お嬢様のわんこ

第二章・わんこ、お嬢様への愛を叫ぶ・8

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 家が完成し、新たな生活が始まった。
 お嬢様は、家事は自分がすると張り切っている。
 住民登録証を手に入れると、近くの食堂で働き口まで見つけてきた。
 当初、俺は全て反対した。
 お嬢様を外に出したくなかったし、きつい家事労働なんてさせる気もなかった。

「お嬢様、生活費の心配ならしなくて良いです。これまで通り、俺が稼ぎます。家事だって、俺が……」
「だめよ、私はもう今までみたいにただ待っているだけの生活なんて嫌なの、私だってクロのために働きたい。役立たずなご主人様でいたくないの」

 何不自由のない生活をしてもらおうと頑張ってきた。
 それが、お嬢様には負担だったなんて。
 役立たずと自分を貶めるほど、養われる暮らしが苦痛であったと知って驚いた。
 俺にはお嬢様の意に添わぬことを強いるつもりも権利もない。
 渋々だけど頷いた。

「わかりました。でも、無理はしないでください。それと働くのも夜遅くまではだめですよ」
「ありがとう。大丈夫よ、お仕事は昼過ぎまでだから、クロが帰ってくる頃には、ご飯作って家で待ってるからね」

 俺のご飯は三食全てお嬢様のお手製になった。
 お昼のお弁当まで持たせてくれる。
 勤め先が食堂だからか、お嬢様の料理は日を追うごとに上達し、夕方家に帰ってくると、おいしそうな匂いと共に出迎えてくれるようになった。

「クロ、お帰りなさい」

 動きやすいシンプルな青いワンピースの上に白いエプロンをつけて、にこやかな笑顔で駆け寄ってくるお嬢様。
 長い髪は後ろで一つにまとめてある。
 庶民の主婦の定番衣装は、小さな木造りの家と見事に融和して、家庭的な温かさを醸し出していた。

 抱擁をして、頬に口づけしてもらう。
 今の俺は、新妻に出迎えてもらう新婚の夫みたいだ。
 お嬢様の腰を抱いて持ち上げ、くるくると回りだしたいほど浮かれている。
 家を買って良かったな。
 宿と違って、部屋の外にも人の気配はない。
 俺とお嬢様、二人だけの時間を過ごせる。

 部屋が少なく、物がそれほど無いとはいえ、家の中は整頓され、床も窓も綺麗に磨かれて、入居した日のままの清潔な印象を保っている。
 誰がやったのか、それは目の前にいるお嬢様以外にいない。
 俺が思っていたより、お嬢様は働くことを厭わない人だった。逆に旅をしていた間、彼女が何もせずに養われることに対して、どれほど引け目を感じていたのか改めて思い知らされた。

「今日も怪我はない?」
「はい、大丈夫です。お昼のお弁当、おいしかったです」
「本当? 良かった」

 お嬢様が嬉しそうに微笑む。
 俺の口元もつられて緩む。
 今までも十分幸せだったけど、ここでの生活は最高だ。
 ずっとこうやって暮らしていけたらいいな。




 俺が定住地を決めたので、爺さんとパトリスも街に家を借りたらしい。
 他にも王城から数人派遣されていて、活動拠点にしているそうだ。
 俺が街から動く気はないと伝えても、諦める気配はない。
 だが、帰還を促す言葉も言わなくなった。
 毎日のように顔を合わせているとその存在も自然なものに思えてきて、ただついてくるだけなら好きにさせておくことにした。

 俺がギルドに行くと、二人はいつも先に来て待ち構えている。
 爺さんは俺の顔を見ると嬉しそうにやってきて、無視をしてもお構いなしに後をついてきた。

「さあ、殿下、参りましょうか! どこへでもお供いたしますぞ!」
「俺はクロだ! 殿下って言うな! 周りの奴らに変な目で見られるだろう!」
「まあまあ、いいじゃないですか。足手まといにはなりませんし、今日も魔法の使い方をお教えいたしますから、同行をお許しください」

 魔法の使い方を教わるというのは、確かに魅力的な提案だ。
 パトリスは本職の魔術師だし、教え方も丁寧でわかりやすい。
 こちらの得にはなっても損にはならないから、精々利用してやろうと思っている。
 実際、水と火の魔法を覚えて浴槽にお湯を張れるようになった日には、お嬢様にものすごく感心されて喜ばれた。
 そのことに関しては、パトリスに感謝はしている。

