった。
「ヒルデ、そなたに相応しい仕事を与えよう。私の夜伽だ。男の精液を飲み込むほどの好きモノには、願ったり叶ったりの仕事であろう」
耳にした言葉が信じられず、息を呑んだ。
淫売だと暗に罵られ、屈辱的な扱いを受けようとしている。
「い、嫌です、それだけはお許しください! わたしは修道院にまいります。一生俗世には出ず、陛下の治世が平穏無事であることを祈りながら過ごすつもりなのです!」
「そのような戯言、信じると思うのか! そう言って、私を騙し、他の男のところに行くのだろう! 私に忠誠を捧げると言いながら、なぜ離れて行こうとする!」
衣服を手早く整えた陛下は、ご自身のマントで私を包み込み、横抱きに抱え上げた。
「陛下、何をなされます!」
「そなたのために部屋を用意した。そこに移す」
わたしの抗議も聞く耳持たず、陛下は牢を出て地上へと続く階段を上られていく。
無理に抵抗して、陛下の御身を傷つけるわけにもいかず、わたしは運ばれている間おとなしくしていた。
陛下がわたしをお連れになったのは、宮殿の奥深く、後宮のある場所だ。
だが、陛下のために集められているはずの女性の姿がどこにもない。
廊下に面した多くの部屋は、どこもひっそりと静まり返っている。
陛下は大きな開き戸の前で立ち止まられた。
扉の大きさから、中はかなり広い部屋だと想像できた。
陛下の従者が扉を開ける。
室内は幾つもの部屋が繋がっており、後宮でも上位に位置する愛妾のための部屋だと窺えた。
この部屋の主はどこに行ったのだろう?
まさか空き部屋ではあるまい。
陛下はわたしを抱えたまま、奥の部屋へと踏み込んでいく。
最初の間を越えると、すぐに寝室だった。
天蓋で覆われたキングサイズのベッドの上に陛下はわたしを静かに下ろした。
「今日からここがそなたの部屋だ。必要な物があれば、侍女に申しつけよ。この部屋で日を過ごし、私の訪れを待て」
「お、お待ちください! このお部屋をお使いになられていたお方はどちらにおられます!? 高貴な姫君方を差し置いて、わたしが後宮にお部屋をいただくわけにはまいりません!」
爵位を頂いていても、わたしは生粋の貴族ではない。
剣だけで身を立てた庶民の子。
陛下のお傍に騎士としてしかお仕えできなかったのも、それが理由だったのだ。
陛下はわたしを振り返り、冷ややかな目で見下ろしてきた。
「ここはそなたのために私が用意した部屋だ。誰にも気兼ねすることはない」
それでは答えになっていない。
なおも言い募ろうとしたわたしの肩を陛下が押した。
油断していた上に、長時間牢に繋がれ、疲弊していた体は簡単に寝具の上に倒れていく。
「そなたは何も考えずとも良い。ここで私を迎え、足を開いて受け入れれば良いだけだ」
手首を捕らえられ、両手首を揃えて拘束するための鉄の輪を嵌められた。
戒めには鎖がつながれ、ベッドの端と繋がっている。
「牢であれ以上はしたくなかったからな。ここで存分に続きをやろう」
「あっ、陛下!」
体を隠していたわたしのマントと陛下のマントが取り払われ、下肢を覆っていたズボンや下穿きまで脱がされた。
陛下は短剣を取り出し、わたしの上着を裂いて、布地を取ってしまわれた。
生まれたままの姿が陛下の目に映る。
腕や足、背中、脇や腹など、戦場で負った消えることのない無数の斬り傷が、全て曝け出された。
「い、いやぁっ!」
顔を背けて、背中を丸めた。
こんな体を見られたくなかった。
後宮で玉の肌を極限まで磨き上げられた美しい女達を見てきた陛下の目に、この醜い姿が映っている。
惨めな思いで心の芯まで焼き尽くされるような気がした。
「ヒルデ、私を見ろ」
陛下の命令に、ゆっくりと背けた顔を元に戻す。
頬に温かいお手が触れて、柔らかい唇が呼吸を塞いだ。
