日が暮れると、中央広場の近辺は静かになる。
昔から住む村人の住居が集まるこの地域は、村が発展しても家々や畑はそのままの箇所が多い。
夜になっても月光亭は遅くまで営業しているが、酔客も質の悪い者はおらず、店主が店じまいだと告げれば素直に帰宅していった。
ヴィオラーデンも村と同じく静まり返っている。
夕食を済ませ、明日の営業の準備と、帳簿をつけ終えると仕事は終わりだ。
ヴィオラートは自室のシーツと枕カバーを取り換えて、寝床を整えた。
「今夜は一緒に寝るって言ってたし、整えるのはあたしのベッドだけでいいかな?」
少し狭いが、くっついて寝れば大丈夫だろう。
想像して、彼女は頬を押さえて身悶えた。
(ああ、恥ずかしい~。でも、嬉しいなぁ。前にファスビンダーで泊まった時以来だもん)
両想いになった夜。
期待して、でも先送りになってしまった初夜。
両親はまだ帰って来ないから許可を取るのは無理としても、兄公認になったわけだし、仲を深めても問題はない。
(抱きしめられたり、キスされたりすると、恥ずかしいけど嬉しいの。きっとその先だって、そうなんだと思う)
肌を見られるのも羞恥心が伴う。
だけど、彼になら見てもらいたい気持ちがある。
裸を見せてもロードフリードなら貶めることはない。恐らく、いつものように気遣いに溢れた優しくて甘い言葉を囁いてくれるだろう。
「きゃー、どうしよう! あたし、幸せだよぅ」
にやけた顔で、ベッドの上にいたピンクのうさぎのぬいぐるみを抱きしめる。
「アレックスくんは、今夜はお兄ちゃんのベッドで寝てね。だって、見られるの恥ずかしいもの」
ヴィオラートは幼少の頃からベッドを共にしてきたぬいぐるみを、家具でできた間仕切りの向こうにある兄のベッドに寝かしつけた。
「これでよし。あ、そうだ、寝間着は一番可愛いのにしようっと!」
浮き浮きと着替えを始める。
緑の生地で作られ、左右に着けられた大きいポケットに、それぞれ赤いにんじんと白いうさぎが刺繍された前開きのワンピースタイプの寝間着だ。
「可愛いけど、色気なさ過ぎ? うーん、でも色っぽい下着とか寝間着なんて持ってないからなぁ」
都会に行った時に買っておけば良かったと後悔しつつ妥協して、一度部屋を出る。
期待に胸を膨らませて、彼女は階段を降りていった。
兄妹の部屋にロードフリードを招き入れるのは久しぶりだった。
ヴィオラートはロウを灯したランプを持って、二階の部屋へと彼を案内した。
「あたしのベッドは奥にあるの、先に行ってますから着替えはここでお願いします」
兄のベッドが置いてある辺りを指し示して、ヴィオラートは明かりを置いて間仕切りの向こうへと進む。
月と星の光が窓から差し込み、室内は明かりがなくても歩く分には支障がない程度には明るい。
ヴィオラートは緊張で高鳴る胸を押さえながら、自分のベッドの前に立った。
(ついに来ちゃった。先に進むって決めたけど、やっぱり不安だなぁ)
顔も体も熱い。
今の自分は茹で上げられたにんじんみたいだと、彼女は思った。
足音が聞こえて、ヴィオラートはびくんと肩を揺らした。
恐る恐る振り返る。
「お待たせ、ヴィオ」
顔を覗かせたロードフリードは、一瞬ためらったように立ち止まった。
バルトロメウスのベッド周りとは違い、ヴィオラートの領域には可愛い小物が飾られ、服掛けには色鮮やかな衣装が吊るされている。整頓された空間は女の子らしい空気で満ちており、彼は気後れしているようだ。
「あ、ど、どうぞ入って!」
ヴィオラートは彼に歩み寄り、声をかけた。
ちらっとベッドを振り返り、再びロードフリードを見つめる。
「あの、多分、二人で寝ても大丈夫だと思う……」
