我が愛しの女王陛下

第三章・右将軍ユーグ=バレーヌ・2

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 宿で少し休息してから出発した。
 道中、同行の騎士達はオレから距離を置いて警戒する素振りを見せたが、翌日ローフォセリアの王都に到着した頃には、誰も何事もなかったのごとく振る舞えるまでには落ち着きを取り戻していた。

「大義でありました。フィリップ、報告を聞かせなさい」

 報告に来たオレ達を、リュシーは女王の顔で迎えた。
 厳粛な空気の中、フィリップが外交の成果や帰路の襲撃のことまでを伝える。
 オレは黙って聞いていた。
 質問されたことだけを答える。
 話すのは苦手だし、誰もオレにそんなこと期待しちゃいない。

「……報告は以上です」
「わかりました。下がってよろしい」

 報告を終え、フィリップが一礼して謁見の間を出て行く。
 オレも続こうと頭を下げた。

「ユーグ」

 リュシーがオレに呼びかけた。
 顔を上げると、彼女は気遣わしげな目をオレに向けていた。

「今夜はあなたにお願いします。よろしいですね」
「はい」

 リュシーが人前で女王として振る舞う時は、オレも臣下の言葉遣いを守る。
 慇懃に返事をして、命令を拝受した。

 夜に誰を傍に呼ぶかはリュシーが決める。
 毎日全員が王都にいるわけではないが、できるだけ平等になるように調節しているみたいで、今のところ招かれる頻度に不満はない。
 そういえば、オレが呼んで欲しいと思った時には必ず呼ばれているような気がするな。
 気のせいだろうか?




 オレは城の敷地内に小さな屋敷を持っている。
 女王の伴侶となった時、身分に相応しい領地や屋敷を与えようと言われたが断った。
 今は財産なんて必要なかったし、国は建て直しの最中。
 ただでさえ落ち着かない時期なのに、管理もできないバカが領主になって困るのは、そこに住む領民だからな。
 オレが望んだのは生活に困らない程度の金と環境、それと祖母が眠る墓地だけだ。

 日が落ちるまで修練を行い、夕飯を食った後、頃合を見て屋敷を出た。
 暗い空の中では星が輝き、多くの者が休息に入っている時間であるがゆえに、城内は静まり返っていた。
 城の敷地はだだっ広く、無数の建物や塔が点在し、リュシーの寝室がある宮殿まではかなりの距離があった。
 散歩がてらにのんびり歩く。
 リュシーの方でも準備があるだろうし、急いて行くこともない。

 宮殿を目前にして、見覚えのある中年の男が木立ちの陰から現れた。
 実家で父親に仕えていたヤツだ。
 ほとんど言葉を交わしたことはないが、両親や兄達と同じく、オレのことをバカにして侮蔑のこもった目でいつも見ていた。
 バレーヌ家の連中は、オレ以外は親類縁者まで全て国外逃亡したはずだ。
 もちろんオレには一言もなし。
 置いていかれたとも思わなかった。
 すでに絶縁していたも同然だからな。
 配下や使用人達も全員ついていったはずだが、なぜこいつがここにいるんだろう。

「お待ちしておりました、ユーグ様」

 男は媚びた態度を前面に押し出した気持ちの悪い笑みを浮かべて寄ってきた。

「此度は外交のためにお出かけになっていたそうで、お疲れでしょう。貴方様のご活躍は国外にいても聞こえてきます」
「御託はいい、さっさと用件を言え」

 にべもないオレの言葉に、男は一瞬だけ表情に不快感を表した。
 しかし、すぐに押し込めて、元のうさんくさい笑みに戻った。
 こうしてオレに媚びへつらうのさえ内心では嫌なくせに我慢しているのは、それだけ窮地に陥っているのだ。この男も主人も。

「実はですね、お父上が病に臥せられてしまい、母上様も、兄上様方も、長き逃亡生活に疲れきっておいでです。このように国が安定した今なら故国に帰れるのではと、私めが様子を見るために密かに戻ってきたのです。ユーグ様は右将軍の地位を授かり、女王陛下のご夫君でもあらせられます。ご家族が戻られるために、ご尽力くださいますな?」

