狂愛
王の忠実な騎士・3
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わたしの身は後宮に軟禁された。
ドレスを着せられ、剣を持つことも禁じられた。
一日中部屋にこもっていては病気になってしまうということで、後宮内やすぐ側の庭園を散歩するぐらいなら許可をもらえた。
ただし、外に出る時は、侍女達が数人ついてくる。
両親へ手紙を書くこともできず、外との連絡は一切とれなくなっていた。
陛下は毎日やってきて、わたしを抱く。
他の女性達のお部屋にも通われているのかはわからない。
わたしにできることは、陛下の機嫌を取り、子種を受けないように願うことだけだ。
「んっ……、んっ、ふっ……」
寝台の上に寝そべっている陛下の股間に顔を埋め、わたしは口と舌を動かしていた。
陛下は裸、わたしは裸の上に、透ける素材で作られた丈の短い白い淫靡なナイトドレスを着ている。
もう少しで果てるという時、陛下がわたしの頭を掴んだ。
「もう良い、足を開いて寝転べ。今夜も嫌と言うほど注いでやる」
「ま、待ってください」
「聞かぬ。そなたが嫌がるなら、無理に足をこじ開けてでもやるぞ」
わたしはうつ伏せにベッドの上に押さえ込まれた。
衣服としての用を成していないナイトドレスの裾が腰までめくり上げられ、剥き出しの尻を陛下の前に晒してしまう。
「へ、陛下、お願いします。口でしろとお命じください」
わたしの懇願も、陛下は鼻で笑うと一蹴された。
「こんなに股を濡らしておいて、欲しくないと申すのか? ヒルデは嘘つきだな、嘘つきな悪い子にはお仕置きをしてやらねばならん。膝を立てよ、命令だ」
わたしは自ら膝をつき、犬のように四つんばいに這った。
陛下はその間も、わたしの秘所を指で弄り、愛液で満たされたそこを責め立てる。
「あ、あんっ、いやぁ……。やめ……、おやめくださいっ」
聞いてはもらえずとも、わたしは願いを口にする。
陛下は不機嫌な面持ちで、わたしの腰を掴んできた。
「嘘つきの言うことなど聞かぬ。体は正直だな、ほら、貪欲なほど私を求めて飲み込んでいく」
猛々しく反り返る陛下自身を、わたしの膣は容易く迎え入れた。
何度も慣らされたそこは陛下のお言葉通りにいやらしく蠢き、身の程知らずにもわたしが抱く陛下を求める邪まな心の表れのようだった。
「許して、許してぇ」
罪悪感にかられ、陛下に、神に、この国の全ての民に向けて許しを請うた。
だが、陛下がお許しになられることはない。
この日も散々喘がされ、精液が溢れ出るほど中に注ぎ込まれた。
後宮での生活は穏やかなものだ。
仕事はなく、日中は散歩に出て、部屋に戻れば侍女を教師に宮廷作法を学び、貴婦人が備えるべき教養や嗜みを習う。
陛下の訪れが唯一の嵐であり、刺激でもあった。
侍女達の顔も一通り覚えた。
彼女達はみな貴族の出であるのだろうに、わたしをヒルデ様と呼び、敬う態度で接してくる。
耐えられなくなって、一番年上の女官長だという女性に、この分不相応な扱いをやめてくれるように頼んだ。
すると彼女は困った顔になり、全て陛下のご命令だと話してくれた。
「ヒルデ様はこの後宮の唯一の主であらせられます。いずれは后にするのだと、陛下は仰せです。今のうちに王妃に相応しい教養と作法を学ばせよと、私どもにお命じになられました」
予想もできない話を聞かされ、しばし言葉を失った。
わたしが后?
王妃?
後宮に誰もいないって、なぜ?
「以前の後宮で陛下のために集められた女性達は、全員が前女官長殿の意を汲む者、または縁者であったりと、影から王宮を支配するべく作られたものでした。陛下はそれを理由に、彼女や一部の重臣に謀反の嫌疑をかけられて、多くの者達を処罰されました。後宮も解散され、咎を免れた者達は各々の故郷に帰されたり、臣下に降嫁なされました。我が国へと人質に差し出された他国の姫君達も同じです。全て、陛下の側近達の妻となられました」
女官長はわたしを見つめ、小さなため息をついた。
「陛下はあなた様のためなら、どのような非道な行いでもなさるでしょう。ここだけの話ですが、陛下が王宮内で大規模な粛清を行われた一番の理由は、すでに処刑された前宰相と前女官長が、あなたを他国への人質として嫁がせるべく計画なされていたことをお知りになられたからなのです」
わたしはさらに驚きに包まれた。
この元は庶民の一騎士にすぎないわたしを他国に嫁がせる?
