◇ 2 ◇
相変わらず起きる気配の見られない佐藤は、クィーンサイズのアンティークなベッドに座らせるとそのまま上質なベッドスプレッドの上に横倒れになり、あっという間に深い眠りへと落ちていった。
大泉はつかつかと大きな窓辺に近寄る。
大きな川を挟んで見える繁華街の煌びやかな明かりが、散りばめられた貴石のように瞬いている。
よく磨かれたガラス窓に自分の顔を映しながら、大泉は小さくほくそ笑んだ。
一方では狂気の沙汰だと歯止めをかける理性があり、もう一方では沸き上がる高揚感に心躍らせる感情がある。
だが何もここまでやらなくても……と思う心は、徐々にどろりと立ちこめていた黒雲に呑み込まれ、得体の知れない感情だけがその心を占めていく。
くるりと窓に背を向けた大泉は、キャビネットの中にある保冷庫からミネラルウォーターを取り出し喉を鳴らして飲み干した。
柄にもなく緊張しているのか、やけに喉が渇いていた。
――――――男相手に通用するのか、いや、成立するのか?
そんな思いが無くもない。当然ながら今まで落としてきた相手はたとえどんな容姿であろうと、全てが女性だったのだから。
静かにベッドへと近付く。
佐藤はまだ目覚める様子もなく、転がったときのまま横向きで手足を投げ出して寝入っている。
大泉は音もなく着ていた上着を脱ぎ、隣のベッドの上に放り投げた。
続いて襟元を緩め、そっと佐藤に近付く。
静かにベッドの上に片脚を乗せ、上半身を覆い被せるようにして顔を覗き込んだ。
佐藤は全く気付かず、小さな寝息を立てている。
閉じられた瞼は不釣り合いなほど長い睫毛が縁取り、白い鼻筋は思った以上に通り形の良い鼻のラインを作り出している。
ほんの一ヶ月前まで手入れなどされたこともなく伸び放題だった眉は、今やきちんと形良く整えられていた。それだけで見れば少し凛々し過ぎるようにも感じるが、薄桃色に光る柔らかそうな唇が華やかで柔和な雰囲気を醸しだし、結果として非常にバランスが取れた印象を見る者に与える。
顔を近付けてじっくり舐め回すように覗き込んでみても、佐藤は確かに綺麗な顔をしていた。
とてもあの薄気味悪い印象のオタクじみた男と同一人物だとは思えない程、劇的に変貌している。
間接照明の下、明るく染めた髪が白い額にさらりとかかるとどこか艶めかしい雰囲気を匂わせ、大泉は思わず生唾を呑み込んだ。
静かに佐藤の襟元へと手を伸ばし、手際よくネクタイを緩めた。
衣擦れの音と佐藤の小さな寝息だけが静かな室内に響く。
緩めたネクタイを手際よく首元から引き抜いて一方を佐藤の右手首に巻き付け、もう一方をベッドの四隅のうちの左側にある支柱に縛り付け、続いて自分の緩めたネクタイをしゅるっと引き抜くと同じように左手に巻き付けてから右の支柱に縛り付けた。
まだ目の覚める様子のない佐藤に今度は少し大胆にのし掛かり、身体を仰向けになるように軽く転がした。
襟元の釦を一つ、また一つと指先で外すたびに、思ったよりもずっと白い胸元が露わになる。
大泉は思わずうっとりとその滑らかな肌に見とれていた。
見た目も細く、肩に掛けて歩いたときにも体重を感じさせなかった佐藤だが、思ったよりもしっかりと筋肉が付いたしなやかな身体をしていた。
細いながらも均整のとれた身体は、大泉の心に潜む何かを呼び起こしてしまったようだ。
この時点で、つい先程までほんの僅かばかり残っていた躊躇いのようなものは全て吹き飛び、残りは貪欲で残酷な好奇心が大泉を突き動かす。
その時、ようやく佐藤が薄目を開けた。まだ寝惚けているのか意識がハッキリしないようだ。ぼんやりした表情で黒目をゆっくり動かしてからようやく大泉に視点を定めた。
「…………大…泉…………?」
とろんと眠たげな瞼は如何にも重そうで、放っておけばこのまますぐに眠りの世界に逆戻りしそうだった。
「ごめ…ん……………俺……寝てた?」
小さく欠伸をしながら起き上がろうとしたその時、佐藤は初めて両腕が拘束されていることに気付いた。動かそうとしても殆ど動かすことが出来ず、ベッドの支柱に繋がれて万歳をするような格好で。
状況が把握出来ずに目だけをきょろきょろとさせていた佐藤は恐る恐る顔を左右に動かし、自分が今どのような状態になっているかを把握した途端に今までの眠たげな表情は一瞬にして消え失せた。
「――――――佐藤……さん。」