頬を染めて恥じらうヴィオラート。
彼女は視線を逸らして俯いたが、やがてそっと顔を上げた。
「ロードフリードさん……」
ヴィオラートは彼の名を呼んだ。
逸る心を落ち着かせるように胸に手を置き、息を吸う。
「やっぱり添い寝だけじゃ嫌。もう少し前に進みたい」
ロードフリードは微笑んで、彼女を抱き寄せた。
「ああ、なら、少しだけ進もうか。ちゃんとヴィオのペースに合わせるからね」
「うん」
緊張した顔を少し緩めて、ヴィオラートが頷く。
ロードフリードは左手を彼女の腰に沿えると、体を屈めて唇を寄せた。
「息は止めないで、苦しかったら鼻で呼吸するんだ」
「は、はい……」
本日二度目のキス。
これまで触れ合うだけだった口づけが、互いの舌を絡ませ合う深いものに変わった。
ヴィオラートは立っていられなくなって、彼の寝間着を掴んだ。腰に回された腕にも体を預ける。
「んん……、ふぁ……」
食べられているみたいだと、蕩けるような感覚の中で彼女は思った。
(でも、気持ちいい……)
求めて、求められる。
それはとても幸せなことだ。
彼に愛されているのだと、触れられている箇所全てが証明してくれている。
力の抜けた体は抱き上げられて、彼女はベッドまで運ばれていった。
ベッドに横たえられたヴィオラートは、夢を見ているような気持ちで、ロードフリードを見上げた。
緊張は解けていて、髪を優しく撫でられてうっとりと微笑む。
口づけが唇以外の場所――頬や額に移っても、彼女は動揺することなく受け入れた。
キスの最中、ロードフリードの手が胸に触れて、布越しに膨らみを包み込んでくる。
ヴィオラートはびくっと体を反応させた。
触れられたことのない場所だけに、敏感になっている。
「これは、嫌?」
彼の囁きに、首を横に振った。
「いや…じゃない……」
答えると、添えられていた指が動いてふにゅっと揉まれた。
力は込めていないらしく、痛みはない。
感触を確かめるように胸を撫でていた指先が、頂点の蕾を探り当てた。
硬くなっていたそれを、彼は指の腹で押して刺激した。
「あ…あんっ……」
与えられた快感に艶めいた喘ぎが漏れて、ヴィオラートは思わず口を手で覆った。
「声は我慢しないで。ヴィオが気持ちいいのか知りたいんだ」
口を覆った手を、ロードフリードがそっと引き離す。
ヴィオラートは涙目で彼を見つめた。
「で、でも…恥ずかしい……」
「聞いているのは俺だけだよ。自然に出る声なんだから、何も恥ずかしいことじゃない」
彼の言葉はヴィオラートの羞恥心を少しだけ消してくれた。
「ん…はぁ……」
再び胸を触られて、甘い息を吐く。
寝間着の前を留めていたボタンが一つ外された。
火照った肌が晒されて、触れた空気を冷たく感じた。だけど、そこへもすぐに口づけが落とされて、熱が伝わっていく。
二つ、三つと、ボタンが上から順番に外されていって、ヴィオラートの裸の胸元が露わになった。
まろび出た二つの膨らみがぷるんっと弾む。
背を伸ばすために頑張って摂った栄養は、全て女性的な肢体を形作るために使われてしまったらしい。
小柄なせいで余計に大きく見える胸、それを支える腰回りはくびれのある綺麗な線を保っており、安産型のお尻と程よく肉のついた太腿は触り心地が良さそうで、彼の欲望を大いに煽った。
寝間着のボタンを全て外してしまうと、彼女の体を隠すものは下腹部に残った下着だけとなった。
ロードフリードは、彼女の体の線を手の平で撫でながら、唇と舌を使って肌を愛撫した。
胸に口づけを繰り返し、赤く色づいた乳首を吸い上げると、ヴィオラートは大きく反応して喘いだ。
「あっ…やぁん……っ!」
その声が拒絶ではないことを確認して、彼はさらにそこへの責めを続けた。