 呆れかえって、すぐにはものも言えなかった。
 最初に縁を切ったのは誰だったのか、そんなことも忘れたのか、あのご家族とやらは。

「帰ってきたければ勝手にすればいい、陛下は情け深いことに国外逃亡の罪は問わぬと言われている。だが、家はないぞ、財産もな。持ち主が全員行方知れずになった貴族の屋敷は、自動的に先の戦の恩賞で分配された。バレーヌの財産はオレに権利がまわってきたが、家屋敷と荘園は管理ができんので所有権は国に返した。すでに人手に渡っているはずだ。他の財産も全て処分して戦災孤児の援助にまわした。バレーヌの爵位はオレの功績で残っているが、財産がないので実質的には名ばかりのものだ。オレは城内に屋敷があるし、金も物も必要なだけ支給されるので、余分な金はいらんからな。ああ、墓だけはしっかり守っているから安心しろ。我が敬愛する祖母殿が安らかに眠っている場所だからな」

 オレの返答に、男の顔は青くなり、ついには赤くなった。

「お、おのれ! よくもそんなことを! この役立たずめが! 落ちこぼれの狂犬め! せっかく認めていただけるチャンスだったのだぞ! 今からでも遅くない、すぐに屋敷と土地、財産を取り戻してこい! これは家長である父君の命であるぞ!」

 虎の威を借る狐というのは、こういうことを言うのだ。
 相手をすることも面倒くさくなって、剣を抜いた。
 昨日浴びた血の匂いが甦ってくる。
 敵を前にして、感情が一気に凍りつく。
 オレの変化に気づいたらしく、男は怯えを見せて後ずさった。

「な、何をする気だ! ここは王城だぞ!」

 あれだけ威勢よく吼えていたくせに、こいつは何を怖がっているんだ。
 嗜虐心を煽られ、つい笑みがこぼれた。

「だから?」

 抜いた剣を男の喉許に突きつける。

「あんたが言った通りだよ、オレは狂犬だ。リュシーが鎖に繋いでくれてるから、オレは他人に危害を加えない。だが、その鎖はあくまで善良な人間に対してだけ有効だ。てめぇみてぇな鬱陶しい屑は含まれてねぇんだよ。役立たずはどっちだ? この場で喚くしか能のない輩が何粋がってんだぁ?」

 男はすでに口を閉じていた。
 がたがたみっともなく震えて、両手を握り合わせて命乞いをしている。
 くだらない。
 斬り捨てる価値もないほど、どうでもよく思えた。

 突きつけていた剣先を引き、顎をしゃくって消えろと促した。

「この場は見逃してやる。リュシーに会うってのに、てめぇの薄汚い返り血なんざ浴びたくねぇからな。帰ったらご主人様に言っとけ。オレの家族は死んだ祖母殿だけだ。てめぇから捨てといて、今さら父親面してどうこう言われても知るか、ご自慢の息子どもになんとかしてもらえ。こんな落ちこぼれが一国の将軍だぜ。そっちはもっと有能なのが雁首揃えてんだ。国を興すぐらいわけねぇだろってな」

 腰を抜かして床にへたり込んだ男は、這いずりながら逃げていく。

「それと、妙な動きはするなとも伝えておけ。オレに肉親の情を期待しても無駄だぜ。少しでもおかしなマネしやがったら、親兄弟だろうと即座にとっ捕まえて首を刎ねてやる。女王陛下とこの国に仇成す者をオレは許さない」

 ほうほうの体で逃げ出す男には聞こえていなかったのかもしれない。
 それでも構わない。
 元々、国外逃亡した元重臣達の動向も、ロベールは把握している。
 国が立ち直ったと知った連中が、現在の中核……つまりオレ達を退けて、己の復権を狙ってやがることも調査済み。
 それらは小さな火種の内に、隠密部隊が消してまわっていた。
 バレーヌの連中も、余計なことを考えずに、地味に日陰で生きてりゃ命は長く保つだろうが、変な欲を出して陰謀に加担した途端に消されるだろう。
 そんなことをわざわざ教えてやる義理もないがな。

 心が真っ黒に染まっていく。
 戦場での出来事が脳裏に甦り、そして先ほどの男の負の感情にも引きずられてしまう。
 早くリュシーに会いたい。
 そうでないと、本当に気が狂ってしまいそうだった。