大泉は上から佐藤の顔を覗き込みながら、やや低めの声で静かに言葉を続ける。
「びっくりした?」
口許にありありと優越の表情を浮かべ、大泉は更に耳元に口許を近付けた。
「……その可愛い口が余計な事を喋らなきゃ……良かったのに………残念だなぁ。」
意地悪く囁く囁きながら、佐藤の耳たぶにやんわりと噛み付く。
「……え…っ……………あ……?……………なに………何で…ッ…!?………………」
混乱したまま口をぱくぱくさせている佐藤の様子を楽しむように観察しながら、大泉は耳たぶから唇を離して今度は首筋に押しあてた。
「や…やめれ馬鹿やろ…ッ………冗談なら本気で止めれや大泉ッ!!」
うわずった声で叫ぶ佐藤を後目に、大泉は舌をちろちろさせながら首筋を舐め回し、鎖骨の辺りに吸い付いて小さな赤い跡を付けた。
「叫んでもいいですよー……勿論幾ら喚いたって、誰も助けには来やしませんけどね。」
佐藤の肌から少し顔を上げてそう呟くと、また顔を埋めるように肌を舐め回す。
その言葉に佐藤は大泉が酒の上での過激な悪戯をしているのではないと悟り、愕然とした。自分の上にのし掛かって、まるで女相手にするかのように身体を舐め回す男の意図が全く読めない事も佐藤を絶望の淵に追いやる。
どうにかしてこの狂った行為を止めさせなければならないのに、その方法が全く思いつかないことも拍車をかけた。
「大泉、お前………なしたのよ!? おかしい………こんな事おかしいって……絶対…ッ………………」
震える唇でどうにか叫ぶが、一向に大泉は動きを止めることなど無かった。
程なく大きな掌ではだけた胸元を撫で回し始める。
「大泉…ッ………大泉ぃ!!」
両腕を拘束されたまま佐藤は必死に身を捩って抗っているが、その動きを征するように大泉は佐藤の腰の上に自分の下半身を密着させた。
「……叫んだって止めませんってば。意外と往生際悪いんスね……佐藤さん。」
そう言うと、胸元の薄赤い突起を指の腹でそっと撫でた。
「……………うわ………ッ………………」
びくりと身体を震わせて声を上げた事に、大泉はにやりと口の端を歪める。
「大丈夫ですよ。そんなに悪いようにはしませんから……………ただ、ね。」
意味ありげに言葉の先を呑み込み、大泉は指先で弄くりだした方とは反対側に唇を寄せて優しく口付けた。
佐藤の身体が先程と同じか、それ以上に大きく震えた。
そんな様子を楽しむかのように、大泉は唇に触れていたものをそっと口に含み、唾液の絡まった舌先でやんわりとつついては転がす。
その度に佐藤の細身の身体はびくりと反応してしいた。未知の感覚に翻弄されながら。
執拗に舐め回しては優しく歯を立て、悲鳴を漏らすと今度は小さな音をたてて吸い上げる。そんな事を繰り返すと佐藤はまさに泣き喚くといった様子で髪を振り乱して抗った。
そんな佐藤の姿は大泉の中の何かを更に刺激してしまったらしかった。
「――――そんなに悦んで貰えると、もっと頑張らないといけないですかねー……ねぇ、佐藤さん。」
ふと顔を上げて佐藤の顔をまじまじと眺めながら囁きかける。
ようやく行為が止んだ事でほっとしていた途端にそんな事を言われ、佐藤は直ぐさま顔を強張らせた。
大泉の目は異様な輝きを宿し、唾液で濡れた唇を光らせている。
「いい加減に………しろよ…………………………もう……やだ…………………」
喉元に石でも詰まってしまったようで上手く言葉が出てこない。得体の知れない恐怖と訳の解らない恥辱に苛まれ、佐藤は萎縮していた。
大泉は唇をゆっくり舐めてからまた胸元に顔を埋める。
佐藤の身体が再びびくりと跳ねた。今度は反対側の突起を先程と同じように丁寧に舌先で弄くりまわした。
「……や……ッ………………やめッ……………………」
必死で声を出して止めさせようとする佐藤を後目に、大泉は更に掌でその滑らかな身体を弄ぐり始めた。
優しく、丁寧に。
まるで大切な宝物を撫でさすりながら愛でるように、大泉の大きな掌や長い指が白い肌の上を這い回り続ける。
胸元や首筋、綺麗に割れた腹筋の辺りを彷徨ったかと思うと、今度は素早く腰のベルトに辿り着いた。
唇での愛撫はそのままに、指先は金属特有の音をたてて器用にそれを外し、更にはスラックスのジッパーを手際良く下ろす。