愛しい彼女の肌を慈しむ内に、自らの体も熱を帯びていることに気づいて、ロードフリードは上の衣服を脱ぎ捨てた。
日々の鍛錬や戦いの中で鍛え上げた体は、ヴィオラートの想像以上に筋肉がついて引き締まっていた。
田舎の男は暑ければ上半身を晒して仕事をしていることが多いので、免疫のついているはずの彼女でも、思い人の裸は別だった。
お互いに衣服をまとっていない状況となり、ヴィオラートは先ほどから体の奥から湧いてくるむず痒い熱をさらに強く感じて、無意識に太腿を擦り合わせた。
「ヴィオ、可愛いよ」
頬にキスをして囁きを落とした彼は、最後の砦となっている彼女の下着に手をかけた。
抵抗がないのを了承ととって、するりと足から抜き取る。
膝を曲げる形で足を広げられ、ついに全て見られてしまう。
ヴィオラートは恥ずかしさの頂点に達していたが、拒む気はなくて、彼にされるがままだ。
愛液で湿った秘部の入り口を指で探り、ロードフリードは躊躇うことなくそこを舐めた。
「ああっ!」
体液の混じり合う音と一緒に、大きな快楽の波がやってくる。
羞恥心を手放せば、疼き続ける体が満たされていくのを感じた。
上り詰めた体から力が抜ける。
小さく喘ぐヴィオラートは、満たされたはずの場所に指を差し入れられ、微かな痛みを感じて、びくりと体を震わせた。
「ごめん、ここまできたら最後までしたいんだけど、大丈夫?」
彼女の中に入れられたロードフリードの指は、内部を傷つけないように気遣いながらゆっくりと動かされていた。
「う、うん…大丈夫。あたしも最後までしたい……」
そこで彼を受け入れるのだと実感して、ヴィオラートの心は決まった。
初めては痛いだとか、耳年増となって得た情報が頭を過ぎるものの、始まってしまえばどうでもよくなる。
受け入れる場所を解すために動く指に、彼女の中から滴り落ちる愛液が絡まってくちゅくちゅと音を立てる。
未知の体験への不安は、ロードフリードが消してくれた。
触れ合う肌、感じる温もり、気遣いと愛情に溢れた数々の睦言に、体と一緒に気持ちも解れていく。
「愛してる、俺が一番大切に思っているのはヴィオだよ」
最後にそう囁かれ、ヴィオラートは彼にしがみついた。
「ロードフリードさん、大好き……」
十分に濡れて拡げられた秘部に、硬くなった彼の雄の象徴が押し当てられた。
奥まで入ってきたそれを、彼女は痛みと共に受け入れる。
揺れて汗ばむ体、吐く息は荒くて、互いにただの獣になった気分だった。
行為の意味は単純で、相手が欲しいという思いだけが高まっていく。
(今繋がってる。体だけじゃなくて、心まで一つになってるみたい)
先ほどまで囁かれた愛の言葉が、実感を伴って胸に沁み渡る。
彼への信頼が、そう感じさせてくれるのだろう。
胎の中へ彼の精が放たれて、ヴィオラートの身も心も歓喜で震えた。
交わりを終えても、ロードフリードは体を離そうとせずに、ぎゅっと抱きしめられた。
彼の腕の頼もしさ、温かさに安心してヴィオラートは眠りに落ちる。
「あのうさぎのぬいぐるみみたいに、いつかこうしてヴィオを抱っこして寝たかったんだ」
寝入る間際に、ロードフリードの独り言が耳に入ってきた。
うさぎのぬいぐるみは、ヴィオラートのアレックスくんのことだ。
小さな頃、ぬいぐるみを抱っこして寝ていたヴィオラートを見て、彼は彼女を抱っこしたかったらしい。
(あたしはぬいぐるみじゃないよー)
抗議したくなったが、そのおかげでこの状態。
眠いのも手伝って、ヴィオラートは何も言わなかった。
それだけ愛おしく思ってくれているはずなのだ。
頬にキスされる。
くすぐったいなぁと笑いながら、眠気で意識が遠くなった。