 宮殿の最上階にあるリュシーの寝室にたどり着く。
 二人いた警備の兵士は、オレに気づくと敬礼して扉から離れた。

「ご苦労だった。夜明けまで、所定の位置についてくれ」

 兵士を部屋より少し離れた階段の入り口まで下がらせる。
 ノックして、侍女が扉を開けるのを待った。
 開かれた扉の先にリュシーの姿を見つけて、ようやく息をついた。

「いらっしゃい、ユーグ」

 にっこり微笑んで近づいてきたリュシーだが、オレの顔を見て痛ましげに顔を歪めた。

「やっぱり、ひどい顔色。つらいことがあったのね」
「平気、何でもない。リュシーが気にすることはない」

 そんなことより、リュシーを抱きしめたかった。
 華奢な体を抱き寄せて、ほのかに香る甘い匂いを堪能する。
 リュシーからは陽だまりの中にいるような、温かくて良い匂いがした。

 柔らかい体の感触を堪能し、労わりの言葉を紡ぐ唇をキスで塞いだ。
 舌を絡めて深く口付ける。
 キスで乱された互いの呼吸がオレの興奮を高めた。
 夜着に手を差し入れて胸を揉みしだく。
 直接触れて膨らみを弄んでいると、リュシーの手がオレの手に添えられた。

「ん……、ユーグ、待って……。ベッドに……」

 リュシーは真っ赤な顔をして、奥の寝台に視線を向けた。
 立ったままヤラレそうな気配を察しての牽制だ。
 一刻も早くリュシーの中に入りたかったが我慢する。

「安心しろって。いくら何でも床の上でやんねぇからよ」
「うん……きゃっ」

 いきなり抱え上げたので、リュシーが小さな悲鳴を上げた。
 リュシーの体を横抱きにして、寝台へと向かう。

 できるだけ丁寧に寝具の上に下ろす。
 横たわったリュシーに覆い被さり、唇を重ねた。

「うぅ……ん……、ぁん……、はぁ……」

 キスをしながら夜着をまさぐり、前ボタンを全て外して左右に割った。
 肢体を隠すものは、股を覆う小さな布だけだ。
 露わになったでかい乳を両手で掴み、指先を軽く食い込ませて柔らかい感触を味わった。
 指先で乳首を弾くとリュシーは小さく喘ぎを漏らした。
 気持ち良さそうな顔で、オレの愛撫に身を任せている。
 ここがいいのか?
 今度は舌で交互に舐めてみた。

「やっ……、ああんっ」

 一際大きな声を上げて、リュシーは体を引きつらせた。
 気がつけば股布はぐっしょり濡れていて、足を伝って愛液がこぼれ出ていた。
 湿った布を足から抜き、秘部を剥き出しにする。
 割れ目に指を這わせて愛液を絡めると、一本中に入れてみた。

「ああっ、あう……、うぅん……」

 抜き差ししつつ、刺激する。
 リュシーは腰をくねらせて、オレの指を受け入れていた。

 指を抜き、足を大きく開かせる。
 膝を抱えて股の間に顔を寄せ、愛液の滴る割れ目を舌で撫でた。
 ここにオレのモノが埋まる瞬間を想像し、ワクワクしながら舐めしゃぶった。

「ああんっ、あんっ、やあああぁぁっ!」

 リュシーの腰が何度も跳ねて、その度に愛液が湧いてくる。
 甘い吐息をつき、リュシーは涙目でオレを見つめた。

「ユーグ、お願い……。来てぇ……」

 ぐちゅぐちゅに蕩けた秘所はすっかり受け入れ準備ができていた。
 オレも服を脱ぎ、リュシーの痴態で興奮しきった分身を曝け出した。

「愛してる。リュシーが欲しい。体だけじゃなくて、心も全部」

 耳元で囁きを落とす。
 リュシーはオレの願いを聞いて、瞳に悲しみの色を宿した。

「ごめんなさい。どれほど愛してくれても、わたしはあなただけのものにはなれない」

 嘘でもいいからオレだけを愛していると言って欲しかった。
 でも、そんなの無理だよな。
 オレが想うのと同じようには愛してもらえない。
 だけど、リュシーの愛は確かにオレに注がれている。
 例えるなら、その輝きを目にした者には分け隔てなく恵みを与える太陽のように。

「黙れよ、そんなことわかってる。だが、今夜はオレのものだ。オレに抱かれている間だけは、他の人間のことなんか考えるな、オレだけを見ていろ!」

 誰にでも注がれる愛だけど、少しの間だけの独占なら許してくれてもいいだろう。
 オレはリュシーの旦那なんだから。
 ベッドの中で二人っきりの時ぐらい、誰にも邪魔されずに愛し合いたい。