流石にこれには佐藤も両脚をばたつかせて懸命に抗ったが、上から腰の部分を抑え込まれるようにのし掛かられているため、容易に逃げる事など出来はしない。
そのまま易々とその中に侵入した指先は、ゆっくりと佐藤の太股に伸びていく。まるで触手のように。
「………ばっ…………馬鹿…………お前…ッ………………一体何………っ………………」
佐藤の辿々しい叫びなどお構いなしに、するりと伸ばされた触手は太股の内側を優雅に撫でた。
「何って――――――何でしょうなあ、一体。」
唇で突起をつまみながら呟いた為にくぐもった声と振動が、佐藤を更に惑わせる。
ワルツでも踊るかのように軽やかに円を描いていた長い指がふと動きを止めたかと思うと、下着の上を一直線に走った。
佐藤の口から短い悲鳴が上がるが、指は行ったり来たりを繰り返しながら佐藤のモノをなぞる。
「やめっ………それ……お前ッ………………馬鹿! やめれ…ってぇ………………」
泣き声のような哀願にも耳を貸さず、大泉は淡々と指先でそれを撫で回す。そしてその度に佐藤のモノは確実に形をハッキリとさせて熱と固さを持ちだしている。
大泉は下着の中に手を滑り込ませた。
掌でゆっくりと撫でると佐藤の身体が小刻みに震え、口からは吐息のようなものが漏れた。
「…………へえ。佐藤さんてば、意外にやーらしい声出すんですなぁ。」
やんわりと握り締めて撫でさすりながら、しみじみと呟く。手の中のそれはすっかり固くなり、時折小さく脈打っていた。
指先を先端の辺りに滑らせると、ぬるり…と先走りの液が溢れてくるのが解る。
大泉は沸き上がってくる好奇心と支配欲を自らの内に感じながら、まるで自分のものを愛撫するかのように丁寧に弄り続けた。
中学生くらいの時にふざけて友人のものを握ったことは何回か有ったが、それとは全く違う淫靡な行為に徐々に酔いしれていく。
鈴口から溢れてくる液体を指先に絡めながら扱くと、卑猥な水音が微かに響いてくる。
その度に身体の下の佐藤は身を捩らせ、震わせながら、男とは思えないほどに甘い吐息を口から漏らす。
――――――可愛い。
自分でも信じられないが、確かに大泉はそう感じていた。
組み伏せている華奢な白い肌がほんのりと桜色に染まっているのも、舌先で弄くり回している薄赤い突起も、自分の手の中で感じさせられ、先走りの蜜を迸らせてしまう佐藤の男性器も―――何も彼もが可愛らしく、そして何故だか愛しかった。
まるで女のように身体を弄ばれ、足掻きながらも押し寄せてくる快楽に抗えきれずにいる佐藤。
長い睫毛を振るわせながら瞼を閉じ、必死に耐えようとしては耐えきれずに声を上げてしまう腕の中の男を、大泉は今まで感じたこともないような新鮮な感覚で捉え始めていた。
大泉の下で佐藤は息も絶え絶えといった様子で喘ぐ。
手の中の佐藤自身は既に限界が近いらしく時折大きく脈打っていたが、なけなしの理性で佐藤はそれを堪えようとする。
大泉はそんな様子を楽しげに見つめながら、更に赤く色づいた突起にそっと囁きかけた。
「………我慢なんかすんなって、佐藤さんってば。もうイッちゃいたいんでしょ? 我慢は身体に毒ですよー。」
ひくひくと身体を震わせながら、佐藤は脂汗を滲ませて懸命に耐えている。
「意地っ張りだな……あんた。」
そう言うと今までよりも更に激しく動かした。それに呼応するように佐藤の喘ぎ声も激しくなる。
程なくして佐藤が小さな悲鳴を上げ、身体を強く引きつらせた。
大泉の手の中にどろりとした生暖かい液体が溢れてくる。
「すげえな……佐藤さんてば。俺の手でイッちまったよ…………」
ようやく胸元から顔を上げ、放心状態の佐藤を見下ろした。
佐藤は目の端に涙をいっぱいに溜めながら、焦点の定まらない様子で中空をぼんやりとただ眺めていた。
手に付着した佐藤の精をティッシュで拭き取ってから、大泉は佐藤を振り返って見つめた。
大きめのベッドの端に腰掛けている大泉と、繋がれたままでその上に寝ている佐藤。
佐藤はまだ焦点が定まらない様子で身動き一つしない。
はだけられた胸元には幾つもの赤い刻印が刻まれ、長いこと大泉の唇と舌で弄ばれていた両の突起も熟れた果実のような赤さを帯びていた。
暫くそんな佐藤の格好を楽しむように眺めていたが、やがて自分のスラックスのポケットに手を突っ込み、何かを取り出して広いベッドの片隅に置く。
