煎餅屋・神代京介の毎日A
「…つまり何か?京介。お前、俺の養子になるって
事か?」
「平たく言えばそう言う事です」
「まったくいい歳こいて血の巡りの悪い子だねェ」
当然のように言われてもなァ…。
京介にしてみればずっと考えていた事ではあった。
そもそも京介は自分さえも嫌悪する部分があり、隙
あらば現実からの逃亡を望む部分があった。
と、同時に、宗と暮らし始めた事で、其の嫌ってい
た筈の「現実」に未練が生じ、自分に対する嫌悪感解
消の糸口が見え始めたのも事実。
其処へ今回の蒼…薬師寺香澄の一件だ。
迷いもしたし、一度頭の中から考えを追い出した。
何れ孤独は訪れる。其の時に未練なぞ、少ないに越
した事は無い、と。そう、思っていた。蒼と「再会」
するまでは。
でも、自分が消えた後、蒼はどうなる…そう考え出
した時に、京介の中に「甘え」を積極的に利用しよう
という考えが生まれた。甘えと言うよりも、周囲との
共棲と言い換えるべきか。
神代さんと暮らすのは結構心地良かった。其れこそ
仮の宿という事を忘れる位に。
だったら、いっそ永住してみるのも好いかも知れな
い。蒼のこれからの為にも、「家庭」は必要だ。自分
一人で足りない部分を補って貰うのも、悪くは無い。
沙耶は、人伝いに事件を知った瞬間に決意していた。
第一彼女は宗を愛しこそすれ、憎んだ事は一度も無
い。口が悪いのはお互い様。意地っ張りもお互い様。
亡き清顕同様、限りない愛情を持って見ていた。
京介の事も一方的に知っていた。と言って、声を掛
けた事はついぞ無い。只、其の存在を知った時は嬉し
かった。
そして時が経つに連れてのいぶかしみ。そりゃ所詮
戸籍上の繋がりと言っちゃあ終いだが、お互いに嫌じ
ゃない筈だ。
…はーん。お互い遠慮してるんだねェ。宗の方が折
れて遣ればいいものを、と思ったものだ。
其処へ出てきた香澄という子供。
背中を押してやるかと罷り出た訳である。親子って
のは自然になるもんじゃない。お互いの意思でなるも
んだ。香澄に選ぶ為の受け皿を作って置いてやるのは、
決して悪くは無いだろうさ。
(そして後日譚…実は京介は沙耶の存在にとっくに
気付いてはいた。彼も一方的だったもので、敢えて口
に出さなかったが、煎餅焼きの修行中にふと其の話に
なって打ち明けたのだ。まあお互いにと大笑いになっ
たものである)
宗にも迷う余地は無かった。そもそも望んでいた方
法ではある。ならば、場の雰囲気で決めちまうのも悪
くは無い。
「松代さん、あの取って置きの一本封切ってくれ!
其れと、湯呑三個。一杯なら、構わんでしょう?」
沙耶に笑いかける宗であった。
(次回講釈へ)
《コメント》
瓢箪から駒が何処まで続くか。一寸説明的に
なりすぎたかと反省。でも、言いたかった事です。
こんな京介達、お嫌いですか? |