そのような花嫁を、一体どこの国が喜んで引き取るというのだ。
「遠方の蛮族達ならば、武勇に優れた女を喜ぶであろうと、前宰相殿は陛下におっしゃったそうです。陛下は国が安定すれば、あなた様を愛妾としてお傍に呼ぶことを重臣達に約束させ、長年の激務に耐えてこられました。約束をいとも容易く破ろうとした者達に、あの方はお怒りになり、裁きを下された」
陛下がわたしを後宮に召そうとされていた。
それを快く思わない者達が、わたしが騎士であることを幸いに、常に激戦地である最前線に送り込み、果ては他国に追いやろうとまでした。
陛下は彼らからわたしを守ってくださった。
そしてお傍に召そうとしてくださったのだ。
嬉しさで、涙がこぼれた。
「ヒルデ様、どうか陛下を拒まれることのないように。あの方は狂っておいでです。ヒルデ様を得るためなら、きっと悪魔にだろうと魂を売り渡されるでしょう。それだけ陛下はあなたに執着なされているのです。あなたを失えば、どんなことになるのか、私は恐ろしい」
女官長は怯えを見せて、わたしにすがりついた。
震える彼女を宥めて、決意を固めた。
この命は陛下のもの。
あの方が望む通りに、わたしの人生を捧げよう。
その日を境に、わたしは陛下を拒む言葉を口にしなくなった。
自ら足を開き、陛下の精を受ける。
今宵もまた、ベッドの中でわたし達は睦み合っていた。
「ヒルデ、どうしたのだ? 最近はおとなしくなったな」
抵抗もせず、喜びさえ見せて受け入れるわたしを、陛下は嬉しく思いながらも不思議がられているご様子だった。
「わたしは陛下の忠実な臣でございます。あなたがお望みなら、この体も心も全て投げ出してごらんにいれます」
陛下の首に腕をまわし、わたしは答えを囁く。
この身を貫き、中を圧迫する陛下の牡の象徴が、わたしを揺さぶった。
「ああっ、んあああっ」
「愛している、そなただけだ。初めて会った時から、私の心にいたのはそなただけだった」
愛する人に愛されて、幸福が全身を支配した。
できることなら、わたしも言いたい。
あなたを愛していると。
でも、それは言ってはいけない言葉。
わたしは求めてはいけない。
陛下の負担になってはならない。
お傍にいて、生涯お仕えすると決めた。
わたしはあなたに尽くすことで、この胸の内に宿る思いを伝えていこう。
とくんとくんと、内から別の鼓動が聞こえる。
陛下に賜った子種は実を結び、新たな命となってわたしの中で育ち始めた。
わたしは王妃として国民にお披露目された。
城の周囲では、祝いにかけつけた民衆が口々に祝辞の言葉を叫んでいる。
侵略者との戦での功労者であり、国を救った英雄だからと、民はわたしを王妃として認めてくれた。
城の周辺を見渡せるお披露目用のテラスに立っている間、ずっとわたしの手を握り、穏やかに微笑んでいる陛下に笑みを返す。
「これで面倒な式典は全て済んだ。後は静かな後宮で、腹の子共々養生するのだぞ」
「はい、陛下のために、お世継ぎは無事に産んでみせます」
新たな使命を授かり、張り切るわたしを見て、陛下は落胆のため息をつかれた。
「ヒルデ、世継ぎも大事だが、私はそなたも大事だ。どちらかしか助からぬというのなら、私は迷わずそなたを選ぶ。そのことを忘れるな」
陛下はわたしの体を壊れ物を包み込むように、大切に抱きしめた。
「わかっております、陛下。ですが、わたしは陛下の騎士。あなたのためなら、この命はいつでも投げ出します。そのことをお忘れなきよう」
陛下は答えず、わたしを抱きしめている。
ごく普通の、何のしがらみもない平民の男女であったなら、わたしはためらうことなくあなたに愛を告げ、誰を犠牲にしてでも共に生きることを約束できただろう。
だけど、あなたは王で、わたしは騎士。
与えられた分を、決して過ぎてはならない。
陛下の胸に顔を寄せ、腕の温もりに身を委ねた。
愛しています。
永遠にあなただけを――。
END
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