優しい口づけが離れていき、労わりを込めた声が降ってくる。
「この傷は私のために負ったものだ。そなたの忠誠の証でもある、誇って良いのだ」
陛下はわたしに言い聞かせるように呟き、唇を肌に滑らせた。
傷痕の一つ一つを舐め、指でなぞる。
「あんっ、はぁ……、ああんっ」
快楽に溺れるたびに、手首と寝台を繋ぐ鎖が音を立てた。
陛下はわたしを押さえ込み、胸を揉みしだき、首筋にキスをして、自由を奪った体を貪っていく。
「そなた、男はいるのか? ここを誰かに与えたことはあるのか?」
陛下はわたしの足の間に手を入れて、秘所に指を入れてきた。
わたしは首を振って否定した。
「だ、誰にも触らせておりません。信じてくださいっ」
あなただけを想っているのに、どうして他の男に身を任せられるというのか。
わたしの言葉を半信半疑の面持ちで聞いていた陛下だが、急に笑みを浮かべられた。
「そなたの言葉が嘘でも真実でも構わない。私はもう我慢などせぬことにした。本当に欲しいものを手に入れるために、私のこれまでの歳月は存在していたのだ。周囲の望みを叶えてやった今、もう誰にも邪魔はさせぬ」
陛下が望まれていたもの?
それは何?
「あっ、ああっ」
足を大きく開かれて、秘所に陛下の舌が這った。
その場所から幾度も快感が押し寄せてきて、わたしを翻弄する。
「へ、陛下ぁ……。やめてくださいっ、汚いっ!」
くちゅくちゅといやらしい水音が響く。
腕を戒められ、足は陛下の腕でしっかり抱え込まれている。
陛下はくすくす笑いながら、指でわたしの秘所を撫でた。
「ほれ、このように蜜がたっぷり溢れてきておるぞ。男を欲しがって入り口もひくついておる」
わたしの愛液をすくった指を陛下は舐めた。
恍惚とした表情で、とてもおいしそうに。
「ヒルデは私の子種はいらぬと申したが、そうはいかぬ。そなたはこれを尊きものだと言うたではないか。それならば、これまでの働きへの褒美に、そなたの体にたっぷり注ぎ込んでやる。そして私の子を生む栄誉を与えてやろう」
「やめて、許してください……」
涙を流して懇願したが、陛下は聞き入れてくださらなかった。
牢の中でわたしの口を犯した時と同じく、大きくなった肉棒をためらうことなく挿入されていく。
「うっ、ああっ、うあああっ」
身動きのとれないわたしを捕らえ、陛下は一心不乱に腰を振っていた。
初めて男を受け入れた痛みと、そこを乱暴に蹂躙される恐怖でわたしは泣き叫んでいた。
「陛下、お許しをっ! ああっ、はぁっ……、陛下ぁ……」
「名を呼んでくれ、ヒルデ。もう誰も呼ぶことのない、私の名前を……」
陛下の名前。
記憶の底から拾い出す。
初めて出会った時、陛下が名乗った名前だ。
「……クラ…ウ……ス……」
擦れた声で、その名を呼んだ。
「そうだ、私はクラウスだ。ヒルデだけが呼んでいい名前だ。わかるか、この意味が?」
わたしは首を横に振った。
意味なんてわからない。
わかることは、わたしが気安く陛下の名を口にし、ましてや呼ぶなんて許されない下賤の身の上だということだけだ。
「陛下……、わたしは……、あなたの臣で……ございます」
荒い息の下、切れ切れに言葉を伝える。
陛下は険しく眉を顰めると、腰を大きく前後に揺すった。
「あっ、あっ、ああっ!」
「ああ、ヒルデ……。そなたがあくまで己を臣下だと言い張るのならそれでも良い。それならば、私のためにその身を捧げ続けるのだ!」
胎内に熱いものが流れ込んでくる。
陛下の精だ。
たくさんのそれが、わたしの中を満たしていく。
背徳感に怯えながら、心のどこかで喜んでいる浅ましいわたしがいた。
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