次の段階への布石を用意したところで、人形のように横たわったままの佐藤の上にゆっくりと覆い被さろうとしたその時だった。
ふと気を許したその隙に佐藤の脚が素早く動き、大泉の身体の側面を薙ぎ払うかのように横から蹴り飛ばした。
「……っ………ぐ……………」
突然の不意打ちを食らった大泉は蹴り飛ばされた脇腹を咄嗟に両手で押さえ、痛みを堪える。
まさか反撃をしてくるとは思わなかっただけに、この一撃はかなり効いたようだ。やや暫く呼吸を止め、痛みが過ぎ去るのを待っていた。
「…………………ざまあみろ。」
今までに聞いたことの無いような、低く怨嗟の籠もった佐藤の声だった。
大泉の知っている佐藤は変わる前も後も、こんなに攻撃的ではなかった筈だ。いつもどこかおどおどとしていて、他人に逆らうような事など絶対に出来ないような男だった。
この一ヶ月で蕾が花開くように劇的な変化を遂げた佐藤。そしてそのきっかけを与えてしまったのは―――誰でもない、自分だ。
深く息を吐いて乱れた呼吸を整えながら、大泉はそんな事を考える。
「――――ああそう、そうきたか。いやー…なまらびっくりしたけど、まあ面白いわ。」
痛みが取れてきたのを感じながら、大泉は脇腹から手を離した。そして今度は佐藤に蹴られないように慎重に距離を見計らいながら、先程ベッドの上に置いたものを手に取った。
「佐藤さん……思ったより根性座ってるみたいだし―――――――それならそれなりの対応させて貰うわ。」
手に取ったものを佐藤に向け、握った手の方の親指を僅かに動かした。
静かな室内に聞き覚えのある電子的な音が響く。シャッター音だった。
「てめえッ! 大泉ぃッ!!」
ただでさえ白い顔を更に蒼白にさせた佐藤が叫んだが、シャッター音は尚も続く。
大泉の手に握られた携帯は、両腕を繋がれたままで半裸で横たわる佐藤を幾つかの角度から捉え、画像を記録していく。
無機質な電子音と共に。
おそらくは身体の前面に刻まれた愛撫の痕跡も捉えていることだろう。
佐藤が喚き続けると大泉はようやく撮影を止めたが、その口許には言い様のない悪意のようなものが浮かんでいる。
「ひとつ、いい事を教えて上げましょうか? 佐藤さん。」
大泉が嬉しそうに口を開いた。
「あんたが下手な事喋ったり行動に出たりしたら………これ、ばらまかせて貰いますから。」
事も無げにそう告げると、大泉は今度は慎重に近付くとあっという間に佐藤の上に跨った。こうなってしまえば再び佐藤に勝ち目は無い。
しかも先程の脅し文句が効果を為したのか、佐藤は心此処に有らずといった様子で混乱している。
勿論大泉に本気でばらまくつもりなどは無い。あくまでも相手を拘束し、自分に有利にするための詭弁でしかないが、いざとなれば実行に移す事も容易い。
「大丈夫ですって…………あんたが大人しくさえしててくれれば、そんな事しませんから。」
大泉はそう言って嬉しそうに笑った。
呆然としている佐藤を再び見下ろし、満足げにその姿を眺めてから佐藤のスラックスと下着に手を掛けて丁寧に引きずり下ろす。
膝上くらいまで引き下げてから、今度は自分のワイシャツに手を掛けた。
手早く釦を外して脱ぎ捨てる。
「…………ひ…っ…………………」
顔を引きつらせてその様子を見開いた目で見ている佐藤をまじまじと眺めながら、大泉は器用に身体をずらして素早く佐藤のスラックスを下着ごと剥ぎ取り、両脚を開いてその間に身体を滑り込ませた。
全ては瞬く間の出来事だった。
「いいこだね……佐藤さん。最初っからこうしてりゃ良かったのにねえ。」
からかうように語りかけ、再びベッドの片隅に手を伸ばした。今度は携帯ではなく、何か小さめのボトルのようなものだ。
「もう少しいいこにしていようねー………」
そう言うが早いか大泉は佐藤の両膝を立て、自分の肩に掛けた。両手を拘束されている佐藤はやや腰が浮いた感じになり、悲鳴をあげる。
大泉は満足そうな笑みを浮かべながら手にしたボトルのキャップを外し、浮き気味の佐藤の下半身を眺めた。
先程まで弄んでいた佐藤のモノと、その奥にある小さな秘孔が見える。
ボトルを傾けると迷うことなく奥まった場所に滴らせた。
「ひ……あ…ッ……………」
ひやりとした感触に身を竦ませる佐藤。液体は水のようにさらさらでもなく、かといって粘液のようなどろどろでもない。若干ぬるっとした粘性を持つ透明な液体は、匂いも殆ど無かった。
