お嬢様のわんこ

第一章・お嬢様と可愛いわんこ・5

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 目を覚ますと、私は温かい布団にくるまっていて、幸せな気持ちになった。
 いつまでも寝ていたいけど、朝ごはんを作って、クロに食べさせてあげなくちゃ。
 お弁当は何にしよう。
 焼いたお肉とレタスをパンに挟んでサンドイッチを作ろうか。
 クロを送り出したらお洗濯をして、全部干したらお仕事に行くの。
 いつもと変わらない日常を思い描いて、体を起こした。

「……あれ?」

 目覚めた部屋は、生家を思い出させるような豪華な部屋だった。
 天蓋付きの大きなベッド、私に掛けられていたのはふかふかの羽布団、机や椅子などの調度品は高級感たっぷりの重厚な雰囲気を醸し出していた。
 どこをどう見ても、クロと暮らしていた小さな家ではない。
 私が着ている寝間着も、絹でできた真新しいネグリジェで、高価なものだってわかる。

「え?」

 次に目に入ったのは、闇のような黒い髪と褐色の肌。
 まるでクロみたいだけど、クロじゃない。
 思い通りに動く褐色の肌をした体と、まとわりついているその髪は、紛れもなく私自身のものだ。

「耳の位置がおかしい?」

 いつもあるはずの場所に耳がなくなっている?
 頭に手をやると、ふさふさした髪の毛ではないものがあった。
 指で形を確かめながら、自分の意志で動かせることに気づく。
 お尻がむずむずした。
 そちらにもモフモフした黒い毛玉があり、布地に開けられた穴から飛び出していた。

 獣耳と尻尾が生えている?
 鏡を見て確かめたいけど、この部屋にはないみたい。
 呆然と変化した体を見つめていたら、後ろからむぎゅうっと抱きつかれた。

 ああ、クロだ。
 大好きな匂いに包まれて嬉しくなった。

 あれ?
 なんだか、いつもより嗅覚が鋭くなっているような気がする。
 クロの匂いが普段より数倍強く感じられて戸惑った。

「お嬢様! ごめんなさい、許してください!」

 クロの涙声の謝罪が聞こえて我に返った。
 どうしてクロが謝るの?
 泣いている彼の頭を撫でて、向かい合った。
 いつもはピンッと立っている耳が力なくへたっている。
 体は一人前以上に立派で大きいのに、涙を浮かべて縋りついてくる姿は子供と変わらない。
 愛しさと優しい気持ちが湧いてくる。

「どうしたの? 私に謝らなければいけないこと、何かしたの?」
「俺のせいでお嬢様が酷い目に……、それに俺はもっと酷いことをしてしまった……」

 記憶が徐々に戻ってくる。
 最初の酷い目、とは、あの狼族の男に殺されかけたことだっていうのはわかる。
 でも、クロがした酷いことって、もしかしてこれのこと?
 私は自らに生えた狼の耳と尻尾を指して、彼に言った。

「この耳と尻尾のこと?」

 クロは鼻を啜りながら頷いた。

「死の淵にいたお嬢様に主従契約を行い、俺の命を繋げて傷ついた体を修復しました。お嬢様は俺の眷属となり、命を共有しています。体を修復する際に、俺の力がよりよく流れ込むように造り変えた結果がそれです」
「つまり、私は死者で、死体をクロが動かしているってこと?」
「違います! お嬢様は死者ではありません、ちゃんと生きています!」

 私が死者であることを勢いよく否定したクロだけど、あとは言いにくそうに声を落として続けた。

「お嬢様の体は今までと変わらず成長と老化をします。ただ違うのは俺が死を迎えた時に同時に命を失うことぐらいです、二度目の復活はありません」

 これは奴隷契約よりも、もっと質の悪い主従契約なのだと、クロは説明を続けた。
 奴隷契約は、主人が死ねば契約は解除されるけど、こちらは命そのものを繋げて縛りつけるため、主人が死ねばもろともに死を迎えるという、どう足掻いても生きて逃れることは不可能という理不尽な呪いだった。
 私の意志を無視して、自分が主人となる契約を成したことを、クロは泣きながら許しを乞うた。
 そんなことで怒るはずないのに。
 私の方こそ長い間彼を契約で縛り続けてきたのだから、同じことをされても構わない。

「クロのこと怒っていないわ。それよりも、助けてくれてありがとう。これからもずっと一緒にいられるね、クロとお揃いのこの姿も気に入ったから気にしないで」
「お嬢様!」

 飛びついてきたクロに押し倒された。
 ふかふかの布団の上だから良かったけど、ちょっとは自分の体格を考えて欲しいわ。

「愛してます! これまで通り、精一杯お仕えしますから、この犬めをお傍に置いてください!」

 すりすりと頬や首に鼻をこすりつけられて、くすぐったくなってきた。
 まだ自分のこと犬なんて言ってるんだ。
 まあね、こういうことも愛犬だから許していたわけだけど……。