 一人で浴槽一杯のお湯を沸かすのは重労働だ。
 お嬢様は俺が帰る頃に間に合うように、毎日頑張って浴槽にお湯を入れてくれていたが、ものすごく大変だったろうと思う。
 だからこそ、これだけは必要だと真っ先に覚えた。
 あの時のお嬢様は、今までにないほど喜んでくれた。

『魔法まで使えるようになるなんて、クロはやっぱり凄いのね! 本当はね、お湯を沸かすの大変だったの、これからはもっと楽にお風呂に入れるね!』

 上機嫌のお嬢様は、俺の頭を撫で繰り回して抱きしめてきた。
 頬や額、唇にまで、何度もキスしてもらい、俺の好きなように体に触ることまで許してくれた。
 お嬢様の柔らかい胸をむにむに揉むの気持ち良かったなぁ。
 くすぐったそうに笑うお嬢様も可愛かったし……。

「殿下、どうなされましたか? お口から涎が垂れておりますぞ!」

 お嬢様との甘いひと時を回想していると、爺さんが布で俺の口元をごしごし拭きだした。
 やめろ、痛い!
 馬鹿力なんだから、少しは加減しろ!

 パトリスは、死んだ魚のような目を俺に向けていた。
 なんだろう?
 あいつ、近頃よくああいう目で俺を見るんだよな。
 大抵は、お嬢様のことを考えている時だったりする。
 俺の頭の中を覗いて呆れ返っているとか?
 いや、まさかな。
 幾ら魔法とはいえ、そこまで万能じゃないだろう。

「何でもない、さっさと狩りに行って帰るぞ!」
「あ、殿下、お待ちを!」

 気を引き締めて歩き出すと、後ろから二人が追ってくる。
 こんなやりとりも、日常の一つになっていた。




「お嬢様、今日のご褒美をください」
「うん」

 狩りをした日には必ずご褒美をおねだりする。
 眠る前の寝台の上で、仰向けになったお嬢様の上に跨った。
 俺の望みはいつだって、お嬢様に触れること。
 最初は服の上から恐る恐る触っていた胸も、回数を重ねるごとに許してもらう範囲を増やしていき、今では直に触れて舐めまわすまでになっていた。
 お嬢様はちっとも怒らないし、嫌がらない。
 俺が望むものなら何でもあげると言ってくれる。
 何をしても受け入れてくれるから、俺は調子に乗ってしまう。
 今日はどこまで許してもらえるだろうか。
 期待と不安でドキドキしつつ、お嬢様が寝間着に来ている大き目のシャツのボタンを外し始めた。

 晒された胸に舌を伸ばして膨らみを舐めた。
 両手でゆっくりと揉みしだきながら、極上の果実を味わうように丹念に舐る。

「んっ、あぁ……」

 感じているのか、お嬢様の唇から小さな喘ぎが漏れ聞こえてきた。
 乳首を甘噛みして、吸い上げる。
 お嬢様の体が大きく反応して、悩ましい声がまた零れた。
 手の中でふるふる揺れる二つの膨らみを交互に舐めて、硬くなった先っぽの蕾を指の腹で弄った。
 お嬢様は恥ずかしそうに頬を染めて、瞳を潤ませながら、俺のする行為を見ていた。

「お嬢様、嫌ならそう言ってくださいね。すぐにやめますから」
「大丈夫よ、続けて」

 念のため確認を取り、お許しが出たので愛撫を再開する。
 下半身に触るのはまだ勇気がでないので、背中から腰のラインを撫でたり、頬や耳、首筋を舐めたりして、存分にお嬢様を味わった。

 時々、自分の立場を忘れそうになる。
 俺はお嬢様のものだけど、お嬢様は俺のものじゃない。
 調子に乗って貪欲になっていく自分を戒めるために心に言い聞かせた。

 奴隷契約はお嬢様の命がある限り続く。
 それでも不安でしょうがない。
 こうしてお嬢様の体に触るのは、もちろん欲望を満たすためもあるが、舐めることによって俺の匂いを染みつかせ、お嬢様に他の男が近づかないように牽制する意味もある。
 鼻が利く獣人ならば、すぐに気づくだろう。
 俺にできるのは、こっそり俺の存在を主張することだけ。
 この人は俺のもの。
 許されるなら、世界に向かって大声でそう叫びたい。

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