この行為専用に作られたローションだ。
たっぷりと垂らされたそれは、白い身体を音もなく伝い落ちていく。
その何とも言えない卑猥な感触に思わず喘いだ佐藤の声に、大泉が目を輝かせて言った。
「あー………やっぱ佐藤さんてば、やーらしい声。」
今度はボトルの中身を右手の指に振り掛けながら嬉しそうに呟き、左手で佐藤の右脚膝裏をぐいっと押しながら掴んだ。
開かれた両脚の間に身体をねじ込まれ、さらに膝の裏を持たれてしまうともうどうにも身動きが出来ない。それどころか上に向かって身体を折り曲げられたような格好で身体の奥を開かされている。もはや身じろぎすら出来はしなかった。
そうやって拘束した上で、大泉はたっぷりとローションを絡み付けた指を佐藤の固く閉じた秘孔に近付け、確かめるようにそっと撫でた。
「………ん…っ…………」
言い様のない恐怖と、今まで感じたことのない感触に身を竦ませながら、佐藤が声を上げる。
指は数回そこを撫で回したり押したりしていたが、頃合いを見て先端をほんの少し潜り込ませた。
「あ…ッ………や……ぁあ……ッ………………」
異物が差し込まれた感触に悲鳴を上げた。
指先はぬるりとした液体のお陰で意外とスムーズにそこに入り、ぐちゅ…と卑猥な水音をたてる。
大泉は細心の注意を払って少しずつ佐藤の奥まで指を差し入れていく。傷つきやすい粘膜を慣らすまでは、出来るだけ手荒なことを避けたかった。
今まで数え切れない程に女を抱き、大概の事は試してきた大泉だったが、男を相手にするのは流石に初めてだった。
しかも仕事で有れば事前に何らかの下調べをすることも可能だが、当然ながらこのような事態は想定外だっただけに何となく聞きかじっていた知識と咄嗟の判断だけで行為に及んでいる。
それだけに慎重にならざるを得ない部分もあり、その一方では好奇心のようなものも多々あった。
元々受け入れる部分ではないその場所に自分の怒張した男性器を受け入れさせねばならない。
であればどうすれば最も効率良く行為として成立させられるか?
そんな事を思いながら僅かに指を動かした。
思ったよりもずっと強い圧迫感を感じる。かなりきつい状態で動かすのもやっとの事だ。
だがその狭い器官は差し入れた部分にねっとりとまとわりつき、時折ひくひくと蠢いた。
「佐藤さん…………痛い?」
一応聞いてみたが、佐藤はそれどころではないようで一切答えは返ってこない。ただ苦しそうに呻くだけだ。
大泉は佐藤の様子を観察しながら恐る恐る指を動かし出した。当然ながら佐藤は悲鳴を上げる。
痛いというより自分の内蔵をこねくり回されるような感触と圧迫感が気持ち悪いらしい。
出来るだけ丁寧に内壁を傷付けないように動かしては時折引き抜いて、ぬめる液体を補充する。
指先にたっぷりと塗りつけては中に塗りつけ、くちゅくちゅとした水音をたてながら中を広げるように慣らした。
指は次第に一本から二本、二本から三本と増やされて根本まで佐藤の奥底に入り込み、思うままに蹂躙していた。
ようやく思うままに動かせるようになると少し余裕が出来てくる。大泉は左手で携帯を引き寄せると、困惑の表情でこの陵辱に耐えている佐藤の顔を撮り、そして自分の指を受け入れ始めた奥底を撮った。
佐藤はシャッター音に気付いていないのか、指のリズミカルな動きに呼応するように喘ぐばかりだ。
再び携帯を近くに置くと大泉は今度は念入りに佐藤の中を探り出した。
今までは慣らすためだったが、今度は内壁を確かめるようにじわじわと責め立てるような動きを繰り返す。
その途端佐藤が雷にでも打たれたかのように身体を硬直させたかと思うと、大きな悲鳴を上げた。
「やめ…っ……や…ッ……やだ……やめろっ…て……っ……大泉ッ…………お願い…………いや…ぁッ………」
喚きながらひくひくと身体を痙攣させながら目を見開き、涙を滲ませる。
何か柔らかいものが指先に触れていた。そこをほんの少し触っただけで、佐藤は動かぬ体を懸命に捩らせて逃げようとする。
―――――見つけた。
そっと口許に笑みを浮かべながら、大泉はやはり慎重にそこを愛撫した。
それにしても何と淫らで艶やかな姿だろうか。
思わぬ快楽に喘ぎながら耐えようとする佐藤は…………女のような艶やかさで匂いたつような淫靡さを醸し出している。
