cc-sky3/追憶のターンテーブル

                 「これ、もう決定事項やから。来週から其の段取りで一つ
                宜しく!」
                 「一寸待ちなよ、国ちゃん」
                 「御免ね秋さん。一寸急ぐんで又後でね」
                 何時に無く強引な口調で言い捨てて、国松がスタジオから
                出て行った。後に残されたのはぼくとヒロと里奈と秋さん。
                 「…あったく、何なんだよ、あいつ!」
                 「まあまあ…コーヒー飲む?」
                 「秋さん、ぼくやるよ」
                 「『まりりん』でケーキ、買ってくるわね」
                 「モンブラン2つとティラミス1つと苺ショート2つね」
                 「1つ余るんですけど?」
                 「残しておいてあげても良いんじゃない?」
                 「甘いなぁ、秋さん。それならティラミスは2つね。はる
                かの分と」
                 まあ、気分転換しないとね。

                 事の発端は、国松がぼく達のバンド【cc-sky】のデビュー
                盤をLPも同時発売する、と独断で決めた事だ。
                 確かに皆、国松のプロデューサーとしての手腕は知ってい
                るし、彼の判断ならかなり素直に従ってきた。
                 でも、今回の彼のやり方は余りにも強引だった。
                 何時もならぼく達に一声掛けてから物事を実行するのに、
                今回のLP同時発売は実を言うとさっき聞いたばかりだった。
                幾ら自前でレコードプレス機を所蔵していて、ある程度の生
                産は可能だとは言え、事は国松一人の事じゃなくてぼく達に
                も関わる事だ。当然喧喧囂囂。特にヒロは怒っていた。ぼく
                も実は怒ってる。

                 「まあ、ネ。僕は国ちゃんとの付き合いがこの中じゃ一番
                古いから…なんで意固地になったのかって見当はつくけど」
                 秋さんが困ったもんだ、と苦笑いして言う。本名・秋野郁
                秋さん。この中じゃ最年長で25歳。現在某有名少年愛雑誌
                の編集者でもあるので其の方面には結構詳しい。里奈なんて
                友達の代理で質問を山ほど持ってくる始末だ。で、妻帯者。
                 「あ、秋さんと国松の馴れ初めって聞いた事無かったな、
                俺」
                 「言っちゃえば完結なんだけどね。僕、音楽雑誌の編集も
                平行してやっててね。其の取材で知り合ったんだ。あれで約
                3年前…か」
                 思い出を紡ぐ様に、ポケットからパイプを取り出して、火
                を廻し付けて一息。結構様になっている。
                 「僕の口から言うのも簡単なんだけど、多分、今日の国ち
                ゃんの仕事がいい答えになりそうな気がする」
                 そう言って、ラジオのスイッチをつけて、周波数を合わせ
                る。今日は、はるかさんと二人でラジオのDJやるって言っ
                てたっけ。

                 「今晩にゃ。ご存じない方も今はご存知、学天則の佐々木
                国松で御座い」
                 「嫁の佐々木はるかでありんす。さて今日は今時アナログ
                レコードの特集ですって、婿殿?あーた何考えてるの!」
                 「むー、色んな事」
                 「馬鹿仰い!と言う事で60分1本勝負、宜しくお願いしま
                ーす!」
                 …何時聞いても漫才にしか聞こえないなー、この夫婦の会
                話。こんな調子で始まるもんだからお喋り中心だと思うでし
                ょ?処が内容は本当に正当な音楽番組。掛かる曲は一切省略
                なし、其の上CMも極力無い。スポンサーが煩くないのかな
                と思ってたら、逆に内容に惚れ込んで梃入れしてくれてるら
                しい。周りに恵まれる奴だよね、ホント。でも、これで答え
                になるんだろうか?

                 都合7曲掛かった所で、国松が何時に無くしんみりと切り
                出した。
                 「我儘でこの企画、押し切っちゃってすんませんねー。で
                も、音楽やってるもんとして、1度はやっとかなって思った
                んです」
                 物凄く真剣モード。
                 「今やCD全盛になって、テープの並行発売なんか演歌辺り
                でしかない様な気ィしますけど、よう考えて見て下さい。そ
                れで何曲ええ曲が埋もれて行ってます?」
                 ズキン。胸が痛む。そう言えば今日掛かった曲、有名な人
                達が歌ってた曲だけど、CDを見た事、無い。
                 「今も活動してるメジャー所は何ぼでも再販してます。で
                も、解散したグループやシングルの扱いは…今更僕が言わん
                でも判って貰ってる思います」
                 ポンポン。肩を叩くのは秋さんの手。とても柔らかく、暖
                かい。
                 「CDが登場した時さ、値段って、今のアナログ盤と逆の立
                場だったんだよね。CDの方が500円近く高かったんだ。まだ
                テープの並行販売も盛んだったし」
                 「プレーヤーは」
                 「高嶺の花さ。まさかアナログ盤を手に入れるのがこんな
                に難しくなるとは、夢にも思わなかった。プレーヤーも、今
                少ないしね」
                 「お袋、秘蔵のチャゲ&飛鳥を泣く泣くCDに買い換えてた
                もんな」
                 「ヒロのお母さん若い趣味ね。うちは親父さんの家系がジ
                ャズ屋さんでさ、物凄く抵抗してたけど、諦めて併用路線走
                ったわ」
                 「僕と国ちゃんが意気投合したのは、ビートルズのシング
                ルでさ」
                 秋さんが纏めに入る。
                 「其の時も国チャン、怒ってたな。『ええ曲を残すんがレ
                コード会社の義務ちゃうんか?』って。だから、多分突っ走
                っちゃったんだと思う。発売予定日ってさ…彼の婆ちゃんの          
                命日なんだよね、偶然にも」
                 3人、アッと顔を見合わせる。
                 「線香代程度は、稼がせてあげようよ。彼に音楽を教えた、
                グランマに敬意を表して」
                 ラジオでは、越路吹雪さんの「ろくでなし」が態々レコー
                ドで再生されて掛かっていた。其の響きは、とても柔らかか
                った。
                 そうだね。大目に見て、あげようか。
                        
                                     (了)

          
                《コメント》
                   筆が少し違う方向に行ったかな?
                   葡萄瓜の音楽ファンとしての叫び、でもあります。
                                    LPジャケットのあの重量感、好きだったんですよね。
                   ピクチャーレコードのあの妙な軽さも。
                   いつも以上に趣味に走っちゃいました(苦笑)

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