「うん。朝が来るまで、ユーグのことだけ見てる」

 リュシーは頷いて微笑した。
 彼女はオレに対してだけ言葉を和らげる。
 同い年からくる気安さを求めているのか、街にいる普通の娘のような言葉遣いをするのだ。

 リュシーの足を抱えて、秘所にオレ自身を押し当てた。
 いい具合に濡れたそこは、待ちわびていたかのごとくオレを迎えた。

「行くぞ、リュシー」
「ぅんっ、あっ、ああっ」

 腰を振ってリュシーの中で欲望を迸らせる。
 女はリュシーしか知らないが、気持ちよくて我を忘れそうになった。

「はぁ……、あんっ……、あああっ」

 喘ぐリュシーに快楽を与えるために、肌にキスを繰り返した。
 乳房も強くならない程度に揉みしだく。
 次第に肌への口づけを深くして、ついには噛み付いた。
 きめ細やかな彼女の白い肌が、鬱血してうっすらと赤くなっていく。
 一箇所だけでは足りず、幾つも幾つも所有の印しを刻み付けた。

「うっ、……あぅっ!」

 オレの肩に置かれていたリュシーの手に力が入る。
 爪がオレの肩を引っ掻いた。
 赤い筋から血が滲み、気づいたリュシーが驚いてそこに触れた。

「ユーグ、血が……」
「気にするな。これぐらいじゃ足りない、もっと傷をつけろ。リュシーがオレで感じた証拠を刻み込め」

 唇を塞ぎ、乳房を揉み解す。
 リュシーの口から甘い声がこぼれるたびに、オレ自身も高まっていく。

「あっ、あんっ、ああっ」

 リュシーが悶えて喘ぐたびに秘密の泉が潤って挿入が楽になる。

「やぁっ、ああっ、ユーグぅ!」

 オレの名を叫びながら、リュシーが抱きついてきた。
 まわした手で、オレの背中を何度も引っ掻き、噛み付いてくる。
 清純だったはずの少女の瞳は、オレという牡を求める獣の目に変わっていた。
 オレも求める欲求を押さえることなく、リュシーの中で暴れまわった。

「あんっ、もっとぉ、わたしをあなたでいっぱいにしてぇ」

 リュシーは恥じらいもなく、オレをねだった。
 理性の飛んだリュシーの体をうつ伏せにして、背後から貫く。

「はぁ、ああんっ、んぁああっ!」

 重そうに揺れる胸を触り、先端の尖りを摘まむと、中がぎゅうっと締まる。
 締め付けの良さに満足し、彼女の肌に散らばるオレがつけた所有の痕を舌で舐め、腰を打ち付けた。

「リュシー、出すぞ」
「うん、ユーグ。いいよぉ、いっぱい出してぇ」

 熱で潤んだ虚ろな眼差しで、リュシーはオレを誘った。
 確かに彼女と一つになっていた証しに、胎内めがけてオレの精を注ぎ込んだ。




 事後の気だるい体を寄せ合って、朝まで休むことにした。
 リュシーはオレの腕を枕にして寄り添ってくる。

「あのね。わたし、ユーグがいてくれて良かったと思ってる。あなたと初めて会った時、この人なら本当の友達になってくれると思ったの。王女じゃなくて、リュシエンヌという名前を持つ個人として、わたしを見てくれると確信したわ」

 確かにオレはリュシエンヌという人間に興味を持った。
 彼女が王女であろうと村娘だろうと、この気持ちは変わらなかったかもしれない。
 オレが選ばれた理由を知って、何となく嬉しくなった。
 オレ達は同じことを相手に思っていたんだ。
 ただオレは、友達以上に好きになっちまったけどな。

「お互い様ってやつだな。リュシーだって、本当のオレを見てくれた。誰も気づかなかった、オレの寂しさや悔しさもわかってくれた」

 リュシーをしっかり抱きしめて丸くなる。
 肌の感触も抱き心地も、かけてもらえる言葉も、何もかもが好きだ。

「オレは誰にも負けないぐらい強くなる。リュシーが守りたいもの全部、命賭けて守るから、オレはここにいてもいいよな?」
「ユーグもわたしの大切な人よ。見返りなんかいらない。あなたが望むだけ、ずっと傍にいて」

 リュシーはオレに無償の愛をくれる。
 彼女は世界で一番綺麗で大事な宝物だ。
 この命が尽きるまで守ってみせる。
 何物にも変えがたい、オレの愛しい女を。

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