酔いしれそうになりながら、大泉は自分のベルトに手を掛けた。少し前から大泉の雄はこれでもかというくらいに怒張し、力を滾らせている。
一旦右手を佐藤の中から引き抜き始めると、切ない悲鳴が佐藤の口から漏れた。内蔵を引きずり出されるような、そんな類の呻きだった。
突然の強烈な快楽から唐突な終わりに佐藤は呆然としながらぐったりと身体を投げ出している。
そんな姿を見下ろしながら、大泉は手早く自分のスラックスを脱いで放り投げた。
全てを脱ぎ捨ててさらけ出すと、大泉の雄は今にもはち切れんばかりの様子でしっかりと天を仰いでいる。
それにもローションをたっぷりと振り掛けて塗り込め、準備万端の状態で再び佐藤の両脚を抱えた。
今度は脇の辺りに脚を持ち、今の今まで指の陵辱を受けて解れ始めていたうす桃色の秘孔に自分の固くなったものををゆっくりと押し宛てる。
「………たすけ………っ……………」
涙目で大泉を見上げる佐藤が戦慄きながら小さく呟いた声は、ぐちゅり…と、粘液性の音に呑み込まれた。
「いた…っ………痛い痛い痛い痛い……ッ………痛い…ッ……………」
佐藤は切れ長の目の箸から大粒の涙を零しながら気も狂わんばかりに叫び続けた。
ほんの少し入り口に突き立てただけで身体を強張らせて喚き続ける佐藤を見下ろしながら、大泉はぐっと押し入ってしまいたいのを懸命に堪える。
はち切れそうな程に張り詰めた雄を何とか宥めながら、少し差し挿れては馴染むまで待ち、一旦腰を引いては今度はもう少し奥までそろりと侵入する。
そんな事を繰り返した。
自分でもどうしてここまで慎重になっているのか不思議だった。
こんな面倒な事などせず、泣こうが喚こうがお構いなしにとっとと奥まで貫いてしまえばどんなにか気持ちが良いだろうに……と。
思った通り佐藤のそこは解したとは言ってもかなりきつく、自分の雄を追い出そうとまとわりついては締め付けてくる。
ねっとりと絡み付く熱いそこが溜息が出る程に気持ち良いが、達することが出来るほどの快楽ではない。
心の中では今すぐにでも滅茶苦茶に突き上げて掻き回し、思うがままに悦びを貪り尽くしたい自分がいる。
そしてもう一方ではなるべく佐藤を傷付けずにいたい自分もいた。
どちらかといえばそれは、全く開発されていない佐藤の身体の奥底を自分の雄で蹂躙しつつ調教し、淫らに乱れさせてみたいという欲望であったのかもしれなかった。
大泉の中で鬩ぎ合った二つの心は後者に軍配が上がった。
何もこの一回で壊してしまう事はない。これから時間をかけ、手塩に掛けて磨き上げればこれら先に極上の快楽が待っている。
そして佐藤は決してそれを拒む事など出来ないのだから。
じっくりと時間をかけて根本まで納めていた。
佐藤が呻くたび、異物を呑み込んだ部分がひく…と僅かに蠢く。大泉はうっとりとした表情で身体の下の佐藤を見つめた。
最早叫ぶ気力すらないのか、虚ろな瞳でただぼんやりと大泉の顔を見ていた。目の端には幾つもの涙の筋が微かに煌めいている。
身を捩って暴れては叫んでいたせいか佐藤は身体中汗びっしょりで、柔らかい色に染め上げた髪が額や頬に張り付いている。
ゆっくりと穿ったものを出し挿れしながらそっと髪を掻き上げたその時、びくりと体を強張らせた佐藤の瞳に生気が戻った。
「……さ…………わんな………っ………………俺に……触んな…ッ………!」
頬の横にあった大泉の指に噛み付こうとするが、大泉は反射的に手を引っ込めて難を逃れた。
「この気違い…っ………変態ッ………これ以上俺に……触んな…ッ…………!!」
佐藤は憎悪を滾らせた目で睨み付けながら掠れた声で喚いた。
「―――――馬鹿言っちゃあいけないなあ、佐藤さん。」
ぐいっと腰を打ち付けると佐藤が苦しげに呻く。
「これ以上無いってくらいに密着させて貰ってますけど。」
面白そうに呟きながら、リズミカルに突き上げ続ける。
「それにあんた……俺にそんな事言えると思ってる? ねえ、佐藤さん。」
ぐちゅぐちゅと音を立てながら中を抉るように腰を使うと、その度に佐藤は耐えきれずに極上の喘ぎ声を赤く色づく唇から漏らしてしまう。
「…………や………っ…………や…ぁ………ッ……………抜いて…………頼むからもう……抜けって…ぇ…………」
気のせいか痛がる素振りは少なくなってきていた。ローションのせいで少なくとも身体への負担は相当減っているのだが、それだけではないような雰囲気を大泉は敏感に感じ取っていた。