「私、もう犬は飼わないわ」
「ええっ!」

 絶望の声を上げた彼の頬を両手で包み、こちらを向かせた。

「あなたは狼族の獣人で犬じゃないもの。それに最初にした私との契約は破棄されてしまったのでしょう? 今度はクロが私のご主人様になったのよ、これからはお嬢様ではなくてリュミエールと呼んでくれないといけないわ、愛称でリュミと呼ばれるのもいいわね」

 鼻先に軽くキスして、抱きついた。
 さっきやられたお返しに、同じように鼻をこすりつけて甘えてみる。

「旦那様、私は旦那様のものです。これからは精一杯お仕えしますから、お傍に置いてくださいね」

 クロのセリフもマネしてみた。
 想定外の事態に固まっているクロに抱きついたまま、尻尾をフリフリ甘えていると、深くベッドに押しつけられて唇を彼のそれで塞がれた。
 息をする暇もないほど、深くて執拗な口づけを受けて、ようやく呼吸ができるようになったと思えば、どうやったのか着ていた寝間着がすぽんっと脱がされた。
 え?

「お嬢様、ああ、お嬢様が俺のものだなんて、夢を見ているようだ」

 あれれ? 胸に手が伸びてきて、むにゅむにゅと揉みまくられてる。
 いつもやっているご褒美の愛撫以上の激しい責めにあんあん喘いでいる間に、どうやって脱いだのか、全裸になったクロが覆いかぶさってきた。

「リュミエール、俺の番になってください。主従の繋がりなんて求めていない、俺はあなたをただ愛したい」

 クロったら、求婚はもっと雰囲気のある場所でやって欲しかったわ。
 裸で睦み合い始めてから、思い出したようにされても……。

 黙っている私に、クロの瞳が不安そうに揺れだした。
 耳と尻尾もへたっている。
 落ち込んでいく彼の姿を見ていると、胸がきゅううっと締めつけられた。

「そんな顔しないで。結婚を申し込むなら、もっと素敵な場所で服を着ている時にして欲しかっただけよ。愛してるわ、クロ。私もあなたを奴隷や飼い犬だなんて思ったことはなかったわ、今まで犬扱いしてごめんなさいね」
「犬にしては好待遇でしたよ。衣食住不自由なく、それこそ人と同じように世話をして育ててくれた」
「だって、あなたは獣人なのよ。お父様も本当に人を犬に貶めるほど酷い人じゃないわ」
「わかっていますよ、旦那様は優しくて立派な人だったって。あの方がお嬢様に俺を与えたことも、娘の願いを叶えるためだけではなかったのですから」

 お父様は自分の死後、私がお母様に追い出されることを予想していた。
 そうなった時に路頭に迷わないように、クロを教育して生きていけるようにしてくれた。
 私がクロと一緒に寝たり、お風呂に入ったりしていたことを咎められなかったのも、こうなることを見越して認めてくれていたってことなのかな。
 クロのお嫁さんになること、お父様は祝福してくださるわよね。
 お父様のことを思い出していると、クロが泣きの入った声を上げた。

「旦那様との思い出に浸るのは今は勘弁してください、結婚の申し込みは後日改めてします。お願いですから、俺をこれ以上待たせないでください。お嬢様と結ばれる機会を得て、お預けなんて我慢できませんっ」

 クロの鼻息が荒くなってきた。
 興奮が私にまで伝わってきて、変な気分になってきた。

「ご、ごめんね、クロ。大好きよ、欲しいなら私を全部あげる。待たせたりしないから、好きなだけしてもいいよっ」
「! いただきますっ!」

 お預け状態から解放された勢いでクロが飛びかかって来た。
 深く口づけられて、絡みついてくる舌に夢中になって応えていると、彼の指が秘所を撫でてちゅぷりと水音を立てた。
 中に入れられるのは初めて。
 痛みと認識してしまう未知の感触に怯えて震えると、クロは私の頬を舐めて「落ち着いて」と囁いた。
 指が秘部を解していくのと同時に、もう片方の手が体を這い回り、快楽を与えられた。
 クロの舌が胸をペロペロ舐めしゃぶる。
 唇が先端を吸い上げて、歯でくりくりと甘噛みされた。

「ひっ、んああああっ」

 びくっと体が何度も跳ねた。
 指を差し込まれた秘部もきゅっと締まり、また別の快感に苛まれた。
 とろとろ流れ出る愛液が私の中で動くクロの指を濡らしていく。

 指を抜かれて、本命のモノを押し当てられても拒む余裕はなくなっていて、気がつけば貫かれていた。
 揺さぶられながら、クロの体に抱きついた。
 彼の背に爪を立て、悲鳴とも泣き声とも判別のつかない声を上げる。
 クロが私の名前を何度も呼ぶ。
 痛みのせいか涙が滲んできたけど、心が満たされていく。
 クロ、クロ、私の旦那様。
 一つの命で繋がれた私たちは、次に死が訪れるまで引き離されることはないんだね。


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