逃げようとする腰を掴んで引き戻し、両脚をしっかりと抱え直して今度は時折中を抉るように掻き回してはより小刻みに突き上げる。
「……ひ………っ………ぁ…あ……ッ……………や…………はぁ…ん…っ………………やあ…っ……………」
佐藤はあの電気にでも痺れたような様子で身体を仰け反らせては小さく痙攣し、信じられないほどに甘い喘ぎを漏らした。
咄嗟に携帯を手に取り、大泉は突き上げられては啼く佐藤の痴態をムービーで撮り始めた。
―――――やっぱり、ここか。
ほくそ笑みながら撮り続ける。
淫らな音を立てて繋がる結合部や、薄く桜色に染まった佐藤の白い肌。そして長くて黒い艶々とした睫毛の縁に涙のしずくを光らせながら、抗いきれない快楽に呑み込まれそうになっている綺麗な顔を。
淫らに赤く光る唇の端からは唾液の流れが一筋、伝い落ちている。
およそ今まで体験したことのない快楽がその華奢な身体の奥底から沸き上がってきて、佐藤の理性を奪おうとしているのが見えるようだ。
苦しげでありながらどこか甘さを含んだ吐息は、大泉の耳を優しく擽る。
途端に大泉にも限界という波が襲いかかってきた。じわりと脂汗を滲ませながら思わず携帯を傍に放り投げ、無我夢中で佐藤の中を抉り続けた。
耐えきれなくなりながら今まで起こしていた上半身を佐藤の上半身に密着させ、佐藤の身体を無意識に抱き締めながら首元に顔を埋める。
何度も何度も執拗に綺麗なラインの首筋に吸い付いては舌を這わせ、狂ったように腰を動かした。
どうにも佐藤が欲しくて仕方がなかった。
理解の出来ない感情のままに大泉は佐藤を陵辱し続け、程なくして佐藤の中に滾る自分の精を数回に分けて吐き出してから、華奢な身体を抱き締めながら脱力していた。
暫く乱れた呼吸を整えながら、大泉は佐藤の白い肌に小さな口付けを繰り返していた。
「……………佐藤さん……………なまらすげえ。」
耳たぶをそっと甘噛みしてから囁く。
自分でも信じられなかった。口封じのための苦肉の策でしか無かった筈が――――終わってみればどっぷりとはまり込んでいる自分がいた。
佐藤は肌に唇を押し当てられるたび、その一つ一つを敏感に感じながらきゅっと唇を噛み目を閉じてやり過ごそうとしていたが、やがて小さな声を発した。
「………退け……大泉……」
その言葉を口にした途端、感情が押さえきれなくなったのか閉じられた両の瞼からしずくを零す。
「もう頼むから…………お願い、大泉……………」
大泉は下半身に休息に血が集まるのを感じた。佐藤の中に納めたままの雄がびくりと脈打つと、信じられないほどの早さで復活し始める。
「…………ぅ……あ…っ………………やだ…ッ……………もうや…あ…っ……………」
佐藤もそれを身体で感じたのか、どうにか逃げようと身を捩り腰を動かしたが、かえって大泉の昂ぶりを助長させるだけだった。
「――――やっぱ、解る? あんたがそんな可愛い声出して泣くから…………我慢出来なくなっちゃったわ。」
ほんの僅かだが腰を動かすと佐藤は耐えきれずに喘いだ。
ゆっくりと出し挿れするたびに例えようもなく甘美な水音が紡ぎ出される。つい先程中に放ったばかりの大泉の精が、ぐちゅぐちゅと響いては時折漏れだしてゆっくりシーツへと伝い落ちていく。
「も……やめれ………ッ……………おおい……ず…み…ぃ…………」
息も絶え絶えで哀願してくる様も大泉を更に煽り立てた。
本格的に腰を掴んで上にのし掛かりながら、唾液でぬらりと光る赤い唇に自らの唇を重ねた。
深く口付けては唾液を絡め、舌を絡め取った。苦しげに喘ぐ唇にやんわりと噛み付いては吸い付いて口中を舐る。
我を忘れるほどに無我夢中だった。
繰り返し佐藤の中のある部分を抉るように突き上げ出すと、佐藤はまた身体をひくつかせながら切ない声を漏らした。
まるで女のように善がり、啼く。
ふと気が付けば今まで力なくその身を横たえていた佐藤自身がまるで呼応するかのように膨れ上がり、腹の上で存在を誇示しだしている。
そっと手をやり掌の中に握り締めると、ぬるり…と先走りの液に塗れていた。
「……すっげぇ…………ここ、そんなに感じるんだ………」
上気した顔にありありと好奇心の色を浮かべながら大泉が嬉しそうに呟く。
「………さわん…な…っ………お願い…ッ………………も………………やだ…っ………………」
正確に突き上げながら掌のものをゆるく扱いただけで、佐藤は掠れた悲鳴を上げながら身体を震わせた。
極上の吐息の合間に必死で言葉を絞りだそうとする姿も妙に大泉の心を擽る。
時折中を掻き回して翻弄しながら大泉は抽挿を早めた。
―――――この分ならほぼ同時に達しそうだ。
そんな事が頭の隅に過ぎる。
今度は自分だけでなく、佐藤をもきっちりとイかせてやる。
自分のもので突き上げられて頂点に達するその淫らな姿を見てみたい。
そんな事を思いながら激しく佐藤を追い立てた。
身体の下の佐藤はもう限界が近いのか、言葉すら発することもできない様子だ。大泉の雄をその身に受け入れるたび、とろけそうに甘い声をあげる。
今や理性も感情もなく、ただ突き上げてくる快楽の波に押し流されているかのようだった。
実際佐藤は気も狂わんばかりの強烈な感覚に意識さえ飛びかけていた。
大泉のもので中を激しく犯されるたび、今まで体験したことのないような快感が背筋を突き抜けていく。
それは射精感にも似ているがそれよりももっとずっと強くて、尚かつ甘美なものだ。
突き上げられるたびに指先まで痺れてしまいそうな強い波が何度も駆け抜けていく。
勿論自らの分身は解放の出口を求めて脈打ちながら昇り詰めていく。
あらゆる快楽が束になって押し寄せて来る……そんな感じだった。
大泉の動きが激しさを増していく。時折両脚を持ち替えては更に突き立て、貪欲に全てをむさぼり続ける。
「………ッ……ん……ぁ……………は…っ……ッ……………あ…ッ………………」
苦しげに呻く声が大泉の耳を優しく擽る。いまや極上の旋律を奏でる音楽に聞こえる。
「佐藤さん……………もう…………限界?」
見下ろしながら大泉が呟くと、佐藤は目を閉じたまま首を横に振った。
「………………嘘吐きだな……あんた。大嘘吐き。」
綺麗に割れた腹筋の上で今にも暴発しそうになっているものをきゅっと握ると、佐藤は掠れた悲鳴を上げた。聞こえるか聞こえないほどに小さな声で。
「なまら………ぬるぬるしてっぞ、ここ。」
指先で先端を弄くられると佐藤のものは溢れ出す蜜のように透明な液を流し続けている。
それでも佐藤は目をぎゅっと閉じて再び首を横に振る。
大泉は小さな笑みを浮かべて手の中のものを扱きながら、さらに抽挿を早めた。
荒い息遣いと淫らな水音や肌が触れ合う音に切れ切れな佐藤の悲鳴が入り混じり、豪華な室内に響く。
この狂楽の宴はいつ果てるともなく続きそうな気配すら感じられたが、終わりは確実に近付いていた。
「…たす………け…っ…………助け…て…ッ………………いや…………やだ…あ…ッ………………」
佐藤が涙で滲んだ目を大きく見開き、身体を戦慄かせたと思うと硬直する。
大泉の手の中に真っ白な精をびくびくと吐き出しながら、動きを止めた。
「―――――――――あんた、最高…っ!」
大泉も苦しげに呟きながらやはり身体を仰け反らせて身体を硬直させると、大きく息を吐いて佐藤の上に崩れ落ちていた。
放心している佐藤の髪を撫で、額に張り付いた髪を再び掻き上げてやりながら、大泉はもう一度小さく囁いた。
「…………佐藤さん……………なまら最高…………」
やや暫く余韻を楽しんでいた大泉だったが、佐藤の拘束を解いていなかったことに気付き慌ててネクタイを緩めた。
両手首は赤や紫色の跡がくっきりと付いている。行為の最中、佐藤がどうにかして外れないかと足掻いていた為だった。
佐藤の両腕は拘束を解いた途端、糸の切れた人形のようにシーツの上に投げ出された。長時間拘束されていたせいか、全く力が入らないようだ。
そんな手首をそっと手に取ると、赤黒く或いは紫色に変色した跡をいたわるようにゆっくりと唇を這わせた。
「……………痛かった?」
流石に罪悪感を感じながら大泉が問い掛けたが、佐藤は大泉に顔を背けたまま未だ微動だにしない。
「佐藤さん……?」
急に不安になって慌てて佐藤の顔を上から覗き込んだ。
死んだように動かない佐藤は窓の辺りをただぼんやりと眺めていた。虚ろな目は真っ赤で、涙の後も乾いてはいない。
大泉は無言で佐藤を抱き締める。
自分でも信じられない力で抱き締めながら、今まで感じたことのないような罪悪感を感じた。
だが偶然にも手に入れたこの男を解放する気は、更々無かった――――――――。